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仲間1

 紫陽の学校の保健教師が謎の死を遂げてから、一カ月が経過した。季節は初夏を迎え、蒸し暑い日が続いていた。マスコミもようやく落ち着きを見せ始め、普段通りの生活を取り戻しつつあった。


「お前は、本当に成長しないんだな」


「われの知能が高いということかもしれんな」


「嘘つけ」


 相変わらず、あやのに寄生したスマホが彼女の意志を乗っ取り続けていた。紫陽は次第に彼女の口調に慣れつつあった。《《あやの》》の左手のスマホに目を向けるが、タブレットサイズくらいに成長したスマホはその後、成長を止めていた。そのため、常にタブレットを携帯しているように見えるだけで、それ以外に目立って不審な点はない。




「おはよう。あなたたちは今日も仲がいいのね」


 そんな二人の会話に口をはさむのは、隼瀬だった。休み時間に二人で話しているところに隼瀬がやってきた。


 隼瀬にはあやのがスマホに意識を乗っ取られたことを話していない。話そうとしたら、《《あやの》》自身に止められた。これは二人だけでの秘密にして欲しいと懇願された。無表情でそのようなことを言われたが、彼女はあやのの姿をしている。思わず幼馴染にするように、反射的に断ろうとしたが、何とか秘密にすることを了承した。


「別に仲は良くない。ただ、世間話をしていただけだ」


「のんきなものね。周りがこんな状況下でよく、世間話なんてものに花を咲かせられるものだわ」


 クラスの教室内をぐるりと見まわした隼瀬がぼそりとつぶやく。クラスの大半は右手を包帯に包まれているか、片手で支えられないほど大きく成長したスマホを手に張り付けていた。彼女の言う通り、のんきに話をしている状況ではないのかもしれない。



 保健教師の死後も、スマホが人間に寄生する事件は起こり続けていた。そして、スマホが成長をして、宿主の身体を押しつぶしてしまうという悲劇もたびたび報告されていた。


「そういえば、あやのさん、あなたもスマホに寄生されているけど、身体は大丈夫なの?」


「本当は手を切断したいところだけど、そうなると今後の生活が不自由になるから、どうにかして、手の切断以外に方法がないのか考えているの。だから、切断は少し待ってほしいと両親にお願いしているの」


 いつも紫陽に見せている無表情から一変、隼瀬の疑問に答える《《あやの》》は普段のあやのの表情を完璧にまねていた。紫陽が見ていても、自分の幼馴染が話しているようにしか見えない。ただし、紫陽にはそれこそが彼女の不自然さだと感じ、彼女がスマホに寄生され、意識が乗っ取られているという印象を受けた。


「誰にそんな悠長なことを言われたの?」


「誰にって言われても、自分で考えたことだけど、私の考えはそんなに変なことかしら?」


 ちらりと紫陽に視線を向けた《《あやの》》に、紫陽は苦笑を返すしかない。その反応をどう受け取ったのか、隼瀬は自分の右手に視線を移す。


「まあ、人それぞれ考えがあるのはわかるけど、早いところ、スマホを切断する手術を受けた方がいいわ」


 自分の右手を見つめながら、隼瀬はゆっくりと手を握ったり閉じたりを繰り返す。よく見ると、その動作がなんとなくぎこちないように見える。彼女の行動につられて、紫陽も自分自身の手を同じように握ったり閉じたりと動かしてみる。


「彼女の手の動きが気になるとは、お前もよく人を観察しているな」


 いきなり、《《あやの》》に耳もとでささやかれた。驚いて紫陽は思わず大声を出してしまう。


「やめろ。お前のその声は、今は聞きたくない!」


 大声は、タイミングよくチャイムの音にかき消される。チャイムの音を合図に、クラスメイト達は自分の席に戻りだす。紫陽も同じように席に戻ると、しぶしぶといった様子で《《あやの》》と隼瀬も自分の席に着こうと動き出す。


 しかし、その途中で面白いことを思いついたかのように、《《あやの》》が紫陽に話かける。今度は耳もとではなく、正面から視線を合わせて小声でささやかれる。



「彼女の手について詳しく知りたいのなら、触ってみればいい。消しゴムでも落として、拾ったついでに握って確かめるといい」


「何を言って」


 意味深に微笑んだ《《あやの》》はそのまま、紫陽の返事も聞かずに席に戻ってしまった。



「では、授業を始めます。今日は……」


 黒板を眺めながら、紫陽は先ほどの彼女の言葉の意味を考える。手を触ってみればいいというのはどういうことだろうか。授業を聞きながらも、紫陽の頭の中は、《《あやの》》に言われた言葉の意味を考えていた。


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