彼らの末路1
「ハイ、ええ。わかりました。息子にも伝えておきます」
朝、紫陽がいつも通りに目を覚まし、二階から一階のリビングに下りていくと、母親が電話機の前で何やら話し込んでいた。朝から電話をしているのは珍しい。何か、緊急性の高い内容だろうか。
「いただきます」
目の前に並べられた朝食を食べるために、手を合わせて挨拶していると、妹もリビングに現れた。眠たそうな目をこすりながらも、紫陽と同じように手を合わせて挨拶する。
「紫陽、すみれも起きていたのね。ちょうどよかった。今、紫陽のクラスの担任から電話がかかってきたの。メールでも連絡があったんだけど、今日は臨時休校になるみたいよ。なんでも、保健の先生がスマホに押しつぶされて、圧死していたのを夜の見回りの先生が見つけたみたいで」
「嘘だ。だって、昨日の様子だとまだ、スマホは成長過程にあるって。だから死にはしないって」
母親の説明の途中で、紫陽は思わず口をはさんでしまった。《《あやの》》は言っていた。まだ大丈夫だろうと。いや、その前に何か言っていたではないか。
「こやつを助けたいか」
あれは、どう意味だったのだろうか。もし、あの時、紫陽が助けたいと言っていたら、原田先生は命を失わずに済んだのか。紫陽の驚く様子に気付きながら、母親は話を続ける。
「驚くのも無理ないわ。でも、本当みたいよ。現場検証やら、マスコミとかの対応で、学校は手一杯みたいで、休みになったらしいの」
「えええ、お兄ちゃんは休みかあ。じゃあ、私も休んじゃ」
「すみれは学校に行きなさい!」
「ちえ、わかってるよ。ああこれ、お兄ちゃんにこれ渡しておくね。私、このご時世でスマホ怖くて使えないから、家に置いていくよ。いかがわしいのとか見ないでよ。まあ、暇つぶしには使ってもいいよ」
紫陽が学校に行かなくていいという話を聞いた妹のすみれは、自分も学校に行きたくないと言い出した。しかし、母親はそんなすみれを一括する。すみれは、母親の言葉に仕方ないとばかりに肩をすくめ、紫陽にあるものを投げてよこした。慌てて、投げられた黒い物体をキャッチする。
「こら、すみれ。あなたって子は!」
「ごちそうさま。急がないと遅刻しちゃう!」
母親の小言に耳をふさぐふりをしながら、妹のすみれがリビングから出ていった。
「紫陽、あんたは今日、学校が休みだけど、それ、使いすぎないようにしなさいよ」
「使わないようにとは言わないんだね」
「使わないなんて、今時ありえないでしょう?何事も使い過ぎはダメということよ。まあ、これがいらないと言ったあんただから、使わないかもしれないけど」
母親が、すみれがテーブルに置いていったスマホを指さし、忠告する。
「じゃあ、私は仕事だけど、インターホンが鳴っても出なくていいからね。最近は物騒だから、カギを開けたら何が起こるかわかったものではないわ」
「オレはもう、高校生なんだから、そんなに心配しなくても大丈夫だよ」
すみれが学校に向かい、母親も仕事に向かうために家を出る。父親は出張のため、今週は家に帰って来ない。二人が家を出てしまうと、紫陽は家に一人きりとなった。
「さて、急に学校が休みになったが、何をしようか」
一人家でお留守番となった紫陽は、とりあえず、今日の休校の原因を知るために、テレビをつけることにした。人が一人亡くなっているのだ、おそらく、ニュースで取り上げられているだろう。
「では、続いては気象情報です。気象予報士の寺田さん、お願いします」
「はい。今日の天気ですが、初夏の陽気にふさわしい、からっとした晴れの天気になりそうです。気温が高くなりますので、熱中症に警戒が必要です。天気図を見てみると、高気圧が……」
タイミングが悪く、テレビをつけると、ニュースではなく気象情報が流れていた。他のチャンネルに切り替えようと、紫陽はリモコンのチャンネルボタンを押そうとした。
「ピンポーン」
とりあえず、誰が家の前にいるのだけでも確認するため、インターホン画面を確認する。すると、そこに移っていたのは。
「おはよう。学校が休校になったから、暇だと思ったんだけど、家に入れてくれる?」
「……」
「おーい。もし、居留守を使うようなら、こちらにも手段があるぞ。われは、すでに半身が機械の身。ハッキングなんぞ、お手の」
「ガチャリ」
「素直でよろしい」
尋ねてきたのは、《《あやの》》だった。




