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第十九話 異世界帝戦争国博物館 前編

軟膏の使い方、注意してくださいね。

皮膚表面がパッカリ切れてしまって(リストカットなどで)、血が出てきた時、軟膏を大量に塗りたくると血が止まらなくなります。

「切り傷などに効く」などと言っている軟膏ですが、深すぎる切り傷には塗っちゃダメですね。

「今日の地球地政学の授業はここまで!帰りのホームルームは省略しますので、帰り挨拶をお願いします」

「起立!礼!」

「「「ありがとうございました」」」


 この勇者組の座学カリキュラムはある程度の裁量を学園長から貰っている。お陰で僕の理想の授業を行うことができている。


 地球に帰さないのかという疑問も出てくるだろうが、この子たちにとっては異世界に残留することもメリットにある部分があるため、もう少しこの世界に慣れさせてから決断させようと思う。

 せっかく常人には体験できない経験をしているのだ。未来ある若者の選択肢は多い方がなお良い。


 以前は禁止されていた学問である地政学だが、異世界での処世術を学ばせるためにもこの世界で応用可能な点があるため、地政学を学ばせている。

 国家情勢や民族意識、諸国間の関係などに対しての多角的な視点を持たせることが、安全保障の十分でないこの異世界で賢く生きる手助けになると確信している。


「星河さん。この後予定ありますか?」


 星河さんの最初のアプローチから4日経った。今日は午前中で授業が終わるので、今日も誘ってみようと思う。


 星河さんはまるで何かを待っていたように、教室から出る準備を終えた後その場で突っ立っていたので話しかけやすかった。


「はい。大丈夫ですよ!」


 元気よく返された。これは…。僕からの誘いを待っていたと解釈していいのだろうか?


「荷物を置いて着替えてくるので、校門で待っていてください」

「分かりました」


 最近の星河さんは目の死に具合が軽減されている。高野に無精力剤を摂取させたのが功をなしたのだろう。観測しているが、二人の接触は極端に減っている。不自然な具合にならないように薬の強さは調整したので、単なる体調不良と片付けられるものだろう。

 とにかく良い傾向だ。このまま信頼を得るだけでなく、影ながら負担を軽減させてあげることで、自己的な回復力もつけていってもらいたい。


 今日はどうしようかな。ここには確か帝国戦争博物館があったはずだからそこに行ってみるのもアリかもしれない。僕もミリオタだし、星河さんもミリオタだからね。確かこの首都に一箇所と、河川に戦列艦の博物館があるはずだ。ちょっと楽しみだ。


 帝国戦争博物館と言えばシャーロットの事を思い出すな。シャーロットは今でも元気だろうか…。 

 それにカチューシャは元気にしているだろうか?最近は中華社会共同主義国をソビエト連邦の飛び地として編入しようと躍起になっていたな。一国社会主義論者じゃなかったっけ…?

 ・・・マリアはどうでもいいや。ハードワークでくたばるほどヤワじゃないからな。


「お待たせしました!先生」


 そんな事を考えていると後ろの方から声がかかった。星河さんが来たようだ。後ろを振り返り確認するとーー


「・・・似合ってますね」

「そ、そうですか?ならよかったです!」


 僕だって、格好を整えた女性にかける言葉くらい持っている。


 星河さんは白いワンピースを着ていた。長い髪を一つに結んでいて、とても似合っている。思わず見惚れてしまった。


「先生は真っ白なワイシャウトとネクタイと黒のベストと黒のスラックス。・・・ただの学生じゃないですか!それに長袖で暑くないんですか?」

「僕の正装はこれなんです。長袖は好きなだけですよ」


 まあ確かに学生っぽいな。


「ところで先生。さっちまで他の女子たちの事考えてましたよね?」

「そ、それがどうかしたんですか…?」


 なぜバレた?!


「先生。これはデートです。他の女性のことを考えるのはタブーです」

「何を言っているんですか?」


 彼氏持ちの貴女がデートとか言いますか?!


「私の方がおかしいみたいに言わないでください。いいですか?男と女が一緒に行動したらそれはもうデートなんです。先生って恋愛経験ないんですね」


 前にも同じようなこと言われたな…。もうこのパターン分かっちゃったぞ。先生恋愛経験ないんですね、なんて言っておきながら自分もそんな経験なくて、それでもアドバンテージを取りたいがために他人から聞いた知識を用いて相手を翻弄しようとしているんだな。


 全てを見切った僕に怖いものなどない!いや、なんで僕の考えが見透されたのか分からない。これは怖い。


「それで、なんで僕が女性のことを考えていると分かったんですか?」

「それは女の勘ですよ。ちなみに誰のことを考えていたんですか?」

「地球にいる学友や知り合いのことです」

「えっ。先生って女性しか学校の友達いないんですか?!」

「失礼な。男友達くらい何人かいますよ」

「ちなみに女性の名前はなんて言うんですか?」

「カチューシャです」

「ほうほう。外人さんなんですーー」

「それとマリアとシャーロットです」

「複数いるんですね…。顔写真とかありますか?」

「・・・。これですね」


 携帯端末にあったちょうどいい写真を選択して見せる。この写真は士官学校時代に長期休暇でヨーロッパ旅行をした時の写真だ。ヴァチカンのサン・ピエトロ大聖堂前で集合写真を撮ってもらった時のものだ。

 この写真には僕、カチューシャ、マリア、シャーロットが揃っている。


「(うわぁ。美人さんばっかりだわ。カチューシャさんは完全に先生にほの字だわ。マリアさんはよくわからないけど、シャーロットさんは時間の問題そうね…。手強い敵がいっぱいいそうだわ。・・・えっ?)」

「せ、先生…?この写真、2023年って25年前の写真なのに、どうして先生の容姿が全然変わってないんですか…?」

「・・・・・・」


 不老というのは別に隠してるわけではないけど、問い詰められると回答に困るな…。


 僕はそっと不老薬を召喚し、星河さんの前に差し出す。


「カプセル剤?なんですかこれ?」

「歳を取らなくなる薬です。僕が高校三年生の時に作ったんです」

「えっ、不老って事ですか?!」

「実年齢400歳越えてますからね。飲みますか?」


 是非とも星河さんには不老薬を飲んで欲しい。長生きして欲しいからね。


「そんなことサラッと言わないでくださいよ!てことは先生は江戸時代生まれだったってことですよね?!あれ?でも高校三年生って…。あれ??」

「極秘ですけど、日本の造船所はちょっと特殊なんです。官営造船所、正式名称は時空間特異遅刻性造船兵器廠といい、この工場の中では時間の流れが加速されます」

「時間の流れを加速?!」

「そうですね。具体的には50倍くらいには加速させていましたよ。なので、六年で三百年近く経過した計算です。僕もその中で八年近く過ごしたので400歳越えたんですよね」

「裏の世界では、そんなに恐ろしいことが起きていたんですね…。というか、四百年間何をしていたんですか?」


 何をしていたか…。色々やっていたな。技術を進めて兵器を作っていたり、運動をやったり。杖術が使えるのはそのせいだったりする。


「色々してましたよ。兵器作りを中心にリフレッシュのために運動をしたりしてました」

「そうなんですか。すごいですね。ところで、先生は地球に帰りたいですか?」

「そうですね。いつかは帰りたいとは思っていますが、急いては事を仕損じる。今すぐとは考えてないですね。この世界を支配してから帰ってもいいと思ってます」

「支配って…。一教師がそんなことできるんですか…?」

「忘れましたか?僕は国際連邦秩序維持会会長ですよ?先駆国の行政には浸透しています」

「え?本当に会長なんですか?!」


 どうやら僕の肩書きを信じていないらしい。まあ確かに世界のトップに立つような人間がいるなんて誰も信じないよな。


「信じてなかったんですね…。まあいいでしょう、地球に帰ったら証明するためにローマ教皇と各国首脳に合わせてあげます」

「いえいえ!結構です!」

「そうですか…。さて、そろそろ行きましょうか。今日はこの国の博物館に行ってみましょう」


 そうして僕らは学園の正門前の大通りを歩き始めた。身長差は無いため、側から見ても僕らが教師と学生の関係だとは分からないだろう。


 今もきちんと対魔法時空間干渉波を投射している。星河さんもそれは気づいているらしく、いつもより明るい顔をしている。


「博物館とかあるんですね。博物館って二十世紀からのものが多いので、どんなのか気になりますね」


 確かに。世界的に有名な博物館は二十世紀代初頭から二十一世紀にかけてのものだ。この世界の文明に近い十九世紀や十八世紀に建てられたものを僕は知らない。十八世紀と言えば江戸時代だ。そんな時代に博物館という方が違和感があるだろう。


「この世界は、召喚人からの文化の持ち込みが盛んそうですからね。自身の文明観というのも少し違うのかも知れません」

「なるほど。今の生活よりはより良くなると分かっているからこそ、今の生活を遺しておこうとしているんですね」

「その通り。これは文明人の義務だと言う人も多いですね。過去の過ちを未来に伝えるためにも、そういうことは必須だと」

「先生は未来に伝えるべき過去の過ちってなんだと思いますか?」

「そうですね。僕は暴走したメディアを過ちとしたいですね」

「メディアってニュースとか新聞とかのですか?」

「そうです。今でこそ単なる情報媒体ですが、二十一世紀初頭は酷いものでした。それぞれの新聞社や番組が思想を持ち、国民を洗脳させんとするかのように、一方的に批判を持ち込み民意を煽動していたんです」

「そんな事が起きていたんですか…?」

「これは第二次世界大戦直前の日本にもあった現象です。第三次世界大戦前にはこの問題は解決していたんですが、無責任な偏見報道は2030年前半まで続きましたね」

「末恐ろしいですね」


 実はこのメディアの問題。解決したのは僕だったりする。新聞社潰すと脅して、担当者には説教までして説得したのだ。あの頃は本当に骨が折れた…。


「ところで星河さんは帰りたいですか?地球」


 ちょっと暗い話になったので、気分転換として質問してみる。


「・・・帰りたくないですね」


 効果は反面。星河さんはとても暗い顔をしだした。これは申し訳ないな。


 それにしても、地球によっぽど嫌なものがあるんだろう。しかし、帰りたくないのであれば、僕の目的と反してしまうではないか。


「どうして嫌だか、教えてもらえませんか?」

「私、お祖父様の道場で子供の頃から育てられたんです。ある意味育児放棄ですよね…。それで、お祖父様は内に厳しく、外に優しい人間で、私には理不尽なくらい厳しいんです。親も頼れないし、先生も助けてくれなくて…。そんな所に帰りたくないなって…」


 絶句した。彼女がそんな過去を背負っていたなんて…。僕はなんとかして励まそうとしたが、なんの言葉も浮かばなかった。GSTSも答えを出してくれない。


 しかし、僕に話してくれたのは大きな前進だ。今話してくれたことが全てじゃないと思うけど、彼女の悩みの一片でも知れたのなら大きな収穫だ。


 僕らはただ横並びに、人の多い大通りの真ん中を歩いている。星河さんの歩幅が少し小さくなった。僕はそれに合わせる。


「高野とは道場で出会いました。お祖父様の前で猫を被っていて、お祖父様が頭を下げる形で無理矢理付き合わされたんです。私が何度嫌だと訴えても取り付く島もありませんでした」

「高野は私と付き合い始めて豹変しました。私も最初の頃は真面目だったのでそこまで嫌ではなかったんですけど、段々と暴力を振るうようになってきて、それで誰にも助けてもらえなくて…」

「っ!!」


 しかし、星河さんが今話したのが全てではない気がする。仮に今話した事だけが真実だとしたら、もうとっくに解決できている事案だ。話していない内容の中に、星河さんの弱みの核心があるのだろう。


 世界が平和になっても、こういう小さな地獄というのはどんなに文明が発達しても防げないものなのだろう。


 しかし、星河さん。君だけは絶対に救おう。何故だかわからないが、心の底からそう思うよ。四至神による防衛網を放棄して、100機全てを君のために回せるくらいには本気だ。こういう気持ちをなんて呼ぶのだろうか?庇護欲かな?


「安心してください星河さん。今は担任の先生がいます。知ってますか?担任の先生は、受け持ちの生徒のためには、世界のミサイル防衛網をその生徒のために振るうことも厭わないんですよ」

「先生って教員免許持ってないでしょ?」

「・・・なんでそう思ったんですか?」

「だって、そんな事言ってくれる先生なんて今まで見た事ないですから…」


 僕は彼女の頭をポンポンと叩く。身長差がそれほど無いため、ちょっと酷い絵面になった…。


「せ、先生…」

「何がともあれ、信じてないかも知れませんが、僕は地球では国家権力が複数個集まったような存在です。それに、この世界に来て魔王を瞬殺できる力も手に入れました。貴女の担任は無敵です。どんな敵が来ても守ってあげますよ」

「…っ!」

「まあ、事情があるなら無理には聞きません。けど、これだけは忘れないでください。貴女はいつでも助けてもらえる立場にいるんです。そして、少なくとも僕は、貴女の幸せを願っているということを」

「・・・・・・」


 いつか恐れている本当の理由を、話してくれるようになるその日まで、僕はこの世界で教師を頑張ろうと思う。まあ、このデートは教師の範疇を超えていると思うが…。


「さて、帝国博物館まであと少しですよ。これからは観光を楽しみましょう」

「・・・そうですね!」



〜〜〜〜〜ロストフタ帝国戦争博物館



 ロストフタ帝国戦争博物館は大きい。ロンドンの帝国戦争博物館よりも大きく、エジプトの考古学博物館くらいの大きさがある。

 大理石で作られた宮殿のような建造物は、ギリシアの古代神殿などを彷彿とさせる。


 ロストフタ帝国戦争博物館は、ロストフタ成立からの歴史が全て遺されている。

 ロストフタ帝国はそもそもロストフタ皇帝に戴く5つの国家から形成される連邦国家であり、国土、市場規模からしても世界トップレベルの国家なのである。そのため、世界各国との交流が盛んであり、本大陸における覇権国家と言っても過言ではない。

 人口は2億8,000万人と、時代を考えれば中国並みの人口を持っていると言えるだろう。国土はオーストラリア大陸ほどで、本大陸の東側に面している。

 周辺諸国もロストフタ王国国王の親族が統治している王国が多く、魔法国家同士で親密な関係になっているそうだ。


 蛇足になるが、本大陸西側に位置するアースナシア自由帝国は、科学を推進する文明国家の中でも最大の規模を誇る社会主義国家だ。人口は1億人、国土はロストフタより少し大きい。

 召喚人の影響で産業革命が起きており、本国だけでなく、労働力を求めて世界に進出している。


 近年転移してきたパラディナン独立連邦とは、どの国も良好な関係を結んでおり、そこから見てもこの世界は比較的平和だとわかる。しかし、パラディナン独立連邦はこの世界においてモンロー主義をとっているようで、国交を結んではいるが、先進的な技術の流出や工業製品の輸出を禁止しているそうだ。少なくとも馬鹿な国ではないと思う。


 それに比べて僕はどうだろうか?

 魔族との緩衝地帯に軍事基地を置いたのはひとまず良しとして、ミガルズに駐在基地を建てようとしたり、艦隊を派遣して砲艦外交。ミガルズを王国から共和国に変えて、学園では地球と同じ技術や授業を行なっている。

 はっきり言おう。クズだと。


「先生、なんか落ち込んでませんか?」

「そうですね。まだ見ぬパラディナン独立連邦とどうやってマウントを取り合おうか迷っていました」

「パラディナン独立連邦が嫌いなんですか?」

「嫌いじゃないけど、彼の国の国力が少々羨ましくてですね…」

「羨ましい…?」


 ソ連より巨大な国土に、欧州評議会よりも多い人口、羨ましいだろう。こんなの作ろうとしたらアフリカ大陸で超国家にするしかない。


「彼の国は、どの先駆国よりも巨大な国土と人口を持っているんです。大陸が一つになった超国家。素晴らしいロマンだと思いませんか?」

「たしかに、ロマンだと思いますけど…。嫉妬するのは違う気がします」

「そうですかね?」

「だって、日本の方がカッコいいじゃないですか!2700年の歴史を持つ、世界最強の単一民族国家ですよ!」


 たしかにそうだ。パラディナンもロマンだけど、日本もロマンでは負けていないな!


「そうですね!目を覚ましてくれてありがとうございます!あ、ようやく窓口まで来ましたね」

「この列長かったですね」


 平日の午後だというのに、この博物館は人が多い。人口も3億人近くいるため、首都の人口も700万人と多いのが原因だ。この首都ロストフタは、土木技術と情報インフラの限界から、今の首都の規模が限界だが、その制限が無くなっていけば、あと100年もしたら関東首都圏を超える人口を抱える大都市になるだろう。

 100年後にはロストフタの人口は10億を突破しているだろうが…。正直に言って僕は魔法国家の拡張性と成長能力を知らない。だから、人口や市場が中国規模になったとして、経済や軍事の面で覇権国家となる事ができるのかが予測できないのだ。国際学園で魔法のことを学んでみようか…。


「うっわ。入場料金高いですね」

「国際学園という職は、他と比べても志願倍率が高いことから分かる通り給金は低くないので、この程度の出費は痛くも痒くも…。ある…」

「ええ!大丈夫なんですか?!」


 食堂の窓ガラスを割ったときの修理代が給料から天引きされているのだ。ちくしょう!


「大丈夫でしょう。食べ物に困ったら副担任の彼女らに泣きつきますから」

「えぇ…」

「別に学長に泣きついてもいいんですけどね!」

「・・・」


 ドヤ顔で言ったら引かれた。


 入場ゲートまで入ると、構内を僅かに覗く事ができた。中は人で溢れかえって、豪華な装飾が施された照明によって、ひどく明るかった。


「さて、入りましょうか」

「は、はいっ」


 入って早々に目にしたのは、巨大な世界地図だった。様々な色で分けられた国と大陸を眺めて、ミガルズが無事に共和制になっていることを確認した。ちゃんとロストフタ王国に正式に承認されたということだろう。


「先生ってミガルズから来たんですよね?」

「ええ。実は、南大陸のこの部分を国際連邦の領土だとミガルズから正式に承認させていましてね、こちらにニダヴェリール国際連邦異界派遣無人基地が建設されているんですよ」

「え!そうだったんですか?!」

「と言っても、僕が魔王討伐の報酬としてその土地の領域を要求して、勝手に無人基地を建てただけなんですけどね」

「無人基地ってどんなのなんですか?」

「無人基地と言っても、一つの都市みたいなものです。整備された交通インフラに、居住区から食糧生産プラント、工業地帯に軍事基地といった感じです」


 居住区は慎ましやかだが、軍事基地に至っては世界最大規模の軍港や滑走路を保有しているんだよな。この異世界の軍事全てを司るわけだから、当然それなりの能力にはなってくる。


「へー。先生一人で作ったんですか?」

「はい。一から鉱石を採掘して建設することから始めました。僕の使う兵器は全てニダヴェリール産です。自分の能力で出す事もできるのは教えたと思いますが、能力には頼らないようにしてるんですよ」

「今度、ニダヴェリールに行ってみてもいいですか?」

「もちろんいいですよ」


 順路に沿って博物館を回る。初めに目にした展示物は、前装式のカノン砲だ。

 このカノン砲は、現在でもロストフタ陸軍で主力として運用されている野戦砲の一つだそうだ。横に鉛の砲弾も展示されている。


「おお!砲弾が丸いぞ!」

「初めて見ました!持ってみていいですかね!」

「いいですよ。これは触れられる展示物らしいですね」


 星河さんは楽しそうに鉛の砲弾を持ち上げて遊んでいる。ちゃんと楽しんでくれて素直に安心している。


「先生、このカノン砲は施条砲ですね。6条右回りです」

「そうなんですか。施条砲ですか…。えっ?施条砲?!前装式の施条砲で何も施されていない球形弾?!」


 おかしい。普通、前装式施条砲はライットシステムなどあるのだが、絶対に出っ張りを設けた円錐形の砲弾なのだ。

 ライフリングを活用するためには、プリチェット弾や、四斤山砲の砲弾のようにライフリングにそった出っ張りを施さなければ、砲弾に回転がかからないはずなのだが…。本当に意味があるのか…?


「どれどれ…。この砲は、300年以上昔に実用化された先進的なライフリングシステムを施したカノン砲です。340年前、召喚人が持ち込んだ見聞を元にライフリングを施すと、同じ砲でも15%の射程向上が確認されたので、現代でも変わらず運用されています。だそうですよ」

「・・・」


 施条砲にしたら、射程は2倍近くに伸びるはずなんだけどな…。歪な歴史になってるな。


「先生。教えてあげたらどうですか?江戸時代末期には日本でも導入されていた技術ですよ。ロストフタが可哀想です」

「そうですね。いつか、ロストフタ政府と会談するときにでも教えてあげます」


 僕らは、哀れなロストフタの野戦砲を後にして、次の展示場所へと向かった。


 次にあったのは歩兵銃だ。これはマスケットであり、雷管式だ。簡単に言えば、火縄銃から縄を取ったものだ。


「わあ!マスケット銃だ!先生、マスケット銃ですよ!」

「知ってますか?マスケットという単語単体で銃の意味があるので、マスケットだけでいいんですよ」

「へー。そうなんですね。それより、洋式小銃の、この木製のストックがいい味出してますよね」

「そうですね。現代は銃の外殻はプラスチックなどですが、木製のもいいですよね。特にこのすらっとした細長い銃身がいい…。そうだ!今度買いましょう!」

「えっ?」

「ガンスミスに頼んで、旭日旗の意匠を施したロングバレルの小銃を作ってもらうんです。設計図と合金を提供して、現代の12.7mm弾を発砲可能なものを作ってもらいましょう!」

「良いですね!やりましょう!」

「制作費用は、技術提供で払いましょう。そしたら歪な兵器の歴史を修正できるかもしれませんし」

「なるほど。それならウィンウィンですね!」


 やらなければいけない事は色々あるが、良い目標を立てられたと思う。ストックにボックスマガジンを取り付けられるようにして、後装式の直動式ボルトアクションライフルにしてもらおう。


「見てください先生!このマスケット銃、試射できるそうですよ!」


 行列ができていて、なんのコーナーだか気になっていたが、どうやら軍用小銃の射撃が体験できるらしい。僕もやってみたいな。


「あの列に並びますか…?」

「そういう事なら任せてください。先生」


 星河さんは自信満々そうに答えると、列の最前列まで歩いて行った。


 満面の笑みで戻ってくると、博物館の係員も連れて来ていた。


「国際学園の教師様でしょうか?」

「は、はい。そうですけど」


 係員さんがそう聞いてきた。証明するために、教員バッチを見せる。国際学園は、弁護士みたいなバッチを付けるようになっているのだ。理由は、面倒事を防止するためらしい。


「国際学園の教師様でしたら問題ありません!さあ、どうぞこちらへ!」


 係員さんは僕らを連れて射撃場まで連れて行ってくれた。


「どうぞ、お好きな銃をお使いください」


 空いている射撃場を使わせてくれるそうだ。なぜこのような対応になったんだ?


「国際学園の教師が研究のために、軍用の小銃を使いたいって事を伝えたの」


 星河さんがたね明かしをしてくれた。なるほどな、僕より頭良いんじゃないか?


 係員さんも好意的だし、お言葉に甘えて教師の特権というものを行使しようと思う。


 壁に立て掛けられているマスケットから適当に一つ選び、撃鉄と引き金の動作を確認する。


「先生、なんか手慣れてますね。経験があるんですか?」


 僕が選んだものの隣のマスケットを手に取った星河さんは、珍しそうにいろんな方向からマスケットを眺めている。


「銃は多分ほとんど扱えますよ。研究の合間を見て射撃にハマってた時期がありましてね。ひどい時は拳銃を乱射しながら論文書いてましたよ」

「射撃しながら論文書くって…」


 箱に入っている、丸薬みないな装薬を手に取り、銃口から入れ込む。そのあと押し込み棒を銃口に入れると、力いっぱい突っ込んだ。


「ちょ、ちょっと何やってるんですか?!」


 係員さんが僕の行動に驚いて、制止しようとしてきた。


「ジャム防止ですよ。この射撃場の装薬、備え付けなんでしょう?長く変な場所で保管されてて湿ってるので、雷管の爆発が伝わらない可能性がありますよ。砕いて、火門に少し装薬を流し込んで、完全な燃焼をしようとしているんです」

「な、なるほど…。さすが国際学園の教師様ですね!」


 円錐形の弾丸は一番歪みがないものを選んで、銃口から装填して押し込み棒で入れ込む。

 星河さんも僕に倣って、弾丸の装填まで終わらせていた。


「星河さん。この次は撃鉄を少し上げて、この雷管を入れ込んでください。そしたらさらに撃鉄を上げれば射撃準備が完了です」

「はい。・・・。こうですか?」

「そうです。あとは引き金を引けば撃てますよ」


 肩と胴体の付け根の辺りに木製のストックを当てて、20m先の的に狙いを定め、そして引き金を引いた。


 星河さんは、射撃の反動をものともせず、構えた時の状態でいた。弾丸は的の外側にかろうじて当たったと言ったところだった。


「難しいですねこれ…」

「いえいえ、初めてでマスケットでこれだけの精度だったら大したものですよ」


 本当にそうだ。初めてだったろうに20m先の的に当てるだなんて容易じゃない。

 さて、今度は僕の番だ。


「先生はもちろん、あの一番遠い的に当てれるんですよね?」


 一番遠い的は、50m先のやつだ。まあ楽勝だな。


「別にいいです、よっ」


 返事と同時に、銃を持った右手を真っ直ぐ伸ばして、すぐに撃った。反動で30度ほど銃口が上を向く。


 係員さんが走って的を確認しに行った。


「すごいですよ!ど真ん中に命中しています!」

「え!先生すごいです!」


 フッ。僕にかかればこんな事は造作もない。集弾性が悪いなら、装薬の形を変えて極端に偏差を操る事で擬似的に集弾性を向上させれば良いのだ。


「素晴らしい体験をありがとうございました。是非とも学園の教育に活かさせてもらいますね」

「いえいえ、御力にられたのならば大変光栄な事です」

「ありがとうございました」


 係員さんに礼を言うと、射撃場を後にして、次の展示である王国歴史館へと向かった。

早いうちにあと2話くらい投稿できると思います。胸糞回なので早足で行きたいんですよね。

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