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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

夏の日の出来事

作者: 三河

あれは昨年の盆、実家に帰省していた時の出来事であった。


その日、夕涼みの中、犬の散歩から帰ると何やら玄関先が騒がしい。


よくよく見ると父と近所の人たちが集まって、何やら話し込んでいた。

しかもその話し方が、何やら切羽詰まった焦燥感に溢れている。


(こりゃ、誰か亡くなって葬式の話かな?邪魔したらいかんな)


と思い、犬を小屋に入れて裏口から家に入り、母に「誰か亡くなったの?」と聞くと。

「6組の山田さんが昨日の昼に散歩に出たきり、帰らんらしい」とのこと。

しかも、山田さんは88歳で認知症を患っているらしい。

つまり認知症高齢者の行方不明…町内で近年稀にみる事件である。


そんな話を母としていると玄関先の父から

「帰ったか、お前自警団だろ、団長に連絡しろ!公民館で対策会議を開く」との仰せ


数合わせとはいえ、自警団員であることに変わりはない。

「ヘイヘイ」と団長に連絡することにする。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


父が帰ってきたのは22時を回った頃であった。

対策会議の結果

・警察消防役所には連絡済

・行政は見つけた場合の保護はするが、事件性が無ければ捜索はしてくれない

・捜索は自治会が取り仕切る、参加者は志願だが出来れば参加してほしい

・今日は遅いので、明朝5時から開始


志願とはいえ、他用も無いのに不参加は不義理

というわけで、自警団員たる自分も自ずと参加することになった。


明日は早いと早々に床についた。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


翌朝4時30分

父母と兄はすでに起きており、味噌汁と白飯、漬物で軽く朝食を終える。

作業服に着替え長靴を履き軍手を嵌め、頭と首にタオルを巻き、水筒と塩飴を準備、車に鳶口と長柄鎌を積み、集合場所に向かう。


捜索本部が置かれた公民館には、総勢80人余りが集まっていた。

昨日の今日、急遽にしてはよく集まった方である。


我が家からの参加者は父(自治会)・兄(消防団)・自分(自警団)である。

消防は動けないのに消防団は動けるのか?と兄に聞くと、消防団は自治会長からの要請があれば動けるらしい。

町内の人と『○○さんの所は参加率がええのん』、『何のやぁ、暇なだけだて』と雑談をかわし、受け持ち範囲が決まるのを待つ。


山深くは無いものの、無駄に広い我が町内である。

田畑に水路・川・池、雑木林に空き家、探す場所は数多い。

自警団(15名)の受け持ちは雑木林と定まった。


「山田さ~ん!」

声を掛けつつ、雑木林を進む。

夏の事、下草が鬱蒼と茂っている。

人が立ち入った後は跡が残っているものである。

それらを探しながら捜索を続ける。

しかし、見つからず時間のみが過ぎてゆく。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


やがて昼となり捜索本部に戻ると、昼食が始まっていた。

時世を考え配給はコンビニオニギリかパン、それとお茶。

時折休憩を入れながらの捜索とは言え、正直暑さにやられて食欲は無い、しかし食わねば体が持たないのでありがたく頂く。


午前中の成果は皆無。

手ごたえ無く、皆目見当が付かないが、未捜索な場所も多くあり午前に引き続き捜索活動を再開する。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


結局その日、山田さんが見つかることは無かった。

18時を以て捜索を中断、翌日5時から再開と定まった。


聞けば山田さんは随分と健脚で、昔は海までの往復(片道5㎞)を日課にしており、数年前の行方不明時は15㎞は離れた駅で見つかったらしい。

そこまで遠くては、とても捜索しきれない。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


次の日、集まったのは50名余りであった。

流石に連日は難しい人も居る。


未捜索個所と人員の問題で、総力を以て水路・川・池を捜索し、見つからなければ打ち切りと定まった。

それもやむを得ないだろう。それぞれにも生活があるのだから。


10時頃であったか、捜索本部より一報が入る。

【山田さんが見つかった】とのことであった。

暗渠になっている水路で倒れていたとの事。

流石に無事とはいかなかった。


通夜に出た両親によると、化粧の具合もあるだろうが、キレイなものだったそうだ。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


今回の事案につき思うところは、【行政は当てにならない】の一言に尽きる。

考えてみれば、日本全国で認知症の行方不明者は1万7千人/年もあるそうだ。

未通報や発見された事案を含めれば、その2倍・3倍はあるだろう。

それらを一々人手を割いて探していては本業に差しさわりが出る。

ある程度の割り切りは必要というわけだ。


一方、普段は何しているのかわかりにくい自治会や消防団だが、こういう非日常時には役に立つことが分かった。

ネットなどでは既得権益にしがみ付く醜い組織のような扱われがされてはいるが、町内全体の問題を解決するには自治会が必要だし、人手が居る時は消防団も活躍する。

世間一般で、それらが役立たずに見えるということは、何も問題が起きていないということで、実は幸せな事なのではなかろうか?と思う。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

思い返せば感慨深い、夏の日の出来事であった。

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