閑話NO.5 元大魔王カティラニアの受難 後編
なんか、本当にごめんなさい。大変遅れてしまって。しかも、前の話で投稿をもっと早くしたいと行ったそばから4ヶ月近く空白の時間ができましたからね。もうこれ焼き土下座案件ですね。
「本当にこの世界の建物って高いわよね。どうしてこんなに背が高いのかしら」
「よくよく考えてみると、京都タワーの展望台よりも京都駅の方が背が高いって不思議な事象よね」
確かに、30年まではそれが常識だった。現在の京都駅ビルは全高3,000m弱に対して京都タワーは下のビルが400mに、その上に1,500mの合計1,900mとなっている。昔は京都タワーが100m弱で京都駅ビルよりも断然高かったのだから違和感を感じるのは仕方ないだろう。
「そうなんですか?私としては普通の印象なんですけど、昔の駅ってどれくらいの大きさだったんですか?」
「昔の駅ビルの大きさをどう表現したらいいか…。あ、ここに昔の写真が展示されてますね。これが昔の京都駅と京都タワーですよ」
「へえ〜小さいな〜。ていうかちょっと、京都の雰囲気に合わないというか…、えっ?」
千歳さんの目から光が消えたのは錯覚ではないだろう。京都駅と京都タワーが写ったそれぞれの写真を見比べて混乱している。
「京都、タワー?京都…?ここにあったんですか…?」
「そうです。それが2020年代まであった京都タワーです。京都観光センターの上に建てられた灯台をモチーフにした塔が京都タワーなんです」
白い柱の上に赤色のUFOがブッ刺さったかのような見た目をした京都タワーは、古くから京都の街並みの重心を上にずらしてきた。異星人の文明が作ったのかと思うほど異常に曲線が多くて京都のイメージに一切合わないのに加えて、京都で飛び抜けて巨大な建物のため悪目立ちするのだ。
「・・・。取り壊さなかったんですか?」
「言わんとする事は分かります。コイツは京都の建築規制緩和に先立つ言い訳として作られたんです。無理な都市開発の盾にされたような感じですね…」
景観を崩さないために灯台をモチーフにしたとか言ってたが、何が灯台だよ。盆地の京都の真ん中に灯台を建てる思考がおかしいだろ。
「昔は塔の方がビルよりも大きいのが常識だったんですけどね…。駅ビルなんかは、鉄道が官民複合産業として再開発が行われた事で民間向けの制限を受けず2,000mを超える建築が可能になっていますからね。そもそも旧京都タワーは観光センター建設のオマケですから、京都を荒らす事ができたのでしょう…」
「辛辣な物言いも、昔の京都タワーの姿を見たら納得しちゃいますね…。でも、京都駅は今も昔からの雰囲気が続いてる感じですね。でも、近くの京都タワーが…」
もはや旧京都タワーについては多く語るまい。そもそも京都タワーだけが景観破壊の元凶だったかというとそうでもなく、京都駅ビルだって十分に論争を呼んでいるのだ。それに旧京都タワーのマスコットキャラクターはキモ可愛いらく、お土産屋のポスターにデカデカと掲示されていた。僕にはその感性が分からん。
「京都はまだマシだった方ね。昔のチェコはすごかったわよ…」
チェコは…、というかヨーロッパはそんな風潮が強かったりする。環境保全やら景観保護は口うるさいくせして、芸術が関わるとそのリミッターがすぐ外れるのだ。だから日本人と少し芸術の感性がズレているし、欧州でも物議に発展することは少なくない。
チェコはその中でも電波塔やら赤ちゃんの像なんかがホラー遊園地並みにすごかった。姉さんはその事を思い出しているのだろう。姉さんの目も光を失っている。
「チェコ…ってどこですか?」
「ヨーロッパの中欧管区の北西の地域にあった国ね。ほら、チェコスロヴァキアとか聞いたことない?」
「ああ、何か聞き覚えがありますね!」
「チェコが通じないなんて…、ジェネレーションギャップを感じるわね…」
「僕らって実は中年世代ですからね…。身体は歳取りませんけど、常識は年増よりひどいですよ」
「ブチ転がすわよ、くそジジイ」
「ヒッ!」
どうやら姉の逆鱗に触れたようだ。人生で一番の危機を感じたかもしれない…。これはもう絶対に触れてはいけないな。
「私たちの世界はあまり進歩しないから、長生きしてる私でも全然常識に置いてかれないわね」
「むしろ昔の方が進歩してた分野もあるから、私たちが常識みたいな感じまであって楽だったわね」
「異世界の二人も人間じゃ無いので年齢が人間のそれをぶっちぎってますもんね。もはや生きた化石みたいなものじゃないですか?」
「殺すわよ?」
「ストレートに来た?!」
調子に乗ってすいません…。ほんとすいません…。
「はい、これあげる」
「え、何ですかーーいや本当に何ですかこれ…」
姉さんから渡されたのはお茶漬けだった。しかももう一つを片手に用意してある。ちなみにどちらもぶぶ漬けだ。
「京都にはね、相手を追い返す時にお茶漬けを出す風習があるのよ。だからね、さっさと食って出て行け」
「いや、あのっ…」
「出て行け?」
「はい…」
ここは展望台である事や、どこから用意したお茶漬けなのか、ツッコミたい所はたくさんあったが圧がすごいので飲み込んだ。いや、結構美味しかったけど2杯も食べたからお腹がいっぱいで苦しい…。
「美味しかったです…」
「なんでまだここにいるのよ。ほら、あの老人ホームの屋上でゲートボール大会がやってるわよ、参加してきたら?私はここから見える文化財をみんなに紹介してるから。終わったら呼ぶから10秒で来なさいよ」
「し、辛辣が過ぎる!」
結局のところ、すぐに集合しなければいけなかったので、京都タワーの一階にある大きめのお土産屋さんで1時間近く時間を潰した。
〜〜〜〜〜ソビエト社会共同主義国連邦
首都 空中都市州モスクワ 赤の広場 クレムリン
ソ連の首都であるモスクワは、世界で最も先進的な特徴を持った都市だと言える。空中都市州という名が示す通り、通常の市域が建設されている地上から2,000mの高さに、水上戦闘艦の装甲で作られた人工地殻がモスクワの中心地を囲むように被さっているのだ。もちろん人工地殻の上にも都市部は広がっており、その統計とインパクトは世界でもトップクラスに位置する。
そもそもモスクワは、昔から世界一のニューヨーク市に次ぐ地方自治の財政力を持っており、モスクワは中心区の再開発事業を盛んに行なっていた。当時でもヨーロッパ最高クラスの高層建築物が建ち並ぶなど勢いがあり、この空中都市計画もすんなりと進行していった。
ちなみに人工地殻の範囲は旧モスクワ環状道路の範囲内に収まっているので、強引ではあるが綺麗な円形になっているのだ。
2,000mだから普通に目に収まらない程の高さなのに、そこに地上と同じレベルで高度建築物が立ち並んでるんだから、それを踏まえた高度で高層建築物の平均高度を測ったらニューヨークのマンハッタンといい勝負をするのではないだろうか。
「なんでこっちに来たの?完全に京都観光の流れだったじゃない」
「いや、京都の街並みは一望できたしもう良いかなって…」
「本当は?」
「カチューシャからモスクワに来るように言われたのを思い出しました…」
「完全に私情じゃない!」
「カチューシャさん…?あ、カーチャさんの事ですね!」
千歳さんがカチューシャと出会ったのは、いつだったっけ?
そうだ、憎神と戦った後だ!その時に既に仲良くなったんだから千歳さんの愛嬌というのは末恐ろしい。ちなみにカーチャはカチューシャと同じようにエカテリーナという本名の愛称である。カーチャよりカチューシャの方が親しい仲で使う言葉だ。
「それにしても、まさかここまで想像の上を行く建築があるなんてね…。日本の首都にも驚かされたけど、こっちの方がインパクトが強いわね。ねえ、カティラニアならこれ作れる?」
「無茶言わないで頂戴よ、こんなの作るだなんて正気の沙汰じゃないわ。そもそもこんな障壁を置きながら、ど真ん中のこの場所が普通に陽の光を浴びてる時点で仕組みがさっぱりなんだから」
「あと、この建物よね。この見るからに歴史的な建築物の中でお茶して待ってるっていうのも、私でもなかなか無い体験なのよね」
「まあ、一般人でもクレムリンの中でお茶する人間なんていないでしょうけどね」
僕らは今、ソ連の中枢と言っても過言では無いクレムリンに来ている。ソビエト社会主義共和国連邦時代からロシア連邦、現ソビエト社会共同主義国連邦に至るまで同国の政治的中枢として、さらに歴史的背景から建設された文化的観点からも価値の高い建築物である。モスクワが首都として機能している限り、クレムリンは国家首相の執務機関や官邸が置かれており、カチューシャのイサコフスキー家はここで生活しているのだ。
クレムリンは文化財保護の観点から大幅な近代化は行われていないが、赤の広場を代表する周辺の敷地はソ連という超大国の中枢を守るために大幅な改装が行われている。頑丈具合で言ったらウラル山脈要塞や中東アジア諸国との国境線並みに硬い防備が僅かな面積に施されているのだ。
「諸君、待たせたな!お前の事だから約束を忘れてたら、お前の寝床にSu-106でも突っ込ませる必要があるかとーー誰だその二人は?」
僕らを3分ほど待たせてやって来たカチューシャは、男僕1人に対して女性が5人いる状態を目の当たりにしてか、ポケットから軍用の無線機を取り出した。その目はやる気で満ちていた。
「この無線は我が軍でも最も高い物量を誇るシベリア全方位打撃部隊に繋がるようになっている。正直に答えなければ、全ての車両を武装解除して日蘇貿易トンネルに詰め込んで大渋滞を起こしてやるからな!」
「待ってください、大丈夫ですから!こちらの長耳の女性は僕の働く学校の学園長のユイシア・ユグドラシルさんです。そしてこっちの女性が魔王の勢力を束ねる首領の竜人カティラニアさんです。今回はこのカティラニアさんと国連の間でお互いを承認するために文化交流を行なっている最中なんです」
「・・・。本当か?」
「合ってるわよ。特に隠していることも無いわ」
「異世界の危険人物を連れてしておきながら何を黙ると言うんだ…」
姉さんがそこまで保証すると、ようやく安心したのか無線機を机の上に置いた。
「そうかそうか、異世界からわざわざソ連へようこそ。私はこの国で幾つかの行政執行機関を管理するエカテリーナ・イサコフスキーだ。国賓として盛大に迎え入れる事が出来ず申し訳ない」
「気にしないでエカテリーナさん、押しかけて来たのはこっちだから。自分の用事を接待に巻き込む馬鹿が全部悪いんだから」
「そうだな。うちのしなが迷惑をかけている。ところで、二人は政治や思想について影響力を持っている人物だと見込んでの話なのだが、共産主義革命というものに興味はないか?」
いたって真剣な顔で初対面の人間に共産主義革命を勧めるんだから笑えてしまう。未だに市民革命が起きていない専制国家に共産主義革命を進める方も十分にバカだと思うのだが、そこに触れたら貿易トンネルが閉鎖されそうだからグッと堪える。
「共産主義革命?」
「カティラニアは南大陸にいたなら知らなかったわね。本大陸の西にあるアースナシアって国は知ってるでしょう?」
「ああ、あの王国ね。魔法はからっきしなイメージがあったけど」
現在、異世界の本大陸西に位置し、ロストフタ王国と並び超大国として君臨しているのがアースナシア自由帝国だ。彼の国は共産革命後、順調に発展が進んでいるようで農業国として存在感を強めているそうだ。昔はアースナシア王国だった事は初めて知った。
ちなみにこの国は文明国家で、魔法などは一部でしか活用されておらず、産業革命の波が順調に波及している最中のようだ。
「あの国って少し前にその共産主義革命っていうのを起こしてアースナシア自由帝国になったのよ。共産主義っていうのは全ての人間の平等を説いて、資産や食糧を均等に分配する思想のことね」
「へー、そんな事があったのね。やっぱり人間って極端に多種多様よね」
「何?!そっちの世界の共産主義国家はアースナシア自由帝国と言うのか!なんてカッコいい名前だ…、我が連邦に組み入れたい…!よし、そうと決まれば早速外交官を派遣する用意だ!」
カチューシャの領土欲ははっきり言って昔の帝国主義者に優る程ではないだろうか。
「待ってよカチューシャ。君は一国社会主義論者じゃなかったのか?」
「世界革命論者ではないが、資源地帯は多く収める性ではあるな。チェルノーゼムの様な肥沃な大地もきっとあるだろう」
「しかし、連邦の一部に組み込んでしまえばパワーバランスは大きく崩れますよ」
「そんな事は心配いらないだろう。ソ連による覇権が異世界で轟くだけなのだ」
「・・・」
「分かった、諦めるから。諦めるからなんかくれ!」
「はい」
何か欲しがったので、京都タワーで買った旧京都タワーのマスコットキャラクターのストラップをあげた。人気商品らしく、多くの棚を占めておきながら在庫数は少なかったので、面白くなって買ってしまったのだ。
「え、キモッ」
「キモ可愛いです」
「えっ…?きもかわいい?何これ…」
「旧京都タワーをモチーフにしたマスコットキャラクターです。キモ可愛いらしいです」
「・・・。来てくれと頼んだのはこっちだしな、今回はこれで納得しておいてやる」
次は無いと言わんばかりに不満げな素振りでストラップをポケットに突っ込むと、ようやく席に着いた。
「久しぶりです、カーチャさん」
「おお、チトリンか!しなに変な事されてないか?大丈夫そうだな。よし、ソ連に来たのも今回が初めてだろうし、後でモスクワを案内してやろう」
「本当ですか?ありがとうございます!」
カチューシャと千歳さんが会うのはこれで2回目のはずなんだが、この親近感…。やはりチトリンには魔法の力でもあるのだろうか。
「それで、僕宛の用事ってなんですか?」
「うむ。今は異世界の事で忙しいだろうから理事会に呼ぶのも可哀想だという結論に至ってな、私が代わりに異世界の事を聞こうと思ってな」
「そうですか。わざわざありがとうございます」
やはりカチューシャは良い奴だ。と言っても僕に当たりが強い事と共産主義を無理に広めようとして来るところが玉に瑕だが。
「ある程度の情報はGSTSで送られてると思いますけど、どういう事が知りたいんですか?」
「まあそれは色々だが、お前の結論を聞きたくてな。我々は異世界からの招人干渉を度々受けているが、今までのスタンスとして当人の意思を尊重して帰還させるかをしてきたわけだ。しかし、今回の件で地球の重要人物が連れ去られたと言っても過言では無い状況で我々が何ら行動を取らないのは損だという結論が出た。現在は盟友に任せて、順調に国連の領域を広げていってるが直接的な権益を獲得するためにも地球各国政府による接触が必要じゃ無いか?」
一理どころか十理くらいある。経済成長の捌け口のために搾取する地域をそろそろ増やしたいというのが本音だ。いくら余剰生産能力を宇宙開発に注ぎ込んでいるとは言え、現在の無人工場における生産能力は現行の経済体制で消費し尽くせない量を生み出す危険がある。今は敗戦国の復興支援にその余剰を注ぎ込んで、全てのライフラインを支えているからこそ釣り合っているが、これから必要最低限の復興が果たされると先進国の工場の10%近くを停止させる必要が出てくる。国民が混乱しない程度の技術進歩をする必要があるため宇宙市場の拡大も緩やかで、解決には至らない。
そこで文明の低い異世界に侵略して、少しずつ生活レベルを上げる事で長期的な人口爆発を誘発し、その市場を獲得するというのは最高のシナリオだ。しかし、その輸送に関わる分野も開拓が必要で国民への理解というのが相当難しい。国民に隠してするには大き過ぎる事業だし、悩ましいところだ。
「うん。いっそのこと、マニフェストディスティニー、しちゃう?」
「え、何ですかその言い方」
「世界史か何かで習わなかったかな、アメリカ大陸のフロンティアを開拓するために正当化された文明の西漸化みたいなものですよ。これによって自然の破壊、原住民の虐殺が肯定されアングロアメリカが出来上がった訳です。これからは我々先進国が異世界に対してマニフェストディスティニーを振りかざすのです!」
「人道のかけらも無い!」
「国民の理解が必要なのでそう急ぐことはできませんが、そろそろ異世界の超大国の一つであるロストフタとの接触も本格的にできそうですので外交官くらいは寄越してきてもいいと思います」
ロストフタ王国の海軍とはパイプができたし、高官にも艦隊のデモンストレーションをしたばっかりなのだからいい加減あっちからの接触があってもいいと思うのだが…。ミガルズのように直接王宮に突撃できるわけではないのでこちらから関係を作ることはできないのだ。
「ロストフタの事は了解したが、ミガルズの方なら簡単に国交を結べるだろうに未だに接触を勧めないのはどうしてだ?」
カチューシャは異世界からの情報を知っている。真面目なヤツだからきちんと情報には目を通しているのだが、アースナシアの名前を知らなかったのは、僕が彼女にこれ以上強い興味を持たれないようにするために隠していたからだった。案の定名前を聞いてはしゃぎ出したからな。
「ミガルズは政変の真っ只中ですからね、もう少し安定するまで待ってあげましょう。本大陸への外交の方が優先するべきですし、まだ異界派遣基地の設置が完了してないんです」
外交官を派遣すると言っても、あの異世界は既に主権国家の形が出来上がっているため、ほとんどがいずれかの国の領土なのだ。異世界では日本語が公用語とは言え、世界を隔てている訳だから自由が効く拠点というのは必要だろうと思っている。
今のところ地球が確保している拠点というのがニダヴェリールくらいしか無いので、地理的にも情勢的にも本大陸に近いミガルズに基地を置くことができれば、積極的な地球の外交活動が行えると思っている。
ミガルズへの基地設置は無慈悲に突貫で終わらせても良いのだが、政変に伴う時代の変革というのを市民にも実感してもらうために少しずつ、周辺の雇用も巻き込みながら建設しているのだ。無論、全てGSTSが指示によって建設されているので、新たな信仰の対象になりそうで怖い。
「我々の異世界進出が僅かなところまで来ている事は理解した。念願の異世界デビューとは楽しみだな!」
「カチューシャはもう異世界に来てるし、挙句の果てには神を殺してるじゃないですか…」
「私の異世界デビューではない。ソ連の異世界デビューだ!『私はソ連の高官だったのだが異世界に来てしまった…。こうなったらマルクス・レーニン主義の素晴らしさを広めてソ連を再興させるしかないじゃないか…!え?ソ連の兵器が自在に使えるだって?!勝ったなバーニャ入ってくる』という作戦名で行こうと思う」
「真顔でそんな事言わないでください。遅れて笑いがくるじゃん。ブッフォ…!」
「先生ごめんなさい、そのネタ分かりません!」
これは数十年前に一部界隈で発展した典型文だから知らないのは無理ないだろう。
「お前をここに呼んだのも、この作戦名を聞かせるためだったのだが…。上手くいって良かったよ」
「それだけのためにモスクワまで呼んだんですか…。飛行機代とシベリア鉄道代返してくださいよ」
「それじゃあ後で領収書でもくれ。ソ連の歳出に計上しておくから」
「私たちの交通費が国家予算に…。なんだか凄い申し訳ないです…」
「なに、十数万ルーブルなんてソ連にとっては砂粒よりも軽いさ。チトリンの気にする事じゃない。かと言ってアイツみたいな図太さまでは要らないぞ」
「先生って図太いんですか?普通な感じがしますけど」
「私用で他国の兵器を使う奴のどこが普通なんだよ。こいつ、ボディーガードは人間じゃなくて戦闘機に任せるからな」
カチューシャは僕の場合が異常である様に話すが、兵器による要人護衛を目的としたアクティブ・プロテクションシステムは普通に行われているのだ。複雑化したテロリズムに対処するためには護衛力の多角化が必要なため、現代では普通に使われている。
それに、人間よりも戦闘機の方がずっと護衛に適しているのは自明だろう。高性能のレーダーは数百km内の建物内まで観測できるし、実弾だけでなく指向性エネルギーなども大量に扱える。GSTSが搭載されているから最適な護衛任務をこなしてくれる事折り紙付きだ。
それで何度も危機を救われているから本当に馬鹿にできない。むしろ結構な頻度で危機に陥る僕の悪運が良くないのではないか。とにかく、僕は戦闘機に護衛される価値がある人物だと自負しているし、そうしないと僕が危ないので必要なのだ。
昼間から戦闘機が飛んでいることに関しては日常茶飯事なので問題無い。たまに統計調査の名目で観測機材を積んだ航空機が飛び回るのだ。雨の日なんかの水量の変化やら、フレア発生時の磁気圏の変化を観測するのに使われているので、怪しまれることが無いのだ。
「作戦名については党大会でも何でもで議論してください。流石に平時の作戦名についてまではとやかく言いませんから。用も済んだ様ですし、こちらも大事な仕事があるので行きますよ」
「"用"も済んだ"様"か…。面白いダジャレだな!」
「ヤカマシイですよ!」
カチューシャが揚げ足をすくってくる。いや、揚げ足でもないだろう…?アイツまた酔ってんのか?!
「もう帰るの?もっとここに居たかったのに…」
「カティラニアさんにはこの後、魔王勢力の首領として国連との協議を行わなければならないんですから!」
「えー?地球のいろんなところ見せてくれるって言ったのに、結局見せられたのは軍艦と歴史的な都市とモスクワだけじゃない。最後のなんて貴方の私用で行きたい所に行けなかったのよ」
「そ、それはそうですけど…」
カティラニアさんが凄い悪い顔をしている。これは僕の大失態かもしれない…。それにしても妙にテンションが高いというか、カチューシャに似た調子で危険な感じがする…。
「樽1,000杯!」
「千バレル?」
「・・・。この世界に樽ってあったっけ…。お酒を入れる大きな木製の桶」
「昔は使われてましたよ。1バレル159Lなので、一日に必要な水の80倍分くらいですかね?」
「それぐらいあれば足りるでしょうね。荒い奴らは総じて酒が好きだから、手土産に出せば上機嫌で応じてくれるでしょうからね。私の異世界のお土産にしとくわ。この世界のお酒は美味しいから好評だと思うわよ」
「なるほど、泥酔させた状態で交渉なんて外道ですけど、強制的に飲ませるわけではなければ責任はありませんもんね。外人とかは仕事日でも昼間から飲みますし素晴らしい案ですね…?いつこの世界の酒を飲んだんですか?!」
変なテンションの原因が分かった。原因は奴だ。ロシアも欧米も酒は国民の心であるが、ロシア人は気候的にもアルコール飲料が生活必需品になるのだが、そのために泥酔するハードルが低く他人に自然な形で飲酒を強要する。
カティラニアさんも何気ない気持ちで飲んだのだろうが、度数の高い酒に呑まれてしまったのだろう。さっきまで普通にお茶してたはずなんだけどな…。
「はい。これ飲んでください。酔い覚ましです」
「え〜。分かったわよ」
「あっちょ!お酒で薬飲まないでください!」
コップに入ったお酒で服用しようとしたので急いで止めた。死にはしないがアルコールは服用した薬の効き目を狂わせてしまうから普通は避けるべきなのだが。
「ふぅ。スッキリした。お酒は用意できるんでしょうね?」
「はい、10分で用意できますよ。ニダヴェリールから送りますね」
「ならいいわ。さっさと済ませて地球旅行を再開しましょう。私、ヨーロッパって所に興味が湧いて来たの」
酔いのせいなのか、地球に来て考えが変わったのか、はたまたこれが素の思考なのかは分からないが、そんな調子で大丈夫なのだろうか…。
「主旨変わってきてません…?まあ良いや。カチューシャ、カムチャツキーの装置使って良いですか?」
「ああ、別に構わない…。いや待て、ノーフォークの方を使ってくれないか?」
「ノーフォーク?ノーフォークの転移施設が何で出てくるんですか?」
ノーフォーク州に位置する世界最大規模の米海軍基地。その施設に併設されているのが日本の長野に次いで建設されたワームホール生成施設だ。海軍基地に併設されている事から分かる通り、これは米国防総省の管轄で運用されている研究施設で、当時僕がペンタゴンによく出入りしていた事から軍事費の余剰分を消費するためにも作られたのだ。ちなみに海軍基地が近くにあるから簡単に軍艦を転移させることもできたりする。
「いやな、アメリカの転移装置は未だに異世界へ人間を送った事が無いからやらせて欲しいんだと…。五月蝿すぎるから機会があったらノーフォークに回そうと思ってたんだ」
「実験台は構いませんけど良いんですか?アメリカのワームホールが赤の広場に開きますけど」
「・・・、やはり嫌だな。よし、この話はオフレコだ。問い詰められたらお前のせいにしといてやる」
いくら同盟国とは言えアメリカとソ連の思想は対極にあるようなものなのだ。互いに苦手意識を持つのも仕方がない。こちらとしては呆れて何も言えなくなるが日常なのだが。
「そうですか。そういえば、バクーって半分タックスヘイブンみたいな感じですよね?」
「ん?なぜ急にタックスヘイブンの話が出てくるんだ?」
「カティラニアさんが隠居生活にタックスヘイブンをご所望なんですよ。よかったらお願いするかもしれないね」
そう告げるとカチューシャは面倒くさそうな顔をしたが、一応は納得してくれた。
「酒飲み仲間としてなら歓迎するが、監視なんてのは面倒だから嫌だぞ」
「あら、私は監視されるような事をするつもりわないわよ。別にバクーってところじゃなくても、このモスクワだって良い場所だし、住みたいと思うわよ」
「そうかそうか!モスクワの素晴らしさを理解できる者が異世界にいるのなら、ソ連の異世界進出もさぞ楽だろうな!」
「させませんからね?」
ソ連の事だから勝手に別世界に乗り込んで宇宙征服しそうなのが怖いところだ。
「さて、それじゃ行きましょう。早く帰ってお酒を飲みたいわ」
「そうですね。それじゃあよろしくお願いします。そういえば、千歳さんはどうしますか?実家に帰りたいとかありませんか?」
「う〜ん。クラスメイトの皆んなも残っているので自分1人だけ家に帰るのも忍びないですし、ひとり暮らしなのであんまり気にならないんですよね」
「それじゃ、飛ばすけど魔王城のところでいいか?」
「それでお願いします」
「それじゃ向こうでも頑張れよ」
ほんとは長野から帰りたかったのだが、仕方ない…。
〜〜〜〜〜
モスクワから出てきた先は、最初にカティラニアさんと遭遇した魔王城の中の大きな広間だった。
「ねぇ…」
「学長、どうしたんですか?」
「何で私まで魔王の本拠地にいるのよ…。私は学園の方に帰してもらいたかったんだけど」
「あっ」
なんか、大所帯になるにつれて影の薄いメンバーは忘れがちになる事ってあるだろう。魔王城に着いてから、今さらというようなタイミングで文句を言われた。
「それじゃワームホールを出すので通ってください。学長室に繋がってますので」
「お願いするわ。今日は予定を無理やり空けてきたから早く帰りたかったのよ。魔力を使わなくてもいいしね」
そういえば、学長って転移魔法使えるんだったな。僕には無縁だが、いつか体験したいものだ。
「さて、私はお土産のお酒を配るついでに話を通しておくからちょっと待っててね」
「分かりました。要綱でもまとめておきますね」
そう言うと、カティラニアさんは届いたばかりの酒樽をまとめて転移した。
「私たちも、国連ではそんな重役じゃないから暇なのよね。あとはがんばってね」
「ニダヴェリールでご飯作って待ってるからね。頑張ってきてね、お兄ちゃん」
「あ、うん。また後でね…」
気づいたら人がほとんど居なくなってしまった。今ここにいるのは僕と千歳さんだけである。
「あの、先生。私も国連の話し合いとは無縁だと思うので、青海さん達の所に送ってもらっていいですか?」
「そうですね。確かに1時間くらい暇になると思うのでそうしましょう。それじゃあ、また後で」
自分の仕事がボッチの時って自分もボッチになるものだ。というかボッチって言葉自体がそうとう珍しいな。もう10年くらい前から死語になってる気がする。ちなみに、現在のボッチに該当する流行語はブベラーだった気がする。
もとはブベるという動詞の造語があり、ブベる人という意味でブベラーとなった。ブベるの語源は、ブーべ島と呼ばれる希望峰と南極大陸の中間にあるような無人の孤島であり、しかもそれが南大西洋にあるのにノルウェーの属領というインチキな島だったため、インターネット上の若者がそれを気に入って使われるようになったのだ。若者が地理に親しみを持ったことを喜ぶべきか、ちゃんとしたセンスを求めるべきか…。
「あら、アンタ結局一人になっちゃったのね。人望無いの?」
「それ、チクチク言葉のトゲトゲ言葉ですよ。やめてください」
「意味は分かるけど腹立つ言い方ね」
人が気にしている事を馬鹿にしながら転移してくるなんて、無駄に凝った登場はやめて欲しい。というか、もう酒を配り終えたのか。早くないか?
「お酒の評判はどうでしたか?」
「なかなか好評だったわよ。ただ、量が少し足りないみたいね」
「ここの人口って五千人くらいでしたっけ?それで足りないなんて…」
「・・・。やっぱりね、隠居だの何だの言ってたけど、私もアイツらもお互いに大切な存在なの。だから、この地をぞんざいにする事なんて出来ないし、アンタを受け入れる事が正しい事だとも思ってない」
重々しく開かれた口だが、カティラニアさんははっきりとした拒絶を口にした。しかし未だに、決断がついているというよりは、即急に決断が迫られている状態で仕方なく選んでいるという感じがする。
ここはあと一押しで、なんとかできそうな気がするぞ!
「それは、別に構いませんよ。ただ、あのお酒は皆さんに好評だったんですよね?」
「ええ。味はとっても良かったって口を揃えて言ってたわ」
「今回のお酒は、地球との文化交流によってこの世界にもたらされたものです。そして、貴女の勢力が国連に加盟してくだされば、さまざまな手段で様々なものを共有する事ができます」
「でも、配った酒は私が持ち込んだ物だと思ってるからアイツらは素直に楽しめただけよ。きっと地球からの物だと知ったら誰もあの酒を飲もうとは思わないわ」
「でしたら、魔王ユガとの因縁を永遠に持ち続けるつもりですか?戦争によって失った者を悲しみ、それを恨み続けることで迎える結末は、絶滅ですよ」
「・・・っ!」
将来的に人類との共生が望めない魔王陣営は、例えこの南大陸の南端に籠り続けたとしても、最終的には帝国主義的拡大を推し進める人類の征服によって滅びる事だろう。こう言ってはなんだが、僕と国際連邦は魔王勢力と人類の架け橋としてこれ以上ない存在なのだ。
しかも、現在この世界における国際連邦の立ち位置は、ミガルズ王国の戦争を支援して勝利に導き、その上で国体を王政から共和制に移行させて成功させている新たな国家として、異世界の国際社会に踏み込んでいる。そして、その全容はほとんどが召喚人である僕と地球の兵器であり、極論は一個人だけの組織とも言えない存在がロストフタ王国と接近を試みている。現状として世界情勢で独立した勢力を築き、ミガルズを傘下に置いているような状況だからこそ、魔王陣営に対して友好的な関係構築ができるのだ。
もし仮に、ロストフタとの会談が成功し、人類に偏った立ち位置になると魔王陣営とは一定の距離を置かざるを得なくなる。
「貴方があの世界を背負っているなんて、初めは思いもしなかった…。けど、ソ連で会ったエカテリーナさんの活き活きとした姿を見たら、貴方と共に国を背負う事が幸せなのか少し気付いた気がするの」
「いや、カチューシャは例外だと思いますけどね…」
「それでも、貴方と対立するか無視するかで、私たちの故郷が衰退していくのはやっぱり見ていられないの。貴方の言う通り、この先人間たちがさらに成長したら私たちなんて立つ瀬が無くなって、かつての誇りなんて意味がなくなっちゃうの…。運が良かったとか、そう言う感覚じゃ違和感を感じるけど、確かに最後のチャンスだって思ってるわ」
「カティラニアさん…。貴方がこの地を、そして同胞達をどれほど愛しているのかが骨身に染みました。だからこそ、我々との共生を考えてはくれませんか」
「私はそうしても良いと思っているわ。今はまだユガやダイオスを殺された悔しさはあるけど、私たちだって沢山の人間を殺しているの。そんな事で拒絶なんてしたくないし、お互いに恨む気持ちを持ちながらでも手を取り合って進むことはできると思っているわ」
「そうですか」
「でも、それを決めるのは私じゃないの」
そう言うと、広間の扉が開いて大勢の人外の化け物が入り込んで来た。もちろん知ってたけど、流石に怖すぎる。
「なんだ。人間の中でもちっちゃい奴だな。一捻りでやれそうだ」
「何です?現在この部屋には100門の80cm列車砲が照準を向けていますよ。有事の際には音速の100倍で戦略核弾頭が爆撃する事を理解しておいてください」
入ってきて早々、顔に角が生えている鬼みたいな奴が馬鹿にしてきた。なんだよコイツ、お前の方こそ身長3mのノッポじゃないか。お前を輸送ヘリに乗せるときは緩衝材だけ敷いて横に収納させるからな。
「あなた達、分かったかしら。海園しなは、こういう男よ」
「コイツが本当にユガを倒した男なのか、今更ながら怪しくなってきたぜ」
「な、なんで僕そんなに馬鹿にされてるんですか…」
「とまあ、こんな感じだけど一応お酒の礼くらいは言っておきなさいね。私が頼んだら5分もかからずにその量を用意してくれたんだから」
「え!このお酒って向こうの世界の貯蔵庫から略奪してきたものじゃないんですか?!」
コイツらは何に驚いてるんだ。この量の酒は貯蓄されていた非常用の酒を奪ってきたものだもでも思ったのだろうか。確かに、この量だからそう考えることがおかしな事ではないが。
「皆さんどうですか?国際連邦に加盟して、健全な貿易や開発支援を受け入れるのなら、この程度の酒は無限に手に入りますよ。それに、他にも様々な美酒が向こうの世界には存在しています。文明の交流というのは、確かに敵対と紛争が付き物ですし、その流れは当然と言えるでしょう。しかし、互いが理解し合い既存の社会モデルを超越することができるのなら、その進歩は未曾有の躍進を遂げることもできるのです」
「難しい。何言ってんのかさっぱり分からん」
「僕と仲良くするとそのお酒も飲み放題ですよ」
「最高じゃねえか!仲良くしようぜ!」
「「・・・」」
なんだこの馬鹿。周りの奴らも全員絶句しているじゃないか。
「ガハハハ!簡単なことじゃねえか!」
しばらくの沈黙を破り大声を上げたのは別の魔族だった。
「そもそも、お前は召喚された国が攻められていたから戦っただけで、本来は今までとの人間とは無関係ってんだ。それなのに俺らの過去の歴史を持ち出して仲良くできないなんて馬鹿みたいな話だよ!」
「そうだそうだ!こんな酒をいくらでも飲めるってのに、諦めろなんて無理な話だぜ!」
そ、そうなるのか…?いや、相手方が納得して国連に入ってくれるんだったら全然構わないんだけど。
にしてもコイツら全員魔王なんだろうか。だとしたら相当陽気な集団だな。僕がこの世界で初日に倒した魔王ユガも、出合い方が違えばこんな印象を抱けてたのかもしれないな…。
「どうやら、首領である私だけがうじうじと悩んでたみたいね。まったく…、独りよがりも嫌になっゃうわ」
「たまにあることですよ。相手の気持を推し量りすぎるのは愚かしいことです。強力なリーダーシップを以て組織を率いている時こそ問題にはなりませんが、いつかその停滞が訪れた際には急激に組織の間で齟齬が生じるものです」
「なるほどね…。今までは私が率先して人間への復讐を叫んでいたからこそ、みんなは私に着いてくるだけで良かったのに、それができなくなって共通の意識が消えてしまうと、今までのように皆んなの総意が分からなくなってしまって、今までのように私の考えが皆んなの最善だと甚だしい勘違いをしていたのね」
カティラニアさんは我々から背を向けると、悔しそうに肩を震わせてた。今の彼女の心境はとても推し量れるものではないだろう。
「悔しいわね、皆のためって行動が独善的になるのことは知っていたのに、そうならないように良きリーダーとして振る舞ってきたはずなのに、結局私も間違えてしまったわ」
「間違えてはいませんよ。今こうして新しい方向に舵を切ることができたんです。多くの仲間の意見を聞いて、その上で最良を選ぶことこそ優れた指導であり、その道筋に立つことに貴女は何ら失敗していない。まあ、これからの道が正しかったのかなんていうのは時が経たないと分からないものですが」
このカティラニアとか言う魔王、最初の方は仲間に向かって『覗き見したら殺す』なんて言っていたのになかなかの仲間思いだ。これが部下に対して発動する、普段当たりが強い女上司のツンデレというやつだ。
「それじゃあ、改めてみんなの意見を聞きたいわ。私達はこれからどうするべきなのか、みんなの率直な意見を聞かせてほしいの」
決心したように部下の方に向き直ると、覚悟を決めて語りかけた。
ちなみに、姉の情報ではあるが、ここには百人くらいの魔王がいたとかいなかったとか言う話を聞いている。確かにこの部屋にぞろぞろと魔王らしきものは集まり続けて、とうとう100を超えた。え?今から100人に意見聞いていくんですか…?やっぱ直接民主制って嫌だわ。
「みんなの意見って、そんなの決まってるじゃないですか姉御!」
「そうっすよ!ここにいる全員はカティラニア様についていくと決めてここにいるんです。これまでもこれからも、カティラニア様についていくに決まってるじゃないですか!」
「そ、それでいいの?私は大切な仲間であるユガやダイオスを殺した人間と和解しようとしているのよ?それにーー」
「確かにダイオスがコイツに殺された事は悔しいと思ってますし、恨んでいます。しかし、こっちだって同じように人間をたくさん殺してきたんです。血で血を洗う戦いを何百年も続けて、今その歴史に終止符を打てる時が来たんです!」
「あの、別に今すぐにというわけではないんですよ。少しなら待つくらいの期間はありますからね…?」
なんか、コイツら全員良いやつだよな。こう、少年漫画の熱い展開みたいなね。うん、なんか涙出てくるよね…、歳取ると涙もろくなっちゃうからさ…。まあ、話が全然通じてないせいで涙出そうなんだけどね。
「そうね…!私達もいい加減前に進まなきゃいけないわよね。というわけで、その国際連邦に加盟するにはどうすればいいの?」
「あ、はい。では書面仕事になるので席に座りましょう。別に同席者についての規定もないですから、皆さんもどうぞ」
そう言うと目の前にワームホールが出現し、ニダヴェリールのどこかにあるビルのどこかの巨大な会議室に繋がった。
超高高度高層ビルの最上階近くのどれかだとは分かったが、いかんせんビル群の建設はGSTSに任せていたため、なんのビルなのか全然分からない。
「おお、でかい広間だな」
「流石に両国の調印を行うんですから、僕とカティラニアさんはこちらの中央の席に座ってください」
「この席でいいかしら」
流石、超高高度高層ビルなだけあって大量の巨大な魔王を全て収容しきった。にしても、居心地悪いなぁ…。
「ここにサインして判子を押せばいいのね?」
「そういえば、この世界にも判子はあるんですね」
「あ、そこ聞いちゃう?いや、この判子はあの城の宝箱から何故か出てきたやつなのよ。使用方法は知ってたんだけどなんで宝箱から出てきたのかしら…」
「まあ、無事に調印が済みましたし、良しとしましょう。・・・、呪われてませんよね?その判子…」
「大丈夫じゃないかしら、私が持っても何ともないし」
いや、魔王に影響を及ぼせるほどの呪いのアイテムなんてなかなかないでしょう…。え、怖い。
「ほら、なんの変哲もないただの判子よ」
「え?あっちょ!・・・?!な、何だかお腹が冷えてるような…。あ、お腹がギュルギュル言ってすごく痛い!すごい、現在進行系でお腹を下してるぞ!あー!痛いー!盲腸並みの痛さだろうなー!盲腸悪くなったことないけどー!」
「ご、ごめんなさい!ちょ、誰かー!」
「どうしたんですか先生?!」
「お兄ちゃん大丈夫?!」
「な、何が起こったのよ…」
まあ、無事に今日の目的は果たせたので僕は満足である。しかし、この一日はあまりにも濃密だった。まるで二、三日かかってるんじゃないかってくらい濃密だった。
〜〜〜〜〜
「いくら閑話だからってこんな雑な終わり方はないんじゃないか?」




