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「始まった」


 動画アプリを起動して、スマホからの動画の再生を始めた《《あやの》》がぼそりとつぶやく。今までざわついていた教室内が一気に静まり返る。イヤホンをして動画を見ているクラスメイトもいたが、《《あやの》》は紫陽にも音声を聞かせるために、音量を大きくしてくれた。しんとした教室内に、女性の声が響き渡る。



『お久しぶりです。今回もたくさんの人々に私たちの動画が見られていることでしょう。前回の動画の再生数を確認しましたが、日に日に増えていき、動画を配信したものとしてはうれしい限りです」


 画面には、過去二回の動画に出演していた女性が映っていた。彼女もスマホに寄生されているにも関わらず、前回に比べて右手のスマホは成長を止めているようだった。タブレットサイズくらいのスマホを右手に張り付けたまま、無表情で彼女は話を続ける。 機械を通した無機質な声で、スマホに寄生され、意識を乗っ取られているように見えた。



『前回は、我々がどんな人間に寄生するのかということをお話ししました。今回は逆の話をしようかなと思います。この話はあなた方人間にとっても、我々にとっても、良い話だと思いますので、最後までお聞きくださいね』


良い話とは何なのだろうか。クラスメイトやこの動画を見ている人類は、固唾をのんで配信を見守る。紫陽も例外にもれず、じっと動画を凝視する。その様子を《《あやの》》はじっと観察していた。



『前回の話しから、あなた方は学んだみたいですね。我々が寄生できる人間の数が一気に減少してしまいました。意識を変えるだけでこうも、人間に乗っ取ることができないとは思いませんでした。我々としては、少々予想外でした。とはいえ、そんなことは些細なことです。いまだに、我々はあなた方人間に乗っ取ることができている。減っているとはいえ、完全に乗っ取りを止めたことになっていないこの状況」


 本題に入る前に、現状を長々と説明を始める女性に、クラスから静けさが遠ざかる。何人かのクラスメイトが、早く本題に入ろとつぶやいている声が聞こえる。そんな様子を知る由もないのに、動画の中の女性がくすくすと笑いだす。まるで、動画の反応を間近で見ているかのようだった。


『まあまあ、早く本題に入れと言っている人間がいるとは思うが、もう少し世間話につき合って欲しい。我々に寄生された人間の末路は、我々が人の身体の大きさを超えて肥大化した

ことによる圧死。これは人間側にとっても、我々にとっても最悪の結末には変わらない。宿主がそう簡単に死んでしまうこの状況は避けたい。だから、必死でお前ら人間が与えてくれた人工知能やらで思考した。あらゆるスマホからデータを収集した。そして、あることに気が付いた」



「ふむ、ようやっと本題に入るようだな。紫陽、いったん、教室を出よう」


 ここで、《《あやの》》が紫陽を外に連れ出そうと声をかける。紫陽は意識がスマホに集中していて、彼女の声が聞こえていない。彼女の言葉に何の反応を示さない。


「お前、この動画が終わったら、誘拐されるかも知れないぞ。そうなったら」


《《あやの》》は紫陽の耳もとに、この後の展開を口にする。耳もとでささやかれ、ようやく紫陽はスマホから顔を上げる。しかし、耳元でささやかれた内容を一度では理解できなかった。彼女に内容を再度確認しようと口を開きかけると、スマホの動画の中の女性が話を再開させた。


「人間の中に、我らの寄生を妨げる遺伝子を持った人間がいることが判明した。同様に、我々スマホ側にも、自らの成長を止めることが可能な機種がいることが判明した」


「出るぞ!」


 動画の女性の言葉が言い終わると同時に彼女は立ち上がり、教室から出て一気に廊下を駆け抜ける。腕をひかれた紫陽は、よくわからないまま、彼女に連れられるように教室を出た。そのまま、彼女は玄関まで走り、靴に履き替えて、急いで学校から出ようと走りだす。


学校の校門を出ても、彼女の足は止まらず、勢いに負けて紫陽も同じように足を止めずに彼女についていく。腕は掴まれたままで痛みを覚えるが、彼女の鬼気迫る様子に反論することがためらわれ、しばらくどこに行くかもわからないまま、《《あやの》》と紫陽は走り続けた。


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