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「なあ、そろそろ教えてくれてもいいんじゃないか」
紫陽たちは、すでに20分以上、自転車を押して歩き続けていた。
《《あやの》》は黙って先を歩み続ける。黙ってついてこいとでもいうのだろうが、行き先がわからない不安や、隼瀬たちの攻撃を受けた紫陽は気が立っていて、声を荒げて《《あやの》》を責め立ててしまう。
「確かに、隼瀬たちから逃れられたのは、お前のおかげだ。感謝している。でも、それと目的地を話さないのは違うだろう?オレ達に話せないような場所に連れていくつもりか?いったい、誰に会わせようとしているんだ。いい加減、応えろよ」
紫陽は《《あやの》》の前に回り込んでゆく手をふさぐ。歩みを遮られた《《あやの》》はさすがに無視できなくなり、大きなため息をついて口を開く。
「別にここで話しても構わないが、ここには紫陽たち以外にも人がいる。彼らに聞かれてついてこられては困る」
「いったい、どこに行こうとしているの?私たちはあなたを信用していいのかな」
「信用しなくても構わないが、我についてきた方がいいと思うぞ。何せ、我が今からお前たちを案内する場所は」
にやりと、なぜか開き直って行き先を告げようとする口を紫陽は反射的にふさいでいた。すみれも本能的に、彼女の言葉が他人に聞かせられないことだと感じ取り、周囲に目を向けて警戒している。
「むう、ようやくわかったか」
彼らの様子に満足したのか、《《あやの》》は先ほどより機嫌がよくなり、歩く速度が上がっていく。紫陽たち兄妹は顔を見合わせ、幼馴染の後を追うことにした。
しかし、彼らは気づいていなかった。朝から人の姿を見かけておらず、街中で動き回っていたのは、紫陽たちだけで、隼瀬たちと合わせて自分たちが特別な人間だということを知ることはなかった。
「ここだ」
《《あやの》》が足を止めたのは、街中にある一軒家だった。紫陽が彼女に行き先を質問してから、10分程歩いたところで、ようやく目的地に到着したようだ。いきなり歩みを止めた彼女に二人も足を止める。
「普通の一軒家に見えるが、《《あやの》》の目的地はここ、なんだよな?」
「あやのさんの知り合いってことだよね……」
住宅街にある何の変哲もない一軒家が目の前にあった。《《あやの》》は二人の疑問を無視し、玄関のインターホンを鳴らす。インターホンの音が閑静な住宅街に鳴り響く。
「どうぞ」
しばらく待っていると女性の声が聞こえ、すぐに玄関のカギが開く音がした。相手が誰かを確認することなく開かれたことに、二人は不審そうに、ここに連れてきた彼女を見る。しかし、彼女は特に気にすることなく、堂々とドアを開けて家の中に入っていく。
「入るしかないってことだよね」
「そうだな。誰かわからないが、《《あやの》》がまさか、オレ達を敵に引き渡すとは思えないし……。入ってみるか」
二人は意を決し、《《あやの》》に続いて家の中に入ることにした。




