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「ふう」
「お前は、本当にあやのではないのか?」
廊下を歩きながら、紫陽は中身が幼馴染ではないという彼女に話しかける。
「先ほども言ったはずだが、中身は《《鵜飼あやの》》ではない。この女の意識は我が乗っ取った。《《鵜飼あやの》》の持っていたスマホが、な」
「あの動画に出てくる女も」
「この女と同様だろう。ただし、あちらは肥大化して、もうスマホも女も長くはないだろうな」
「どういう意味」
「それはまた今度ゆっくりと話してやろう。それより、これからどうするんだ?教師が言っていた『保健室』とやらにでも行くのか?」
紫陽の疑問を途中で遮った《《あやの》》に、今二人が歩いているのが高校の廊下だと思い出す。授業中である廊下は静まり返り、二人の小さな言葉も思いのほかよく響く。
「まあ、先生に言われた手前、保健室に寄った方が無難だろうな」
二人は急いで、保健室に向かうことにした。《《あやの》》の右手をよく見ると、お見舞いに行った日よりもスマホが大きくなっているように見えた。
「コンコン」
紫陽が保健室の扉をノックするが、返事がない。恐る恐る扉に手をかけると、カギはかかっておらず、ガラガラと音を立てて扉が開いた。
「誰もいないみたいだな」
「普通の人間は、だ。我々のような存在が一人、ベッドに寝ているようだ」
「今の《《あやの》》のような存在……」
保健室にカギはかかっていなかったが、保健室にいるはずの教師の姿は見当たらない。一見、この部屋には誰もいないかと思われたが、《《あやの》》が言うにはこの部屋に人はいるらしい。
二人は保健室に恐る恐る足を踏み入れる。《《あやの》》は、部屋に入るとガチャリと保健室のドアのカギを閉めた。そして、つかつかとカーテンで仕切られていたベッドに近寄り、カーテンを勢いよくめくりあげる。
「なっ!」
「予想通りだったな。これが、我々の行きつく先というわけだ」
ベッドに横たわっていたものは、彼女の言う通り、かつては人間だった存在だった。すでにスマホの大きさが手の平サイズを超えて、人を超えるほどの大きさになっていた。大きなスマホの機械に押しつぶされるように、人間が下敷きになっている。よく見ると、手のひらと巨大なスマホはぴったりとくっついていた。
「原田先生!」
スマホの下敷きになっていたのは、紫陽の高校の保健教師だった。スマホを押しのけ顔を確認して気付いたが、彼は紫陽の大声にもピクリと反応を示さない。まるで死んでいるかのように目を閉じたままで、顔色も青ざめていた。
「死んではいない。まだかろうじて、スマホの残量が残っているようだ。ほら、触ると、画面が動き出した」
《《あやの》》は人間を超えるほどの大きさとなったスマホの画面の右側のボタンを押す。すると、すでに残量がないかと思われたスマホが起動を始めた。
「電池残量は10%くらいか。すぐに尽きてしまうだろうな」
「どうして、原田先生がこんな状態に。それに、どうしてこんなことになっているのに、学校は何もオレ達に知らせてくれなかった!」
冷静に保健教師とスマホの状況を確認した《《あやの》》に対し、紫陽はこの場の異常な光景に声を張り上げる。




