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第7i話 和歌山県とロシア人

毎度毎度お待たせしてすいません。これはもう、投稿時期を予告するという最終手段に出なければいけない気がする。いつかみてみんを使って兵器の絵を提供してみたいですね。下手くそですけど。



〜〜〜〜〜和歌山県 ソビエト



「日本はこんな聖地を隠していたとは、なんと度し難い!早急にソビエト連邦の構成国として領有するべきだ!」

「コイツもきっと、偉大なるソ連の一員になる事を望んでいる!さあ、私と共に連邦再建の道を進もうではないか!」


 イサコフスキー家のニトロ化合物こと、父ミハイルさんと、その娘エカテリーナ。消防法の危険物の中でも危険度が上位に存在するこれらは、熱などが加わると自分一人でも暴走してしまう。現に今、ソビエトという地を発見しただけで大興奮して、領土侵略を嬉々として叫んでいる。

 頭痛くなってきたので回想入ります。



〜〜〜〜〜



 日本海に浮かぶ無人島。近年になって正式名称が与えられたその島の名を「ソビエト」と言う。

 10年前くらい昔、僕はネットサーフィンしてたら知ったのだが、日本の無人島の幾つかに一斉に名前がつけられたらしい。

 日本は418の有人島と、6,430の無人島を持っている。六千以上の島々にそれぞれ名前をつけるのはほぼ不可能なのだが、日本政府は「せめて領海の起点となっている島だけでも名前を…!」となったらしい。

 その結果、和歌山県の沖にソビエトが誕生した。


 この事を学校で話題にしたらカチューシャが食いつき、僕はうまく誤魔化そうとしたが無駄だった。なぜ誤魔化すのかは現状で察していただきたい。


 その結果、話がイサコフスキー家に感染し、ついに家長のミハイルさんが立ち上がった。

 ソビエトと名のつく島に是非とも上陸したいと言ってきたのだ。が、僕は勧めなかった。無人島でもあるし、釣り場として有名らしいが初心者には難易度が高い、そして変に興味を持たれるとたまったもんじゃないと思ったからだ。


 最終的に僕は負けた。イサコフスキー家の猛烈なお願い攻撃は、僕の家にウイスキーを持ち込んで事実上の武力侵攻を起こしたり、通学の時にリムジンを使わせようとするまでに及んだのだ。ロシアって自動車産業弱いだろうに…。まあ、僕が折れて、僕が引率役としてソビエト上陸に同行することを条件にさせた。



〜〜〜〜〜



 回想終わり。


「日本はあの島をただの島として扱っているのだろう?ソビエトはソビエトの元で発展されるべきだ。なんなら聖地として讃えてもいい」


 さっきからずっと同じような事ばかりを言っている。ソビエトは向こう側にあるというのに、ただの島をソビエトに編入することしか考えてないのだ。船でここまで運んでくれた漁師さんもめちゃくちゃ困惑している。


「やめてください。そういうのは無しという条件で連れてきたんですから」


 ここまで来るのは大変だった。日本のローカル線に大興奮する三人を連れて何度も電車を乗り換え、見老津駅で降車してしばらく歩き、見老津(みろづ)の漁港で、事前にお願いをしていた漁船を持つ人に、船に乗せてもらって黒ノ沖島まで辿り着いたのだ。


 身も蓋もない事を言うがソビエトとはただの岩礁だ。カチューシャが発展させる云々言ったが冗談ではない!ただ近くに位置する黒ノ沖島からソビエトを眺めるだけと事前に伝えておいたのだが、カチューシャとミハイルさんがどうしても行きたいと駄々をこねるので、漁船の人に船の修理代20万円を握らせて、強引に上陸してもらった。

 岩礁に激突したので、修理代をもう少し増やさなければ…。


 ソビエトの地を踏むためにはどうしても船を降りて海水に使った岩礁を歩かなければならず、靴と靴下がグチョグチョになりながらゆっくりとソビエトに向かっていく。どうせ乾燥したら塩が出てくるのだ。港で洗わなければならないのが非常に億劫である。


 急な岩肌をよじ登り、頂上にたどり着いた僕たちはそこから見える何もない景色を見た。

 僕は虚無を感じ、イサコフスキー家は目を輝かせていた。ちなみにカチューシャのお母さん、エミリアさんは普通に同志だった。


 西の方を見ると、陽が沈みかけていた。僕の所持金と同じような落ち方をしている。現金たくさん持って来といてよかった…。


「もう暗くなりますし、どこかで一泊しましょうか。どこか泊まりたいところはありますか?」

「そうだな。ここはやはり京都の旅館だろう!」


 カチューシャはソビエトの地を撫でたりしてうるさかったが返答はしてくれたので安全確認ができたのだが、一番の問題児であるミハイルさんからの反応が無く、見ると、ミハイルさんがポケットから小型のピッケルを取り出してソビエトを掘っていた。


「ちょっと何してるんですか?!」

「ソ連からの友好の証だ。ソビエトも真のソビエトになれて嬉しいだろう!」


 なんだよ真のソビエトって…。

 ミハイルさんはそう言ってピッケルで掘った穴に純金で作られた鎌と槌をはめ込んだ。ソビエトの砂屑は大事そうにカプセルにしまっている。

 鎌と槌とは共産党のシンボルである。ちなみに僕が一番気に入ってるのはポルトガル共産党の鎌と槌だ。


「・・・そろそろ戻りますよ。気をつけて降りてきてください」


 もう嫌になって来たから早めに切り上げることにした。一家は物乞しげにこっちを見てきたが、痛む良心を振り払って先頭を歩く。


 僕ら四人は船に乗り込み、見老津の港まで戻ってきた。漁船の人にお礼を言い、僕らは夜道を歩き駅まで向かった。漁師さんにはさらに30万を上積みして、嫌がるロシア人たちに靴と靴下を洗わせた。



〜〜〜〜〜見老津駅



「いやー。楽しかったな!」


 岩礁に登って何が楽しいんだ…?僕はソビエトさいこうの同志ではあるが、ここまで来ると僕もついていけない。カチューシャはソビエトで撮った写真をスマホに転送にながら、SNSにあげていた。


「お!電車が来たぞ!」


 時間通りにやってきた電車は四両編成の普通列車。この電車は周参見駅まで向かう。そこからは特急に乗って新大阪まで行って、そこから京都行きに乗り換えて、京都駅まで向かう。


 全部電車で行くと脅威の240分。電車もクソもない。現在18時、到着は22時を超える。


 席に座ってインターネットで旅館の予約を入れる。宿代はミハイルさんが出してくれるらしく、予算は無制限だそうだ。

 予約した旅館は、京都にあるそこそこ高級なところだ。イサコフスキー家の要望で二人部屋を2つとった。僕はカプセルホテルになるだろうけど…。


「同志しな!旅館の予約はできたか?!」

「ええ。こんなやつですよ」


 そう言って僕は目を輝かせるカチューシャに、旅館の画像を出したスマホを見せる。


「おお!これが旅館なのだな!これに泊まれるとは楽しみだ!」


 カチューシャは結構なハイテンションだ。楽しそうだな。それにしても、なぜ部屋を2つに分けたのだろうか?まあいいや。

 ついでに近くのカプセルホテルを探しておく。京都駅は面白い形をしているから、そこに着くのが楽しみだ。



〜〜〜〜〜京都駅



「おお!人が多いし、大きい駅だな!」

「日本の駅は、東京駅もそうだが高層ビルみたいな見た目をしていて面白いな」


 一家は深夜の駅にハイテンションである。確かに深夜の街並みは少し変わって見えてテンションが上がる。かく言う僕も京都の屋台に突っ込んでみたいのだが、この時間に一人で外を出歩いたら即刻お巡りさんのお世話になるので控えておく。


「それじゃあ皆さんはこのバスの6亭先で降りたら近くに宿がありますので、楽しんできてください。僕はあそこのホテルに泊まりますので」

「何言っているんだ。しな君も同じ宿に泊まるんだぞ」

「え?」


 なるほど?僕はミハイルさん一人と母子で2部屋かと思っていたが、僕も含めて二人づつらしい。ちょっと高めの宿代を出してもらったと思えば嬉しい話だろう。しかし、これはつまり僕がミハイルさんと一緒に泊まるということだ。2部屋と頼まれたからそうしたのだが、3部屋取っておくべきだった…。

 ミハイルさんと泊まるとかきっと地獄だぞ。だって友達のお父さんと2人きりで一緒に寝るなんて拷問以外の何でもないからね。


 しかし、そんな不満を漏らすわけにもいかないので大人しくバスに乗る。宿代を出してくれるお詫びにバス代は僕がまとめて交通系ICで払った。


 ただ、気まずい夜さえ別の場所で時間を潰していれば余裕だと思っていたのだが…。

 まさかそれよりもよっぽど恐ろしい事態に陥ろうとは思ってもみなかったのである。



〜〜〜〜〜旅館 ロビー



 高校生の僕がロシア人一家のホテルのチェックインをしているので、受付の人は相当不思議そうな顔をしていた。料金の支払いだけはミハイルさんが懐から取り出した、やけにキラキラしているカードで支払われた。羨ましくなって聞いてみると年会費が17万円とか言われた。高いのか安いのか分からん。

 僕も将来、使わないだろうけどそう言うプレミアムなクレジットカードを持ちたいと思いました。でも、僕の性根的にデビットカードの方を乱用すると思います。ちなみに今現在は現金派。


 部屋の鍵をもらったところでそれを渡そうとしたのだが、ミハイルさんが一つ受け取ると、残りを僕に持たせてきた。

 つまり僕とミハイルさんは別の部屋ということであり、イサコフスキー家と僕の3:1に分かれるという事だと納得して安堵した。どうせ僕の部屋から布団を一人分持っていくのだろう。


 そしてエレベーターで階を上がってそれぞれの部屋に着くと、イサコフスキー家の間で「それじゃあまた明日ね」という会話が交わされたのである。これには僕も困惑したのだが、更なる衝撃が僕を襲った。

 なんとカチューシャのパパとママが部屋に入り、当のカチューシャはもう一つの、僕の持っている鍵の部屋で待っているのだ。


「しな、何をしているんだ。さっさと開けてくれ」

「えっ?あっ、はい。ただいま開けます」


 カチューシャは、さも当然のように僕と同じ部屋に入ってきた。いやー、いいんですかね?

 まあしかし、僕は問題無いのだ。脱衣や就寝を除けばなんら問題なくカチューシャと泊まれる。僕としてはお互いに異性として意識する間柄ではないと認識しているからだ。まあ親も認めた上なのだろうし問題にはならないだろう。


 僕らは部屋の隅に荷物をまとめると、各々がコンビニで買ってきた夕食を冷蔵庫に詰めたりなどした。ちなみに僕は菓子パンとデザートと炭酸ジュースを何本か買ってあるため、ジュースとプリンだけを冷蔵庫に入れた。カチューシャは海苔巻きやらおにぎり系を多く買っていた。

 ちなみに高級な旅館に泊まっておきながらコンビニ飯なのは、もう23時を回っており外食するような気力がなかったからだ。


 それではなぜ僕らが冷蔵庫に食べ物を詰めているかというというーー


「しな。着替えはこれでいいのか?」

「それですね。バスタオルもありませんでしたか?」

「おお、あったぞ。それと、これの着方を教えてくれないか」


 カチューシャが持ち出したのは旅館備え付けの浴衣とバスタオル。つまり、僕らはこれから大浴場に行くのだ。こんな遅くまで風呂がやってるのは助かる。


「浴衣は確か…、まずは羽織って右側から折って反対側も巻き付けたら、帯はこの高さで布をきちんと押さえながら巻いてあげて適当に結べば…。よし、できましたよ」

「おお、これがプロレタリアの浴衣か!しかし、ちょっとブカブカしているな」

「毎度毎度、安物の量産品をプロレタリアって言うのやめません?丈は帯にかけて調節でもすればいいんじゃないですか」


 カチューシャに、今着ている服の上から浴衣を着させてあげた。と言っても僕自身はそんなに詳しいわけでもなく、ちょっとしたうろ覚えだ。浴衣をたたみ直すのに苦戦したが、用意を済ませて部屋を出る。扉を閉じたところでイサコフスキー夫妻もちょうど出てきた。


「よし、バーニャに行くぞ!」

「確かにバーニャに似たものはありますけど、フィンランドのサウナと同じようなものですよ。ロシア人には暑すぎるかもしれません」

「なに、そんな事は問題ない!もう日本に来てから随分と経っているんだ。ととのうもマスターしているぞ!」


 なんと、ミハイルさんは既にサウナーになっていた。10年代後半より日本でも徐々にメディアや芸能界で見かけるようになってきて、近年は一大ブームとして年がら年中帽子を被って半裸で外に寝そべる人をテレビで見る機会が増えている。

 そんなサウナーにミハイルさんはなっており、既に月に一回のレベルで聞いているサウナーの境地も習得しているとのこと。戦慄ものである。


 ちなみに僕はサウナーではない。そもそも温泉になんて行く機会がないからだ。



〜〜〜〜〜脱衣所



「なに?!同志しなは日本人なのに銭湯に行かないのか?!」

「日本人がみんな納豆好きなんてイメージも幻想ですからね…」

「そう…なのかっ!」


 僕は納豆は好きだが、身近に苦手な人は何人かいた。イギリスでもマーマイトが賛否両論なのを見れば明らかだろうが。

 それにしても衝撃を受け過ぎではないだろうか。ちなみにミハイルさんは納豆を液体にしなければ食べられないらしい。もちろんミキサーでだ。僕の方が衝撃を受けたぞ。


 高級旅館とはいえ、温泉はテレビでも見るような形で、一般的な大浴場やサウナ室や、出入り口の近くに水風呂があったりなど普通の温泉って感じだった。

 僕らはさっさと壁に陳列してあるシャワーで身体を洗って、ミハイルさんはさっそくサウナに突入し、僕は露天風呂に向かった。


「あ"〜〜〜〜。はぁ…」


 露天風呂。というか、この風呂場全体を見渡しても僕ら以外には人がおらず、貸切のようになっていた。おかげで気兼ねなく風呂を堪能できるというものだ。

 お湯に身体を包まれる感覚は、露天風呂という新鮮な環境によってさらに明確に感じ取れるようで、途方もない脱力感に襲われる。

 今日一日を振り返り、自分の青春が異常ながらも充実したものになっている事を実感して感慨に耽るのは楽しいものだ。


 新学期も始まって幾分か経った今日この頃。未だに夏の猛暑は見られないものの、外は深夜だというのに随分と暖かくなってきた。夜空はギリギリ夏の大三角形が見えた気がする。


ザバーン


 すぐ隣に誰かが露天風呂に入ってきた。まあミハイルさんなんだが、いきなりで驚いた。


「これぞ裸の付き合いというやつだな」

「そうですね」

「ここは一つ、隠し事は無しにしようじゃないか」


 ミハイルさんの方を見ると、真剣な顔つきになっていた。こりゃ色々聞かれそうだ。


「正直な事を話してもらいたい。私たちは、君が本当に協力してくれるのなら最高のパートナーになると思っている。しかし、残念ながら私は君を信頼できていない。娘はお前を認めているようだがーー。私の言いたい事は分かるだろう?」

「ええ。日本政府に従事している僕が、現在領土問題を抱えるロシア並びに当国の政権転覆に協力する人間なんて信頼する方が難しいものです」


 現在、僕らを含めた日本政府はソビエト・インターナショナルとの協議を進めており、大部分においてソ連として政権を樹立した際の日本の動向というのは確定している。新型発電機や次期主力護衛艦の技術供与などが決まっている。現在は、ソ連の長期持続が可能な産業計画支援策なども議題に上がっており、着々とソビエト連邦復活の時は近づいている。


 ちなみにソビエト・インターナショナルは既にロシア政界や旧ソ連構成国にも浸透しており、もう数年すればソ連を再び立ち上げることができるのだ。ちなみにEUに所属しているバルト三国については、既にEUの盟主ドイツとの協議が行われており、穏便に済ませる計画である。正直、これからのソ連の経済成長を考えると、バルト海への出口がカリーニングラードだけだと限界で、カリーニングラードの譲渡と引き換えにする感じに話が進んでいるのだ。


「そうだ。ソ連は日本からしてみれば、かつての敵国だ。君はその時代を生きていないから若気の至りで衝動的な行動に走っているだけだとも考えられる」

「そうですね。確かに我々はロシアに漬け込んで安全な協力体制を築く事だってできるでしょうね」


 現行のロシア政権は天然資源による順当な経済成長を続けている。ロシアにとって対日関係で重要なのは不凍港と安全保障であり、現在ソビエト・インターナショナルに提示している条件を与えれば、確実にロシアは日本との融和に進むだろう。正直、そっちの方が早くて安全だ。


「それに、君なら日本を捨ててアメリカや中国にだって行ける。そこで君の能力をさらに発揮して大きな待遇を得る事だってできるはずだ。何故しないのか不思議だよ」

「・・・」


 確かに、人材の重視という点においては米国の方が理解度と自由度は高いだろう。ペンタゴンに電撃入局することもできるだろうし、在日の中国共産党員に接触すれば高待遇間違い無しだろう。

 しかし、僕はそんな事は絶対にしない。まあ、愛国心とかあるのだが、どうやって相手に説得しようか…。


「それには…、少し質問で返させてもらいますね。ミハイルさんは愛妻家で、家族2人を深く愛していますよね?」

「ああ。間違いなく私は愛妻家であり、親バカだ」

「では、僕はこう言いましょう。ミハイルさんは頭と性格が良くて、格好良くて、人望も力もを誰よりも多く持っている。ミハイルさんなら苦労せずに、今の奥さんよりも全ての点で優れた女性と結婚することができたでしょう。それなのになぜ、今の奥さんを選んだんですか?」

「それは…」


 結局のところ、僕の出身地が日本だっただけの事なのだ。僕の育った環境が僕を作って、結局それは日本人になる。自分で言うのも難だが、日本は運が良かったのである。まあ、今までの日本の進歩が僕を作ってくれたものなので、日本の頑張りが引き寄せたものなのかもしれない。


「もっと言うと…。我々は君の奥さんよりも美人で気前が良くて家事ができる、年もそこまで変わらない女性を用意した。さあ今すぐに別れて彼女と再婚なさい」

「・・・。無理だな」

「ね?やっぱり賢い人間って極端な合理性を受け入れられないんですよ。僕は海は好きじゃありませんけど日本が好きです。地球は好きじゃありませんけど世界が好きです。人々の生活が文化を作って、その文化が民族を作って、その民族が国を作って、国が国民を作って、それぞれの国民が歴史を作る。その中で僕が好きな歴史が日本とソ連とアメリカとヨーロッパだったんです。それが全てです」


 今ミハイルさんに語ったのが、僕の行動原理の全てだ。僕が頑張る理由は、これからも美しい歴史を守るため。極度な全体主義による覇権は絶対に御免被りたい。というより、僕の考えた最高の世界を作るためという、なんとも人類の敵のような思考なのである。


「確かに納得したよ。私が日本を好きなのも、娘に日本語を教えてやったのも、日本という国に自然と惹かれていたからなのかもしれん。疑っていて悪かったな」

「いえいえ、疑う事は当然ですよ。僕がミハイルさん達を疑わないのは、単に余裕があるからなんですから。カツカツだったら疑ってますよ」


 現在、日本は史上最大規模の経済成長を控えている。これはもはや成功が確定しており、始まれば即座に米国経済をも凌駕する拡大が可能なのだ。その余裕が我々の燃料であり、日本周辺の世界秩序の再構築を推進している。

 僕がなんら一切の革新的技術を持たず、ただただ地理学政治学に精通しているだけの少年ならこんな事は絶対にできない。


「よーし。それじゃあ上がるか」

「そうですね。そろそろのぼせてしまいそうです」


 脱衣所に入る前に水風呂を桶で取って身体を流して、寒がりながら身体を拭く。さっさとプロレタリア浴衣に着替えて、待合場所でカチューシャ達を待つ。


「同志しなはコーヒーとフルーツのどちらにする?」

「そうですね…。フルーツ牛乳にします」

「そうか。疑ったお詫びに、このフルーツ牛乳は私が奢ってあげよう」

「ありがとうございます」


 自販機で冷たい状態で提供されるフルーツ並びにコーヒー牛乳は、お風呂上がりだと美味さが倍増する。

 女性は髪の手入れなど、お風呂上がりのケアが必要なのだろう。結構時間がかかるらしい。スマホを見ると、もう24時を回っていた。


「待たせたな」


 結局、女性組が帰ってきたのは僕らがあがってからら10分程度経った頃だった。カチューシャはきちんと浴衣を着こなすことができていた。



〜〜〜〜〜



 部屋に帰ると、さっそくテレビをつけてご飯を食べた。この時間帯の京都のテレビはどんなものをやっているのか気になったが、時代劇ばかりやっていたためカチューシャが喜んでいた。


「日本のコンビニ飯は結構美味いな。これぞプロレタリアの目指す軽食かもしれん」

「確かに、濃い味付けのものが多いですからいいですよね。雇用創出のためにコンビニの設置でもしてみたらどうですか?」

「だが、ソ連にコンビニを持ってきても、夜になったら店員が酔っ払って運営できなくなるんだよなぁ…」

「無人レジにしたらどうですか?」

「酔っ払いが無人レジを扱えると思うか?」

「ダメそうですね」


 ロシアやソ連はエスニックジョークに事欠かない。

 食事が終わると、デザートを分け合ってから布団を敷く。流石にテーブルを挟んで反対同士に布団を設置することにした。


「それじゃあ電気消しますよ。明日は何時に起きますか?」

「んー。贅沢に9時起きにしよう。アラームは私がかけておくから、心地の良い目覚めを期待するがいい」

「・・・。それじゃあおやすみなさい」

「うむ。おやすみ」



〜〜〜〜〜翌朝



デェェェェン!!!!!


「Урааааааааーー!!」

「?!?!?!」

「サユーズーーー」

「ソ連国家はやめてください!!」

「なんで気持ちよく歌わせてくれないんだ!」

「この曲ができたのが20世紀中盤だから著作権的にグレーなんですよ!」

「ちぇー…」


 カチューシャは悔しがりながらテレビをつけた。もう9時だというのにニュース番組が長々とやっていた。僕も起き上がって布団を簡単に畳んで端に置くと、カチューシャも真似して隣に布団を置いた。


『現在、韓国の首都ソウルのマンション一部屋の物価が日本円にして9,000万円を超える以上など、異常なまでの住宅価格の高騰が続いています。専門家の会見によりますと、一昨年就任した丁大統領の融資規制による不動産市場の制御が失敗し、資産家が不動産を買い漁る状態になっているとのことです』


「・・・こいつぁヤバいな。へいマルクス。韓国がハイパーインフレを起こす可能性は?」

『台湾の半導体市場の拡大で、韓国は外貨獲得に苦戦しています。財政難を誤魔化す為に金融緩和が行われ、運悪く貨幣成長を遂げた場合、世界で初めての金融緩和によるハイパーインフレーションの実例となるでしょう』


 実はモバイル版人工知能マルクスを持ってきていたのだ。というか、この手のニュースって結構前から聞いてて、進学する前も8,000万円超えて騒がれてたんだよな…。不動産バブル崩壊の時も近いな。


「なあしな。韓国がバブル崩壊したらどうなると思う?」

「そうですね…。韓国国民の経済や金融が壊滅に陥るのは確かでしょうし、頼みの綱は通貨スワップになるので、結局は米国の意向で決まりますね」

「その心は?」

「現在、米韓通貨スワップが一時的に延期しましたけど、数ヶ月の先送りだけのものであって、長期的なスワップじゃないんですよ。まあ、米国が今後数年に渡って韓国を面倒見るのか決めかねてるって事です。日本としても日韓通貨スワップは嫌な歴史なので、米国政府から要請が来ない限り韓国経済立て直しのための通貨スワップは行わないでしょうね」

「なるほどなぁ。中国も外貨不足だからなかなか助けてもらえなさそうだな」


 韓国はつくづく大丈夫なのか不安になる。かつては防共の最前線としての立ち位置のおかげで日本もだいぶ恩義はあるのだが、昨今の反日感情を鑑みるに日米も手を焼いている。


「それよりしな。朝食はホテルで食べるんだろう。着替えて早く行こう」

「そうですね。ところで、ミハイルさん達はいつ起きるんでしょうね」


 嫌なシナリオは、もうすでにミハイルさんが起きていて、先に朝食を食べていることだ。流石に申し訳ない。


「父上ならもう帰ってるぞ」

「えっ?」

「仕事が入ったらしくて7時くらいにチェックアウトして新幹線に乗ったそうだぞ。ついさっき連絡が来た」


 ええ…。日曜日に仕事かあ…。京都のお土産を買って帰ろうか。饅頭でいいかな。


「私は朝風呂に入ってくるから、風呂に行く予定が無いならさっさと着替えといてくれ」

「あ、僕も入ります」



〜〜〜〜〜



「旅館なのにバイキング方式なのはちょっと思う所があるぞ」

「知っていますか?日本語には和洋折衷というとっても便利な言葉があるんです。この言葉は幕末の朱子学者が唱えたものなんですけど、今では外国文化と日本文化を混在させる事への免罪符的な役割をしているんです」

「さらっと凄いことを言うな。そんなのブルジョワとプロレタリアの融合みたいじゃないか。多方面から敵意を向けられたりしないのか?」

「少なからず恩恵のあるものですからね。目を瞑りたいんですよ。クレムリンだって帝政ロシアからソ連時代に流用して、今でもロシアの行政機関があるじゃないですか」

「なるほどな。言われてみれば確かにそうだ」


 僕はプレートに軽くサラダを乗せて、コーンスープを取った。

 ちなみに、もう荷物は全部持ってきているので、食べ終わったらとっととチェックアウトする予定だ。


「なんだ?しなは少食だな。そんな事だから体育の授業でいつも最低クラスの成績を取るんだぞ」

「耳が痛いですね…。食べれないもんは食べれないので多めにみてくださいよ…」

「まあいいか。だが、運動会の大縄では足を引っ張るなよ。そろそろ運動会が始まるんだから」

「あ、その件なんですけど、僕は体育大会に出れないんですよね」

「ん?予定でもあるのか」

「はい。大事な予定です」


 カチューシャはあまり深掘りする事なく自分の朝食に手をつけた。カチューシャも人に言う割に食べる人間じゃないようで、パンが2切れとスクランブルエッグだけだった。


 そんな2人が朝食を食べ終わるのは早いもんで、20分で食後のコーヒーも堪能し終わった。僕らはさっさと受付で鍵を返して旅館を後にした。



〜〜〜〜〜



「新幹線の車内はいつ乗っても新鮮だな。シベリア鉄道もこんな感じにしたいものだな。そうだ。日本の北陸新幹線からモスクワまで伸ばさないか!」

「新幹線でも30時間以上かかりますよ。せめて移動時の速度は音速を超えて欲しいので別の手段を考えましょう」

「長距離榴弾砲に人間詰めたら速そうじゃないか!」

「そんなもの使えるか?!」


 疲れの溜まった僕らは寄り道をする事なく自宅へ向かう。帰ったらきっとすぐに寝てしまう事だろう。それにしても一日も離れていないと言うのに地元の空気が懐かしい。

 しかし、明日からの学校が憂鬱である。


「それじゃあ、また明日」

「ああ、父上の分も合わせて礼を言う。わざわざ週末にありがとうな」

「いえ、僕も楽しかったですから」



〜〜〜〜〜1ヶ月後



 さて、今日は我が校の運動会がある日である。正直、学校によって運動祭やら体育大会やら呼称が異なるので統一して欲しいのだ。文化祭のように。

 しかし、今年の僕はそんな行事に一切の関係がない。この報国学園の運動会は夏にやってくる。具体的には七月上旬だ。まだ完全に暑いとは言えない時期に運動会を済ませてしまい、修学旅行や文化祭を文化の秋にやるというのが理由らしい。もちろん僕は運動が大の苦手なので面倒な行事を早めに終わらせられるこのスケジュールは歓迎しているが、無論無いに越した事はない。

 なので僕はこの予定を事前に潰した。日本一大事な予定を突っ込む事で運動会を消滅させたのである。


 その日本一大事な予定とは、官営無人工場設置の準備である。そのため、開会式で選手宣誓が行われているであろう時間に、僕は北九州市の小倉駅に来ていた。無論、新幹線でだ。最近の新幹線に乗る頻度は異常だと思う。


 以前、というか3ヶ月くらい前に国家安全保障会議に出席した翌日、国交相や経産省の中小企業部門の人と会って、官営無人工場について話し合ったのだ。もちろん、頭の中で考えてるだけだったから、徹夜で設計図などをかきまくった。その甲斐あってか、説明はスムーズに進み、すぐにそのプロジェクトの立ち上げが行われたのだ。


 現状で決まっているのは紫川電機という日本というか世界最大級の産業用ロボット製造企業であり、北九州市に本社をおく大企業と協力して、提供可能な工場跡地に実験的かつ実用的な拡張性を持つ無人工場を作るということである。北九州の中小企業団体に官公庁から働きかけて、ある程度の広さの土地を譲渡してもらったのだ。そこに、紫川電機と日本政府の共同支出で建設する。完成予定時期は2年後だ。

 他にも、響灘に設置されている大規模風力発電施設の近隣に、次元解放式発電施設に実験的に設置した真空帯電式大容量蓄電器を用意して、大量に必要とする電力をタダ同然で確保する計画もある。こっちに関してはそこまで大きい設備じゃないので残り数ヶ月程度で設置が完了するだろうし、無人工場の完成までたくさんの電力を蓄えてくれる事だろう。

あれ…?無人工場の話にするつもりだったのに、イサコフスキー家に乗っ取られてる…?

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