美味な食事と狂気のスパイス!愛しい君との永久の口付け☆
何故か宿屋の料理人との料理対決が決まってしまった。
反論の余地も無く決まってしまったが、今更対決を無かった事には出来ない。ローストされちゃうし。
と言う事で現在、僕と齊藤さんは調理場に居た。
「もー。齊藤さんのせいで、変な事になっちゃったじゃん」
僕は少し膨れて言った。流石に怒っても良いと思う。
「いいじゃない。現時点で私の能力の全てが判明している訳じゃないから実験を手伝って欲しいのよね」
齊藤さんはあっけからんと言い放って手から白い粉を3つ。山盛りで出した。
「はい。美味しい粉と美味しくなる粉と食べたくなる粉が出来たわよ」
「つまり?」
「グルタミン酸ナトリウムとメタンフェタミンと塩酸ジアセチルモルヒネ」
旨味調味料を入れたからってなんでも美味しくなる訳じゃないと思うんだけどね。まあ、指摘しても意味ないから指摘しないけど。
「全部入れるならスープにした方が良いね。お肉は如何しようか?」
「んー。私には良し悪しが解らないのよね。平君は解るかしら?」
僕は地球に居た頃を思い出す。あれは超☆高校に入学する前、13歳の12月。冬の事だった。僕が居た施設での選別が終わって半分の子供たちが処理場に送られた後の話だ。
成績上位者だけが部屋を与えられ、その他は寒くて広い体育館で雑魚寝をしていた。食事は兵站が毎食出ていたけど、その味気の無い食事にはうんざりしていた頃。男女で別れていないその部屋で僕と九ちゃんは同じ体育館で雑魚寝をしていた。
僕は能力テストでは丁度真ん中で、平均的過ぎたし九ちゃんは知能テストと運動テストが平均以下で失敗作扱いだった。子供たちは基本的に蹴落とし合って高みを目指す。天才たちの中で平均的と言えば聞こえは良いけど、人間としての上位者を創る実験で僕は失敗作だった。
九ちゃんとは失敗作同士で気が合った。僕の性格上、他の子供たちと違って彼女を邪魔者扱いしなかったのが大きかったのだと思う。コミュニケーション能力が乏しいだけで悪い子じゃないんだよね。
施設では14歳になっても能力が開花しなかったら処分される。九ちゃんは自分の生まれを嘆いて、僕は何も遺せない自分の無力感を感じていた。
僕たちを管理していた科学者たちにも一応の慈悲があったのか、処分前には個人が希望した種類の兵站で処分前の食事を食べる事が出来た。
人気は米国の乾燥肉が入った兵站でカトラリーも入っていたので、最後の晩餐の特別感があった。最後位は手掴みじゃなくて、普通の食事に有り付きたいものだと言う子供たちが多かった。
皆が絶望に項垂れながら人気の兵站を選ぶ中、九ちゃんは僕の方に寄ってきて耳元で囁いた。
「平ちゃん。私を信じて処分前の食事はソ連の野菜シチューを頼んで欲しいの」
九ちゃんを見返すと彼女は見た事も無い真剣な顔をしていた。僕自身、食事には余り興味が無かったし、自分の食事よりも九ちゃんの方が大切だったから彼女の言う通りにして一番不人気のソ連の野菜シチューを頼んだ。
処分二日前に処分前の食事が配布される。処分前に断食をして後始末を楽にするために前日は断食するのだ。
最後の食事は九ちゃんと食べる。今まで散々蹴落とし合いが続いたのだ。他の子供たちは一人で食事をする子が多かったから、僕は恵まれている方なのだろう。
彼女が最後は夜空を見て食べようと言ったので寒空の中、体育館の壁を背にして2人で隣り合って座った。
乾いた空気が肌を撫でる。九ちゃんは星空を見上げながら静かに泣いていた。
「私たち、もう終わっちゃうんだね」
震えた涙声が静かに響いた。僕は今までの生活を思い出として振り返った。
大した娯楽も無く、淡々と生きる日々。うーん世紀末。
「そうだね。まあ、仕方ないとは思うけど。理不尽だとも思うよ」
僕は人生に大した期待をして居ないけど、他の子供たちは違う。
生きているのだから死にたくないし、生きた証を残したいと思うのは普通の事だと思う。
「生きるのって、苦しいね。私、ずっと泣いてたもの。苦しいのは嫌。死にたくないって」
「此処まで来ると、死んだ方が楽かもって思うよ。生きるのが苦しいんだから死んだら楽でしょ」
「まーた、適当な事言って。平ちゃんっていっつもそう」
「天才的でしょ?超人とは行かなくてもさ」
九ちゃんは空を見上げた儘で、消えりそうな声で返事をした。
「そうね。超人にはなれなかったけど・・・。それでも、最後は貴方と一緒に逝けるものね」
「うん?」
九ちゃんはそのまま、闇夜に溶けて消えてしまいそうな儚さを隠す様に笑顔で振り返った。彼女には珍しい、満面の笑みが生きた証を残すかのように輝いていた。
「何でもないっ」
何でも無いならそうなのだろう。なんたって、何でもないんだから。
「そっか。そういえば九ちゃん。なんでソ連の野菜シチューを?」
「あっ、そういえば言ってなかったね。ソ連の兵站にしか鍋と固形燃料が入って無いの。折角、最後のご飯なんだから私が腕を振るいますっ!」
「あれ、九ちゃんって料理出来るの?」
「やった事は無いけど、意識しなくても出来るよ?呼吸するのと同じでしょ?」
彼女は不思議そうに首を傾げる。
「今まで兵站ばかり食べてたのは?」
「皆やってないから、やっちゃいけない事なのかなーって」
彼女は自分の能力を意識していなかったらしい。良かった。処分されるのは僕だけで良さそうだ。
「そっか、じゃあ最後は九ちゃんに全部任せようかな」
「うんっ!美味しいの作るねっ!」
その時に食べたビーフシチューは今でも僕の記憶に鮮烈に残っている。
肉なんて薄い乾燥肉だったし、野菜も長期間の保存をする為にぐずぐずに煮崩れて食感も風味も酷いシチューのパックを元に作ったものだったけど、2人で食材を出し合って2人で分け合って食べたあの食事は何にも代えがたい特別なものになったのだ。
あの時の僕は本当に興奮していたのだと思う。食事に感動して思わず聞いてしまった。
「九ちゃん。どうやったらこんなに美味しい料理が作れるの?」
食べた後の食器を土に埋めている彼女は僕の方を振り返って満面の笑みで言った。
「愛情をたっぷり入れるのっ!」
「うーん。昔、超☆料理人の九ちゃんにご馳走になった時は愛情が重要だって言ってたけど」
僕は過去を思い出しながらゆっくりと言った。超☆料理人の彼女が言うのだから間違いは無いだろう。
「愛情の化学式は何かしら?」
「5-ヒドロキシトリプタミンの事かも」
「それ、幸せホルモンじゃない?困ったわね。私にも愛情の科学式が解らないわ」
齊藤さんが困っていたので何とか代案を出すしかない。僕だってローストされたくないのだ。
「うーん。じゃあ、愛情がある材料を使わないといけないね」
「愛情・・・愛情・・・あっ。良い考えが浮かんだわよ。感謝しなさい」
「おー、流石だね。じゃあ、案を聞かせてよ」
「あの料理人の奥さんを使えば良いのよ。愛情があるから結婚したのだろうし、愛情が入った料理になる事間違いないわ!」
「なるほど?・・・けど、人間は捌いた事ないなぁ。厨房にあるブロック肉を使う予定だったし」
そもそも動物を捌いた事が無い。一応、知識としては持ち合わせているけど、経験が無いなら無意味な訳だし。
「そんな貴方に!私が開発した全自動人間捌き機の登場よ!」
齊藤さんが指を鳴らすと辺りに濃霧が立ち込める。そして、濃霧が段々と晴れていく事には鉄の処女に丸鋸が付いた機械が現れていた。
内部には無数の棘の代わりに透明な薬剤の入った注射器と返しの付いた大きな釣り針。頭部を固定する為であろう万力がこめかみ辺りにガッチリと固定されている。首元と腹部に当たる部分には丸鋸が縦に動くように据え付けられて、背中部分には排出口が2つあった。
「えーっと、これは?」
「全自動人間捌き機の試作品。実験に付き合ってね」
齊藤さんが全自動人間捌き機の使い方を説明してくれる。
「先ずは人間を入れて、頭部に有る万力で頭を固定します。その後に扉を閉めれば勝手に捌いてくれるわ。注射器の内容物はBNLS NEO。美容整形で使用される物ね。この機械は稼働音が煩いだろうから防音しておくわ」
齊藤さんが指を鳴らすと厨房の空気感が変わった。
恐らく、真空状態の空間を薄く張ったのだろう。
「ありがとね。じゃあ、料理人の奥さんを入れようか」
僕は【調停者】で料理人の奥さんを鉄の処女の中に転移させてすぐさま頭部を万力で固定する。
奥さんは20代後半くらいの赤毛のほっそりとした美人で胸が大きかった。奥さんは自分が急に移動した事に驚いたのか、辺りをキョロキョロと見渡して、目を見開いていた。
僕が頭部の固定を終えると、奥さんが叫び散らかす様に喚く。
「な、なによこれぇ!あんた達!何してんの!今すぐこれを辞めなさいっ!」
僕たちは奥さんの叫び声を無視して鉄の処女の扉を閉める。煩いのは苦手なんだ。
扉を閉めたと同時に外部に飛び出していた注射器の薬剤が自動で投与されて、首元の丸鋸が回転し、頸動脈を切った。奥さんの叫び声が響いて煩い。内側から扉を開けようとしているのか、扉を叩く音がするがその音は次第に弱弱しくなって暫くすると聞こえなくなった。
血液が背中にある排出口から流れ出て、下に置いてあった木製のバケツに溜まって行くと、腹部の丸鋸が回転し、縦に1度動いて下部で止まる。
そして、チーンと言う電子音が鳴ったと思うと自動で扉が開いた。
内部には白くなった奥さんが苦悶の表情のままにお肉になっていた。腹部には縦一文に切り裂かれて内臓が見える。
そのまま、万力の固定が解除され、背中部にある押し出し棒が稼働するとお肉がこちら側に倒れて来た。背中に在ったフックが皮膚を固定しており、お肉の皮は腹部の傷から裂けるようにずるりと綺麗に剥けた。
齊藤さんはその光景を嬉しそうに眺めて頷いている。
「ね?いい出来でしょ?」
僕に向き直って笑顔を向けて来るが、僕は思わずに1つの疑問を口に出してしまった。
「内臓がそのままじゃん。全自動じゃないね」
齊藤さんは目を見開いてぽかんとした表情で僕を見た。
「あら、本当。うっかりね。料理には腕と脚のお肉を使いなさいな」
「そうするよ。じゃあ、スープを作ろうかな」
僕はスープ作りに取り掛かる。と言っても料理経験なんて殆ど無いから、1口大に切ったお肉を焼いて、齊藤さんが作ってくれたハッピーパウダー3種を入れた後に、適当な王宮から【調停者】で美味しいスープをこちらの鍋に転移させるだけだ。
うーん。雑料理。
「あら、美味しそうな匂いじゃない?」
「依存物質マシマシだから食べない方が良いよ」
齊藤さんは此処で食べたら白知じゃないと笑って返した。
僕たちは残りのお肉と機械を分子レベルで霧散させて、出来上がったスープ鍋を厨房から食事場へと持って行きお客さんと料理人に配膳した。
料理人はスープを1匙掬うと匂いを嗅いで、言うだけの事はあるじゃねぇかと呟いて口に付けた。
「うおっ!これが、うちの厨房に在った食材で出来たもんなのか!」
見知らぬ旅人が作ったスープに不信感を抱いていた他の客たちも料理人の言葉を聞いて、配られたスープを口付ける。
あちらこちらから、旨い!凄い!との称賛の声が聞こえた。まあ、王宮に在ったスープだし美味しいのは当然だよね。
齊藤さんはふんすと腕を組みながらどや顔で料理人に語り掛ける。
「私の言った事の意味が解った様ね?」
「ああ、お客の意見を聞くまでもねぇ。あっしはこれでもお貴族様の厨房を任せられた事もあったんだ。敬語が使えなくて首になったがな。だが、どうやって厨房の食材だけでこんなにも美味いスープが作れるってんだ?このスープはまるでお貴族様の飲むもんだ」
「ふんっ!まだわかっていないみたいね。大切なのは食材や料理の腕じゃない」
「じゃあ、何が」
「愛よ!」
「はぁ?」
「愛は希望よりも熱く絶望よりも深い。今ここで宣言しましょう。このスープを食べた人間は明日もまた食べたくなるわ!それは人間が常に愛に餓えているからよ!」
齊藤さんは腕を組んだまま、そう言ってから自室に戻って行った。
ぽかんとした料理人の男が僕に話しかけて来た。
「おい、お客さん」
「うん、なに?」
「本当は、何をスープに入れたんだ?あっしは腐っても料理人だ。このスープには中流程度じゃ買う事が出来ない食材の味がした」
「うーん。愛情をたっぷり入れたとしか言えないかな。毎日でも食べたくなる味だったでしょ?」
「それは、そうだが。いや、料理人たるもの技術は盗むもんだと相場は決まっている。あっしがこのスープの秘密を解いてやるよ」
料理人は笑ってスープを啜る。他のお客さんたちも実に美味しそうに食事を再開した。僕は笑顔溢れる食事場を離れて自室へと戻ったのだった。




