第二十四話 神vs地球文明
1万文字のスタンスで行ってると遅くなりがちなのかもしれません。ごめんなさい。
いくぞー!、と意気込んだものの、近くには青色超巨星があり、その重力圏に捕らえられていて結構大変だ。刻一刻と恒星に吸い寄せられている。大気圏外での飛行を想定しているのは30機の四至神だけであり、第一世代の対消滅推進エンジン120基では重力圏からの脱出は叶わず、なんとか周回軌道を維持する速度に僅かに足りない。そもそも何で大気圏内の兵器が真空環境下の超重力圏に捕らえられる結果になるんだ。
そうだ。この恒星を破壊しようかな。質量差は15,000,000,000,000,000,000,000倍だから15ゼタ倍とかいう聞いたことない質量差だけど、2時間くらいあれば重力を霧散させる程度はできるが…。いや、結局は星間ガスでレーダーの精度が下がってしまうだろう。
というわけで、この超巨星に引き寄せられながら、周囲を高速で周回している状態で神と交戦するのは流石に面倒だと思う。ひとまずレーダーがある程度使い物になりそうなので、敵を捕捉でき次第にナイトラジェン弾頭で弾幕を張ろうか。しかし、砲弾の速度は地球大気圏内の音速を基準に測られるのだが、光速である事が望ましい宇宙空間での戦闘において、マッハ1は高速の百万分の一しかない。ナイトラジェン弾頭の爆発直径が10kmあったとしても、全方位を砲撃に晒すには10万kmも離れたら十数億発が必要になる。
しかし、文句たらたらだが戦えない訳ではない。憎神は隠れているつもりなのだろうが、黄泉に装備されている水中用のレーダーが既に捉えている。後は魔法妨害波で大きな動きを止めて飽和攻撃を仕掛ければいい。
「全機、接続解除。射角を確保して射撃体制へ。両舷爆雷投射機は中性粒子レーダーを規格外投射」
黄泉を航空機で上から釣り上げているから射線が大きく遮られる。それを解消するために四至神とP-21の合体を解除して距離を取る。接続が外れると、距離を空けるために小さくない振動が起きた。P-21は大気依存のエンジンだから、もう再び宇宙空間で合体変形する事はできないだろう。
投射された中性粒子レーダーは、ソノブイのように水中各所に散布して、そこから発せられる水を通しやすいニュートリノの振動による分裂によって水中を観測するレーダー本体であり、レーダー網を設置する装置でもあるのだ。今回はそれを応用して、宇宙空間で太陽風による誤差を補強するために各所からレーダーを飛ばして観測を試みているのだ。
「うわっ。結構反動がかかりますね。それよりも離して大丈夫なんですか?この距離の恒星の太陽風?に輸送機が耐えられますか?」
「大体の現代兵器には基本的にABC兵器には直撃しても問題ないような抗堪性を持たせていますので大丈夫でしょう」
P-21の耐熱性能は5万Kくらいだから、青色の超巨星の表面温度よりは全然耐えられる。これぐらいの耐熱性能が無ければ核攻撃で堕とされてしまうからな。
「それで、勝てるんですか?」
「さあ?」
絶対勝てると思うけど、フラグには気をつけなきゃいけない。余裕のよっちゃんと答えた暁には、全ての武器システムがエラーを起こすことだろう。
「さぁ?って何ですか?!余裕です、の一言くらい欲しいですよ!」
「ニダヴェリールの方からこちらは観測できてるでしょうし、ヤバくなったら増援が来ますよ」
ここで、憎神が動いた。レーダー上にもう一つ憎神を示す表示が現れたのだ。恐らく妨害波を回避するために転移したのだろう。しかしこれは既に予測済みの事だ。憎神の行動はこちらのAIが完全に予測しているため、転移のタイミングに合わせてその地点に妨害波を投射できる。正直、これくらいの性能のコンピュータが無ければ神殺しなんて不可能に近い。
「主砲塔、重力特異点弾頭発射よーい!各砲弾の間隔は800kmに設定。規格外射撃、一斉射…撃て!続けて神殺弾頭効力射!」
大和型護衛艦の強さは、潜行可能である点と58cm口径の主砲を装備している点に依存している。58cm幅の砲弾となると砲弾そのものが非常に巨大化し、様々な工夫を凝らした砲弾が作れるのだ。先程発射したブラックホール生成弾なんかがそれに当たる。
神殺弾頭は小型にしやすいため、100mm口径の砲弾や拳銃弾にまでレパートリーが及ぶが、それ以外の砲弾は基本的に大きい方が強いため単純な強さがある。
ブラックホールの地平面はそれだけで空間の観測を困難にさせる。神でさえ自身が知覚した現象を頼りにしているというのなら、効果的だろう。こちらは対岸の事象を計算により予測して、物理学の及ばない空間ですら貫通して観測する。つまり一方的な情報入手ができるという事だ。
しかし、欠点を挙げるとするならば、この艦や現在運用している兵器の全ては大気圏内などの惑星内での戦闘を前提にしている訳であり、現在の兵器で宇宙空間の戦闘で直撃弾を出せるのは実験施設に設置される固定砲台群くらいだろう。攻撃兵器群にワームホール生成装置を付属させるのは正直言って簡単なのだが、パワーバランス的にちょっとアレなのだ。
こんな事ならニダヴェリールに全宇宙火力支援プラットフォームでも作っておけばよかった。
さて、そろそろ連射した砲弾群が到達する頃だろう。妨害波のおかげで観測できていないだろうから、ブラックホールも問題無く生成させられ、相手を封じ込めながら神殺弾頭を叩き込む。最も有効的な戦法だ。
『初弾炸裂、妨害波への想定通りの効果を確認しました。神殺弾頭到達まで0.5。効果確認のため、第二十号機よりF-0を発艦』
「どうなったんですかっ?」
「憎神の周辺にブラックホールを生成して、神殺弾頭を発射しました。範囲内に命中していれば勝ちですね」
「先生、それフラグです!」
「えっ?これもフラグになるの?!」
『殺しますよご主人様』
この戦いで一番の戦犯は僕らしい。僕の作った人工知能にも殺害予告を受けたし、これはキプロス島で優雅な隠居生活を送るべき老体に成り下がった証左だろうか。
しかし、フラグを立ててしまったという事はつまりそういう事なのだろう。そろそろ憎神がピンピンしている姿がF-0で確認できる頃だとーー
『周辺域の高エネルギー反応が消失。憎神、ロストしました』
「え…?まさか死んだ?」
「いやいやいや、そんな事ないでしょう!もしかしたらニダヴェリールとかが襲われてるかもしれませんよ!」
確かにその線はありかもしれない。こちらとの戦いが苦しくなったのなら、簡単に相手に損害を与えられるように、脆弱と思われる本拠地を叩くのは当然のことだ。しかし、転移するにしてもこの艦を中心に妨害波が完全に到達し浸透しているだろうから難しいだろう。
「大丈夫ですよ。もし攻撃を受けたら即座に情報が届きますから。たとえ、ロストフタやニダヴェリールではなく、地球だとしても空間を跳んで伝達されるので」
「ワームホールって凄いご都合主義ですよね。どこへだっていつでも簡単に行けるんですから」
ご都合主義って言い方、なんかやめてほしい。ワームホールもそうだけど無制限にエネルギーを生み出す次元解放式発電もご都合の塊だからな…。
『憎神の存在を確認できず。現在、半径8,000光秒の範囲を常時索敵中』
「う、嘘ですよね先生!まだ憎神を見た事ないんですよ。ボクっ子の憎神を見てないんですよ?!」
「悔しがる所はそこですか…。まあ僕も見てみたかったけど…、グロテスクだったら嫌だな」
『目標の撃破を暫定的に容認。発光信号によりニダヴェリールへの帰還援助を要請します』
宇宙旅行はもう終わりらしい。いや、というか待ってくれ。もう終わりなのか…?たった、たった58cm砲45門の1斉射で色々やらかす神様が終了したのか?!
いや、でも確かに45発の規格外射撃の砲弾が命中したらブリテン島が水没するくらいのエネルギーはあるからな。
ニダヴェリール基地からのワームホールが目の前に開き、懐かしい海が見える。と言っても体感で30分くらいしか経っていないように感じる。結構距離が空いた四至神やP-21もワームホールで回収される。
あっけなく終わると思われたその時、僕らにとって幸運な事態が起こる。あと少しで黄泉が回収されるというところで原子防護膜に衝撃が伝わった。つまりこれは憎神の攻撃なのである。ニダヴェリールからの観測情報が黄泉にも共有されて、憎神の位置がリアルタイムではっきりと分かった。
もちろん、僕と千歳さんは歓喜した。やった、また殺れる、と。もしかしたら人工知能もそう思ったかもしれない。
「先生、ディアバスですよ!まだ生きてますよ!」
「ディアバスって誰ですか?」
「憎神ディアバスですよ!なんで素で忘れてるんですか?!」
「というかテンション高くないですか…?」
「先生も嬉しそうな顔してるので人のこと言えませんよ」
まあ確かに嬉しい。別に憎神が生きている事に対して喜んでいるのだが、何というかスポーツの対戦相手を応援するような感覚だ。
「よーし。先生、撃ちまくっちゃうぞ〜」
「私も魔法が撃ちたいです!外に出て撃ってもいいですか?!」
「いいですよ。後で後部甲板に出ましょーー」
こんなの、完全に神様をオモチャにしている悪人の図である。まあしかし、当の憎神が僕たちに「オモチャになーれ」みたいな事を言ってきてたので、妥当な結果と言えばそうである。
しかしその瞬間、悲劇が起きた。突如空間が爆ぜて一時的に視覚保護のために光量調整がなされたのだ。吟遊詩人風に言えば、突如として超巨星の房に実る黄金の果実のように、宇宙を飲み込み無に帰す泡玉が随所に散りばめられた時、我々が知るはずだった真実すら飲み込んで、儚く自らの居場所をも消し去ってしまったのだ。って感じだろう。
要約すると、馬鹿みたいに派手な爆発のせいで憎神の姿を見ることができなかったのだ。
つまりどういう事か、だって?簡単な事さ。ニダヴェリール軍事基地から反物質凝集弾が大量に投射されて対消滅反応の爆発が到達したのだ。しかも四至神が発射する低速のものではなく、宇宙空間での戦闘を前提とした光速の99.9%の速度で飛翔する大質量反物質凝集弾だ。それが何万発と周辺空間に投射される。もちろん魔法妨害波も今までとは比べ物にならないレベルで施されているので、相手は死ぬ。
「「『・・・・・・』」」
艦内は静寂に包まれた。
〜〜〜〜〜ニダヴェリール基地
誰も、何も反応する事なく、ただワームホールを通過してニダヴェリールの海に着水した。
千歳さんの転移で艦橋から出ようと思っていたが、そんな気力も無いのでトボトボとエレベーターで降りて、58cm三連装砲を回りながら下船した。
「あれっ…?」
「お疲れ、有害鳥獣駆除はどうだった?」
「おかえりなさいお兄ちゃん。意外と早かったね!」
桟橋に降りると、そこには姉さんと薫がいた。ん…?ここら辺一帯には魔法妨害波がかかってるからそんな簡単には来れないはずなんだけど…。聞かない方が幸せかもしれない。アップデートはマルクスに任せよう。
「・・・。というか、なんでそんなに浮かない顔をしているの?憎神を撃破したんでしょう?」
「倒した…。多分倒しました。科学が生命の創造主に勝てることをこの目で見てきました…」
「じゃあ、なんでそんなに落ち込んでるの?こし餡かと思って買った大福が粒餡だった時みたいな顔してるけど」
「そ、そんなに酷い顔してる?」
「せ、先生って粒餡嫌いなんですか?!!」
千歳さんが今まで一番驚いたような顔をしている。いや、別に嫌いってわけじゃないんだけど…。
「先生とは趣味が合うと思ってたのに…。裏切るなんて…!」
「いやいや、別に粒餡が嫌いなわけじゃありませんよっ!ただ、ちょっとこし餡に期待し過ぎていただけなんですよ!」
「まあ私も粒餡よりこし餡の方が好きなんですけどね。自宅であずきを練りまくって砂糖を好きなだけ追加するのが趣味です」
「お兄ちゃんと同じ趣味…!」
砂糖はいくら摂取しても問題無い。その点、砂糖の摂取量を中毒者の間で語り合えるようにした、角砂糖や9gのシュガースティックの発明は賞賛されるべき功績だろう。
「砂糖はどれくらい入れますか?僕はあずき100gにシュガースティック6本です」
「私は9gのシュガースティックを…、やっぱり6本ですね!」
「9gのスティックなんて大さじ一杯分でしょう?よく体を壊さないわね」
「砂糖はエネルギーにしかならないからね。もちろん放置していれば中性脂肪になるだろうが、運動していれば問題無い!」
『砂糖の消化にはいくつかの栄養が必要です。それも同時に摂らなければ、精神が不安定になることがありますよ』
「・・・。でも、あずきとか、餅とかにそういう栄養素が含まれてーー」
「あずきはほとんどが炭水化物だよ、お兄ちゃん…」
『あずきに含まれる、必要な栄養は100gあたり4mg程度です。消化できるんですか?』
「・・・。」
論破された負け組の僕らは実に惨めだった。千歳さんに至っては目が死んでいる。
「高野にしてやられてたのって、もしかして砂糖の過剰摂取が原因……?」
再び静寂が訪れる。フォローの難しい話題を出されても困る。こういう時に助けてくれるのが人工知能だと思うんだが、最近というか昔からマルクスはなかなか僕を助けてくれない。
「どっちも死んだからいいじゃない。それより、教員と生徒がここまで駆け落ちしてると、学園長から解雇を言い渡されるわよ」
「ヒッ!」
教員と生徒の不祥事、しかもそれが新任の若年男性教師で相手は真面目な女子高生。普通に社会的に死ねるのである。昔はそういうのが多かった。多かった…。
しかし、職を失うのは即ち、この異世界での社会的地位を失う事と同義であるのだ。僕は地球でまさに無類の肩書きを持っていたことから、軽くではあるが肩書きの大きさに執着している。国際学園という名門校の教師であるというのはある程度の肩書きであったために気に入っているのだ。馘首は嫌だ…!
「というか、話が逸れたけどどうしてそんなに浮かない顔をしているのよ?ちゃんと倒してきたんじゃないの」
「ええ、倒しましたよ。帰る直前に反物質砲が…」
「反物質砲?四至神のやつじゃ…。あっ」
姉さんは何かに勘付き、申し訳なさそうにもせず面倒から離れるために目を逸らした。僕と目を頑なに合わせようとしなかった。こいつは黒に違いない。
「宇宙戦闘艦がGSTSの判断で戦闘準備をしていたのなら仕方ないとは思うけど…。ヘイ、マルクス。宇宙戦闘艦の参戦要請を出したのは誰?」
『お姉さまでございます』
これはもう黒だな。もはや事象の地平面並みに真っ黒だ。こういう時に言うべき事はそう。
「ダウトォオオ!」
「別に嘘ついてないでしょ。ウノしてるわけでもないのに…」
「こういう時はギルティって言うべきじゃない?」
????!
ダウトってなんだよっ!というか姉さん、ウノってそんなゲームだったっけ…。あぁ??僕は今この世で最も紛らわしい問題に直面しているぞ…!
「お姉ちゃんがボケたらいけないでしょ…。ダウトってゲームとウノは別物なんだから」
「・・・。あれ?落ち込んでる間にカードゲームの話が始まってる?!」
目の光が消えかけていた千歳さんも、話題の之時運動に衝撃を受けたらしい。デフォルトに戻ってきた。
海園一家の名物である話題の之時航行とは、大抵僕が突拍子の無い事を叫び、それにツッコミを入れようとして姉さんが失敗し、それを薫が回収しようとする結果話題が逸れる現象である。
「というか、無断で欠席しまくってた貴女は、明日の放課後に指導室ね!」
「ひぅっ!」
ウノとダウトを間違えた恥ずかしさからか、急に怒り出して、千歳さんに処罰を言い渡した。
「ま、まあそんなに怒らないでくださいよ。全部高野が悪かったんですから」
「あんたは不純異性交遊で学長室に放り込むわよ」
「い、いや待って!僕はきちんと千歳さんを探すという名目で正式に休暇を取ったんですよ?!」
「千歳さん〜?」
「「あっ…」」
勢いで名前呼びしてしまった…。こりゃ死んだな。
「ふ〜ん。そういうことね。しな?」
「は、はい!いや、あのもしかしたら姉さんの勘違いなんてことも…」
今度は姉さんの目の光が消えた。そして薫も目がだんだん虚になってきた。今日が僕の命日か…。
「という事で、あんたへの罰は彼女にしてもらいましょうか」
「え、彼女?」
「アフリカ中部のヴィクトリア大陸直轄湖の淡水をシベリアで凍らせた、バクテリアたっぷりの地味に形がカッコイイ、いたずら用のロックアイスに乗せた私の怒りを食らえぇええ!!」
「アガッ!!ラウンドブリリアントカットがっ…。あう!」
突如姉さんたちの後ろから飛んできた、薄汚れた蛍石のような色をしたダイヤモンド風の結晶体が額に直撃した。そして後ろによろめき尻餅をつくと、服の隙間に砕けた氷の破片が入り込んできた。
「冷たっ!何が起きたんですか?!」
「フッフッフー。2040までの間にヴィクトリア湖で発生した死者、行方不明者の数は26万人にのぼる。その怨霊が詰まりに詰まった水を、シベリアの旧流刑地で最大の死者数を叩き出した収容所周辺の泉で固めた、総計28万人の恨みが籠ったアイスボールだ。私の恨みはそれに匹敵するレベルだぞぉ!」
「その声はカチューシャ?!」
目の前に仁王立ちで現れたのは、ソ連さいこうのお友達であるカチューシャこと、エカテリーナ・イサコフスキーだった。
彼女は僕が高校生の時にスパイとして留学してきて、そこで仲良くなったのがきっかけだ。というより、僕が機密を郵便配達したせいで掴まれた情報を強奪しにやってきたのだから結構昔はやばい奴だったのである。
ご両親が日本好きという事や、工作員として育った過去から日本語が昔から上手かった。というか普通に日本人と変わらないくらい。
現在は、ソビエト社会共同主義国連邦の行政に勤めている。ちなみに彼女は僕の不老薬の被害者第一号なので、僕と同じく見た目が高校生から成長していない。南無三。
「あの先生、一体何が…?」
「そこの小童かぁ!」
「は、はい?!」
「どうやら、しなが異世界で召喚された日本人たちの担任をしているというのは本当らしいな。コイツ高校生の頃は学業そっちのけで色々してたのに笑えるな!だろ、マルクス」
『確かに笑えます』
「で、今は生徒と不純異性交遊か…。お縄につけ変態教師!ベーチェーカーの監督として、この私が直々にシベリア収容所に送ってやる!!」
「なんでですか!そもそもどうしてここにカチューシャが?」
本当に謎である。今は確か中華社会共同主義国の行政指導をしている最中ではなかったのか。
「盟友の危機とあらば駆けつけるものだろう。で、駆けつけてみれば教え子と禁断の関係ぃ?ふざけんなっ!!」
「そ、そんなに怒らなくても…、ほらこの世界には社会主義国の大国がありますよ」
「本当か?!・・・いや、今はその話じゃない」
?!カチューシャが未併合の社会主義国国家に食いつかないなんてどういう事だ?!鎮静剤を致死量までがぶ飲みしたのかもしれない。
「しな。お前とそこの小童には交際関係があるんだよな?」
「そうですが…」
「会って何日だ?」
「まだ一ヶ月は経ってないですけど…」
「私とお前が出会ってもう何年だ?」
「25年は超える付き合いですね」
「じゃあなんでお前は、私じゃなくてそこのパッと出た女と付き合ってるんだよ!!」
まさか…?
「あの、つまりどういうーー?」
「なんで20年間アプローチし続けたのに意味を成さなかったんだよ!!」
「アプローチ…?」
いや待てよ、思い出せ。確かにカチューシャは仲良くしてくれたし、いろんな場所に駆り出されることもあったけどほとんどソ連絡みだし…。
「お前が士官学校に行ってた時も、CIAにビクビクしながら会いに行ったっていうのに、気づいた時には他の女とどっか行ってるし、お前は女たらしの自覚をするべきだ!」
「お、女たらし……」
「あ、あのカチューシャさん…?先生とはどういう関係なんですか…?」
「エカテリーナだ!カチューシャと呼んでいいのは一部の人間だけだぞ!次、私の許可無くその愛称を口にしたのなら貴様の事をマジカル速堕ちヒロインチトリンと呼んでやるからなぁ!!」
「ヒッ!ご、ごめんなさい!」
「・・・」
ヤバい。何故か不機嫌な姉さんと薫に加えて、テンションが急下落した千歳さん。さらにハイテンションでブチ切れてるカチューシャが千歳さんを目の敵にしている。もし僕が一声発しようものなら、バタフライ効果で南極の氷を全て溶かしてしまう勢いが生まれてしまいそうだ…!
マルクスも何も言わないし…。もう、この修羅場を解消することはできないのか…?!僕は好き好んで修羅場を体験している訳ではないんだぞ。押し潰されそうで嫌になる。
誰かこの局面を打開してくれる一手を打ってくれる人はいないのか…。くそっ、こんな事になるんだったら、去年の夏頃に書店で見かけた二股が発覚した時の対処本でも購読しておけばよかった…!
「ハッハッハ!無様だな海園しな!」
「「「?!?!」」」
どこからか子供らしい声が聞こえた。多分男。
只事ではないのだろうが、今はこの修羅場を中断させた英雄である。声の聞こえた方、遥か直上を見上げると変に白い聖衣を纏った少年が宙に浮いていた。
「さっきは散々にやってくれたな。あの時はボクも油断していたけど、お前たちはもうあの兵器から降りているんだ。さあ、第二ラウンドを始めよーー」
「今は盟友の浮気を問いただしている最中なんだ、邪魔をするなぁ!航空攻撃要請!座標直上、攻撃開始!」
僕らが、多分ディアバスであろう少年を視認すると同時に、血の気が天元突破しているカチューシャが行動を起こした。
左手で腰に掛けていた携帯を取って攻撃要請を出すと、右手を高く掲げて、ホルスターから出した拳銃を憎神に向けて引き金を引いた。
銃口からは曳航弾が放たれ、その銃弾が憎神に着弾すると同時に、海の方からマッハ30超で飛来したミサイルが炸裂し、小規模な爆発を起こして憎神を消し去った。一瞬でアイツが憎神だと理解したのだろう。
カッコよ。映画のワンシーンに入れたいね。
「あ"ー!憎神さーんっ!逝かないでっ、逝かないで!!せめてこの修羅場を何とかしてー!!」
対消滅反応の閃光を防いで、爆風が晴れた時にはもう居なかった。ニダヴェリールの固定武装が動かない点を見ると、また死んだのだろう。
こうもぽこぽこ復活されると神殺弾頭に不安が生まれてくる。さっき、宇宙空間用のレーダーで捉えた憎神のエネルギーを確認したのだが、最初の時と帰る時の攻撃でやられたヤツでは大きく差異があった。おそらく、三次元空間に来るにあたり分身体をいくつか用意したのだろう。事例を確認したのなら後は殲滅するだけなので、ニダヴェリールの方で勝手に亜空間レーダーでも焚いて残党を殲滅している頃だろう。
しかし、救世主が消えて、一切の影響なく退場した事を見るに、この修羅場は変わる事なく地獄に直進する事だろう。
「フンッ。部外者が神であろうと何であろうと今の私は機嫌が悪いんだ。一抹の苦しみなく葬ってやった事に感謝するんだな…。さて、話を戻すがーー」
「かっこよかったです!エカテリーナさん!」
「・・・?」
この終わりの見えない修羅場に諦観を見出そうとした時、良い変化が生まれた。さっきまで怒られてビクビクしていた千歳さんの目に光が戻り、カチューシャを賞賛した。今でこそ強気なカチューシャであるが、実は押しに弱いのである。
「な、なんだ貴様。そんなにカッコよかったのか…?」
「はい!どの映画よりもカッコいい1シーンでしたよ!」
「そ、そうか?なかなかいい目を持っているじゃないか。特別に私の事をカーチャと呼ぶ権利を与えよう」
カーチャとはカチューシャと並びエカテリーナの愛称である。ロシア民謡のカチューシャにある通り、基本的にはカチューシャの方がより親しみを持っているそうだが、面倒くさいカチューシャがすぐにカーチャ呼びを許すなんて異常だ。もしかしたらチトリンには親しみを持ちやすい魔力でもあるのだろうか。
『お二人とも見た目は同年代ですけど中身は中年ですし、ご主人様に至っては400歳ですからね。見た目が同じで少し大人びた雰囲気を持ちながら、愛嬌のある性格をコロッと見せる千歳さんのギャップに堕ちてしまうのかもしれません。ご主人様は犯罪の域ですが、エカテリーナさんは独身のキャリアウーマンが姪っ子に向けるような目をしています』
久々に音を出したと思ったらマルクスの的確なツッコミが僕を刺し殺す。言い過ぎではなかろうか?
まあ、カチューシャが千歳さんへの怒気を霧散させたおかげで修羅場はだんだん冷めていった。
「それでカチューシャはどうやってここに来たんですか?」
「カムチャッキーの相転移研究所と、このニダヴェリール基地とやらのワームホール生成装置で妨害波を投射し続けてホールを潜ってきたんだ。そこの姉妹と違って魔王になんてならずに来たぞ」
「え、魔王ってなんですか?!」
そういえば姉さんと薫が魔王だということは秘密だったな。でも、カチューシャまでもよく分かってないものになってなくて良かった…。
「私達はしなと違って強引にこの世界に来たから、魔王になったらしいのよ。よく分かってないけど」
「え!そうだったんですか?!」
「まあ、実害はないから安心してね」
「何事もなくてよかったよ。ところでさっきの航空支援は誰がやったの?」
魔王の話はカチューシャが口を滑らせたんだろうが、姉さんたちに説明は任せるとしよう。
「さっきの爆撃はここの基地のTu-200だぞ」
「なに勝手にうちの兵器システムの攻撃権限獲得してるんですか」
「いいじゃないか。ソ連の兵器システムだってマルクスの権限で動かせるんだし」
マルクスというかGSTSの中枢は僕が管理しており、基本的にGSTSはマルクスによって本来の管轄下より上位の支配ができる。これはAIの暴走を抑止するというより、緊急事態に素早く対応するための工夫である。
つまり、地球に強大な地球外文明が侵攻してきたとしたら、即座に直近の空軍基地より無人で航空機を飛ばして撃破するなどのシナリオを想定しての措置である。
「そうですね…。まあいいですよ。それより向こうの仕事は良かったの?」
「もう私無しで大丈夫だからな。それで同志しな、貴様は私の質問に未だ答えてないのだが?」
「あ?あー。いやね?その僕なりに考えをまとめたんだけど…」
カチューシャの質問というのは、なぜ僕が20年間のアプローチに靡かなかったのかという事だろう。こういう系統の自己分析は苦手だと思うのだが、仕方ない。
「多分だけどね、ほら僕って高校生の頃から変人だったでしょ?」
「まあそうだな」
「へ、変人…。先生って一体何をやらかしたんですか?」
僕は確かに変人だった。学校で資本論を読み、読書感想文に君主論を突っ込むような人間だった。そんな学生は変人か国家転覆を企む奴しかいないだろう。
「で、遊ぶ友達はいても好きな話題を共有できる友達はいなかったわけですよ。でも、僕の秘密を話せて楽しく会話することができるカチューシャは、僕の中で最も理想的な友人だった訳です」
「そうだな、私もお前が一番の友人だ。だが、高校時代に遊ぶ友達なんていたのか…?」
いた。たまにファミレスに行く友達はいた。変人だから友達がいないという偏見はやめて欲しい。
「だから、カチューシャの事を恋愛として見れなかったんだと思います」
「・・・。そうか、分かった。でも、別に今からでも遅くないよな?」
「・・・?何がですか?」
カチューシャがものすごく悪い顔をしている。これはホワイトハウスに落書きを企てた時くらい悪い顔をしている。
「よーし!早速シベリア収容所デートだ!!拒否権は無いぞ変態教師!安心しろ、貴様の職場には私が一言入れといてやる。ヘイ、マルクス!ノヴォシビルスクの執務室にワームホールを開いてくれ!」
「あっ!ちょっと?!」
否応なく腕を引かれ、僕とカチューシャは地球へのゲートを潜ってしまう。
おいマルクス。お前、僕よりカチューシャの方を優先してないか?
これでひと段落ついた…はず。150ptいったので閑話を挟むべきか悩んでます。しかし、これからは地球過去編を進めると思います。
あ、あと。さっき初めて存在を確認した「活動報告」って有名な機能なんですかね?これも手を出そうか迷いますね。と言っても兵器の絵を投下する場所になる未来しか見えない。




