閑話NO.3 元大魔王カティラニアの受難 前編
この先の話が書きにくいので、こっちに逃げました。
iOS15にしてから違和感がすごいので、ところどころ表現が妙になるかも知れません。
「そういえば、二人はこの世界に来た時に魔王の群を制圧してから来てるんですよね?」
「そうね。こっちは公正な対応をとりたかったんだけど情報を教えてくれなくてね。離脱しようとしたら敵対されから峰打ちにしてきたわ」
ロストフタ国際学園の教師として、召喚人のクラスを受け持ちはや数週間がたった。高野のことは綺麗さっぱり忘れられて平和な学校生活(教師)を送っている。特筆すべき点としては僕の教育方針を多大に含んだカリキュラムの施行が許可されたことで、野外学習を積極的に行なっていることだろう。
日本の授業にできるだけ近づけて授業を行なっているがせっかく異世界に来ているので様々な実地学習をする良い機会だと思ったのだ。しかも国際学園の評価方式はその授業の担当教師の独裁なのでノートをいちいち回収したり、授業態度を見る必要がないので、国を跨いで様々な気候や地域を回ることもしている。ちなみに今日は月に六回ある休みの日だ。
朝から部屋を綺麗にしている姉さんの部屋にやってきた。僕の部屋は沢山のディスプレイとスピーカーに囲まれてるし、薫の部屋は普通に片付けられてないので消去法で姉さんの部屋に集合しているのだ。
「もちろんある程度の嫌がらせはしておいたから、本拠地からはまだ出られてないはずだよ」
「ん?嫌がらせ?」
「全員に偏頭痛がかかるようにして60日くらい大型台風クラスの低気圧を停滞させるようにしたの」
「なんでそんなに簡単に魔法を使いこなしてるんだ…」
今は魔王の話をしている。詳しく言えばミガルズ共和国の遥か南にある魔王の生息地の事だ。実は最近、ニダヴェリール基地から毎日300kmの速さで魔王の生息地に向かってインフラ網を建設しているのだ。道路、地下鉄一体型で50万人規模のライフラインを提供できる供給能力を持ったブロック建造方式の道路だ。完成した暁には魔王勢力との協調路線を敷くか、軍事力によって直接統治を行うつもりでいる。
というのも、ロストフタ国王と国際連邦との交渉ができてないのだ。要するに人間勢力の方への拡大が停滞気味なので別世界への拡大を推し進めようという事である。
「にしても正気とは思えないわね。ニダヴェリール基地って元はただのバッファーゾーンでしょ?それが両勢力を影響圏に組み込もうとしてるんだから。自重しなさいよ」
「そんな事言われても遅いですよ。進行中のインフラ網がそろそろ到達しますよ。硬い地表とかは対地爆弾で掘削しながら進んでるから相手方は驚いてるだろうな」
「完全に侵略者のやり方じゃない。お兄ちゃん…」
異星人とのファーストコンタクトみたいで楽しみだ。少し違う点があるとすれば、こちらが侵略側である事だろうな。環境を破壊しながら自分の環境を作り出すために異物を大量に投下して進んでるんだから、完全に侵略目的の異星人の風体だ。相手は人間に対しての優越感というものを感じているのは確実だろうから、圧倒的な格の違いを見せつける事で魔王たちがどのような対応をするのかが見どころだろう。
『基地南部、設置が完了したインフラ建築に対しての武力行使が行われました。損害は認められませんが現在も攻撃を継続中ですが、重大な損害が発生した時点で反撃を開始します』
おそらく魔王勢力によるマジカル攻撃だろう。ただ、このインフラ施設に軍事施設の幹線道路クラスの装甲能力が付与されているため、傷つけることすら困難だろう。もちろん兵器も満載している。地下鉄道からの弾薬供給に限られるが艦載砲、EVLSや戦闘車両運用プラットフォームが主兵装となっているが、インフラ施設自体を巻き込んで核自爆を行う仕組みもあったりする。
友好的な関係が築けるのであれば、ニダヴェリールとの道中に軍需工場を立てるのも良いかもしれない。ニダヴェリールは南大陸の中央に位置しており、その中央から北海岸までの巨大地域は、国連が魔王ユガとの戦闘で獲得した領土であるがミガルズに委任統治権を与える事で実質的な領土分配を行っているのだ。だからこそ南部にも国連の管理を広げたいという欲求が生まれるのは仕方ないことなのだ。
「よし、そろそろ行ってみようか。航空機、戦闘車両を混成で十万機ずつ当地域に派遣し、暇してる各国の艦隊を一個ずつ近海に配置してくれ。それじゃあ、転移魔法をお願いします!」
「あんた、魔法を毛嫌いしてるクセにこんな簡単に頼るのって恥ずかしくないの?」
おっしゃる通りでございます。
〜〜〜〜〜
現場に来てみると、いろんな奴がいた。
基本的に人型なのだが、ツノがあったりコウモリみたいな翼を持ってたりするヤツもいれば、完全に人類ではない形のやつもいる。そういえば、魔王ユガってどんな見た目をしてたっけ?全く覚えてないや。
「すいませーん!国際連邦異界派遣基地の設置物に損害を与えようとした人はいませんかー?今回は損傷が無かったので不問としますが、国際指名手配される可能性もあるので気をつけてくださいねー!」
マイクを使って語りかける。と言っても音を出しているのは背後にある指向性エネルギー兵器搭載車両の妨害装置の幾つかだ。指向性エネルギー兵器って、殺傷兵器や非殺傷兵器としても使えるし、ミサイルや車両に対してのジャミングにも使えるし、スピーカーとしても使えるし、便利なものだな。
スピーカーの大音量に驚いたのか、そこら辺にいた人外が全員こっちを向いたと思ったら、全員の顔が三者三様に変わっていった。こっちを見て怒りを露わにする者や、驚愕する者、恐怖に顔を引き攣らせたように見えたりもする。だが一つ共通している点は、皆頭を痛そうに顔をかしめている事だった。
頭痛によるストレスも数十日続けば生き地獄だと思う。低気圧が原因だと分かっていても気圧を操作するのは本来莫大なエネルギーがかかる。それこそ、メガトン級の核兵器でも台風には大きな影響を与えられないほどなのだから、魔王であったとしても難しい話なのだ。ただただ、うちの姉妹が異常なだけで、魔王たちが可哀想になってくる。
「貴様ぁ!早くこの呪いを解け!さもなくば人間どもの街を一つ残らず滅ぼしてやるぞ!」
「よくもぬけぬけとやって来てくれたな!もう貴様らの良いようにはさせないぞ!!」
「ユガの仇、取ってやるぞ!」
相手は一様に我ら兄弟への憎しみを口にしていたが、誰一人として殺害予告をしていない。魔王なら殺してやるの一言くらい欲しいものだ。
そういえば、台風並みの低気圧という事で大雨を予想していたのだが、空は快晴で乾燥した気候と相まって清々しい気分だ。どうせ、これも姉さんたちの嫌がらせなのだろう。
強い雨の日にしか経験しないような激しい頭痛に見舞われながら、何十日もずっと晴れた天気を横目に行動が制限されるのだから、うちの姉妹の性格の悪さが窺える。最初の方は威厳のある顔つきを保っていたが、次第に相手は死んだ顔で頭を押さえて痛そうにし始めた。眉を顰めて天を仰ぐ姿は、太陽を恨む吸血鬼のような重みがある。本当に気の毒だ。
「これじゃ、まともな話し合いができないよ…。偏頭痛くらい解除してあげたら?」
「そうね。兵器も到着してきたし解除してあげましょうか」
「流石に万単位の兵器は少なすぎじゃない?数十億も残ってるんだから、もっと持ってくればよかったのに。お兄ちゃんなら調子に乗って1億や2億持ってくるかと思ってたよ」
「いや、僕もそうしたいのは山々なんだけど、今回は一応国交を樹立するために来てるからさ。友好的に接するためにも軍事的圧力は無くしたいんだよ」
「戦車を十万とか持ってきといてそれ言うの…?」
渤海制圧戦で利用された無人車両が約8,000万両で、天津攻防戦の時には北京周辺を大きく包囲して内モンゴルにまで配備して、ようやく十億規模の車両が配備できたのだ。やっぱり地球の地形は兵器を大量に展開するのに適していない。
しかし、この大陸は比較的乾燥しており山地が少ないため、大規模な軍事力を展開するのに適した場所なのだ。だからもし、魔王達がこれからも悪さをするのだったら有害鳥獣駆除の名目で軍事力を派遣したかったのだが、今回は運がなかったという事で、将来また異世界に行った時に挑戦してみたい。目標は五十億だ。
「皆さん、落ち着いてください!我々は貴方がた魔王の皆様と正常かつ友好的な関係を確立するために来たのです!」
「兵器を引き連れてよく友好的なんて言えるわね。面の皮3cmくらいあるんじゃないかしら」
たしかにその通りだと思う。しかし相手は歴史上何度も人類と敵対している犯罪集団なわけで、一斉捕縛の体裁でここに来れば兵器も動員し放題だったのではないだろうか。
「クソ!俺たちが敵う相手なのか!」
「落ち着け!まずは王城まで引くぞ!そこならこちらが圧倒的に有利に戦える!」
「あの時は、カティラニア様も戦われたのに負けたんだ!病み上がりの俺たちが敵うわけない!」
魔王たちの雰囲気が段々腰抜けになってきた。どうやら本拠地に撤退するようだ。無論、やつらの本拠地とは魔王城の事で、ここに来てからずっと目についている巨大な城がそれなんだろう。
平生の魔王城は一人につき一個あるような感じで、リスポーン地点として守られている。しかし、ここの魔王たちは一つの大きい魔王城に共同で使っているらしい。まるで共同墓地だな。共同墓地…?
現在この地域には魔法妨害波を当てていない。姉さんたちも魔法を使うし、現地の魔王の使う魔法も見てみたかったからなのだが、それが裏目に出たようでみんな転移魔法で魔王城まで逃げられてしまった。
この世界での転移魔法の位置付けは、魔王などの上級の魔法に精通した理性のある生物だけで、実はハイエルフの学園長も使える魔法なのだ。ちなみに千歳さんは魔法ではなく、召喚人のスキルとして持っているらしく、転移魔法より更に便利に瞬間移動ができるそうなのだ。
ちなみに僕がこの世界で転移魔法を真似しようとするなら、ワームホールを遠隔で発生させてそれを潜ればいい。地球の場合はほとんどの地域に空間安定波が投射されているためワームホールが発生できないので、この異世界くらいでしかワームホールで瞬間移動ができないのだ。
「どうする?魔王たち、ご丁寧に魔王城に待機してくれてるみたいよ。昔のゲームみたいに魔王城を登って行く?」
「お兄ちゃん、魔王城攻略しようよ!ライフル使って攻略しよ!」
「無理です」
「えー!なんでー?」
「僕が魔王城を登れる体力があるとおもってるんですか?」
「「・・・」」
確かに僕も魔王城を登って、頂上の部屋で決戦をするというのも楽しそうだと思ったが、僕はそんなダンジョンを攻略するほどの体力が無いのだ。だから素直に瞬間移動で本拠地に突入したい。
だが、正直言って室内でわざわざ戦うのも嫌なんだよな。せっかく兵器をたくさん持って来たのに室内だとせいぜい一機が限界だ。強引にこちらのフィールドに持ち込むわけにもいかないし、生身で突入するしかないのか…。
「転移お願いします…」
「はいはい」
「今度は僕一人で行ってみようと思うよ」
「防御魔法だけはかけておくから気をつけてね」
〜〜〜〜〜
転移して来たのはラスボス戦でありそうな部屋だった。そこに魔王が数十人も屯ってるんだからおかしなものだ。
「?!奴が追って来たぞ!」
「待て!召喚人一人だけだ。あの大砲が無いなら我々でも倒せそうではないか!」
「カティラニア様も、共にユガの仇を討ちましょう!」
さっきから何度も耳にする固有名詞カティラニアは、ユガとの戦いの最中にも何度か聞いたことがある。姉さんたちが初めて対面したのもカティラニアだったはずだ。
「貴方があの二人の兄弟ね。初めまして、龍人のカティラニアよ。ユガがお世話になったわね」
「あ、どうも。召喚人の海園しなです。本日は何の連絡も無く上がってしまって申し訳ありません」
カティラニアさんは尻尾と角がついた一般的な異世界の"龍人"といった感じだった。この異世界は分かっているらしい。
それにしても、聞いた話とは違う雰囲気だ。開口早々人類を滅ぼそうとか言ってたらしいのだが、態度が軟化したのか反省したのか…?ともあれ交戦は無さそうなので安心だし、トップがこの態度なら友好関係を築くのも簡単そうだ。
「貴方たちはどっか行ってなさい。覗き見したら殺すわよ」
カティラニアさんは人払いをしてくれたと思ったら、部屋の隅から机と椅子を持って来て僕の前に設置してくれた。
「お茶は出せないけど座ってくれると助かるわ。私も頭痛がようやく晴れたんだけど、立ち話する気にはなれないから」
「ご丁寧にありがとうございます。お茶くらいならこちらでご用意しましょう」
ニダヴェリールからワームホールでお茶菓子を直送する。こんな面白い使い方ができるのはこの世界くらいだから今後も多用していきたい。
というか魔王の世界にもお茶を出す風習があるのには驚いた。どうやったら共通の文化が生まれるかの統計も取ってみたいものだ。
「すごいわね…。魔法じゃないのに物が出てくるなんて。ありがとう、こんな美味しそうなの初めて見たわ」
「いえいえ、地球から取り寄せた粗品ですよ」
「召喚元の世界から物を持って来てしまうなんて、やっぱり洒落にならないわね。その気になればこの城だって簡単に壊せちゃうでしょ?」
「できなくはないですね。とは言っても、それは科学技術による代物です。僕はあなた方のような個々の力という物を持っていないので羨ましく感じますよ」
「それを貴方一人で扱ってるなら個々の力になるんじゃないの?」
「・・・。それは僕の中では違いますね」
「隣の芝生は青い。確かそっちの世界の言葉だったね」
お茶を飲みながら優雅な時間を過ごす。多分姉さんたちは暇してロストフタに帰っているだろう。
「そろそろ本題に入りますね。我々地球連邦は異世界への進出に伴い、いくつかの勢力に対して接触し交友関係を築いてきました。しかし、人間の国家だけで無く比較的少数派の集団にも同様に、対等の関係で双方の発展を歩んで行きたいと思っております。魔王ユガとの交戦は悲しい行き違いでした…。しかし、その禍根を未来に与える事なく我々が有意義な関係を持つためにも、互いに理解し合って共存の道を探したいのです」
「随分と口上手ね。ここにいる私達と志を同じとした魔王ユガは貴方に見るも無惨に殺されたのよ。頭痛のせいで士気は低いけど、あと数日もすれば皆貴方を殺さんと奮闘するわよ?それなのに貴方たちとの繁栄のために盟友ユガの仇を許して、挙句の果てに手を取り合えなんてふざけてるとしか言いようがないわ。ここに住む魔族たちは皆、我ら魔王を支柱とした他民族の集団よ。どんなに技術を持っていようと、私たちが貴方たちに差し伸べられた手を取る気はないわ。どうせ、貴方ならそんな事分かってるでしょうけど、どうするつもり?」
確かに、確執の生まれた集団との和解というのは難しいというか、国民の精神では短期間での友好関係なんて無理である。地域の占領を伴う陸軍の究極的な勝利というのも、現地人との信頼関係を築けてこその物だ。
相手の象徴的な首領を殺害した相手との共栄というのは、感情が許す事ができないものだし、余計に反感を煽ることにもなりかねない。非常に難しい問題である。
「酷い話ですが、個人の感情を克服して我々に都合の良い関係を築く事は最も容易い事なんですよ。記憶を変えればよいだけですから。別に魔法をかけたり薬を飲ませたりする必要は無く、パッと周辺の人々を眠らせて強力な暗示効果のある視覚情報と聴覚情報を与えれば良いんです。未だにその技術を運用した事はありませんが、それなりの技術は獲得済みですから簡単ですよ」
「それじゃあ、私が今も操られている可能性があると言うこと?」
「否定しますが、証明する事はできませんね」
「やっぱり恐ろしいわ。こんな侵略者に楯突く方がよっぽど愚かなのよ…」
「・・・。どういう事ですか?」
「私、隠居したいのよ。魔王を辞めて」
「んん?なら何故、今僕と会談をしているんですか?今の貴女は確実に魔族の代表として協議をしているではありませんか」
「これが最後の仕事よ。本当はあんたの姉妹にコテンパンにされたときに辞めようとは思ってたんだけど、頭は痛いし、変な物が生えてくるから言い出せなかったのよ。そもそも、私は別にユガと仲良かったわけではないし、人間への侵略には反対だったのよ。結果こうなってる訳だし、私の判断は正しかったのよ」
何というカミングアウトだろうか。こうなってしまったら、地球の科学力を見せつけて「なんて技術力なの?!こんなの勝てる訳ないわ!安全保障のためにも国連に加盟しないと!」って思わせる作戦が通用しづらくなるじゃないか。
「でも、私は魔王の中でもトップだから、ここにいる皆んなは私の家族みたいなものなの。綺麗事並べて懐柔しようとしてるみたいだけど、貴方のことは信用ならないわ。いくら話が合わなくったって、私の大切な子供達の将来が地球連邦とやらに支配されるのなら断固として抵抗するわ」
「その心意気に敬意を表します。貴女のような人がクルド人のリーダーだったならどんなに良かった事か…。と言ってもまあ、そんな警戒しないでください。なんか内外から侵略者って言われてますけど、そんな大層な者ではないですから」
「クルド人は何だか知らないけど、貴方も大分苦労しているのね。それで、自分の本拠地から大地を削りながら私たちのところまで伸ばしてきたあの巨大な道を作っておきながら、侵略者じゃないなんてよく言えるわね。確かにあの道に攻撃したバカはいたけど、あんな数の化け物を連れて来られたら完全に侵略者じゃない」
「それに関しては説明しますね。あの道はただの道ではなく、飲料水の循環や地球で一般的に使われる生活物資の提供を行うことができる物でして、南大陸の無人地域に多数配置しているんですよ」
「何のために?それを侵略って言うんじゃないの」
「別に目的がある訳ではないんですよ。ただ、災害救助の助けになる程度の期待しかしてません。この大陸は全体的に乾燥していますからね、飲料水が必要なら提供することもできます」
「どうせそれにも毒が入ってるんでしょう」
うーむ。このままだと話が平行線だな。ここは一つ打開策を打ち出さねば休日が終わってしまう。
・・・。そうだ!良い案を思いついたぞ!
「どうやら、このままだと話が有意義でなくなってしまいます。そこで提案なのですが、地球に来ませんか?」
「・・・?はあ?!」
〜〜〜〜〜ニダヴェリール国際連邦派遣基地
「だからって、何でカティラニアさんを地球に呼ぶ話になるのよ!」
「いや、さっき言ったでしょう!地球の現状を知ってもらって、国際連邦に加盟してもらう助けにしようとしてるんですよ」
合流早々、姉さんのツッコミに殴られる。別にそんな変な事言ってないだろうに。
「でも、そんな提案に乗るカティラニアさんも何て言うか、無警戒だよね」
「あなたたち兄弟に勝てる訳ないから、仕方なく従ってるのよ。あんな奴が生まれた魔窟なんて怖くて行きたくないわよ」
「あんな奴ってどんな奴ですか?」
「あんたの事に決まってんじゃない」
普通に酷くないか?姉さんと似たような喋り方のカティラニアさんが、同じく僕に対しての態度が酷くなると、姉さんが二人に増えたような気がしてならない。
ちなみに、何故姉妹たちが魔王カティラニアの事をさん付けして呼ぶかと言うと、単に彼女のカリスマ力による物だろう。地球でも違和感が無いように尻尾やらを魔法で消して、オシャレのための着替えをさせるのを二人に任せたのだが、その間に仲良くなったらしい。
人生経験が豊富で、あの暴力的な性格の魔王やら魔族やらをまとめ上げたんだから、指導力はトップクラスだろう。僕だって彼女の仲間に対する意識には感心する。地球で生まれてたら国際NGOのリーダーになってそうな人間だ。
「で、カティラニアさんにどの国を見てもらうの?無難に日本でいいのかしら」
「そうですね。折角ですし僕らの故郷を見てもらいましょう。東京の中心は人が多いでしょうし、護衛艦豊かな横須賀市にしましょうか」
「護衛艦豊かって何なの…?」
「安心してカティラニアさん。横須賀基地は海上自衛隊の第一、第二護衛艦隊の母港だから、沢山の軍艦が見れるよ!」
「いやちょっと待って、だから軍艦を見るって一体ーー」
「折角だから小笠原の第十三艦隊に周辺海域に任せて、横須賀の護衛艦は近海に集結させましょうか」
「アメリカの電磁力制圧群の第七艦隊と、東京湾要塞の19、20艦隊も寄越しましょう。第七艦隊には僕が掛け合いますよ」
総勢500隻以上の観艦式の準備が進んでいく。大型艦隊だけで500隻なので、周辺の任務艦隊も含めると更に多くなりそうだ。
「あなたたち一体何者なのよ!国の軍艦を動かせるなんて普通じゃないでしょ」
「何者って…。地球連邦秩序維持理事会会長ですかね」
そういえば、カティラニアさんにはまだ何も言ってなかったな。確かに、召喚人がいきなり友好関係を築きましょうだなんて言われたら不思議だったろうな。
「国際連邦とは、地球の国家全てが所属する超国家的組織です。その中でも、秩序維持理事会は加盟国の政治や軍事を観察して、適切な対処を取るようにする機関です。大洋統制機構と並んで実質的に地球国家の全てを管理する能力を持ちます。地球の人口は90億人ですから、それのトップにいるのがこの僕ですね」
「90億人?!貴方の前の世界ってそんなに人がいるの!というかそのトップって…。神はどんなものをこの世界に寄越したのよ…」
「・・・。心中お察しします」
「あんたがいうな!」
やはり姉に通ずるところがある。
「それより、この規模だったら他の人も招待したほうがいいと思うんですよね」
「具体的には?」
「学長」
以前に、地球には興味があると言っていたのでこの機会に招待しようと思ったのだが、二人の顔は渋い。
「ええぇーー」
「何でそんな不評なんですか」
「休日に上司と旅行なんて気が休まらないじゃない。それにカティラニアさんもいるのよ。それなら千歳ちゃんを誘えばいいじゃない」
「千歳さんは休日に友達と遊ぶでしょう」
「学長のこと、友達がいなくて休日も仕事漬けの残念な人だと思ってない?」
「僕はそう思ってますよ」
〜〜〜〜〜
「自主返納2ヶ月15%」
「い、いい、いいんですか?!地球に行ったら僕の方が偉いんですからね!」
徹底抗戦だっ!今まで散々な扱いを受けてきたが、それも今日で終わりだ!僕にだって90億人を背負う自負や大事な尊厳があるのだ!
「別にいいわよ。この世界で貴方は無職になるだけだから」
「くっ…!」
「・・・。30%」
「・・・」
「50%3ヶ月」
「「・・・・・・」」
「じゃあ解雇ーー」
「負けました!」
僕よっわ。
「先生…。先生は労働条件の改善を求めて頑張ったよ…」
「千歳さん…!」
慰めはあるものの、その目には同情しか無いのが…。連絡したところ千歳さんも暇だと言うので、急遽学長と千歳さんをニダヴェリールに呼んで地球に行く準備をする。キフエル一家は流石にキャパオーバーだった。
「そういえば、お二人にはニダヴェリール基地のことを詳しくは説明してませんでしたね」
「あの艦隊の大元だとは聞いてたけど、凄いところね。あんな高いビルがあるなんて信じられないわ」
「あれは…。1,500mくらいのビルですね。学長先生、地球にはあれより断然背の高いビルがたくさんありますよ!」
「そういえば、千歳ちゃんたちも地球出身だったわね」
僕の周りの女子は皆、コミュニケーション能力が高い。なので自然とお互いが馴染んでおり、僕から見ても仲良さげな五人の女子集団に見える。カティラニアさんと学長は年寄りーー人生経験の長い人にしか分からないようなジョークを言って盛り上がったりしている。ちなみに学長はエルフらしく耳がとんがってるので魔法で隠してある。
そこで問題となるのは、僕の疎外感なのだ。男女比率すら壊滅的なのにそれを気に留めることさえできない圧倒的なコミュ力の壁が僕を隔てる。おかしいのだ。僕が提案して、僕がみんなを集めて、僕の発明した機械で行くと言うのに誰一人として僕に対しての意識が向いていない。
「皆さん、そろそろ行きますよ」
「はーい。ところでどうやって行くの?」
「そんなの簡単ですよ。僕らのいる場所にワームホールを通過させればいいんです。こんな感じで」
〜〜〜〜〜三浦補給飛行場
ワームホールの使い方にはこんな方法もある。三浦の飛行場にしたのには、時空安定システムが横須賀市だけのものしか影響していないという理由もある。基本的に地球上のどこでもワームホールなんて生成できないレベルの時空安定波が投射されているから大変なのだ。なので、帰り道は長野の実験施設から帰らなくてはならない。
「はい。着きましたよ」
「えっ?どうなってるの?!」
科学慣れしていない学長とカティラニアさんはとても驚いていた。こんな感じの転移方式は初めてだそうだ。
「ゲート型の瞬間移動ですよ。ここは日本の首都圏に属し、世界最大規模の軍港を持つ横須賀市にある軍需物資の補給場です。この辺りは日米安保による共同運営施設ですから、人通りが少なくて融通も効くんですよ」
この飛行場は主に無人貨物機の着陸用に使われている。積載物は全て軍需物資で、横須賀や東京湾要塞宛ての弾薬がほとんどだ。弾薬の供給は海上輸送が好ましいのだが、有事の際に即応し易いため空輸方式に移行しているのだ。
供給された物資は自動で独自の鉄道路線により補給されるが、緊急時には人員を乗せた輸送機が利用することも想定されており、有人列車を持っていたりする。
「へー。この空港って日米で運用してたんですね。確かに第七艦隊もいますから必要そうですね。でも、補給ならハワイとかグアムでもいいんじゃないですか?あそこの方が大きな空軍基地がありますし」
「そうなんだけど、やっぱり都市兵装が圧倒的だからね。東京湾要塞に加えて11の国防武装特政都市があるから港湾の安全が確保しやすいのよ」
「なるほど〜」
異世界から帰ってくるにあたって艦隊を召集しているため、この機会に補給を済ませようとしているらしく、滑走路に続々と40m近くの無人貨物機が滑空している。無人貨物機は積荷を下すと羽田空港のマスドライバーから、元いた兵器廠や工業地帯近くの空港に送り返される。
軍事基地というだけあって近くには何も無いが、少し周りを見れば高層ビルが周辺に乱立しているのが良く分かる。
「あれは…、巨大なゴーレム?」
「あれは貨物機と言って、鳥と原理は違いますけど同じように飛翔や滑空をして物資を補給する機械です」
「九十億っていう馬鹿みたいな人口が支えられるのも納得ね。今さら気付いたけど、あの塔は凄いわね。周りの建物も信じられないくらい高いけど、ずいぶん飛び抜けた高さをしてるわ」
「あれは横須賀市役所です。役所の場所が一目で分かるように民間の建造物よりも少し高くしているんです」
一部例外はあるものの、どの国防武装特政都市も同じように市庁は4,000m級の巨大建築物なのだ。民間の高高度超高層ビルは500mから2,000mに制限されており、防衛省の国防支部塔も3,500mに抑えられている中で、飛び抜けているので分かりやすい。
ただ、市内にある空港は空中に滑走路を持つものもあり、これだけは例外的に高さ4,000m以上の建築が許されている。
もっと大きいのは官公庁くらいで、さらに飛び抜けて高いので分かりやすい。
今回の観光では、この内の幾つかを回れればいいだろう。呼んでいた自動車も来たので、移動を始めようか。
「皆さん、車が来たのでこれに乗って移動しますよ」
「これの中に乗るの?」
「馬車みたいなものなのか…」
異世界出身の人たちは、やって来た自動車を不思議気にまじまじと見ている。扉が自動で開いた時に驚いて身体を震わせたのが面白かった。
「まずは海上保安庁の第三管区二号総合保安庁舎に向かいます。そこだと民間人も自由に立ち入りして海を眺める事ができますからね」
「仰々しい名前だけど、興味あるわね。早速行きましょう」
「それでは皆さん乗り込みましたね?それじゃあ出発です!」




