変わり果てた世界1
「ジリジリジリ」
目覚ましの音で紫陽は目を覚ます。ベッドわきに置かれた目覚まし時計をとめて、辺りを見渡すと、床には《《あやの》》と妹のすみれが隣り合ってすやすやと眠っていた。一気に昨日の出来事が頭に浮かぶ。
「おい、すみれ、《《あやの》》、起きろ」
床で眠る二人に特に異変はないようだが、何が起こっているのかわからないこの状況だ。紫陽は二人を起こすことにした。紫陽の声に先に反応したのは、《《あやの》》だった。眠そうな目をこすってはいるが、目は覚めているようで、言葉ははっきりしていた。
「おはよう。昨日はよく眠れたか?いや、その顔だとあまり眠れていないな」
「おにいちゃん?おはよう」
妹のすみれも、《《あやの》》の声で目覚めたようだ。紫陽は二人が起きたことを確認して部屋のカーテンを開けようとした。しかし、直前で昨日のことを思い出し、そっとカーテンをめくるだけに留めた。こっそりと外を覗くが、すでに野次馬たちの姿は見当たらない。
「さすがに夜通し見張るのはやめたらしいな。それで、お前らは今後、どうしたい?このまま家にずっと引きこもるわけにはいかないだろう?」
「私は、学校に通いたい。またみんなと一緒に普通の学校生活を送りたい」
「オレも、できれば今まで通りの普通の生活がしたい」
「それは無理だな。お前らも昨日の動画を見ただろう?」
二人の言葉に《《あやの》》が残酷な現実を突きつける。確かに昨日の動画では、スマホの寄生について耐性がある人間がいることをほのめかしていた。その周りにいる人間も狙われていることがわかった。だからこそ、昨日のような事態になってしまった。
「とりあえず、テレビでもつけてみるか?」
三人は朝食をとるついでに、テレビで世間がどうなっているか確認することにした。紫陽もすみれも、スマホで情報を集めることに抵抗があった。《《あやの》》に聞いてもよかったが、自分の目で今の状況を見たかった。
「昨日から未明にかけて、原因不明の高熱にうなされる人々が続出しているようです。スマホに寄生された人にのみ起こる現象ということです。警察などが原因を調査しています。スマホに寄生されている皆さんは、外出を控えるようにしましょう」
テレビをつけると、紫陽が知りたい情報が真っ先に飛び込んでくる。今日は平日だったはずだが、テレビで映る駅や道路に人の姿はなかった。
「もし、ニュースで言っていることが本当なら、普通は学校が休校になったとかの連絡が入ると思うんだけど」
「そうだよね。《《あやの》》、何か学校から連絡は入っているか?」
紫陽とすみれは、スマホに寄生されるのを恐れて、スマホの使用をやめているため、学校からの連絡はあやのに聞くことにした。
「そうだな。学校からの連絡は入っていない。だが……」
その後に発せられた言葉に、紫陽は困惑する。彼女が自分たちを呼ぶ理由は一つだが、そうなると、この呼び出しは罠ともいえる。すみれも同じ考えなのか、おびえた表情を浮かべている。
「心配することはない。もし、彼女がお前たちに危害を加えようとするならば、我が全力で守ってやる。一度でもスマホに寄生されたことのあるものならば、我の力は使うことができる。あの娘の仲間にスマホに寄生されていない人間はいないだろう」
「でも、一度に何人もの人に囲まれたら、どうしようもない。最悪、オレ達は研究所に連れていかれて、実験動物のように利用されてしまう可能性があるんだろう?」
「そ、そんな」
二人は、《《あやの》》のもとに入っていた連絡を罠だと決めつけ、不安そうにしている。それに対して、彼らの幼馴染は軽い調子で紫陽たち兄妹に連絡が来た彼女に会った方がいいだろうと忠告する。
「じゃあ、このままずっと二人で家に引きこもるつもりか?我は構わないが、いつまでこの状況が続くか見ものだな。遅かれ早かれ、次の部隊がお前らを狙ってやってくる。それならいっそ、罠だとわかっている場所に突撃する方がいいと思うがな」
「そ、そこまで言うのなら」
「ま、まあお前の言うことも一理ある」
紫陽たち兄妹は、《《あやの》》の言うことを聞いて、学校に行く準備を始めた。




