第十八話 入学式
メインヒロイン(予定)がようやく登場です。
ーーー」
「以上で、学園長の祝辞を終わります!」
ロストフタ国際学園高等部生徒会会長のナーシャさんが進行役を務めて、国際学園合同入学式は恙無く進行している。
ロストフタ国際学園は、小学校の初等部、中学校の中等部、高校の高等部、大学の最高部、というように4つに別れているのだが、今回の入学式は4部門合同ということでものすごい人数にのぼっている。
僕らは教師なので、会場の中心にある生徒、保護者席から少し離れた教員席に兄弟で腰掛けている。
学長の祝辞は主に、生徒の進路について話していた。入学式といっても新入生は初等部のちびっ子たちだけで、中等部や高等部はそのまま移っているだけだから、暇そうにしている。
昨日の学長は…、もう忘れよう。それがいい。
次は新入生代表挨拶だ。召喚人の一人が代表して行うらしい。僕の教え子になる相手だ、よく観察しておこう。
そう考えていると、代表生が壇上に上がった。上がってきたのは、黒髪長髪の女性であり、たしかに日本から召喚された人間だと思った。
ロストフタは、日本から学生をクラスで召喚し、大量の召喚人を保有している。僕がここまで来て、わざわざ教師になった目的は、彼らを連れ帰るためなのだ。
彼女は壇上からこちらを振り返った瞬間、僕の中で衝撃が走った。
こ、好みの顔であったのだ。・・・いや、今はそんなことはどうでもいい。彼女、相当目が死んでいる。それに、学長よりも強い!
僕も見る目はある。観察眼は相当なものだと自負しているからこそ衝撃的なのだ。魔王をパーティで倒したユイシア学長、それを上回るということは、単騎でも魔王を討伐可能な力を持っているのだ。日本人にもそういう人間はいるんだな…。
死んでいる目は、うまく隠しているのだろう。だが、僕には分かる。あれは人生に絶望しきっている目だ。なにせ、何度か見たことあるから分かるんだ。
軍人にはああいう人間が少なくない。今は少ないと思うが、昔は多かったのを覚えている。米陸軍しか見たことはないが、大体いるのは無人航空機部隊だ。
無人機を操縦する人は、間接的でも一方的な殺人を強いられるのだ。そして、無人航空機部隊は特に要人殺害や空対空戦闘などの機会が多く、殺人を多くしている人間が多いのだ。
彼女の場合、原因や具体的なことは分からないが、とても酷い経験を受けたことは確かだな。僕が彼女の教師でよかったよ。我ながら恥ずかしいが、救ってやらねばという使命感が芽生えてきた。
彼女の名前は星河千歳というらしい。よーし。覚悟してろよ。GSTSの徹底カウンセリングで人生のどん底から引き上げてやるからな。
GSTSでカウンセリングなんてさせた事ないから、式の途中ではあるがコッソリと端末を操作してGSTSに指令を送る。10分もすれば完璧なカウンセリングマニュアルが出来上がる事だろう。
そんなことを考えてるうちに、生徒代表挨拶は終わったようだ。
生徒はそれぞれ退会し、各々の教室に向かった。
教師は、入学式会場の後片付けをするのだが、我々はクラスを受け持っているのでそれが免除された。なので、今から召喚人たちのクラスに向かう。
ちなみに、新しいクラスなので引き継ぎなどは行われず、入学式が始まる前に授業カリキュラムなどは説明を受けている。
「どんなクラスか楽しみですね」
「教員免許なんて持ってないのだけれど、大丈夫かしら…」
「お兄ちゃんがいるなら大丈夫でしょ。それに日本の高校生だよ。きっとちゃんとしてるって」
そう話していると、教室の前に着いた。外からでも分かるくらいガヤガヤしている。聞き耳を立てると、やれどんな教師が来るのか、やれ夢の異世界学園生活が、などと話題に上がっている。
深呼吸をして気を引き締め直す。初対面の印象が重要なのだ。
レイランサー大型自動拳銃に模擬弾を詰めたマガジンを挿入する。レイランサー大型自動拳銃は.60口径(15.24mm)のマグナム弾を、マッハ3で打ち出す強力な軍用拳銃だ。
スライドさせて薬室に弾を込めて、撃鉄を引いてシングルアクション射撃の準備を完了する。
「おはようございまーす」
元気のいい挨拶とともに、教室の扉を勢いよく開ける。そうして落ちてくる黒板消しを、ノールックで掲げたレイランサーで撃ち抜く。
バーンという射撃音が教室内に鳴り響き、水を打ったように静まりかえる。弾け飛んだ黒板消しは、後ろで薫が魔法でキャッチした。
黒板消しを見ると、白い粉で充満していた。黒板が薄汚れているので、僕らが来るまでの間必死こいて黒板消しにチョークの粉を溜めていたのだろう。
「皆さんおはよう」
「おはようございまーす」
姉さんと薫が遅れて入ってきて挨拶する。教室は日本の学校と同じような雰囲気で、木目の床に黒板、椅子などもご愛嬌だ。
「ちょっと待て!なんで異世界に銃があるんだよ?!」
「あれってレイランサーじゃないか!」
「知ってるのか、あれ!地球にあるやつなのか?!」
クラスが騒がしくなったな。ちなみに現代の主流はカートリッジレス弾なのだ。よって薬莢などは出ない。2020年代になると兵器もエコを叫ぶようになってきたからな。
いつかはこのレイランサーとかで異世界の、ダンジョン?迷宮?かなんかを攻略してみたいな。あればの話だけど。
「さて、皆さん。改めておはようございます。早速ですが…。犯人挙手!」
教壇に立ち、両端に姉さんと薫がつく。配置に着いたところで犯人を問い詰める。
「はいせんせー。すいませーん」
手を挙げたのは、金髪でガラの悪い男だった。なんだコイツ。皇国民に相応しくないな。異世界に置いていってやろうか。
「確か君は、高野雅行くんだったね」
名簿と座席表で名前を確認する。なんだかコイツ、強そうで強くない…?よく分からないな。
試しに拳銃を高野に向ける。
「ちょっ、先生?!」
「冗談ですよ。反省しているんだったら問題ありません。以後このような事がないように」
「魔力による防御壁が高野くんの周りに展開されたわね。ただ、色々と違和感が多いわ。魔力の出どころが分からないし」
姉さんが小声でこっそりと報告してくれた。魔力か…。異世界のフシギパワーが厄介だな。
『4次元空間との接続を確認しました。高次元生命体からの干渉だと推察されます』
軍用通信端末から小さい音声が流れる。なるほど…。高次元生命体か…。人類はそれを神や異星人と呼ぶことが多い。SF作品の中では4次元空間に住まう住人や、宇宙を管理する神として扱われる。この世界の召喚人は召喚される際に神と接触すると言われているし、4次元空間にいる高次元生命体が神ということで間違い無いだろう。
これが神か!いいぞ!高野が神と接触しているという可能性が生まれた!星河さんのカウンセリングが終わったら高野と接触するのもアリだな。不服だけど。
「君達の担任となった僕ら3人の自己紹介をしようと思います。まずは予備知識から、僕ら3人も地球からの召喚人で、兄妹の関係にあります」
「先生たちも地球からの召喚人なんだ!」
「姉妹は美人だな!狙ってもいいか!」
「俺姉さんの方だな!」
ああ?今聞き捨てならない文章が聞こえたのだが、・・・まあいい。無視だ無視。
「まず私から。私の名前は海園青海。地球では海上自衛隊に勤めていたわ。これからはみんなの副担任よ。仲良くしてくれると嬉しいわ」
「私は末っ子の海園薫です。副担任を勤めます。特に言う事はありません」
それでいいのか妹よ…。
「そして、担任が僕。海園しなだ。防衛省に勤務していた。魔法以外の事ならなんでも聞いてくれ。機密指定された事以外ならなんでも答えてあげるから」
防衛省勤務も嘘ではない。ただ、米国国防総省や国際連邦にも勤めているだけだ。
「防衛省ってエリートじゃねえか。すげぇな」
「どうせ下っ端でしょ」
そんな事ねーよ。
「でもどうして拳銃なんて持ってるんだ?」
「そういうスキルだろ。誰かステータス鑑定してみろよ」
「いや、それが出来ねぇんだよ。レベル差があり過ぎんのかな〜」
ステータス鑑定?ああ、召喚人なら誰でも持ってるスキルか。いいな、僕も欲しい。
でも見れないそうだ。何?レベル差?それが関係しているとか…。レベルなんて概念聞いたことないぞ。
「え、てことはあの銃でたくさん魔物を倒してるってこと?」
魔物を倒すとレベルが上がるのか。ゲームと一緒だな。だけど身体能力は上昇しないし、どれだけ敵を倒したかの指標として機能してそうだ。
「魔物でしたら、魔王の軍勢を殲滅した事がありましたね。実は僕たちはちょっと特殊で、ステータス鑑定やアイテムボックスと言ったスキルを持ってないんですよ」
「え!そうなの!っていうか魔王の軍勢を殲滅したってなに?!」
「皆さんはご存知でないですか?ミガルズの召喚人です」
「ミガルズってことは…、召喚当日に魔王を倒したっていう、あの?!」
「歴代最強の召喚人?!」
お、いい感じで盛り上がってるじゃないか。でもこれ以上うるさくなるのもごめんだから、そろそろ切り上げよう。
「さて、自己紹介も終わったところでホームルームに移行します。全ての授業、まあ、魔法科の授業以外の座学全般は僕ら担任で請け負うことになっています。なので、机の引き出しにあるその教材は回収します」
「左の列から順番に前に持ってきてね」
姉さんの指示に従って、続々と大量の教材を持ってくる。これらは全て、数学などの座学に使われる教材であることは確認済みだ。
教材を用意してくれた人には申し訳ないので、歴史研究の参考書物としてありがたく保管させてもらう。すでに、薫が魔法で輸送ヘリまで教材を転送させている。
「それでは、このタブレットを支給していきます。これからは、このタブレットが皆さんの教材となります」
日本の高校では、教材がタブレットと教科書で半々に別れていた。タブレットを珍しそうにみている限り、きっと教科書を使っている学校だったのだろう。
「このタブレットは、無線給電システムをとっているので、バッテリーの心配はしなくて大丈夫です。スマホと同じような感覚でお使いください」
「先生!てことはスマホも充電できるんですか?!」
「ええ。大丈夫ですよ。後で型を教えてください。充電器を作りますので」
「やったー!聴きたい音楽がまた聴ける!」
「先生作れるの?!」
軍用の電力供給車両にも搭載されている無線給電装置を召喚して、教室の隅に置く。USBポートもあるので、スマホの充電くらい許してやろう。
「はい静かにー。これからタブレットの説明をするわよー」
姉さんが声をかける。タブレットの説明は姉さんに任せてあるのだ。
「このタブレットはどれも現代の最新型スマートフォンと同等以上の性能のパーツで構成されているわ。SNSのアプリ機能も搭載してあるから、そういう備え付けられているものは自由に使ってもらって結構よ」
「お、スゲェ!地球のやつより便利じゃねえか!」
「これ普通に売れるレベルだよ!どうやったらこんなもの作れるの」
「先生のスキルで作ったんですかー?」
「スキルでは作ってませんよ。工場で生産しました」
「先生のスキルって工場を召喚するんですか?」
「あながち間違いではないですね」
「それでどうやって魔王を倒すんだよ…」
〜〜〜〜〜HR終了後
ホームルームでは主にタブレットの配布と説明、そして授業方針などを説明した。
基本的に静かに耳を傾けてくれて、恙無く進める事ができた。
「はーい。それではホームルームを終了します。あ、そうそう。星河さんはこの後来るように」
「分かりました」
今日の学校は午前中に終了したため、食堂や学生寮に戻るなど、生徒が様々な行動をしている中で、星河さんを呼び止めることに成功する。
「何か用ですか?先生」
「少し、クラス全体の雰囲気を聞きたいんです。担任になったので、そういう調査は必要でしょう?」
「・・・そうですね。わかりました」
「それじゃあ早速出かけましょうか。美味しいコーヒーのお店を昨日見つけたんですよ」
「え?ちょっと待ってください。雅行に確認しないと」
そう言うと、星河さんは高野のところへ小走りで向かった。
聞き耳を立てていると、衝撃的な会話が聞こえてきた。
「雅行。今から先生とお茶しに行くんだけど…」
「ああ?知るかよ。勝手にしてろ」
「で、でも、後で先生を殴ったりしないよね…?」
「うるっせえな!!いちいち話しかけてくんじゃねえよ!」
高野と話す星河さんはとても怯えていた。なるほど、彼氏のDVだな。これでカウンセリングの方向性も分かったぞ。
しかし、高野が星河さんの彼氏という事実に、僕は不思議と腹が立っていた。
「お待たせしました。行きましょう」
「そうですね。行きましょうか」
ちなみに星河さんのカウンセリングの事は姉妹には話してある。
〜〜〜〜〜カフェ
着いたのは昨日学長と行ったカフェだ。学長に続いて、別の美人と2日連続で来たため、昨日もいた客は鬼のような形相でこっちをみてくる。
違うんだ。今回は生徒なんだ。手なんて出せないんだ。
今回は店内に入って、隅の二人席に腰を掛けた。
「どうぞ、掛けてください」
「失礼します」
「紅茶とコーヒー、どちらにしますか?」
「コーヒーのブラックをお願いします」
「おお。奇遇ですね。僕もブラックは好きですよ。それじゃあ、ちょっと注文してきますね」
コーヒーと、ついでにチョコケーキを二つ注文する。代金を支払い、席に戻る。
「お待たせしました。さて、本題ですが、高校はもともとどちらの学校だったんですか?」
「私立の荒板高校というところです。東北の田舎にある学校ですね」
「学年は?」
「三年二組です」
やっぱり。なんだか怯えたような喋り方だ。まるで誰かに怒られないか不安になりながら話しているような…。
「召喚前のクラスの雰囲気はどんな感じだった?」
「普通のクラスと言った感じです。男女は幾つかのグループを作っています」
「それじゃあ、召喚後はどのような扱いでしたか?」
「国賓扱いで、丁重に扱われていました。おかげでそこまで関係が変わる事がなく、今日のクラスも地球にいた頃と変わらない感じでした」
「なら良かった。ところで本題なのですが」
特に過酷な環境ではない事に胸を撫で下ろす。もし、酷い扱いだったら不平等条約を結ぶところだったよ。
そして、本題である星河さんのカウンセリングに移る。
「お待たせしました。コーヒーとチョコケーキです」
本題を切り出そうとしたところで、注文していた品がきた。タイミングが良いのか悪いのか…。
「あれ?チョコケーキ?」
「僕のお気に入りです。奢りですので味わってくださいね」
「あ、ありがとうございます」
まずは注文したチョコケーキを平らげる。濃厚なチョコの甘味とコーヒーの酸味のない苦味がマッチしている。美味い。
しばらくお互いが無言でチョコケーキを食べて、コーヒーを半分残した状態で食べ終えた。
「美味しかったです。チョコケーキ」
そう言う星河さんの表情は少し明るくなっていた。良い兆候だ。
「それで、本題なのですが。DV、受けてますよね?」
この瞬間、彼女の顔色が真っ青に変わった。
「先生には関係ない事です!!そんな話二度としないでください!!」
「・・・」
星河さんはとても怯えていた。そして、自分が指摘された事で怒っているのではない。僕を庇うかのように怒っているのだ。
何故、この場所で僕を庇う必要がある?そして、彼女はDVを受けていながら、それ特有の依存が見受けられない。
高野が関係していそうだな。高次元生命体との接触の可能性も挙げられている。怯えているのは、監視されているからか?魔法の力で見られているのか…?
『微弱なエネルギー流を捕捉しました。召喚人高野雅行から、召喚人星河千歳への流動が確認されています』
軍用通信端末からGSTSの報告が流れる。魔法の発動は、幾つかの手法で確認する事ができるが、魔法の効果までは認知する事ができないのが難点だな…。
そうだ。実験してみる価値ありだな。
「当領域に対魔法時空間干渉波投射開始」
「えっ?」
対魔法時空間干渉波。これは粒子振動固定波空間安定システムというのが正式名称だが、これが魔法の発動の妨害にも作用するため、魔法封印の場合にはそう呼んでいる。
粒子振動固定波空間安定システムとは、粒子の振動を一定に保つ波長を空間に当てて、ワームホールなどの時空間異常を阻止するシステムだ。
基本的に全世界全土に照射されている。ワープの阻害が主な目的だ。核兵器をワープさせて起爆されたりしたらたまったものじゃない。そのため、結構ありふれた設備だったりするのだ。
そして、その粒子振動固定派空間安定システムが魔法にも適用されただけのお話だ。それの影響下では僕の創造物召喚のスキルも自由に使えない。
つまり、魔法は自空間異常として発現しているものであり、それに則れば魔法やスキルの発動が封じられるのだ。
そして今は、魔法の力で監視されているであろう星河さんの周囲に、対魔法時空間干渉波を当てているのだ。
どこから当てているのかと言うと、宇宙空間からだ。もう既に地球と同規模の衛星は設置し終わっている。
大陸を滅ぼす対地軍事衛星に、惑星全土をnm単位で観測する観測衛星に、それを護衛する防御衛星、さらには惑星外縁を攻撃するための対望遠軍事衛星なんかも、数百単位で配備している。
ちなみに、パラディナン独立連邦のものと思わしき衛星を多数確認している。パラディナンも驚いていることだろう。
「安心してください。今は誰からも監視されていませんよ」
これは嘘。観測衛星が監視している。"誰で"はないから嘘ではないか。
「な、何を言っているの…」
「対魔法時空間干渉波を投射しています。強力な干渉でも断絶できるはずです」
これでも不安なら原子防護艦がある異界派遣艦隊まで連れて行かねばなるまい。
「対魔法…?あれ?監視されている感覚が無い…?一体どういうこと?!」
「これが現代科学の力です。魔法なんて比べるまでも無い」
「先生がやったんですか…?」
「言ったでしょう。対魔法時空間干渉波を投射していると。正式には粒子振動固定派空間安定システムと言うんですが、世界の安全を守っている立派なシステムなんですよ」
「そんな事、聞いた事ないですよ…。機密なんじゃないんですか?」
「システム自体は公表していないだけで、機密情報じゃありませんよ。装置のある施設は機密ですけど、まあ、バックアップは5つくらいあるので、同時に潰されない限り安全ですけど」
「流石、防衛省職員さんですね」
あまり喋ってくれそうにないな。どうしたものか…。もうこの際艦隊まで招待するか。あれ?これ昨日と同じ流れなのでは…?
「まだ不安ですか?」
「だって、雅行は…!」
「分かりました。では、もう少し付き合ってもらいますよ」
「・・・え?」
コーヒーを飲み干すと、星河さんの手を取り立ち上がった。カフェの前に昨日の偵察ヘリを用意してある。
「OH-46?!なんでこんなものがここに!」
「さあ、乗り込んでください。今から僕の秘密を全部教えてあげます。そしたら信用してくれますか?」
「・・・分かりました。着いていきます」
あれ…?なんで彼女はこのヘリコプターがOH-46だと知っているんだ?普通の人は陸自や空自の機体の名前なんて知らないはずなのにな。
まあいい。とりあえず困惑する星河さんを押し込んで、急いで離陸する。
偵察ヘリだから静寂性とかは問題ない。光学迷彩ステルス技術も搭載しているので、全くバレてないはずだ。
「一体どういうことなんですか!異世界でOH-46が飛んでるなんて?!」
「僕の工場産ですよ。基本的に地球の現代兵器は揃えてあります。今から艦隊に向かってもらいますよ」
「え?艦隊?」
〜〜〜〜〜異界聯合艦隊 旗艦那須
「どういうことですかこれ〜!!!」
星河さんが那須に降り立つなり絶叫した。
「ご、護衛艦隊に遂に乗艦することが…、いえ、あそこにあるのはワシントン級電磁力航空母艦!てことは連合艦隊?!」
「国際連邦異界派遣ニダヴェリール無人基地西方軍港所属の異界聯合艦隊です。ここは大鳳型護衛艦二百十三番艦那須の全通飛行甲板ですよ」
「なんで!大鳳型護衛艦は二百番艦までしかなかったはずよ!」
結構詳しいな。
「では、一から説明しましょう」
「お、お願いします」
もうめんどくさいから全部教えてやる。
「防衛省勤務と言いましたが、幾つかの兼職をしているんですよ」
「国家公務員が幾つも兼職…?」
「僕は防衛省で特別国防部部長を務めておりまして、他にもホワイトハウスの軍事顧問をやっていたり、ペンタゴンの特務局長をやっていたり、欧州評議会軍やソビエト赤軍の軍事顧問をやっていたりするんです」
「そ、そんなに…」
「そして、国際連邦秩序維持理事会会長を務めているんです」
「さ、流石に信じられないですよ…」
もっともな感想だ。
「僕のスキルは、創り出したものを無制限に生み出す能力なんですよ。そして、これらの艦隊をスキルで生み出す事が可能です。こんなふうに」
そう言って那須の隣に大鳳型護衛艦をもう一隻召喚してみた。
「一航空大隊程度の航空機運用能力のある、最強の航空母艦と名高いあの大鳳型護衛艦がこうもあっさり生み出されるなんて……、魔王を瞬殺できるのも納得です…」
「僕は兵器開発で活躍してきました。現代兵器の作成のほとんどに関わっているので、魔王戦ではそれらの兵器を召喚して戦ったんですよ」
「大鳳の砲撃能力なら、魔王の軍勢の殲滅も可能ですね。納得しました」
「大鳳型は使ってないですけどね」
やはり、なんだか詳しいな。もしかして…。
「もしかしてミリオタですか…?」
「な、なんですか、悪いですか?!」
「いえ、僕もこの職業から察せる通りミリオタでしてね。仲間ができるのは嬉しい事ですよ」
「私も、誰にも明かせない趣味だったから、語り合えるのは嬉しいです。今大鳳型護衛艦の上部飛行甲板にいる時点で結構胸熱なんですよ」
なかなかに分かるミリオタじゃないか。僕はしゃがんで甲板をなぞる。
「感じますか?何十万度の高温に耐え、超音速ミサイルの徹甲弾を弾くこの重装甲を…」
「はい。この黒鉄が、先の時代から我が国の海を守ってきたのだと思うと感動します」
なかなか馬が合うな。
星河さんもしゃがんで甲板に触れる。一通りなでなでしたところで、本題を切り出した。
「僕が、星河さんを連れてきたのはクラスの様子を聞くのもありますが、本当の目的は星河さんのカウンセリングなんです。ですからどうか星河さんの事を教えてくれませんか?」
あまり時間を取らせたくないし、ある程度落ち着いたところで早速話を切り出させてもらった。
ここは正直に打ち明けておいた方がいいだろう。
「・・・ごめんなさい。それは無理です」
「現在、原子防護艦八隻が全力で結界を展開中です。例え神からの攻撃であっても容易に跳ね除けることができます。安心してください」
「ダメなんです。雅行が理由じゃない。私の話は聞かない方がいいに決まってるんです…」
「僕の姉になら話せませんか?」
「人に話せる内容じゃない。それに、先生に知られるのがどうしても嫌なんです…」
うーん。これは相当根が深いんだろうな。とても深刻なトラウマを抱えていることは確かだ。これは速急に取り除かなければいけないものだと思うが、自白剤とかで相手から無理矢理聞くとその後が怖い。
ここは、相手が話してくれるようになるまで信頼されなければならないだろうな。
それに僕に知られるのを嫌がるということは、男性には話しにくい内容。つまり性暴力も受けている可能性があるということだ…。
「分かりました。では、星河さんから打ち明けてくれるまで信頼されるよう頑張ろうと思います。もう、今日のところは僕からの用件は終わりました。せっかくですし艦隊の見学でもしていきますか?小口径砲なら発砲もできますよ」
「ありがたい申し出だけど、遠慮しておきます。もうそろそろ怪しまれそうだし、学生寮まで帰してもらえませんか?」
「分かりました。それではヘリを出しますね」
「いえ、大丈夫です。転移魔法で帰れるので」
「そうですか。結界を解除しておきますね。それではまた明日」
「今日はありがとうございました、とっても楽しかったです。また誘ってくれますか?」
「ええ。午前授業の日は結構あります。時間が空いたら行きましょう」
星河さんはスッと消えていった。
「監視衛星を星河千歳と高野雅行に一基づつ当ててくれ。それと、高野雅行には対魔法時空間干渉波をピンポイントで照射し続けること」
『了解しました。監視衛星と照射衛星を対地同期軌道に移動させます』
GSTSに通達しておく。僕はこれからミッションがあるのだ。
そのミッションとは、夕食時に合わせて高野の口にする食品に無精力剤を入れること。回りくどいが狙撃銃によって食品に入れ込む計画だ。
高野のDV行為を防止するにはそれが一番だと考えた。無精力剤によって高野の気力を削ぎ、行動自体を大幅に抑制するのだ。
さらに緊急時には航空機搭載のMark8435高出力妨害波投射装置によって、指向性エネルギー兵器のように非致死性兵器として、吐気、呼吸困難、空間識失調などを引き起こさせ、行動を阻害する予定だ。
既に増槽と高出力妨害波投射装置を搭載した任務部隊が発艦を開始している。任務部隊を構成するのはS-830 長時間作戦行動用多機能中型無人機だ。
次は道具の調達だ。那須の艦内に入り医務室に向かう。棚から液状の無精力剤を取り出して、ポケットに突っ込む。
そして武器保管庫に向かって走る。保管庫からAWB-16 狙撃銃を取り出し、サプレッサと自動照準スコープを取り付け、フレシェット弾と特殊散布弾を手に取る。
AWB-16は口径33mm、有効射程12kmのボルトアクション方式の大型スナイパーライフルだ。欧州評議会ブリテン島管区製の狙撃銃で、傑作兵器として世界中で使われている。海上自衛隊でも導入されており、今回はこの狙撃銃がミッションに適切だと考えて選択した。
特殊散布弾に無精力剤を注ぎ込み、準備を完了する。
那須の甲板に待たせてあるOH-46に乗り込み、狙撃ポイントまで移動する。
学園近くにある貴族屋敷のような館の屋上に降り立つ。ここからなら学園の食堂を完全に観測することができる。
その場に伏せて、ミッションの準備をする。
AWB-16の箱型弾倉に特殊散布弾、フレシェット弾の順番で弾を込める。
まず初めにフレシェット弾で食堂の窓ガラスを破壊して注意を引き、その隙に特殊散布弾で無精力剤を高野の昼食に混入させる。
GSTSによって高野の行動は想定済みだ。そろそろ食堂に現れるだろう。スコープを除いて確認しているが、人が多いな。
・・・来た!高野だ。昼食を受け取ると窓側の席に腰掛けた。
急いで特殊散布弾の信管作動時間を設定する。箱型弾倉をAWB-16に装着してボルトを操作して弾を込める。
まずは被害が及ばないように斜め上を向けて、食堂の窓ガラス上部を狙いフレシェット弾を発砲する。
砲弾は途中で外殻を捨てて、無数の鉄棒に姿を変える。窓ガラスを満遍なく貫通し、一瞬にして粉々にして反対側の窓ガラスも破壊した。想定通り高野や周りの人の意識はそちらに向いている。
落ち着いて第二射を行う。自動照準スコープのサポート通りに照準を合わせて狙いを定める。そして引き金を引くと窓ガラスに小さくない穴が開き、無精力剤を高野の昼食の真上で散布させると、反対側の窓を抜けていった。
ミッション完了だ。フレシェット弾や特殊散布弾は薫が回収してくれている頃だろう。
ちなみにあの無精力剤は、姉さんからのアドバイスで、毒薬を無効化するスキルや魔法があるそうだから、毒薬ではなく良薬という形で扱われているものを選んだのだ。
〜〜〜〜〜今晩
僕らには、一人一つの教師宿舎の部屋が用意されており、広いスペースが確保されていた。いい仕事をしたと、ベッドで寝っ転がっていると不意に扉がノックされた。こんな時間に誰だろうか?
「はい。って学長?!」
学長がここになんの用だろうか…?ものすごい剣幕を帯びているぞ。
「正直に話してもらえるかしら?食堂で何したの?嘘を言っても無駄だからね」
「・・・・・・」
学長には包み隠さず全部話した。言いくるめられるような相手ではないからな。もちろん修理費を請求されたよ。少しくらい慈悲を見せてくれてもいいと思うんだけどなあ。
S-830 長時間作戦行動用多機能中型無人機はRQ-3ダークスターのような見た目をしている。
2030年代、中華国ロケット軍の超音速巡航ミサイルが海面を飛翔した場合、日本のレーダーサイトでは早期観測が困難であり、自衛隊にとっての"新たな目"が必要になった。そこで、海上自衛隊主導で開発されたのがS-830である。
ダークスターのような見た目で巨大な主翼を有し、高い揚力を得られることから低速での巡航が得意であり、水依存型の推進機と発電機を用いて十年以上の持続運用を可能としている。
主翼部に高性能レーダーを装備しているため、対潜哨戒機、偵察機としての任務を負うこともあります。




