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第二十話 異世界帝戦争国博物館 後編

胸糞回?これ胸糞なのか…?まあいいや。注意喚起だけしておきますね。次回まで続きます。

王国歴史館は別棟になっており、博物館の右翼にあるものだ。博物館は広いため、歩くだけでも疲れる…。杖を召喚して、歩幅を小さくして歩き続ける。


 王国歴史館には、王国誕生からの歴史が遺されている。ロストフタほどの大国が形成された背景というのは気になるものだ。

 王国歴史館は、順路通りに館内を巡って、正史を学ぶ場所のようだ。


 ロストフタ王家の出自は、驚いたことに港湾都市国家だった。本大陸東に位置する、ブルターニュのような出っ張った土地があり、山脈により大陸とは隔たれた環境にあった。世界的な物流の拠点として発展した港湾都市は、王政国家が主流とされる世界政治に参加するために、ロストフタ大公を建てて、都市国家ロストフタ公国を成立させた。


 その後、ロストフタは自身を営利会社のように変えて、本大陸の東海岸の港湾都市国家に進出していき、港湾都市によるロストフタ同君連合を形成した。これにより、東方の国家の物流の半分を牛耳るまでに至った。正にアテナイによるデロス同盟のようだ。


 そこからは、君主制国家の帝国思想に染まり、初めはロストフタ回廊と呼ばれる、同君連合国家同士を結ぶ海岸線領土の割譲を求めて、周辺国家との戦争を始めた。ロストフタ同君連合は人口密集地の集合であり、人的資源もさることながら、港湾都市の強力な財政により軍事力は膨れ上がっていた。


 東海岸に位置する国家は次々と併合され、瞬く間にロストフタの領土は膨れていった。そこからロストフタ同君連合は連邦国家へと姿を変え、さらなる領土拡大に勤しんだのだ。


「面白い歴史ですね。地球にはこんな成り立ちの国家は無かったですよね」

「ええ、確かに都市国家が連邦国家に移行したものは現存していません。しかし、古代には多く存在していましたよ」

「そうなんですか?」

「日本のヤマト王権だって、有力氏族の連合体ですし、古代ローマは都市国家連合が巨大な国家へと発展した例です。さらにデロス同盟というエーゲ海周辺の都市国家200カ国が結んだ同盟もあります。特に珍しいものではないということですね」

「へー。古代の国家っていろいろあったんですね」


 現代においては、先駆国などは都市国家連合のような形になっていると言っても過言ではない。都市部への人口の密集は加速しており、逆に全土が都市化している。

 日本の人口の99%は都市部に住んでいて、それはアメリカやソ連、欧州評議会でも同じ現象が起きている。

 もはや、都市のみで国家が構成されていると言っても過言ではない。そうなるともはや領域国家としての特徴を失っていくのだ。


 例えば国防において、防衛の主眼は領土防衛から都市防衛へと移っている。日本の都市がそのもっともたるものだろう。

 西日本大震災によって政令指定都市から置き換わった、国防武装特政都市がそれに当たる。

 欧州評議会でも同じような都市防衛機構を建設中であり、ポーランド管区のような特殊な都市圏以外は、都市防衛を中核においている。


 インフラも全て都市間に集中しており、都市部以外の領土など無に等しい。都市国家連合の行政府が一元化したようなものだ。

 まあ、それは悪いことではないし、なるべくしてなった結果だと思っている。


「先生は、授業でやってる地政学的観点から見て、ロストフタの事をどう見ますか?」

「そうですね…。まず、誰も取り上げてはいないでしょうけど、人口が莫大です。まず、この世界の民族観は地球とは少し違って、エルフ族や獣人など通常の人間以外にも様々な種族が存在します。そうなると、人種の単位というものは大きく変わります」


 人間族とは、そのまま地球人類のようなホモ・サピエンスの事を指す。エルフ族は学長でしか見たことがないな…。いや、学長はハイエルフとかいう絶滅危惧種だった。獣族は見たことがないや。


「・・・どういう事ですか?」

「地球には人間しかいません。だから、人類の次の単位は肌の色。つまり、第一に人種で人間を区別します。その後、国籍や言語、所属組織、性別や年齢などで区別するんです」

「じゃあ、異世界だとまず始めにエルフ族や人間族で人類を区別する。その後に人種で分けられるという事ですね」

「そうです。そして、言語は共通の日本語。これを踏まえて言える事は、人間族という集団意識が、地球人類より深く、国籍による差別や排斥傾向というのが減少するということです」


 この人種、国籍による差別は大虐殺を生むこともあり得る。この世界では、それが人間族やエルフ族の間で起こり得るだけなのだが…。


「人間族が団結しやすいという事は分かりました。しかし、それがどういう事に繋がるんですか?」

「ヒント。ロストフタの人口構成は98%が人間族です。例えその人間族が元々は異なる国家の国民であり、人種や文化が大きく異なったとしてもです」

「人種が違っても、同じ国の人間同士で団結し合える。ほとんどが人間族…。まさか?!」

「そうです。この世界では、簡単に国家が単一民族国家となり得るのです。アメリカのような多民族国家と中国の漢民族による単一民族国家では、国家としての底力が違います。特にこの底力は戦争に反映されやすいです」

「そうですよね。日中戦争では、中国は日本帝国軍の侵攻に対して粘りましたね。アメリカだったら、サンフランシスコに上陸されただけで反戦運動が激化しそうです」

「単一民族国家は国民の団結力において、政府の管理が行き届きやすいんですよね。そして、単一民族によりもたらされる国家の安定は、戦争の防止にも繋がります」

「なるほど。それに、多民族国家特有の民族による分断という問題点も無いので、良いことずくめですね!」


 そうなのだ。多民族国家よりも単一民族国家の方が良い事尽くしなのだ。まあ、国政や文化によって多民族国家の問題点というのは大きく差異が生じるものでもある。


「そうです。そして、ロストフタの人口2億8千万人という数字は、この世界の文明レベルが19世紀前後だということを考慮すると、その時代の地球のどの列強国家よりも多い人口を持ち、その列強国家と同じように、100年で1.2倍から3倍以上にまで増える可能性があります」


 ちなみに、中国やインドのような人口爆発が起こらないとも限らない。まだ一次産業が基本のこの国が、二次産業に注力しているアースナシア自由帝国の影響を大きく受けた時、国民の生活は劇的に変わり、どのような人口推移が起きるか想像できない。


「まだまだロストフタの人口は増えるとなると、本大陸におけるロストフタ王国の覇権は絶対的なものなんでしょうか?」

「可能性は高いですが、君主制から完全な立憲制に移行するタイミングが、ロストフタ王国のターニングポイントでしょうね。ロストフタの行政は、王政と議会政の半々と言ったところで、貴族による選民意識も強いです。これがどう推移するのかが、見ものですね」


 貴族が政治の中枢にある国家は、文明が進歩するにつれて風化していく。それは地球の現在の国家が証明している事だ。


「帝国博物館、すごかったですね!」

「そうですね。ですが、今日はこれで終わりではありませんよ」

「え?まだあるんですか?」

「実は戦列艦の博物館があるそうなんです。そこにも行きますよ!」

「やったあ!」



〜〜〜〜〜ターゲ大河川 博物館クラック号



 軍艦を停泊させて、それを博物館としたものは幾つかある。日本では戦艦三笠、イギリスではベルファスト、特に艦種は決まってないが、退役した艦船が博物館船として第二の人生を送る。実によいリサイクルだ。


「・・・小さいですね」

「そりゃ戦列艦ですからね。地球にあるものより巨大な160門級戦列艦と言っても、せいぜい70mですからね」

「何が展示されてるんでしょうね?」

「艦砲を見れれば御の字でしょう。見た感じ、カノン砲です。きっとアレもなんちゃって施条砲でしょうね…」


 入場料は安かった。中には誰もいない。人気がないのだろうか?

 橋を渡ると、薄暗い船内が広がっていた。戦列艦は戦列艦だ。木製だし、艦内設備も全くと言っていいほど無い。


「意外と広いですね」

「装甲は薄いですし、艦内機能を動かすためには、満遍なく人員を配備する必要がありますからね」


 戦列艦の時代では、艦砲で敵船を沈める事は不可能だったため、接近戦になりやすかった。そして、接舷したときに白兵戦に持ち込み、それによって決着をつけるのが常識となっていた。

 この船も、船員だけでなく、白兵戦要員を大量に収容する能力もあるのだろう。


「あ、先生見てください!艦砲ですよ!」

「そうですね。この船、カノン砲の装填設備に関しては一級ですね」


 戦列艦の主兵装はカノン砲だ。カノン砲の下にはレールがあり、射撃後は砲を後退させて前から装薬と砲弾を装填するようになっている。

 戦列艦時代の艦砲はだいたい前装式であり、この戦列艦も例に漏れない。しかも、多分なんちゃって施条砲だ。まだ滑腔砲の方が救いがある気がする。ていうか製造難易度が上がってる点では圧倒的に無駄でしかない。


 こういうのを見ていると、ロストフタが魔法で成り立っている国家であるという事を忘れてしまう。学園で何度か見たが、魔法もこの時代の野戦砲並みには火力投射能力がある。それを考慮すれば、魔法を使える人間を乗せる事によって160門以上の火力を発揮できるという事だ。


 カノン砲が両舷に80門ずつ、数段に分けて設置されている。戦列艦は装備してあるカノン砲の数によって階級を定めているのだ。しかし、それに数えられない砲も存在する。


「先生、この砲台はなんですか?短砲身で大口径の砲があるんですけど」

「これは、カロネードと呼ばれる大砲です。地球ではイギリス海軍が採用した砲ですね。このカロネードは近接砲撃専用のもので、基本的に戦列艦の基本スペックからは外されるんです」

「じゃあこの160門級も、本当の砲の搭載数はもっと多いんですか?」

「そうですね。と言ってもカロネード砲の搭載するは少ないんです。なのでせいぜい6門くらい追加されるくらいでしょう」




「先生、上部甲板に登りましょう!レストランがあるみたいですよ!」

「そうなんですか?せっかくですしそこで昼食を済ませましょうか」


 軋んで嫌な音が出る木の階段を登った先には、本当にレストランがあり、たくさんの人が席に着いていた。なるほど、船内に人がいなかったのは、お昼時だったからか。


 二人席に腰掛けると、ウェイターさんが注文表とメニューを持って来た。


「ようこそお越しくださいました。当レストランではロストフタでも高名なシェフの作る料理が、船上で召し上がれる高級店となっております」


 ・・・はっ?


 受け取ったメニューに一通り目を通して戦慄する。た、高すぎるっ!!


「ではごゆっくり」


 ウェイターが去ったところで、財布を確認する。


「先生、大丈夫なんですか?ここ、高級店って…」

「だ、大丈夫です。いざとなれば金塊をマスドライバーで空輸しますので…」


 そうだ。僕、いやニダヴェリールには練金装置がある。金塊の10tや2,000t簡単に用意してやるさ…!


「好きなものを頼んでくれて大丈夫ですよ。現金はギリギリ足りますから」

「先生!目の焦点が合ってません!しっかりしてください!」

「僕はこの、ドラゴンのタンステーキを選びましたよ。ドリンクは100%マンゴージュースです」

「先生!しっかりしてください!先生ぇ!」


 僕の財布を心配してくれるだなんて、なんて優しい生徒なんだ。でも、心配しなくていいんだよ。黄金はいっぱいあるからね…!


「いいんですよ、星河さん。今、ニダヴェリールから黄金の装飾品を搭載した専用空輸機がマスドライバーから射出されました。それを売れば、現金なんていくらでも手に入るんです。だから、好きなのを選んでいいんですよ」

「わ、分かりました…。では、この天然子供リヴァイアサンの活き造りと、ココアを…」


 子供リヴァイアサンってなんだよ?!ね、値段が他のメニューより頭一つ高いぞ…!

 まあいい…。全部合わせてもギリギリ足りる!

 くそッ。地球だったらお金なんて使い切れないほどあるのに…!


 テーブルに備え付けられているベルを鳴らす。先程のウェイターがやって来た。


「レッドドラゴンのタンステーキと、天然子供リヴァイアサンの活き造り、マンゴージュースとココアをお願いします」

「かしこまりました。少々お待ちください」


 ウェイターは、さっさと注文をとると他の客のところへと向かった。

 結構この店は繁盛している。しかし、博物館の入場料を取られた上でこのレストランに来たがる客が多くいるという事は、それほど美味しいということだろう。


 しかし、高級店と言うだけあって客は皆、身なりが良くマナーもしっかりしている。

 こちらも服装は別に問題ないし、僕に関してはマナーも大丈夫なのだが、星河さんはこの雰囲気に押されていた。


「落ち着いてください星河さん。マナーなんて気にしなくても大丈夫ですよ。僕が全部教えてあげますから」

「先生、私がこのレストランに行こうって誘ったせいで…、ごめんなさい」

「星河さんが気にする必要はありませんよ。エスコートするのは男性の役目ですし、僕の資産はこの世界で誰よりも多いはずです。今はただ、現金の持ち合わせが少ないだけですから」

「なら、お言葉に甘えさせていただきます。今日はご馳走になります」

「そうです。謝罪よりも感謝の方が、言われたら嬉しいものなんですよ」

「はい!」


 そんな事を話していると、ワゴンをひいたウェイターがやって来た。注文した料理が来たのだ。


 地球の高級店と遜色無いほどの出来具合だ。唾液が止まらない。


「美味しそうですね、先生」

「そうですね。ではいただきましょうか」

「「いただきます」」



〜〜〜〜〜



 美味しかった。160門級戦列艦は、高級レストランとしての後世を送っているんだな。まあ、設備が少ない戦列艦だからこそできた芸当だろうが。


 僕たちは博物館船を後にして、公園の広場のベンチに並んで腰をかけていた。

 単に疲れたのだ。二つの博物館を回ったのだから当然か…。


 ちなみに空輸された黄金の装飾品は、近くの百貨店の店主に安値で売りつけた。僕は現金をすぐに手に入れられ、相手は払った現金以上の価値のあるものを手に入れることができた。正にウィンウィンだ。


 二人で公園の噴水を眺めていると、ふと星河さんが話しかけてきた。


「先生、今日はありがとうございました。人生で一番幸せな時間だったと思います」

「そ、そんなにですか…?」

「はい。だって、先生にエスコートしてもらって、色々な博物館を回って、とっても美味しいご飯をご馳走してくれたんです。あのリヴァイアサン、今までで一番美味しかったですよ」

「そうですか。なら良かったです」


 そう言ってもらえるなら、今回星河さんを連れ出した意味はあっただろう。


「先生は、どうして私にそこまでしてくれるんですか…?」

「どうしてとは?」

「だって、おかしいじゃないですか!一生徒のために所持金をほとんど使い切るなんて人、どこにもいませんよ!」

「つまり、僕は星河さんに対してお金を使い過ぎだということかい?」

「そういう事です」


 確かに初期の現金はほとんど使い切ったが、そこまで多かったわけではない。そもそも、窓ガラスの修理代で給料のほとんどが天引きされているのが問題なのだ。


「詳しくは言えませんけど、僕の前回の給料は大幅に天引きされたものだったんです」

「天引きって…。先生、何をやらかしたんですか?」

「やらかした、って…。まあ間違いじゃないんですけど。とにかく、その天引きで8割減ってしまったんですよね。つまり、僕の手元にあったのは、その2割がさらに消費されて残った、わずか十数%にしか満たないお金だったんです。それに、食事などは僕も食べたわけですし、実質半分です。つまり、僕は星河さんに給料の数%しか使ってないんですよ」

「それでも使い過ぎです!」


 そうかなあ…。うーん、どうしたら納得してくれるだろうか?


「バブル期って、知ってますか?」

「バブルですか?確か、第二次世界大戦後の高度経済成長の後に起こった、異常な資産の高騰などですよね?」

「そう。そのバブルです。この時代、会社の上司は部下を何人も引き連れて高級レストランに行き、百万円ポンっと払ってさらに別の高級料亭に行く、などの暴挙を行っていたそうです」

「百万円を軽々と?!」

「それに比べたら、今回のは合計で12万円程度。ね?特別大きなお金じゃないんですよ」


 よし。このままバブル景気の常識を持たせて、金銭感覚を狂わせるぞ!適当に日本円を持ち出して感覚を惑わせるんだ!


「で、でも私に6万円だなんて、返せませんよ」

「・・・出世払いしてくれればいいじゃないですか」

「えっ?」

「星河さんが解放されて、その能力を持って世界に貢献する。それが地球であっても、この異世界であっても、そこは既に僕の領域です。そこで貴女が良い事をすれば、間接的に僕も助かるんですから、そんな感じで返してくれればいいんですよ」


 星河さんが世に飛び立つ前には、異世界を支配しておかないとな。


「・・・分かりました。でも先生、私は結局質問に答えてもらっていません」

「え、そうですか?」

「どうして、私だけ特別扱いなんですか?って事です」

「そうですね…。やっぱり教師としての責任感?でしょうか」

「どうしてそんなに曖昧なんですか…」

「何がともあれ、僕の考える教師像の範疇を超えない限りは、全力で星河さんを助けますよ」

「ミサイル防衛網を生徒のために使えるんだったら、ほとんど何でもしてくれるじゃないですか」

「そうですね。他国への核爆撃以外ならできそうです」


 核爆撃以外。つまり通常の戦略爆撃くらいならできるぞ。けど、先駆国は無しにしてほしいな…。


「先生。お願いがあるんですけど、いいですか?」

「はい。何でしょうか?」

「プライベートの時だけでいいので、私のことを名前で呼んでくれませんか?」

「そ、それって…!」


 な、何を言われたんだ?!教師として、これは許容される範疇なのか?!しかし、そんな悲しそうな顔で懇願されたら断りづらい!


「・・・分かりました。少しだけですからね。千歳さん」

「っ!」


 別に、女性を名前呼びするのに慣れていないわけじゃない。カチューシャだって愛称で呼んでるわけだし…。しかし、なんでこんなに小っ恥ずかしくなるんだ?!

 ちょっと待て、千歳さん!君が顔を赤くするんじゃない!僕が許されざる事をしているみたいになるだろう!


 お互いに恥ずかしさから、何も話すことが出来ず。ただ、多過ぎる人の波を眺めていた。


「・・・先生。もし、私が強大な敵を前に何も出来ずにいたら、先生は逃げるんのを手伝ってくれますか?・・・いえ、一緒に逃げてくれますか…?」


 しばらくすると、決意を決めたかのような顔つきで、僕にそんな事を聞いてきた。


「一緒に逃げる、ですか…」


 多分これは、千歳さんの率直な気持ちなんだろう。どうしようもなくて、逃げることしかできない問題に、彼女は今直面しているのだろう。


「もし逃げたら、ずっとそれに怯えながら生きていくしかないんですよね?」

「・・・はい」

「なら僕は逃げませんよ」

「・・・っ!!そう、ですか…」


 急に悲痛な顔を浮かべた。しまった!回答を間違えたか?!


「先生、今日はありがとうございました。ちょっと用事があるので、ここで解散しましょう」

「あっ、待ってください!星河さん!!」


 星河さんは裏路地に駆け込んで行った…。


 待ってくれ!ただ僕は、その敵に立ち向かってみせるということを伝えたいだけなんだ!



〜〜〜〜〜裏路地



 どうして私、逃げてるの!先生は、私を助けてくれるって言ってたのに!!


 先生は、私を助けようとしてくれて、私にだけ特別優しくて、私を博物館に連れて行ってくれて、大切な秘密も教えてくれて!


 どうしてこんなに胸が苦しいの!今すぐにでも先生のもとに戻りたい!!


 ああ、わかった。実は私、チョロインだったんだな…。


 そっか…。私、先生のことがーー。


「よう、千歳。そんなおしゃれしてどうしたんだ?」

「っ!!」


 なんで…、なんでっ、なんでアイツの声がするのよ?!

 う…そ。嘘よ、なんで今になって…。こんなの嘘に決まってる!


「なんで雅行がここに…!」

「なんでも何も、回復したからに決まってるだろ。お前こそ、そんな格好で今まで何してたんだよ」


 最悪よ…。なんでこんな時に限って…。もう少しくらい夢を見せてくれてもいいじゃない…。


「ひ、一人で買い物をしてたのよ」

「おいおい、俺の前で嘘が通ると思ってるのか?別にお前の記憶を全部奪ってもいいんだぞ?」


 ダメ!先生のこと、忘れたくない…!


「ごめんなさい!話します。全部話しますから!」

「チッ…。初めからそうしとけばいいんだよ。いちいち反抗しやがって。で、何してたんだ?」


 過去が見えるのに、なんでわざわざ私に聞くの…?そうか…。先生、高野に妨害波をかけてるんですね。だから高次の能力が使えないんだ。それなら、まだ希望が…。


「担任の海園先生と、街を歩いたんです…」

「どんなところに行ったんだ?」

「は、博物館です…」

「ふーん…。博物館ね」


 なんとか誤魔化せねば…。先生に害意が向かないようにしないと!


「俺とのデートより楽しかったか?」

「?! え、えと…。な、なんでそんな事聞くの…?」

「チッ!わーったよ。あー腹立つ」

「ひっ…」


 どうしよう!先生が高野の標的になっちゃう!どうにかして避けないと!


「ご、ごめんなさい、雅行。別にそういうことじゃーー」

「いちいちうっせんだよ!!」

「きゃっ!」


 どうして私はこんな目にばかり…。


「あの先公、千歳のことエロい目で見てたから腹立ってたんだよな〜」

「そ、そんなことは!」

「最近調子乗らないけど、そろそろ治りそうだし?ちょっくらソイツ()るか」

「えっ…」


 先生が、殺される…?そんなの、イヤ…。どうしたらいいの…。


「待って雅行!考え直して!」

「なんだようっせーな。なんでダメなんだよ」


 言い訳を考えないと!高野が納得するような理由を!


「先生は魔王を倒しているのよ!雅行でも倒せるかどうか!」

「神の寵愛がねぇ奴なんかに負けるかよ。生まれてきた事を後悔させながら殺してやる」

「そんなのダメ!!」


 思わず大声で言ってしまった…。


「なんか変だと思ったら、そういうことだったか。お前、先公のことが好きなんだろ」

「そ、そんな、こと…」

「あー!腹立つ!!人の彼女に手を出すとか、人間として最低だな。どうやって殺してやろうか…。そうだ、いいこと思いついたぜ」


 なんて恐ろしい目でこっちを見るの…。


「お前が先公を殺せ」

「はっ…?」


 今、なんて、言ったの…?私が、先生を、殺す…?どうしてそんな残酷なことが…。


「考えてもみろ!大好きな先公を自分の手で殺せるんだぜ?大好きあの人が俺に殺されるか、自分が終わらせるか。そんなの、答えは一つだよなぁ?」

「あ、ぁぁ…」

「どうした?俺に無様に殺される先生が見たいか?」

「・・・・・・・・・」


 ・・・・・・ごめんなさい先生。本当に、ごめんなさい…。


「期限は4日だ。それまでにやらなかったら俺がやる」



〜〜〜〜〜



 なんで高野と星河さんが接触しているんだ!!


「おい!GSTS!なぜ高野の監視を怠った!」

『怠ったわけではありません。方向感覚の操作によって対象を誘導し、接近しないようにさせていました。偶然にも星河さんの逃走ルートが衝突したのです』

「クソッ!人目なんて気にしていられるか!AH-82 攻撃ヘリ召喚!最高速度で向かえ!市街地での全火器の使用制限を強制解除!!」


 急いでドアに飛び乗り、離陸した。可変エンジンが下を向き、最大出力でジェットを吹き上げる。メインローターの回転を最高に達し、上昇に強いGがかかる。


 周辺の人は離れていたが、何人か吹き飛ばされているようだ。申し訳ないが僕は行かせてもらう。


 待っていてください星河さん!今助けに!


『星河さんの反応が消えました!』

「なんだって?!」


 あと、50mのところで、GSTSから悲痛な音声が飛んできた。あとちょっと…、あとちょっとだったのに…!いや、落ち着け。転移して逃げたのかもしれない!


「魔法や瞬間移動の痕跡は?!」

『それが、ありません。完全に存在が消滅しています』


 何が起きているというのだ!


『高野のみとの接触を行いますか?』

「そうだな。どこに行ったかわかるかもしれん」


 まさかこんなところで対峙する事になるとはな。まあいい、腹を括って突撃しよう。


 メインローターが収縮し、狭い裏路地に機体を着陸させる。ゆっくりと降りて、高野と対峙する。見れば見るほど腹が立ってくるな。


「あれ〜?人の彼女に手を出した変態鬼畜教師じゃ〜ん。何しにきたの〜?」


 こいつ、明らかに煽ってるな。いつか10倍にして返してやるからな。


「星河さんはどこに行ったんですか?」

「チッ。無視かよ。アイツの事なんて知らねーよ」


 これ以上の話し合いは不毛だな。さっさと退散しよう。


「おい待て!逃げるつもりかよ!」

「何か用でもあるんですか?」


 なんだコイツ。無視して行こうか。


「夜道には気をつけろよ。それと、刀にもな」

「どういう意味だ」

「別に、そのままの意味だよ。じゃあな」


 意味ありげな言葉だけ残すと、高野は去っていった。

しな「今回ちらっと出てきたマスドライバー。これは僕が高校一年生の終業式の時に、先生の話を聞き流しながらマスドライバーの事を考えていたら思いついた、革新的なマスドライバーなんです。何が革新的かというと、発射機のレールの形ですね。当時、SF作品などでのマスドライバーと言えば、スキージャンプ台のように水平のレールが天に伸びる方式でした。

 しかし、僕の考えたマスドライバーは違います。チンアナゴなんです。垂直にレールが伸び、曲線を描いて水平になる、そんな形です。これを思いついた時はSF作家になろうかと本気で考えました。え?『何が革新的だ。垂直発射方式のマスドライバーなんて当時から考えられてただろう』ですって?


 このチンアナゴ方式のマスドライバー。見た目がダサいという点を除けば、人類の発展を助ける最高の装置になるんです。まず、所要面積が少ないため少ないスペースで建設できるということ。そしてこの利点は、マスドライバーを回転させる事に役立ちます。回転させてどうなるのか…?それはレールが水平になるまでに存在する曲線が関係しています。

 昔に一般的だったマスドライバーは、発射後の軌道を変えることができません。しかし、上空に向けて曲がっているレールから、好きなタイミングでレールから分離させれば、射出体は自由な軌道を選択することができます。

 さらに、このマスドライバーの用途は、宇宙空間に物資を輸送するだけではありません。水平から水平に近い角度で射出すれば、長距離の空輸が可能なのです。空港の滑走路に向けて、縦に長いマスドライバーを回転させ、レールからの分離ポイントを水平に設定すれば、第一宇宙速度スレスレまで加速された荷物は空を滑空し、一瞬で目的地まで運ばれるのです。惑星内での空輸から、宇宙空間への物資運搬までこなせる。省スペースのチンアナゴ方式マスドライバー。各国際空港に一台どうですか?ちなみに、2026年にこの方式のマスドライバーが北九州空港に建設されました。北九州工業地帯が近くにあったおかげで、経済効果は毎年1兆円を超える結果になりましたよ」

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