ニャ~・・・1
「ヤバい、急がないと待ち合わせに遅刻する」
部屋で海パンを履いて、リュックの中を覗き込む。
「着替えのパンツにタオルが入っている・・・他に持って行く物はないよな」
リュックを背負って、ダイニングキッチンに向かうと母さんが朝食を食べていた。
「母さん、起こしてと頼んだよね」
母さんが食べるのを止めて、こちらに視線を向けた。
「あら、起こしたわよ。光稀は『うん、直ぐに起きる』て言ったわよ」
「僕、起きたの?」
「起きたんじゃないの会話したんだから」
母さんはそれだけ言うと中断していた食事を食べ始めた。
起きたのか、寝るのが好きな僕は、何もする事がない時は寝る事にしている。何か用事があれば終わらせて、直ぐに寝たいと考えている。起こされても『起きているよ』が口癖だ。
「じゃ、行って来るよ」
「休みだからって遅くならない様にね」
「は~い」
素直に返事をしたのは、起こして貰った事とお小遣いを貰ったからだ。友達とプールに行くと言ったら『冷たい物でも飲んで気を付けるのよ』と5千円もくれた、中学生には大金だ。
外は真夏の日差しで、朝なのに気温が高いのが、すぐに分かった。
「プールが楽しみだな」
約束の時間まで後10分、僕の家から池袋の駅まで、急げばぎりぎり間に合うだろう。
都電の踏切の音のデン、デンが聞こえて来た。
急いで走って来た僕の前で丁度遮断機が下りた。小学生の時ならまたいで渡ったかもしれないけど、今は中学生だ、通り過ぎるのを待とう。
踏切の音は何でカンカンなんだろう、デンデンと聞こえるのに、都電と他の電車では音が違うのかな。それとも、昔はカンカンと電子音じゃなくて鐘が鳴っていたのかな?。
ガタン、ゴトン、ガタン、ゴトンと走る音を鳴らして都電が来たようだ。
向原駅から来た都電が通過したので、直ぐに走り出そうとしたら、遮断機は上がらなかった。
電車が来る事を知らせる左の矢印が点灯していた、右から来る都電に気を取られているうちに左からも都電が向かって来たようだ。
「急いでいるの・・・左からも来るなんて」
左から来る都電がまだ見えない、どの位の余裕を持って遮断機は下りているんだ、早過ぎだよ。見えないぞ。
このままだと約束の時間に間に合わないよ、都電が通過したら休みなしで走ろう。
「やっと通過した」
僕は遮断機が上がると直ぐに走り出した。
3年前に通っていた小学校のプールが見える、この時間だと夏休みのプールには早いので誰も来ていない。中学校でも夏休みにプールがあれば、僕達男子なら喜んで参加したのに、中学校のプールは解放されない、なんでなんだろう。
「夜中に入っている奴がいるって、誰か言っていたな」
カキ~ンと音が聞こえてきた、馴染みのある音だ。
小学校の隣の都営の野球場から金属バットでボールを打つ音が聞こえてきた。ユニフォームを着た子供達が練習をしている。
「朝から野球か、暑くなる前に練習が終わるといいな、熱中症は危ないと聞いた事がある」
最近の夏は熱中症と言う病気?になる人が多いとニュースで注意をする様にと連日放送されている。
おじいちゃんの友達の自衛隊が富士山の樹海で熱中症になった事があると言っていたけど、その頃は病名を知っている人はほとんどいなかったらしい。おじいちゃんも友達が熱中症になるまでそんな病気が有る事を知らなかった。花粉症もその昔は誰にも知られていない病気だったらしい。
ガサガサ!
野球場のフェンスの横の茂みから音が聞こえた。ガサガサと音を立てて出て来たのは猫だった。その猫は歩道をそのまま横切って車道に走って行こうとしていた。ガードレールの丁度ない所を横断する為に出て来た猫を追うように僕も車道に出た。
「危ない」
飛び出した猫に手が届いて抱き上げた僕は直ぐに歩道に戻ろうとした時、凄い衝撃に襲われて飛ばされた。
誰かが危ないと言ったのが聞こえた。
「聞こえるかな、さとうみつき」
あれ、誰かが僕の名前を呼んでいる、意識がハッキリしてくると目の前に白い浴衣を着た老人が見えた。
「佐藤光稀です、ここは何処ですか?」
僕は宇宙空間の様な真っ暗な空間に浮いていた。明かりに照らされた惑星がいくつも見える。何も分からないけど、地球圏ではないようで双子の惑星があるし土星のように輪があるけど、その輪が沢山ある惑星が見える。なんで僕はここに居るんだ。これは夢かな。
「そうさな、何処かの銀河だな。名前が無いのじゃ、さとうみつき、君の居た惑星の地球圏とは違う場所だ」
そうだよな・・・・・・何で僕は宇宙に?
「僕はどうしてここに居るんですか?」
「覚えていないか、猫を助けた時にあの乗り物にぶっかったのをそれで死んでしまったんじゃよ」
「ええ~と・・・ああ~、思い出しました。猫をかばって車にひかれたんだ、そうか・・・・・・死んじゃったのか」
思い出したぞ。友達とプールに行く途中で車にひかれたんだ、遅刻しそうなのに海パンを履いたのが悪いのかな、それとも都電が来る前に渡りきれるように全力で走ればよかったのか。
「そのだな、言いにくいのだが、猫は君が何もしないでもひかれなかったんだ。何故、あの時飛び出した?」
「無意識だったんですけど、うちでは父さんが猫アレルギーなので、飼う事が出来なかったんです、もしかしたらその気持ちが、目の前の猫を助けたいととっさに思ったのかも知れません。今では分かりませんけど」
あれ、助けなくても猫は助かっていたのか、なんで分かるんだそんな事が。
「そうじゃな、分からない事も沢山ある。そこで猫を助けたお礼に、さとうみつきに違う世界で生きるチャンスを授けようと思う、どうだな?」
目の前に老人は誰なんだ、自然に話していたけど、宇宙で浮いているのも変だぞ。
「貴方様はもしかして神様ですか?」
「神様のような者だ」
神様のようだけど違うのか?違う世界か、どんな所だろうな。
「お願いです、神様。違う世界に行ってみたいです、よろしくお願いします」
違う世界、いい響きだ。どんな所かな、近未来の宇宙船で旅が出来たりする世界だと嬉しいな。ワープとかも体験出来たりして。
「うむ、その言葉を待っていた、今度は無茶をするでないぞ。知らない世界で大変かもしれないが、頑張るのだぞ」
「はい、頑張ります」
「行け~、新しい生命として生まれるのだ」
神様から光が溢れ出て僕を包んで行く、そして、意識が遠のいていく。
僕は生まれたんだ。何も見えないし何も聞こえないけど、誰かに触られているのかな、撫でられている?気持いいな、人の体温は心地いよな・・・・・・眠くなってきちゃうよ。
僕の隣にも誰かがいるけれど、見えないから分からない。
近くから良い匂いがする、母乳の匂いだ。恥ずかしいけど赤ちゃんの僕はお腹が空いたのだ。
あれ、先客がいるぞ、隣の人かなどいてくれ僕も飲みたいんだよ。懐かしい感じの味で落ち着くな。
お腹が一杯になると起きているのが辛い、赤ちゃんは寝るのが仕事だし、寝るのが好きな僕は直ぐに眠りに落ちるだろうな・・・・・おやすみ。
みんなおはよう。
温かい体温に包まれて寝ていたので、隣の子が僕の横で寝ていたのが分かる。どれくらい寝たのかな、お腹が減ると美味しい匂いに誘われて、母乳を飲みたくなる。兄弟たちもお腹が減ると飲みたい時に飲むようだ。
赤ちゃんだから話す事は出来なくても、何か見えてもいい筈なのに、いまだに何も見えないし音も聞こえてこない。
僕は病気ですよ、神様~。
僕が生まれた世界はどんな所かな、違う世界だと神様は言っていたけど、違う世界とは何だろう。地球のどこかなのか、神様と一緒にいた所から見えた惑星の事なのか、違う世界だから地球以外の可能性が高いな、何にも見えないから違う世界か比べられないなよ。
起きたばかりなのに、母さんと隣の兄弟達の温もりで、直ぐに眠くなってくるよ。いいのかな毎日寝てばかりで、赤ちゃんは寝るのが仕事かもしれないけど、僕は寝すぎのようだけどいいのかな。
「ニャ~≪おはよう≫」
「ニャ~≪おはよう≫」
「ニャ~≪おはよう≫」
僕は見える様になったし話せるようになって、起きた僕は兄弟たちに挨拶をした、僕の兄弟は二人だ。あれ、猫の兄弟だから2匹て言わないといけないのかな、僕は最後に生まれたと母さんが教えてくれた。
どうやら、猫に転生したようだ。兄弟達は灰色と白色で少し黒色がある、灰色が体の大部分を占めているけど、白色が良い感じにあるので、薄い灰色の猫で、凄く可愛いい。
猫の種類で知っているのが、日本猫、アメリカンショートヘア、マンチカン、ペルシャ猫の4種類で名前を聞けば猫の種類だと言えるのがあと何種類かあると思う。母さん達は、マンチカンに似ているので僕も同じだろう。
見える様になって、驚いた。猫を飼いたいと思っていたけど、死んで貰った2度目の人生だと思っていたら猫生だった、喜んでいた僕は何で人間の赤ちゃんに生まれなかったのと嘆きたかった。
猫の生活はのんびりで日本の中学生の生活がいかに忙しかったのか、よく分かる。のんびりとした生活に慣れてきて、これはこれでいいのかもしれないと思うようになってきた。一度死んだ僕が貰ったチャンスが、猫だっただけだと思えばいい・・・仕方ないしね。
母さんと兄弟達がいるけど父さんがいないけど何か理由があるのかな?。
僕達がいるのは木箱で、皆が入ってもゆとりがある大きさだ。
「ニャ~《寒いから、もっと寄ってよ》」
「ニャ~《しゃうがないわね、みんな、母さんの近くに来なさい》」
「ニャ~《は~い》」
僕達一家の中で僕が一番の寒がりのようで、僕のお願いを母さんが聞いてくれた。みんなで体を寄せ合って寒さをなんとか我慢する。もしかしたら、寒いと思っているのは僕だけかもしれないけど。
この家の他の部屋には行った事がないから分からないけれど、この部屋の壁は石を何個も重ねて隙間を粘土のような物で埋めている。もしかしたらセメントのように石と石をくっける役目をしているのかもしれない。木も使われているけど、石が基本の様だ。
池袋の僕の部屋が6畳でこの部屋の広さは2倍位あるのかな、今の僕の感覚だともっと広く感じる。猫だけに全てが大きく感じる。
部屋の中にある家具は本棚、食器を入れるキャビネット、引き出しのキャビネット、食事をするテーブルと椅子が部屋の壁に置かれている、暖炉の前に揺れる椅子の・・・ロッキングチェアが置かれていて、その横に僕達の木箱が置かれている。部屋の中の全部の家具が、アンティークの様に見える。
窓から差し込む光で昼間だとは分かけるけど、暖炉で部屋を温めているので、外の気温は低いのだろう。
この家に住んでいるのは、お爺さんとお婆さんだ。
老夫婦はお母さんを抱いたりしているけど、僕達を抱いた事がない。それは、人間の匂いが付いたり、育児をしなくていいと思わせないためだと聞いた事がある。
猫に転生で良かった、これが苦手な犬に転生していたら兄弟達を見てビクビクしていただろう。吠えられても怖くなはないけれど、噛まれそうなイメージがある。小さい頃に、おじいちゃんの家の犬小屋で寝た事があると言われても信じられなかった。
生まれたばかりの僕達は木箱をよじ登れる程の力がないので出れない、木箱から出れるようになったら他の部屋も見てみたいな。
産まれてからどれくらい経ったのか分からないけど、物が見える様になってから15日位経っていると思う。
僕達が暖炉の前で遊んでいると、お爺さん達以外の人間が部屋に入って来た。
「ニャ~≪お客さんだね≫」
「ニャ~≪お爺さんの知り合いかしら≫」
母さんと兄さんの会話を聞きながら視線を入口のドアに向ける、おじいさん達の後から入って来た男女は、若い夫婦のようだ。部屋に入って来て脱いだ上着は、厚手のポンチョの様だ、服装はお爺さん達と似たような様服で、中世のヨーロッパ風な服を着ている。貫頭衣て言うのかな、頭を通して着て、腰の所で紐で結わいて留めている。下はズボンを履いている。女性は、くるぶしの下位まであるスカートを履いている。厚手のポンチョを着て来たんだから、外は寒いんだ。
「・・・・・・・」
女性が何か言っているけど、言葉が分からない。
「・・・・・・・」
お爺さんも何か話したけど、やっぱり分からない。
「・・・・・・・」
お婆さんも何か話したけど、分からない。
言葉が分からないと不便だな、それに何を話しているのか気になるな。
しばらく、お爺さんと達とお客さんの男女が会話していたけど、女性が僕の兄弟で最初に生まれた兄さんを抱き上げた。
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
4人の人達が何か会話をして、お辞儀をした。お爺さんにお金を渡した男性が女性に何かを告げると兄さんを連れて4人は部屋を出て行った。
「ニャ~《母さん何が起きたの?》」
「ニャ~《お爺さん達は私が生んだ子達から誰かを譲ると決まっていたみたいなのよ、それで2人の人間が連れて行ったのよ、あなた達もそのうちに養ってくてる人が来るのよ》」
「ニャ~《そうなのか、楽しみだな》」
なんと、貰われていくイベントだったんだ、2番目の兄さんは楽しみだと言っているけど寂しくないのかな。
外の世界を見たいけど、母さんと分かれるのは寂しいな、それに分からない事を少しでも教えて欲しいな。あれ、母さんは人間の話している事が分かるのかな?。
「ニャ~《母さんは、お爺さん達が何を話しているのか、分かるの?》」
「ニャ~《それはそうよ、お爺さん達と長く暮らしているんですもの、そのうち、あなた達も覚えるわよ》」
「ニャ~《母さんは、凄いな》」
兄さんの言う通りだ、人間の言葉が分かるなんて、なんて頭がいいんだろう。そうだ、僕も人間の言葉を覚えたいな、そうすれば少しは楽しい猫生が送れるぞ、母さんに頼んでみよう。
「ニャ~《母さん、お爺さん達の会話が分かるようになりたいので、人間の言葉を教えて下さい》」
「ニャ~《まあ、いい子ね、大変だけど頑張るのよ。そうすれば、あなた達を養ってくれる人達に迷惑を掛けないですむわね》」
「ニャ~《ありがとう、頑張ります》」
僕は母さんにお礼を言った、これから、起きている時は言葉の勉強をしよう、頑張るぞ。
「ニャ~《僕も一緒に勉強します》」
兄さんも勉強を一緒にするようだ。大変らしいけど頑張ないと、飼ってくれる人が何を話しているのか気になるからね。
上の兄さんは若い男女と行ってしまった、兄さんが幸せな猫生でありますように。




