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蒼き叡智の魔導書 関連

ギルドを逆追放された俺は、現実で美少女幼馴染との距離を取り戻す。元ギルメンたちはネカマに騙され内部崩壊したらしいが、今更謝ってきてももう遅い。幼馴染に君が好きだと告げるため、ネトゲを引退し大学を目指す

「漆黒の翼シュタインハルト、おまえをギルドから追放する」


「は?」


 その意味をすぐに受け止めることができず、しばらく放心してしまった。


 ヴァルキュリヤオンライン。


 今日本で最も勢いがある、剣と魔法の中世ファンタジーMMORPGだ。


 古参と言えるほどではないが、このネトゲに手を染めたのは中学一年生の夏。誰かに誘われたわけではなく、ネットで調べ物をしているときに、たまたま広告を目にしたからだ。


 初めは軽い気持ちで始めたヴァルキュリヤ。


 据え置きゲーム機のマルチプレイとは、比較にならないほどのプレイヤー人数。それが同時にログインし、日夜冒険し賑わうその様は、まさに別世界であった。


 当時中一であった自分が、そんな刺激的な世界に引きずり込まれるのに時間はかからない。自らに与えられた自由時間、そしてお小遣い。その全てを捧げたといっても過言ではない。


 ネトゲはかけた時間とお金だけ、得られる地位と栄光がある。ヴァルキュリヤの頂点とまではいかずも、漆黒の翼シュタインハルトもまた、畏敬の念を集める存在であった。


 ギルドを作り、発展させ、後進の育成を施し、自分のギルドだけでは収まらず、他のギルドにも顔が利くほどの影響力があった。


 現実では考えられないほどに持て囃される漆黒の翼シュタインハルトは、まさに俺の人生としての誇りであり、居場所でもあった。


 それが高二の夏を控えたある日の放課後。


 今日も今日とて真っ直ぐ帰宅し、意気揚々とログインした。そしたらギルドは俺一人残して、もぬけの殻となっていたのだ。


 一体、なにがあったのか。


 俺のログインに気づいた副マス、光輝の剣ヴァッファルから、呼び出しの個別チャットが飛んできた。


 呼び出しの場所に来てみれば、そこにいたのは大勢のギルメンたち。


 運営がやらかして、ギルマス一人残し全員脱退するようなバグでも発生したのか。だから早くギルドに入れてくれと、そんな呼び出しかと思ったのだ。


 が、違った。


 待っていたのは俺を追放するという、わけのわからぬ現実であった。


「どういうことだ……?」


「どういうこともなにもない! おまえがギルマスの地位を利用して、あまりなちゃんへしてきた嫌がらせの数々は、決して許されることではない!」


「嫌がらせ?」


「しらばっくれても無駄だ。おまえの悪行は全部、調べがついている」


 まるで断罪するかのように、ヴァッファルは言い切った。


 嫌がらせ。


 見に覚えのない罪を着せられた俺だったが、あまりなについては引っかかることはあった。


 一ヶ月前、ギルメンに連れられ加入した初心者プレイヤー。


 どうやらあまりなは、リアルでは女らしい。


 本人がそう断じたわけではないが、ギルド内ではそれが周知の事実として共有していた。


 ネットゲームは初めてで、パソコンにも疎いらしい。ネットで調べ物をするくらいでしか、普段はパソコンを使って来なかった。それが広告の可愛いキャラクターに惹かれて、ヴァルキュリヤを始めてみたとのことだ。


 だからネットリテラシーも欠けており、甘く見ていたのかもしれない。


 キャラの名付けについての話になったとき、名前をもじったリアルでのあだ名だと漏らしたのだ。


 雨宮莉菜とか天野里奈とか、そういう名前ではないかと、本人のいない場所で盛り上がっているのだ。どうやら女子高生ではないか、とまで話が進んでいる。


 そんなだから、気づけば皆があまりなに夢中なのだ。


 ネトゲに人生を捧げているような男は、リアルでは女と無縁。同じネトゲをやっているという共通点を通して、彼女を手に入れようと躍起になっているのだ。もちろん、リアルで繋がり物理的に繋がるためだ。


 あまりなに気に入られようと、皆が彼女のレベリングを行い、貢ぎ、囲ってちやほやする。ギルド戦やレイドボスに対する備えも疎かになっていき、健全なネトゲの楽しみ方から外れていっているのだ。


 端的に言うと、ギルドの姫が誕生し、風紀が乱れに乱れていた。


 男共ももちろん悪いが、あまりなにも何度か注意したことがある。


 何でもかんでも貰ってはいけない。


 レベル上げを全て人任せにしてはいけない。


 そういった旨の小言を何度かはしてきたが、決してそれは嫌がらせではない。本人も反抗的ではなく、ごめんなさい、初めてのことばかりでわからないことだらけで、などと反省している様は見せるが、改善は一切されない。


 どうしたものかと頭を悩ませていた矢先に、この追放騒動である。


 もしかすると小言や注意を全て右から左へと流し、それがねじ曲がってヴァッファルたちに伝わったのかもしれない。


「ヴァッファル、別に俺は嫌がらせなんてしていない。ただおまえらのやっていることが、あまりなのためにもならないから注意しただけだ」


「言い訳が見苦しいぞシュタイン!」


 聞く耳を持たないとばかりに、俺の主張は切り捨てられた。


 なおも俺は無罪を主張したが、チャット欄がすぐにギルメンの罵倒で埋め尽くされ、まるで話にならない。


 どうしたものかとリアルで頭を抱えていたとき、


「どうされたんですか、皆さん?」


 とうの話題の張本人、ギルドの姫がやってきた。


 その女キャラのアバターは、まさに重課金廃人そのもの。ただのガチャ産レア衣装だけではなく、超高難易度クエストをこなした者だけが獲得できる、まず手放すことはない二度と手に入らない装備をしている。


 レベルも一線で活躍できるほどあり、一ヶ月やそこらで到れる境地ではない。今日まで男共が貢ぎに貢ぎ、甘やかしに甘やかした成れの果てである。


「ああ、来てくれたかあまりなちゃん」


 どうやらヴァッファルが、個別チャットで呼び出したのだろう。


「見ていてくれ。これからこの男を断罪する」


「断罪? マスターさんを? なぜですか?」


「君に酷いことばかり言って、苦しめてきたからだ」


「あれはマスターさんが、自分のためを思って、注意してくれただけで……」


「いいや、あれは注意なんかではない。悪意をもったただの嫌がらせだ。決して許されてはならないことなんだ」


 そうだそうだ、とチャット欄が俺への憤りで埋め尽くされる。


 あんなことを酷い扱いを受けながら、ただの注意だと思っているあまりなちゃんマジ天使。


 そんな天使を悪意をもった嫌がらせをするとか、シュタインハルトはクソ。


 クソインハルトからあまりなちゃんを俺が守るよ^^。


 あまりなちゃん可愛いよペロペロ。


 などなど、我らにこそ大義ありだとばかりに、ギルメンたちは熱り立つ。


 街ではなくここは敵が出るフィールド。プレイヤーキルができない場所ではあるが、それでも罰せんとばかりに魔法の雨あられがシュタインハルトに降り注ぐ。


 わかった。


 もうこいつらには何を言っても無駄だ。


 年単位の付き合いがある俺よりも、出会って一ヶ月やそこらの姫と繋がるのが優先なのだ。


「さあ、シュタインハルト。罪を認めあまりなちゃんに謝罪しろ。そして迷惑料として、そのギルドを俺たちに明け渡し脱退す――」


 そこでもう、なにも信じられないとばかりに俺はログアウトをしたのだった。


     ◆


「はぁ……」


 歩道橋の柵へとこの身を委ね、沈んでいく夕日をただただ眺めるばかり。


 行き交う人々に不審な目で見られるのは感じていたが、それに居心地の悪さを覚えるほど、心に余裕がなかった。


 ログアウト後、しばらく放心していたら、ヴァルキュリヤのために使っていた、メッセンジャーアプリに、


『卑怯者』『逃げるな』『謝罪しろ』『ギルドを明け渡せ』『くたばれ』


 ギルメン……いや、元仲間たちからそんな旨のチャットが、通知が鳴り止まないほどにきた。


 アプリを落とすだけで解決だが、それでもそんな事態に晒されたのが恐ろしく、パソコンからも逃げるように家を飛び出した。


 だからといって行く宛もなく、後少しで晩飯である。


 いずれは戻らねばならない。


 パソコン(げんじつ)と向き合わなければならない。


 でも、すぐに帰る勇気がわかず、ダラダラダラダラ夕日に黄昏れるなんて免罪符を行使しているのだ。


 ……死にたい。


 ついそんな思いが胸の底から湧き上がる。


 ヴァルキュリヤは俺の誇りであり、居場所であった。


 それがこんなくだらない形で取り上げられ、築き上げてきた全てを失った。


 例え死ぬ勇気がなくとも、ここから身を投げ出せば楽になるのでは、という思いばかりが駆け巡る。


「はぁ……」


 そうして俺は、ため息ばかりついているのだった。


「エータ」


 そんな何十回目かもわからぬため息に、返事をするかのように中村栄太を呼ぶ声がした。


 ビクリとした。


 エイタ、ではない。ハッキリとエータと発音された。


 幼き頃からそんな発音で俺を呼ぶのは、たった一人だけ。顔を見ずともそれが誰であるかはわかった。


「どうしたの、そんな今にも死にそうな顔して?」


 村中若菜。俺の名字をひっくり返した、生まれたときからのお隣さんであり幼馴染であった。


 学校帰りなのか、制服姿のまま。


 同じ高校に通いながらも、その制服姿を真正面からまじまじと見たのは初めてだった。


「あ……いや」


 喉が意味ある音を鳴らさない。


 言葉がなにも出てこない。


 恥ずかしいところを見られたからではない。まともに言葉を交わさなければいけない状況になったのは、実に……何年ぶりだろうか?


 生まれたときからいつも一緒だったお隣さん。


 ヴァルキュリヤに出会うまでは、毎日のように言葉を交わした幼馴染。


 恋や愛も性欲もわからぬ無邪気な頃、風呂やベッドを何度も共にしてきた女の子。


 それが気づけば、俺たちの間には大きな隔たり、人間格差ができていた。


 男女問わない幅広い交友関係を築き、成績優秀であり、そして誰もが憧れん美少女だ。


 自由時間のほぼ全てをネトゲに費やしてきた俺とは、世界ランクがまるで違う。


 だからだろう。いつしか俺は、若菜からの接触を避けるようにすらなっていた。名前を呼び合うどころか、言葉も交わすことなく、その顔を見つければしれっと背けて逃げ続けてきた。


 若菜もそんな俺のことを、いつしか視界に入っても追うような真似はしなくなった。


 妹とは仲良しではあっても、今の俺たちは他人といっても過言ではない。


 幼馴染だなんて過去の称号は、今日まで俺と若菜を結びつけることすらなくなっていた。


 それが今日、どういうわけか。


 視界にたまたま入った幼馴染に、若菜が声をかけてきた。


「……なんでもない」


 気まずさから逃げるように、また沈んでいく夕日へと視界を戻す。


 今更どんな顔をして若菜と相対したらいいかわからない。


 俺の粗雑な態度に「そう」とだけ口にして、若菜はそのまま立ち去った。


「ん」


 そうなることを期待していたのに、その気配は俺の横へと並び立つ。


 改めて若菜を視界に入れると、なぜか学園指定の鞄を突きつけてきた。


 一体なにをしたいのか。そう首を傾げようとすると、


「持って」


「は?」


「荷物持ち」


 一方的にそんな役目を押し付けてきた。


 なぜ若菜の荷物持ちなんてしなければならないのか。


 そう思う暇もなく反射的に鞄を受け取ってしまうと、若菜はそそくさと歩道橋を降りていき、俺と鞄を置き去りにしていった。


 若菜の背中と鞄。その二つをしげしげと見て、「ああ、もう……!」なんて独り言を口にしながらその背中を追いかけた。


 若菜に上手く乗せられ、彼女の思惑通りに動いてしまったのだ。


 若菜の隣を歩むことはない。


 女性は男より三歩下がって歩くべし。


 今の時代SNSでそんなことを呟けば、すぐに炎上すること間違いなし。まるでその火災を恐れるかのように、俺はその逆をやっていたのだ。


 お互いなにも音を発することなく、俺はとぼとぼとその背中についていく。


 この無言を気まずいと感じているのは俺だけか。


 若菜が今どんな顔をしているのか。いつものすました顔だろうか。


「それで、なにがあったの?」


 そんな中、付き従うこちらを振り返りことなく、なんともなさ気に聞いてくる。


「……なにも、ない」


「絶対に嘘。なにもなかったら、エータは今頃ネットゲームに引きこもってるもの」


 家でもなく、部屋でもなく、ネットゲームに引きこもる。


 言い得て妙なその表現を、今は笑える気力はない。


「それで、なにがあったの?」


 若菜はそうして同じセリフを繰り返す。


 今日までの俺たちは、ほぼ他人のように生活してきた。なぜ今頃になってこうもしつこいのか。これでは俺の悩んでいることなら意地でも聞き出す、かつての幼馴染の姿ではないか。


 なぜ今更、とばかりにこっちも意地が湧いてきた。


「カナ……村中には関係ない」


「はっ?」


 それは決して大きな音ではない。けれどその圧についビクリと肩を震わせてしまった。


 付き従ってから初めて、若菜はその顔を覗かせた。


「なにそれ?」


 信じられないものを見たかのように若菜は眉根を寄せている。


 これだけ心配してやっているのに、なにが関係ないだ。


 と、そう憤ったのかと思ったが、それは違った。


「勝手に距離を置いて、勝手に避けて、勝手に逃げ回って、ついに辿り着いた勝手がそれ? ……ほんと、信じらんない」


 若菜は昔から、怒るときは大きな声を上げたりしない。だからといって怒らないわけではなく、その静かな怒りは、大声で喚かれるより圧力を発し、そして恐ろしい。


 そして今の若菜は、俺が知る中で最も憤っている。若菜の怒り歴代ランクの中で、ぶっちぎりの一位である。


 関係ない呼ばわりに憤ったわけではないのはわかった。


 よりにもよって、俺の口から村中呼ばわりされたのか気に食わないのだ。


 俺がなにより悪いのはわかっている。


 言い訳の仕様がないほどに。


 ジッとこちらを見据えてくるその視線に耐えきれず、逃げるかのように目を逸らしてしまった。


「……はぁ」


 いたたまれない時間が流れる中、若菜から漏れ出す大きな大きなため息。


「私さ、てっきりエータと結婚するものだと思ってたよ」


「え……?」


 今の若菜から出てくるとは思えない、とんでもない発言にビクリとした。


 逸らしていたこの目は再び若菜を捉える。


 そこにあったのは、照れるでもなく、はにかむでもなく、微笑むでもない、いつものすました顔。いや……ほんと現金なやつ、と言っているようにも見えてきた。


「だってそうでしょ? いつもベタベタするように一緒にいて、あるのは良い思い出ばかり。バカみたいな思い出はいっぱいあっても、悪い思い出は一つもない。だからエータのことは好きだったし、エータだって私のこと好きだったでしょ?」


 問いかけのようでありながら、否定は許さんとばかりの圧。


 いたたまれず俺は、ついまた逃げの一手を打ってしまった。


 そうだ。若菜のことが好きだったし、漠然とした将来、ずっと一緒にその隣を歩いていくものかと考えていた。結婚なんて言葉に当てはめるのは恥ずかしかったが、きっと、俺もそんな未来が当たり前にくるものだと信じていた。


「一緒の道に進んで、一緒の景色を見て、一緒の体験をして、一緒の未来を望んでいくんだなって。ずっとエータが隣にいてくれるんだと信じてたし、エータ以外の隣にいたいなんて考えもしなかった」


 かつての日々を、まるで惜しむかのように若菜は語っていく。


 幼き日ならともかく、今の若菜からそんなかつての幻想が紡がれ、身の置き所がない想いが胸の底から湧き上がってきた。


「ここまでがリップサービス」


 調子に乗るな静かにしろ、とばかりに若菜は人差し指を口元に置いた。


「今のエータの隣は絶対に嫌だ」


 品定めをするかのように、下から上までしげしげと見てきた。


「頭はボサボサだし、眉も無造作で不細工だし、メガネもダサいし、おばさんも適当に選ぶしかないから服だって変。その靴を買ってきてもらったのはいつ? おしゃれをしろとまでは言わないけど、清潔感くらいは大切にしないとさ。後、その猫背もきもい。成績だっていつも赤点寸前。おばさんがいつもそれに嘆いてるし、それ以上に友だちがいないんじゃないかって心配されてるのわかってる? ほんと、こんなだらしない男が初恋だったなんて……私の人生最大の汚点だね」


 次から次へと辛辣に事実を指摘され、身が縮こまっていく。


 例えそれが真実だとはいえ、若菜が言っていることは腸が煮えくり返り、つい手を出しても仕方ないくらいの、強烈なまでの罵倒である。


 そうならなかったのは、人間格差と同じくらい、若菜が我が家に通じているからだ。家同士の付き合いなので、ヴァルキュリヤに引きこもり続けてる息子以上に、家族の皆が若菜に信頼を置いている。


 つまり若菜になにかをすれば、我が家から居場所がなくなるのだ。今の俺はサンドバック。一方的にいたぶられるしかないのである。


「それで、なにがあったの?」


 そして若菜は三度目となるその問いかけを投げてきた。


 抵抗する気力は既に失い、恥ずかしい身の上話を訥々と俺は語り始めた。


 一ヶ月前に加入したギルドの姫、あまりな。


 そんな彼女に夢中となり、彼女を囲う男たち。


 このままではよくないとあまりなを注意したら、なぜか俺が人非人のごとく、彼女を罵ったことになっていた。


 そのことを槍玉に挙げられ、ギルドの皆がこぞって俺の敵に回り、ついにはギルドを追放された。……いや、ギルドは明け渡していないから、ある意味逆追放みたいな状態か。


 どちらにせよ四面楚歌には変わりない。


 今日まで積み上げてきた誇りと居場所が、女一つで失われてしまった。


 話をしている中、一度も若菜は口を挟むことなく、聞き届けてくれた。


「ほんと、バカみたい」


 そして聞き届けた末の感想がこれだ。


 ガックリと肩を落とす。


 自分の隣から去っていってまで、人生を捧げ続けた末路がこれか、と。まるで咎められ、バカにされ、ざまぁ見ろと嘲笑われているようで。ただただいたたまれなかった。


「エータさ、私のこと担いでないよね?」


「担ぐ?」


「だってそうでしょ。そんなにバカな男たちが、普通この世にいると思う? 全員揃いも揃って、なんでそこまで綺麗に手玉に取られるかな」


 すましたその顔が、そんな生物がこの世にいるなんて、と呆れているように見えた。


 どうやらバカと言ったのは、俺ではなく、俺を追放した奴らのことを指していたらしい。


「どういうことだ……?」


「天然で無知で無邪気なところに庇護欲が掻き立てられる。これ、ただの養殖だから。そのキャラ付けは全部計算。そんな女に騙され手球に取られるとか、バカ以外なにものでもないね。題目『バカな男たち』と額縁に飾れるくらいバカだよ」


 バカだバカだと言う若菜。


 あまりなはネットに疎い初心者プレイヤーだ。世話を焼く中で、ポロっと漏らされ名前から、あまりなの中身は女だと皆が言った。


 でもこれが、計算だった?


「自分は女です、とハッキリさせないところは上手いかもね。会話の中から匂わるだけで、女だと決めつけたのは男のほう。もしかしたらさ、ただ丁寧なだけで男とも女ともつかない喋り方だったんじゃない?」


 そうだ。あまりなは敬語を扱っていただけ。一人称も常に自分であった。


 男か女か。どちらかに当てはまるような会話も、あえてボカしていた気がする。


 あの元ギルメンたちも、いくらなんでもそこまでバカではない。最初から自分は女です、と宣言する相手はネカマだと警戒する。


 女であることを隠している中で、女かもしれない、いいや女だと決めつけたのは自分たちである。心の内に眠る願望と欲望を、あまりなは計算ずくで呼び覚まし、煽っていたのかもしれない。


 ガクリと再び肩を落とす。


 そんな奴に誇りと居場所を奪われたことに。


「ま、手玉に取られなかった分、エータはまだマシかもね」


 と、まるで慰めのようなお言葉がかけられた。


「それで、エータはこれからどうするの?」


 また、それで、という形で若菜が問うてくる。


 どうするの。


 漠然としたそれに込められた意味をわからぬほど間抜けではない。


 こんな目にあいながら、再びヴァルキュリヤへ引きこもるのか。


 もしくはこのまま、ヴァルキュリヤから足を洗うのか。


 その二択を聞かれているのだ。


「俺は……」


 だが、俺はそれをハッキリとさせれない。


 たった四年間、されど四年間。


 これからの人生を決定づけるのに、充分なほどの時間をヴァルキュリヤに捧げてきた。簡単にそれを捨てられるほど、ヴァルキュリヤは俺にとって小さなものではない。


 けれどヴァルキュリヤの仲間たちは俺を捨てた。女一つで全員が全員、おまえは追放だと迫ってきたのだ。


 ヴァルキュリヤをもし止めたところで、俺はどうすればいいのだろうか。


「こんな目にあいながら、まだしがみつきたいの? 今までのように、夢中になって引きこもれるの?」


 夢中になって引き込もれるのか。


 その言葉が深く胸に突き刺さる。


「エータの人生だし、好きにすればいいけどさ。積み上げてきた物を捨てるのが惜しいだけなら、しがみつくのは止めたほうがいいよ。惰性で続けるくらいなら、辞めちゃえ辞めちゃえ」


 次から次へと、全くもっての正論を叩きつけられる。


 そう、捨てるのが惜しいのだ。


 四年間という人生を捧げ、積み上げてきた物を手放すのが。


 だってもしここで捨てたら、俺の四年は意味がないものになる。若菜たちがこの現実で積み上げてきた格差から、もう目を逸らせなくなる。


 それでも惰性でヴァルキュリヤを続けたところで、この現実ではなにも積み上がらない。


「今ならまだ、間に合うと思うよ」


 振り返ることなく、若菜はそう言った。


 今ならまだ間に合う。


 なにが間に合うのか。


 ……俺たちの関係が?


「真面目に勉強して、いい大学に入って、そこでまた真面目に勉強して、必死になっていい会社に入って、必死に働いて、その中でいい相手を見つけて子供を育んで……って。そんな社会が用意した人生モデルに、まだ間に合うよ」


 だがそれは否であり、あくまで人生を取り戻せるというだけだった。


 そんな人生の、なにが楽しいだろうか。


 社会に貢献する。それこそが人間に与えられた幸せだと言わんばかりの、つまらない人生モデルだ。


「そんな人生は嫌だ? つまらない? 社会が用意してくれたレールから外れたい? もっと楽でインスタントな幸せがあるんじゃないかって、他に道を探してみる? 言っとくけど、レールから外れた人間に社会は厳しいから」


 説教臭い。俺と同じ歳だというのに、まるで見てきたかのようだ。


「実際エータは今、厳しいでしょ?」


 ……いいや、見てきたのか。隣の家にいるサンプルがあるから。


 学校という場に置いて、俺はレールから外れかけている。休まず通いこそすれど、学校に適応しているとはまた別だ。


 交友関係は二人一組になりなさいが辛いほど。誰もが楽しみにしているだろう修学旅行なんていきたくない。勉強なんてしないからいつも赤点ギリギリで、教師に咎められるのを俯いてやり過ごす日々だ。


 学校に通うのは息苦しいから、ヴァルキュリヤに引きこもりたい。


 それが俺の置かれている状況であり、若菜の言う通り厳しいのだ。


 そんな俺からヴァルキュリヤを取り上げれば、それこそなんのために生きているかわからなくなる。


 きっと居場所もなく、息苦しく、そして厳しいの先に、命を断たんとする選択がやってくるのかもしれない。


「だから捨てるべきものを捨てて、真面目に勉強することからやり直したほうがいいよ。楽しいだけに引きこもってきたエータには辛くて厳しいかもししれないけど、ま、それはやってこなかったツケだね。自業自得」


 キリよくそこで、俺たちは我が家の前に辿り着いた。


 話は終わりだとばかりに、若菜は俺の手から鞄をあっさりと回収した。もう俺から興味を失ったとばかりに、あっさり門柱の向こう側へと姿を消していった。


 少し呆然とした後、若菜にならおうとしたら、


「エータ」


 門柱の影からひょっこりと、若菜は再びその顔を覗かせた。


「今のエータの隣なんて絶対ごめんだけど……ま、死んだら泣いちゃうくらいには、まだ好きだよ」


 口元がうっすらと緩んでいるその様に、胸がドキリとした。


 そして調子に乗るなよ釘を刺すように、人差し指を口元に置いた。


「リップサービス」


     ◆


 初恋にして、もう縁が断絶したと思っていた幼馴染。


 未だ彼女から情をもたれていたことに驚き、そして胸を高揚させながら、その日はなにも手づかずに終わった。


 寸前に行われたギルドの追放劇。


 そんなことも忘れるほどに、ただボーッとしていた。


 もしヴァルキュリヤに引きこもらなければ、あったかもしれない今。誰もが憧れるような可愛い幼馴染と、恋人として寄り添えた可能性。


 決してそれは独りよがりではなく、若菜の口からももたらされた、あったかもしれない幻想だ。


 学校ではきっと、多くの友人ができたかもしれない。


 若菜に相応しい男として、勉強だって頑張っていたはずだ。


 隣に並んで恥ずかしくないくらいには、おしゃれして、清潔感を出し、そんな自分をカッコイイと褒めてくれたかもしれない。


 そうやって手に入ったかもしれない未来を犠牲に、自分はヴァルキュリヤに捧げてきた。


 思ってしまったのだ。


 人生失敗した。


 村中若菜の隣に寄り添える人生を与えられながら、それを自ら放棄してしまった愚かさ。


 歩道橋ではきっと、俺が本当に死んでしまうのでは、と若菜の目に映ったのかもしれない。だから普段なら無視するところを、気にかけ話を聞き出し、今ならまだ人生をやり直せると諭してくれた。最後には死んだら泣くから死ぬなよ、なんて情までかけてくれた。


 ヴァルキュリヤとは縁を切ろう。


 人生をやり直し真面目に勉強をしよう。


 ……と、ハッキリと意識を切り替えられるほどの意思の強さはなかったようだ。


 勉強机に向かうものの、集中力はもたず、少しだけとヴァルキュリヤの情報収集を未練がましく怠らない。ちょっとのつもりが、気づけば何時間も経っている始末。


 ヴァルキュリヤにログインこそしないものの、時間だけは無為に流れていった。


 そうやって、本当に少しずつ、少しずつ勉強時間を伸ばしながら、一ヶ月ほど経っただろうか。


 朝のホームルーム前、がやがやと教室が賑わいきる前のことだ。


 前の席の佐藤。一度として彼より先に登校したことはなく、今日も変わらず佐藤が既に席へとついていた。


 席こそこうして近いが、彼とは必要最低限しか言葉を交わしたことはない。


 入学以来、佐藤は常に学年首位。噂では私事の時間を全て勉強に費やしているとのこと。俺の真逆をいく人間であり、根っこからして在り入れないのだ。というわけではない。


 なにせ佐藤の交友関係はスクールカーストの天下人から、俺の近縁種までと幅広い。来る者拒まずの博愛主義なのかもしれない。そんな佐藤に卑屈になっている俺が、会話を必要最低限に留めているだけ。


 そうして今日もまた、そんな佐藤の周りに二人ほど集まっている。揃って俺の近縁種だ。


「なんだ渡辺。今日はやけに機嫌がよさそうだな」


「これを機嫌のよさそうの一言で括るとか、佐藤はほんと聖人だな。渡辺、どうして今日はそんなキモいんだ?」


「ふっふっふ。なにせ今日は、ついに待ちに待った日」


 なんてやり取りを始めた三人。田中のキモい発言など聞こえぬとばかりの渡辺は、確かに声からして機嫌がよさそうだ。


「魂の嫁のルートが追加された、ファンディスクの発売日だ。今から放課後が待ち遠しくて待ち遠しくて仕方ない」


「ファンディスク……?」


「あー、文章ポチポチクリックゲーの話な。はいはい、解散、終了」


 疑問符を掲げる佐藤を横に、つまらん話を終わらすかのように田中は切り捨てた。


「くっ……! なにが文章ポチポチクリックゲーだ。それなら今貴様がやっているヴァルキュリヤも、マウスポチポチクリックゲーではないか」


 ヴァルキュリヤの名が上がり、ドキリとした。


 もし、追放騒ぎなんてなければ、つい話かけてしまったかもしれない。まさか田中もヴァルキュリヤプレイヤーだったなんて。


「ふっ、確かにそうだが一緒にするな。なぜこの俺様がわざわざ、マウスポチポチクリックゲーなんぞに興じていると思ってる。俺様の遊び方は既に、奴らとは一線を画してるんだ」


「また貴様は無辜の民を陥れているのか」


「ほんとカスだな、田中は」


 誇るような田中とは対象的に、渡辺と佐藤は呆れている。


 ヴァルキュリヤの一線を画した遊び?


 無辜の民を陥れている?


 佐藤にカスだと言わしめた田中は、一体ヴァルキュリヤでどんな遊び方をしているのか。


 俺はそのとき耳を傾けるのを止められずにいた。


「聞いてくれよ。この前さ、ヴァルキュリヤの大手ギルドを一つ陥落させたんが、そんときの話が傑作ったらありゃしない。ネット無知な初心者として潜り込んでよ。いつものように女匂わせ、囲わせ貢がせてたんだが、それをギルマスに咎められるわけだ。俺は殊勝な態度で『ごめんなさい』『初めてのことばかりでわからないことだらけで』って言うわけだが、当然やめるわけがない。囲いにギルマスの注意を大袈裟に吹いたら、我こそは姫を守る剣とならん、とばかりに熱り立ったんだ。そっからの動きが早いのなんのって。囲いたちがギルメン全員束ね、ギルマス一人残してギルド脱退。ここからが爆笑ポイントよ。ギルマス呼び出して『おまえをギルドから追放する』だぜ。ギルドから抜けておいて、なーにがおまえを追放するだ。しかもそのギルドを明け渡せとか、おまえら俺を笑い殺す気かよ。ギルマスは当然、ギルドを明け渡すことなくログアウト。『その後、誰も彼の姿を見ることはなかった』ハッピーエンド、完、ってな。たった一ヶ月でこれとか、己の才能と手腕が恐ろしいな」


 ギャハハハハと笑う田中に、ドン引きの音が二人から漏れ出す。


 どこかで聞いたことがあるその話。


 見に覚えがありすぎて、鈍器で殴られたかのような衝撃が走った。


 昏睡とまではいかないが、手足が動かなくなるほどの金縛りがこの身を襲う。


「ま、うるせえ奴がいなくなったら後は俺の天下だ。一通り囲いから貢がせ絞り尽くした後は、待っているのはお楽しみ。囲いを対立させ、煽り争わせる。それを見て叫ぶんだ。『止めて、自分のために争わないで!』ってな。裏では草生やしながら大爆笑よ。それを一通り楽しんだら、他のギルドに相談女の形で、ギルマスが追放された顛末を語るわけよ。人望溢れたギルマスだっただけに、そんな身勝手な理由で追放した囲い共を許すわけがない。囲い共の名は拡散され、今ではどこのギルドやパーティーにも入れて貰えないってわけだ。そして『自分のせいでこんなことに……もうネットゲームなんてやらない』なんて悲劇のヒロインぶりながら、貢物と一緒にヴァルキュリヤからおさらばよ。アカウントは当然、RMTで俺様のお小遣いとなるわけだ」


「RMT?」


「リアルマネートレードの略だ。ネットゲームのアカウントやアイテムを、現金化する行為だ。罰せられる犯罪でこそないが。規約違反だから褒められた行為ではないな。むしろ叩かれるべき行為だ」


 佐藤の疑問に渡辺がすかさず答える。


「ちなみに今回の稼ぎは三十万だ。いやー、マジで良い稼ぎになったわ」


「三十万!?」


 あの佐藤も、その金額に驚きをこらえきれず叫んでいた。


「流石最大手のネトゲってところだな。何十人もがドブに捨ててきた、何百何千ものその時間。それら全てを絞りに絞った、珠玉の旨味汁だ。たった二ヶ月でこれだとか、しばらくはヴァルキュリヤにどっぷりかな」


「……おいおい、そんな簡単にいくもんなのか」


「普通、いかんだろうな。女キャラや女を名乗る奴は、まずネカマ扱い前提のはずだ」


 渡辺の言うことは正しい。


 最初から中身が女なんていうのは考えていない。ヴァルキュリヤはキャラを飾り、クリエイトできるアイテムが豊富である。むしろそれで課金を促すくらいだ。


 プレイヤーのほとんどが女キャラであり、俺のように男キャラを使うのは二割といったところ。中身が女であるなんて、初めから誰も考えていない。


 あまりなも初めこそネカマですらなく、ただ丁寧な言葉を扱う女キャラとして認識していた。それがある日から、あまりなの中身は女だと皆が騒ぎ出すようになったのだ。


 なぜ中身が女だと信じ込んだのか。


「ま、この道一筋四年ってな。俺のキャラには女が宿る。まさに匠の技ってやつよ」


 下品にギャハハハと笑いながら、田中は腕をポンポンと叩いている。


 どうやら田中が芸術的なまでに、ネカマとして天才すぎただけのようだ。その姿はまさに天災の擬人化である。


「このカス、その内刺されるんじゃねぇか」


「むしろ刺されるべきだな」


「下半身直結野郎に、そんな度胸なんてありやしねーよ。なにせあいつら脳みそ空っぽだからよ。親が入院していて、爺さんは家で寝たきり。その介護の傍ら学校へ行き、バイトをして、兄弟たちの飯や弁当を作ってる。そんな苦労人設定で通したらよ、あいつら全部信じやがって、ますます貢ぎにかかってくるんだ。バーカ、そんな奴がネトゲやってるかっつーの! あー、また世界ランクが上がっちまったよ」


     ◆


 その日はずっと、放心するように授業を受けていた。


 内容なんて頭に入っていない。


 ぼーっとしている俺は何度か叱られ、佐藤に『大丈夫か?』なんて心配されたくらいだ。


 そうして気づけば家に辿り着き、パソコン前に座していた。


 久しく起動させなかったヴァルキュリヤのクライアント。


 一ヶ月も経てば流石にアップデートもあることから、ダウンロードに時間がかかった。


 それは長くも感じたし、短くも感じた。


 パスワードを入力し、ログインをし、そしてキャラクター選択画面まできた。


 一分ほど逡巡した後、漆黒の翼シュタインハルトとして、ヴァルキュリヤへ帰還したのだった。


 キャライン後、何百どころか、何千と見続けてきた始まりの街。


 たった一ヶ月で、全てが懐かしく感じるほどのその光景。


 とぼとぼと個人露天の密集地を回りながら、かつてのように、掘り出し物がないかと漁るのだ。


 かつてはワクワクしていた露天巡りだが、今やその気持ちが色あせて、作業のようにすら感じてしまった。


『夢中になって引き込もれるの?』


 若菜の言葉が蘇る。


 この世界が色あせて見えたのは、追放騒動がもたらしたものではない。


 若菜とあったかもしれない現在。人生失敗したと思わせるほどの幻想があまりにも艶やかで、華々しき色彩で輝いていた。


 きっとその光がこの世界を照らし、築いたもの全てを虚しく感じさせたのだ。


 なんでこんなことになってしまったのか……


 そうやって呆けたようにぼーっとしていると、個別チャットが飛んできた。


「良かった。帰ってきたのか」


 漆黒の翼シュタインハルトの帰還を喜ぶ一文。


 フレンド登録から、ログインに気づいてくれたのだろう。


 一ヶ月もログインしなかった俺を、未だ待っていてくれた者がいたのかと喜んだ。が、その名前に気づいた瞬間、一気にそれは胸を締め付けるものへと変貌した。


 光輝の剣ヴァッファル。


 俺を居場所から追放した、張本人だった。


「謝りたい」「落ち着ける場所で会いたい」


 と、ヴァッファルから続けざまに個別チャットが飛んでくる。


 チャットモードで幾ばく躊躇いながらも、その申し出を受け入れる旨を返信した。


 場所は『銀狼の雫』のギルド会館。


 ヴァッファルと共に創設し、今日まで三年もの間、俺たちの城であり居場所であった。


 本来であればギルメン以外入れないが、ギルマスと副マスの承認さえあれば入場できる。


 かつて承認する側であったヴァッファルを、入場の承認する日が来ることになるとは。その内心が複雑であった。


「すまない、シュタイン! 全て俺が悪かった!」


 入場早々の第一声がそれだった。口だけではないと言わんばかりに、土下座エモーションまで使っている。


 その姿にどう応えようかと悩んでいたら、チャット欄は矢継早にヴァッファルの謝罪と言い訳、今日までなにがあったのか、で埋め尽くされ流れていく。


 ギルメンは全員仲間割れで離散。


 散々貢いだ後、自らに残った物に絶望し引退する者たち。


 それでもこの世界にしか居場所がないとばかりに、固執する者たち。だが俺を追放したことでその名は拡散されている。上級プレイヤーほど狩場や居場所などが限られるので、パーティーにもギルドにも入れてもらえない。エンジョイ勢の中級プレイヤー辺りに混ざれば、輪に溶け込むこともできただろうが、ガチ勢のプライドがそれを許さない。


 そういう意味では、ヴァッファルのような上級プレイヤーは、最早ヴァルキュリヤから孤立していた。


 語られるその内容に、目新しい事実はあまりない。


 なにせ今朝、武勇伝のように語られた内容とあまり齟齬がなかった。精々、あまりなの中身を最後まで女だと信じ、騙されていたことに気づいていないくらいか。


「シュタイン、おまえとやり直したい! また一からおまえの信用を積み上げる、懺悔の機会をくれ!」


 プライドを捨て去るかのように、ヴァッファルは全ての罪を認め許しこうてくる。


 ここまでヴァッファルが必死なのはわかる。


 もしここで俺が許し、再び元の鞘に収まれば、再び上級プレイヤーの輪に戻れるのだ。


 ヴァッファルもまた、俺と同じくこの世界に誇りと居場所を築いてきた者。俺のようにリアルを捨て、今日までこの世界に人生を捧げ続けてきたのだ。


 主導となって追放された恨みはある。憎悪もある。いい気味だ。落ちぶれに落ちぶれたその姿に、蜜の甘さすら感じていた。


 だが……ヴァッファルもまた、一人の被害者である。


 悪逆非道なネカマに誑かされ、陥れられたのだ。


 あのネカマはまさに天才にして天災。地震、台風、津波の類だ。


 家が崩れ、吹き飛ばされ、飲まれ流されたその様を、対策不足だ、自業自得だと、果たして言っていいのだろうか。


 ギルドを立ち上げる前。


 初めてヴァルキュリヤの世界に来てから、初心者同士としてめぐり逢い、今日まで苦難を共に乗り越えてきた戦友。


 再びその手を取りたいという気持ちが湧き上がる。


 そして同時に、この世界が色あせたという思いもまた込み上がってくる。


『積み上げてきた物を捨てるのが惜しいだけなら、しがみつくのは止めたほうがいいよ』


 今日まで積み上げてきたものは、ヴァッファルの友情を含めた全てである。


 もう前のように、夢中となってこの世界に引き籠もれない。


 それだけは確信していた。


『惰性で続けるくらいなら、辞めちゃえ辞めちゃえ』


 戻ってこいと、あの声が呼んでいるようだった。


 今ならまだやり直せる、と。


 世界で一番好きだったその顔を思い出し……全てを捨て去る覚悟を決めた。


 惜しいからとしがみつくのは止めよう。


 この世界から旅立つ日がついにやってきたのだ。


 ならばこの思い。


 落ちるところまで落ちた、ヴァッファルにかけるべき言葉はこれしかない。 


「ざまぁ!」


 そうして俺は、ヴァルキュリヤから永遠にログアウトしたのだ。


     ◆


 次の日の朝。


「ちょっといいか、田中」


 登校したら既に佐藤のもとへと集まっていた、田中へと声をかけた。


 俺は教室では孤高という名のボッチを貫いている。佐藤以上に田中とは、言葉を交わしたことはない。


「なんだ中村」


 だからそんな相手にいきなり話しかけられて、田中は面を食らっているようだ。


「昨日、ヴァルキュリヤのアカウントをRMTしたって話をしてただろ」


「ん……まあな」


 社会的にも世間的にもよろしくない話なので、普段関わり合いのない奴に、その話を掘り返され田中は不審がる。まさか正義感ぶって、今から咎められるのかと思っているのかもしれない。


「俺も昨日、ヴァルキュリヤを引退したからさ。よければその話、詳しく聞かせて貰えないか?」


「ああ。そういう話か。いいぞいいぞ」


 咎められるわけではなく、是非その話を聞きたいということに、田中は嬉しそうに快諾をした。


 付き合いがゼロのボッチ相手にこの反応。実は中々良いやつなのかもしれない。


「なんだ、中村もあれをやっていたのか」


「ま、あれはビックタイトルだしな。やってる奴がクラスにいてもおかしくない」


 渡辺の反応に、珍しくもないと田中は答える。


「ネットゲームはよくわからんが、また急になんで引退? なんてしたんだ。しかも昨日?」


 佐藤が首を傾げる。


「あれか、昨日の話を聞いて、惰性でやっていたのを思い切って辞めようって話か?」


「マウスポチポチクリックゲーなんて苦行でしかねーもんな。辞めちまえ辞めちまえ。金に変える面倒は見てやっから、あんなクソゲーからは足を洗ったほうがいいぜ」


 なんて、田中は俺が人生を捧げた世界をこき下ろす。下品に今日も、ギャハハと尊大に笑いながら。


 これから広がるだろう光景。


 それを思うとあまりにも面白くて、ついその笑いを前借りしてしまった。


「それがさ、ギルドで逆追放を食らったんだ」


「……え?」


 引退するに至った経緯、その序章を耳にし、下品な笑いは一気に鳴りを潜めた。


 その様があまりにも面白くて、抱腹を堪えるのに必死であった。


「ある日ログインしたら、俺一人残してギルドはもぬけの殻。副マスに呼び出されてみたら、『おまえをギルドから追放する』だ。あのときは一体、なにが起きたのかわからなかったよ」


 流暢に面白おかしく語る喜劇に、田中の顔が一気に青ざめていく。


 佐藤も渡辺も口をあんぐりさせながら、今にも『あ』と息を漏らさんばかりである。


「どうやらお姫様への注意や小言が、悪逆非道の嫌がらせだと思われたらしい。謝罪と迷惑料のギルドの明け渡しを要求され、逃げるようにログアウトして、以来ヴァルキュリヤを絶っていたんだ。そして昨日、久しぶりにログインしてみれば、かつてのギルメンたちは離散引退孤立だ。これじゃあ復帰なんて無理も無理。こうして俺は、ヴァルキュリヤを引退する道を選んだんだ」


 好みだろう爆笑話だというのに、田中は喉が潰れたように声をかすらせ、顔面全体を引きつらせている。


「短い付き合いだったな、田中」


「ま、葬式くらいには出てやるぞ」


 渡辺と佐藤は、一切田中の身を慮ることなく、因果応報だとその顔は示していた。


 喘ぐような田中の肩に、ポン、と手を置いた。


「そういうわけで、アカウント処理の面倒は頼んだぞ、あまりな」


     ◆


 因果応報。


 自業自得。


 自分で蒔いた種。


 身から出た錆。


 などといった言葉が一斉に田中に襲いかかり、天誅がくだった。


 ということはなく、今更田中をどういうしたいわけではない。むしろヴァルキュリヤから抜け出す機会を得たのだから、結果的には恩人といったところか。でもまあ、少し脅かすくらいは許されるだろう。


 佐藤も渡辺も、まさかこんな身近に田中の被害者がいたことに驚き、凄いめぐり合わせがあるものだと、一周回って感心していた。


 そしてその日をもって、ついに俺はボッチを脱した。


 これをキッカケに佐藤たちと交友を持てたのだ。


 放課後、田中の奢りでファミレスで豪遊をした。ヴァルキュリヤで行った悪逆非道話。その裏話を面白おかしく語られ、とにかくその日は腹を抱えて笑ったものだ。


 田中は愉快犯で人を弄ぶカスでこそあったが、その牙が身内に向くことはない。謝罪もかねてと、アカウントの売買は丸投げさせて貰えることになった。


 そうしてあっという間に夏休みとなり、その一日目。


 ポン、と渡された封筒の中に入っていたのは、諭吉様が十五人。アカウント自体は十万だったらしいが、プラス五万は俺への迷惑料とのこと。どうせヴァッファルたちから巻き上げたものだという気前の良さは、人が良いのか悪いのか。判断つかぬところである。


「十五万、か……」


 田中と別れた後、その大金を手にしながら、複雑なため息が漏れ出した。


 四年間という人生を捧げて、最後に手元に残ったのがこれである。


 あまりにも虚しいと嘆くべきか、せめてこれだけ取り返せたと安堵するべきか。判断は難しい。


 きっとその答えは、これをどう使うかにかかっている。


 俺の四年の集大成。


 果たしてなにに使えばいいのやら。簡単に浪費するには、この十五万はあまりにも重すぎた。


 家に戻ると玄関で妹と鉢合わせた。


 まるで化け物が現れたとばかりに、妹はギョっとした。


 どうやら引きこもらず、真っ昼間から外出していたことに驚愕したようだ。


 過去を振り返れば、それを失礼だと思うことはない。


 好かれてこそないが、こんな兄が嫌われていないほうがおかしいのだ。クソ雑魚ナメクジ扱いされていないだけマシである。


 なにせ妹は陽キャの鏡だ。


 身なりへの投資を惜しむことはないその様は、まさに俺とは対極的に位置する生き物であった。


 と、そこで閃いた。


 この十五万の使い道を。


 かつて事実として受けた罵倒を思い出したのだ。


 そうしてすぐに動き出した、その日の夕方。


 今までの自分では、恐ろしくて絶対入れないダンジョン。それを二つほど妹の庇護下で攻略し、俺はその成果を手にした。


 母娘揃ってこの有様にニヤニヤとされるも、この先に待ち受けるイベントの前では気にならない。それほどまでに、胸がバクバクとして、落ち着かない気持ちでいた。


 もうそろそろだと、叩き出されるように家を出る。


 数刻ほど、玄関先で待ちぼうけてその者の帰りを待つ。


 夕暮れを正面から浴びるようにした、若菜が帰ってきたのだ。


 いつもであれば出会い頭でも目をくれず、通り過ぎていくところであったのだが。


「どうしたの……その姿」


 若菜は目だけではなく、足まで止めてしまった。


「キャラクリしたんだ」


 昨日までとはまるで違う、俺の姿を見て驚いたのだ。


 頭はボサボサ、眉毛も不細工で、ダサいメガネをかけていたはずの中村栄太。それが今や、ワックスを使ったヘアスタイルに、眉も整えられ、メガネすらかけていなかったのだ。キモイ猫背にもなっていない。


 俺は今日、美容院と眼鏡屋に行ってきた。


 夏休みデビューをするからと、妹に頼んで連れていって貰ったのだ。


 まず一発目は、妹が通っている美容院だった。女性客中心とはいえ、男性客を断るわけでもない。妹に事情を説明された美容師が、ノリノリで俺の人体改造を施してくれた。完全お任せでされるがまま。最後にはワックスでスタイリングされ、人体改造は終了した。鏡に映っていたのは見たこともない、まるで陽キャのような男の姿。髪型と眉だけで、人間ここまで変わるのかと驚嘆した。


 そして次は眼鏡屋だ。併設された眼科で検査された後、あっさりとコンタクトレンズが装着された。メガネとコンタクトでは、ここまで映る世界が変わるのかと感動したほどだ。


 かくして、中三の妹任せでキャラクリは完了した。


 家に帰ると出迎えた母親が「うちの息子ってこんなにイケメンだったのね」と手放しに褒め、妹も「まさか自信を持って、おにいを友だちに紹介できる日が来るとは」と嬉しそうにシャメを取り、母娘揃ってずっとニヤニヤとしているのだ。


 照れくさくて居心地の悪さを覚えたが、ここは大人しく玩具にされた。


 母はやっとその日が来たかとばかりに、諭吉をポンと託してくれた。


 妹の活躍は言わずもがな。嫌がることなく連れ回してくれた様は、心の内で眠っていたお兄ちゃんっ子が目覚めたのだ。というわけではない。友だちに知られたくない兄が、ようやくまともな姿に変身せんと決めた。心変わりする前に、この機会を逃すかとばかりに使命感に燃えたのだ。


 なお、服はダサイのしかないので、学校の制服を強要された。例え兄であれ、ダサイ男を隣に置きたくなかったのだ。こうしている今も制服のまま。と言っても白いワイシャツと、学園指定のスラックスなので、そこまでキッチリはしていない。


 すました顔がデフォルトの若菜も、キャラクリ後の俺に驚きを隠せないのだろう。目を見開き、口を半開きにし呆然としていた。


 すう、と息を吸う音。


 ようやく我を取り戻した若菜は、


「引き篭もっていたネットゲームはどうしたの?」


 キャラクリについてではなく、そちらの方を指摘した。


「引退だ。クソゲーにはもう飽きた」


 過去を惜しむことなく、胸を張るようにそう口にした。もうあれに未練はない。そんな清々しさすらある。


 辞めちゃえ辞めちゃえ、って促していた張本人は、信じられないとばかりに目をパチパチとさせた。


「じゃあこれから、どうするの?」


「手持ち無沙汰になったからな。今度はこっちの世界に引きこもるぞ」


 ぷ、と笑いが漏れたような気がした。


 ネットゲームに引きこもっていた男が、今度は現実に引きこもるだなんてのたまうのだ。相反するその言葉の使い方が面白かったのだろう。


「これからの方針は?」


「まずは夏休みデビューってイベントをこなさんとな。でもそのためには相応の装備を必要だろ? なら、まずはイベント攻略のために装備を整える。なにせ現在の装備はクソだからな。ゴミは捨てて全取っ替えだ」


「その後は?」


「装備が揃ったらレベル上げだ。魅力もそうだが、まずは知能優先に振ってきたい。力や体力は追々だな」


 運を上げる必要はない。なにせ初期から運だけは高いのだ。


「他には?」


「フレンドを増やす。マルチプレイを楽しむ世界で、ソロプレイなんて苦行は死んでもごめんだ。ギルドにも加入せんとな。今は底辺でも、絶対に上位ギルドに潜り込むぞ」


 底辺プレイヤーの野望に、若菜はおかしそうにしている。


 ああ、こんなふざけた会話で若菜を笑わせたのはいつ以来か。


 ずっと俺たちはそうやって寄り添い、一緒の道を手を繋いで歩いてきた。いつしか勝手に俺がそれから離れて、別の世界(ゲーム)をやり込んできた。


 その裏で若菜は、この世界で装備を整え、レベルを上げ、フレンドを作り上位ギルドに加入していた。


 クソゲーを捨て、この世界に再びログインしたところで、俺と若菜には大きな格差がある。まさに底辺プレイヤーと、上位ベテランプレイヤーほどの開きがあった。


「まずは最初の一歩として、イベント攻略用の装備を整えたい。でもなにを買えばいいのか全然わからん。どう組み合わせればセット効果が発揮するんだ? それだけじゃない。なにより厄介なのが、装備ショップに湧いてる店員だ。なんでも奴らはタゲを取ってもないのに、すぐにこっちを標的にしてくるらしいじゃないか。底辺プレイヤーがそんな奴らに襲われてみろ。瞬殺だ」


「だから?」


 疑問符を掲げるそのすました顔。その裏では、今からなにを言わんとしているのかお見通しだろう。


 底辺プレイヤー風情が、ちょっとキャラクリしたくらいで上位ベテランプレイヤーに並べるわけがない。かつての縁を頼って、人生のレベリングをしてもらおうだなんておこがましい。


 だけど、それでも恥知らずな俺はこう願いこう。


「だから……この世界の上級ベテランプレイヤーに、装備を見繕ってもらいたい」


 上位ベテランプレイヤーと並びたいがために、その本人に介護支援を要請したのだ。


 真っ直ぐと恥ずかしげもなく、俺は若菜の目を見据えた。


 散々避け、逃げ回ってきたその瞳。


 勝手に側から離れて別ゲーに走っておきながら、また一緒にやりたい、なんて。あまりにも都合のいい話だ。人が必死に築いてきた地位を利用する、まさに蛮行である。


 それでも俺はこの世界にログインし、再び立ち上がると決めたのだ。


 若菜とまた、この現実(ゲーム)で遊びたい、と。


 沈黙が幾ばくか流れていく。


 すましたその顔からこぼれたのは、


「いいけど、私好みの装備になるよ」


 やっとこの世界に戻ってきたかと、小さな小さな、それでも喜びを含むかのような微笑みだった。


「上級ベテランプレイヤー好み以上の装備はない」 


「底辺プレイヤーなんかに付き合って上げるんだから、お昼はそっちの奢りね」


「寿司でも焼き肉でもイタリアンでもどんとこい。なんならディナーまでつけてやる」


「お、強気だね。まるで成金みたい」


「まさしく今の俺は成金だからな。資金は十五万もある。その日は成金無双だ」


「どうしたのそんな大金?」


「俺の四年を売っぱらってきた。もうクソゲーに後戻りはできん。これを元手にこの世界に引きこもって、上級プレイヤーを目指すぞ」


 かくして俺たちは、格差はあれどかつての距離を取り戻した。


 くだらない会話に乗ってきて、おかしそうにしているその顔が好きだった。


 また俺は、そんな顔を生み出せる機会を得られたのだ。


 これは一つの奇跡である。


 一度失ったからこそ、それがどれだけ大切なものであるか。死ぬほど身にしみた。


 もう同じ間違いは繰り返さない。


 これからまた一緒の道に進んで、


 一緒の景色を見て、


 一緒の体験をして、


 一緒の未来を望んでいきたい。


 だが、いくら縁を取り戻したからとはいえ、俺たちの間には無視できないほどのレベル差がある。


 底辺プレイヤー風情が、上位ベテランプレイヤーとパーティーを組んだ日には、寄生扱いされるに決まってる。


 寄生扱いが嫌なら、クエスト攻略で実績を出すしかない。


 若菜と同じレベルでなくても、同じクエストを攻略できた実績さえあれば、パーティーを組んでも寄生扱いされずに済むはずだ。


 だから俺がこなすべきクエストは決まっていた。


 大学受験という超高難易度クエだ。


 母いわく、若菜は国立を目指しているとのこと。


 同じクエストをこなすのなら、まずは知識全振りのレベル上げを、必死になって行わなければならない。


 楽しいことだけに引き篭もってきた俺には苦行でしかないだろう。だが、目的があるレベル上げはきっと、俺を高みまで連れて行ってくれるはずだ。


 超高難易度クエを攻略したその先で、


「その先でカナとパーティーを組む。それが今の目標だ。必ずその高みに追いつくぞ」


 必ず君が好きだと告げるから。だから待っていてくれと、底辺プレイヤーが偉そうに豪語する。


 その頬が朱に染まっているのは、果たして夕暮れのせいか。


「期待してるよ、エータ」


 いつものすました顔はどうやら、とても機嫌が良さそうだった。


 もうこれは既に、告白が成功していると同じではないか。


 胸が高鳴り、抱きしめたい衝動にかられてくる。キスの前借りも許されるのではと。


 そんなバカな男の下心を見抜いたかのか。調子に乗るなと釘を刺すように、若菜は人差し指を口元に置いた。


「リップサービス」

最後までお付き合い頂き、ありがとうございました。

この短編は、完結済み作品でもあります『蒼き叡智の魔導書』田中の悪逆非道のネカマっぷりを書きたいという思いつきから書き始めた話です。

田中が気に入って頂けたなら、よろしければそちらの方も応援を頂ければと願い存じます。


もし面白いと楽しんで頂けたなら、ブックマークと下の☆で評価を頂けると幸いです。

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蒼き叡智の魔導書
田中が女キャラに異世界転生している作品です。
脳みそ空っぽで見られる完結済みですので、よろしければこちらもご一読ください。
― 新着の感想 ―
[一言] 田中はとことんクズだなぁ… でもあれだ、典型的なネット世代って感じ。ネット弁慶というか… 顔も合わさず世界中の誰かと匿名でやり取り出来る時代に産まれて、どこかの誰かはどこかの誰かでしかなく自…
[良い点] 読ませますねえ……進むごとに先が気になり、気付けば二万余字が一息でした。 [一言] 田中はクズでしたが、悪にはなり切れないキャラですね。今回のことを機に、顔の見えない相手への攻撃が、知らな…
[良い点] クラスチェンジした件から読みに来ました。貴方の書き方は本当に好き……蒼〜と悪〜はまだ読んでないので今から読みに行きます。 こんなポジティブに生きれる主人公かっこいい……恵まれた環境という…
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