科学者齊藤の惑星芸術!地面に輝くキラキラお星さま☆
草木の一本も生えていない乾燥した大地が広がる荒野から僕たちは目的地へ向かう。
砂漠に似た砂が風と共に舞い上がり僕の眼を攻撃して来たので僕は涙目だ。
「じゃあ、目的地の・・・アルマに向かおうか。速めに用事を終らせて皆と遊びたいしね」
「平君・・・。涙目じゃない」
仕方ないわね。と言ってから齊藤さんは指を鳴らした。
瞬間、僕の眼に入って悪さをして居た砂が消え去り、痛みも無くなっていた。
「ありがとね」
僕は片手を上げて礼をする。
齊藤さんの相対原子質で僕の眼の部分に空気の層を作ってくれたのだろう。
集中して目の前に迫って来る砂を目視すると、1,2㎝程前方で砂が不自然に跳ね返っている。
「どういたしまして。まぁ一応、平君には助けて貰ってるし、これくらいはお安い物よ。序でに聞きたのだけど・・・アルマまではどれ位の距離があるのかしら?見渡す限りの荒野って事は少なくとも4km以上の距離があると言う事よね?」
地球の円周が約4万km。半径が6千4百kmだから、僕たちの身長の1mと少しを三平方の定理に当て嵌めると僕たちから見える距離は約4から5km先までと言う事になる。
齊藤さんがこの考え方をしたのは、僕たちが感じている重力からだろう。
質量が大きくなればなるほど、重力は強くなって行く。
地球から転移してきた時に明確な重力の差異を感じずにいた事から、この異世界の大きさは地球と同程度と判断したのだろう。
まぁ、大体のクラスメイト達はその程度であれば当然のように認知しているだろう。
「10km先に目的地があるよ。この星の人たちが望遠鏡を持ってても多少の誤魔化しが効くからね。」
僕たちを召喚した王の話では隣国である帝国との戦争をして居て、戦争に不利になったので僕たちを召喚したと言う事だった。
基本的に戦争している国と言うのは、国の周りに防壁を築き上げている場合が多く、人の出入りを制限している。
これは国としては当然で、敵国のスパイを入国させない事と国民が逃げ出さない様にする為だ。
戦力は多い方が良いからね。
そして、城壁が高いのであればより遠くを見渡す事が出来る・・・が遠方の景色は点の様に小さく見えるので僕が警戒したのは望遠鏡の存在だった。
王国は戦時下に在り、この西側のアルマは大貴族が支配する地域である。
常時見張りが居ても可笑しくない中での潜入という事を考えると、ある程度の危機感を持って行った方が良いだろう。
「じゃあ、髪色を変えましょうか。王も姫も金髪だったし・・・お揃いで金髪にするわ」
「よろしくー」
齊藤さんが指をぱちりと鳴らすと僕たちの髪は一瞬で金色になった。
僕の体内の髪の色素を薄くしたか、光の屈折によるものだろう。物質をなんでも創造できると言うのは本当に便利な能力だった。
僕たちは其の侭アルマへと向かう。装備品は僕の調停者で水筒に大きな旅行用のバックを適当に出して置いた。
この世界に来た時の制服の儘だったから制服の上からぼろいマントを羽織って一応の変装にした。
「雑ね・・・流石に不審に思われるんじゃないの?」
「その時は騒動でも起こそうか。そっちの方が楽しいだろうしね」
適当ね。と言われながら齊藤さんとアルマへと歩き進む。
僕は基本的に平穏を望んでいるけど、平穏があるなら不穏が在ったっていいじゃないか。
じゃないと平凡じゃないだろ?
征く距離は10km。距離にすれば大した事も無く15分もすれば目的地のアルマまでたどり着いた。
アルマの最初の印象は荒野の中、水源を囲うようにして栄えたかのようなオアシス。
地平線から見えてはいたけど、高い石造りの城壁で自分たちの領域を囲っていた。ただっ広い荒野の中にポツリと栄えた街並みで、川が流れていない事からその様な印象を持ったのだ。
「あー。あの領地の支配者の権力は強そうだねぇ」
僕はあはは。と笑いながら齊藤さんと情報の共有をする。
解っていない筈は無いけど、一応ね。報告・連絡・相談って大事だし。
僕がこの土地の支配者なら、まずは全ての水源を囲んで水を有料化する。
家畜に農業に飲料水。生活の全てには水が必要なのだから安くても金は取る。値上げも値下げも自由に行う事で反意を削ぎ落して人々を餓え乾かせば否応なくとも奴隷の誕生だ。
「加えるなら、市民は実質的には奴隷ね。あっ、出入りの商人たちの行列が見えたわよ」
僕は同感だね。っと言ってからアルマの城門から伸びる長い列を目視した。
近くで城壁を見ると結構な高さで、25m程度はあるだろうか。周囲の環境を利用できない弱点をゴリ押しして造ったって感じ。
城壁を囲うようにして田畑が広がっているのは、城門をくぐる事が出来ない身分の人間達のモノだろう。
城門までを繋ぐ道の周りには少なくない人間達が田畑を耕していた。
「あー。家畜が居ないね・・・」
そして、人間達は鍬や鋤で農地を耕している。
通常なら家畜を使うが、彼らはそれらを手に入れる事が出来ない身分か家畜を維持する程に豊かでは無いのだろうと簡単に想像できる。
彼らをよく見てみると、顔が痩せこけて干からびている人間もおり、浮浪者特有の匂いに交じって明らかなケトン臭。
飢餓状態に表れるケトン臭から察するに、満足に食べられていない事は明らかだった。
そして、そんな彼らを傍目に列に並ぶ商人たちの豊かな人相から見て彼らの客は城門の中にいるのだろう。
例えるなら痩せた貧乏人の横で太った富裕層がステーキを食べてるみたいな・・・。
「中世みたいな貧富の差ね。この国の程度が知れるわね。どうでもいいけど」
齊藤さんは自分と芸術以外には結構ドライだ。
まぁ、僕自身も他国でテロが起きても興味が持てない派だから同感だけど。
「同感だね。ま、領主の首狩りに行くんだからこの人たちを焚き付けても良いと思うけど・・・どうも体力が無いっぽいし・・・僕たちでやっちゃった方が早いとは思うケドね」
齊藤さんが人差し指を口端にあてて首を傾げる。彼女がより深く考え事をするときの癖で、脳内で様々なシミュレーションをして居るのだそう。
「私が科学の力で解決してあげましょうっ!」
齊藤さんのテンションが急に上がった。
傍から見れば、情緒不安定だが彼女が行った脳内シミュレーション内で楽しそうな案が浮かんだのだろう。
「じゃあ、今回は齊藤さんに全部任せるよ。僕は補助に回るから好きに使ってね」
「平君がそう言ってくれて嬉しいわ。楽しい事の取り合いに成ったら大変だと思っていたもの」
彼女は僕の能力が瞬間移動で無い事は気付いている。隠しては居ないけど、将来的に殺し合う可能性があるなら情報を伏せるのは当然の事。
能力に対して対処されない様にするのは当然の備えだしね。
・・・知っていてもどうしようもない能力がチラホラ出て来ていたけども。
話し込んでいる間に長い列へと到着し、大きな荷馬車の後ろ側に並ぶ。
門番が通行書の様なものの確認をして居る事から相当な時間が掛るだろうが、その間に情報収集でもすれば良い。
僕は眼前の馬車の御者に声を掛けようとして思い出した。
「あっ、僕たちって【自動翻訳】の魔法が掛ったままなのかな?」
「・・・平君。対処できる?」
「もちろん」
僕は短く返すと【調停者】を使って、列に並んでいる商人の2人から言語能力を奪って齊藤さんと僕自身に取り付けた。
この世界から言語を話せる人間が2人減って、言語能力を持つ人間が2人増えたのでプラスマイナスゼロだ。
商人は自分が急に「うー、あー」と言った喃語しか話す事が出来なくなっている事に驚いて混乱している。
その商人の不審な動きに控えていた警備兵が近づいて行き、何かを数度話した後にその商人を何処かへ引きずって行った。
「行先は牢獄かな?」
「話せない商人なんて居る筈が無いもの。事情聴取じゃないかしら?」
「そっかー」
あの状況から上手に切り抜けるには言葉が必要だからね。
お察しな事になりそう。
ふと、横を見ると齊藤さんは目を閉じて指を宙で動かしている。目の前の馬車の荷物を【相対原子質】でスキャンしているのだろう。
齊藤さんの能力を見極めるために少しだけ、能力に干渉させて貰おうかな。
「んっ。平君。私に何かしたでしょ?」
齊藤さんがモゾりと身体をくねらせる。
「あー、齊藤さんの動きが気になって視界ジャックした」
僕がやった事は彼女の左目で見えている物を消して自分の左目に映し出しただけ。
彼女の左目の視界は真っ暗で何も見えなくなって、代わりに僕の左目に齊藤さんの見えていた情報が映し出される。
齊藤さんは自分にしか見る事が出来ない透明のガラス板に情報を映し出していた。
それに加えて、目の前の荷車から商品を盗み出していた。
【相対原子質】で眼の前の商人の荷物を分子レベルに分解し、透明の板でその分子群に名前を付けて一括管理。
使用時は分解した商品を同じ分子配列に整えれば同じ商品として取り出せる。
眼の前の荷馬車からは煙の様に商品が消えているので、僅かながら分解に時間が掛るみたいだった。
「あまり、女の子の秘密を知ろうとするものじゃ無いわよ?碌な目に合わないんだから」
齊藤さんは頬を膨らませて叱りつける様に言った。
彼女とは長い付き合いで、同じ施設で育ったのだが、僕が粗相をした時はお姉さんぶって叱りつけてくる。
同い年で変わり者同士だった事もあり、僕にとっては友好が深い人間の1人であった。
「うん、ごめんね。どうしても気になっちゃって」
様子からして本気で怒っているわけでは無いだろう。彼女は本当に怒ると無言で表情が消えるタイプなのだ。
「ま、細かい事は良いわ。私、人生で一度でいいから大規模火災で地面をガラス状にしたかったのよね。きっと、キラキラしてて綺麗だもの!」
齊藤さんは女の子らしく綺麗なモノ好きでもあったらしい。
僕は彼女が戦時中、緑深い森に「緑ばっかって芸術的じゃない」と言う理由で化学薬品を飛行機で投下し、森を赤・黄・紫・青色のおどろおどろしい配色に変えて、周囲の生物の遺伝子に甚大な被害を与えた『新生物誕生事件』を思い出した。
新種の生物だと思われて捕獲された動物のDNAが人間の物と同一だったと言う事件で当時、科学学会に大きな衝撃と絶望を与えたのだった。
「核じゃダメなの?」
「核爆発なんて何処でも出来るでしょ?この範囲を全部ガラス状にするには熱量も足りないし」
「あ、はい」
僕には彼女が言う芸術を理解する事が出来ないが、彼女は昔からこんな感じなので慣れていた。
「じゃあ、平君にはいっぱい手伝って貰うわよ?全部燃やして、灰から拾い上げたモノが真の輝きを放つのよ」
多分、戦時から暫く経っていたのでフラストレーションが溜まっていたんだろう。
彼女の爆発と言う言葉は唯の熱と光と音が出る破壊現象と言う意味では無い。
彼女が芸術と言う様に、彼女は精神・肉体と言った人の営みや整然とした化学式にも爆発と言う言葉を使う。
言葉なんて自分さえ理解できていれば良いのだ。
常人に理解できない思考を持つのは超☆高校生の大多数に当て嵌るし、他人に頼らずとも『完成』している僕たちにとって、他人は雑音を発する愚図程度の認識である事が多い。
だから、隔離されていたんだけどね。
「解ったよ。じゃあ、さっさと門の中に入ろうか。あとちょっとで入れそうだよ」
商人たちの長い列も淡々と処理されて行き、遂に僕たちの番になっていた。
門番として5人の皮鎧を来た兵士が僕たちを囲むようにして近付いて来る。他の商人たちと同じ待遇であるので、変装については違和感を持たれていないらしい。
「お前たちは何処から来た?」
そういえば、あの王国の名前を僕は知らない。
齊藤さんの方を向いても首を横に振るだけだったので彼女も解らないのだろう。
「何処だったっけ?一応、荒野を越えて東の王国から来たんだけど」
「ロム王国か?見た所馬車も商品も持っていない。という事はお前たち・・・旅人だな?」
「そう、旅人だよ。食料も長旅で無いから早く領地に入りたいんだけど」
「旅人なら、割札も持っていないな?通行料は銀貨1枚だ。2人で2枚」
僕は金貨を1枚、兵士の1人に渡した。兵士は差額であろう銀貨14枚を僕に渡そうとして近付いてきたが、僕は受け取らずに耳元で言った。
「差額は君が受け取って欲しい。ちょっとお願いがあってね」
兵士は怪訝そうな顔をして僕を見た。
「買収か?不審者を通さぬ事が私の門番としての役目だ。それに、私以外にも4人の門番たちが居る。解るだろ?」
門番として賄賂を受け取らない様に互いに監視し合っている・・・と。
「あー、言い方が怪しかったね。初めての領地だからさ、中での注意点を教えて欲しかっただけなんだけど・・・それに、此れは買収じゃない。情報に対する正当な対価だよ」
兵士は其れで納得したのか差額の銀貨を受け取ると、僕に耳打ちをして小声で話した。
「実は・・・」
僕は一通りの注意点と領内の噂話を聞いて齊藤さんの下へ向かう。
「ちょっと遅かったじゃない。・・・ふーん。良い情報が聞けたみたいね」
齊藤さんは少しの文句の後に僕の顔を見ると溜息を吐いて大げさに肩を上げる。
この領地での主人公は齊藤さんだ。凡人の僕は出しゃばらないけど、芸術には物語が重要なのだ。
昔馴染みの彼女なら嬉々として受け入れてくれるだろう事は想像に難く無かった。
「結構、楽しくなりそうだよ。人に目を向けるならね」
なんたって、此処は僕たちの遊び場なのだから。




