2話 連絡先交換は勢いでやると成功率高い
2連荘投稿です。
とりあえず導入として投稿してみました。
楓と美優に、自身が試合後に必ず行く喫茶店を紹介し、そこで龍専用メニューである馬刺しユッケと400gチーズインハンバーグを食べ、彼女たちにはコーヒーとケーキをご馳走した。
味はよく2人の美少女は満足したように機嫌が良く、カウンター席でやたらボディタッチをされた龍。
そんな彼は今、疲れたように自室のベッドで横になっていた。
彼の家は、都内にある高層ビルの中層付近にあり、その階を丸ごと買い取っている。
もともと、その高層ビルは1階ごとに1つの部屋があり、6機あるエレベーターも鍵を使わないと動かず、動いても自身の家がある階にしかいけない仕様になっていた。
彼は、そんな高級マンションに一人で住んでいる。
窓からは東京の夜景を一望でき、彼はそれを気にした様子もなく制服姿のままベッドから起き上がる。
(そういえば……)
龍はブレザーの左ポケットを弄る。
そこには、今日の放課後教室で拾ったストラップが入っていた。
デフォルメされたポメラニアンのようなキャラクター……苅谷美優の言うところ、ネットゲームのキャラクターらしい。
(……これ、誰の落し物なんだろうなあ。状況的に委員長臭いけど)
表と裏を眺め、龍は今日の委員長が逃げるように立ち去った際に落とした物だと当たりをつけていた。
そもそも、こんなものが教室前に落ちていれば龍以外の誰かが既に拾ってるはずだし、あの場で、これを持っていそうなのが委員長ぐらいしかいなかったからだ。
(……匂いは、しないか)
すんすんと匂いを確認する龍、しかし期待していた委員長の匂いがしないことに、少しがっかりした表情を見せる。
ふと、竜は部屋の隅で埃を被っていたPCを見る。
(ネットゲームか……いや、俺そもそもパソコンわかんねえしなあ)
それは、彼の親が「高校生にもなれば必要だろう」と買い与えた物だった。
最新のゲームすら問題なく動かせ、大容量のHDDも外付けされた無駄に高性能なPC……らしい。
しかし龍は、それをセットアップ以来使っておらず、何故か一緒についてきたVRゴーグルも少し埃を被っていた。
アレの電源をつけたのも、もう1年前かと、龍は思い出していた。
(委員長、ゲームとかやるのかな?)
龍は子供の時から水泳・体操の英才教育を受け、6歳の時に親からやりたいものはと尋ねられ殴り合いと答えたため、今まで空手やキックボクシングをやり続け、そして半年前にプロのMMAファイターとしてデビューしていた。
何故、立ち技なのにMMAなのかと言えば、ただ単に龍がやるなら世界最強を目的としたために、いつの間にか立ち技の団体ではなく、総合格闘技のトップ団体に在籍してしまっていたのだ……それもこれも、空手やキックボクシングの戦績が優秀であり、また二つの業界から総合でも通用しそうだからと半ば無理やりデビューさせられてしまったのが理由である。
戦績は半年にして3戦3勝3KO、今のところ2R以上戦ったことはない若手の超新星だ。
そんな格闘技の申し子が、ゲームなどやる暇は無く、また今まで興味もなかったのだが……。
(調べるだけでもしてみるか……もしかしたら、会話できるかもしれねえし)
実は、ここまで龍は委員長を気にしつつも、彼女に惹かれていることに気づいていない。
ただ話してみたい……それだけのために、龍は1年ぶりにPCの電源をつけたのだった――――
☆
(なるほど、このVRゴーグルを使ったネットゲームなんか)
PCで委員長がやっているだろうネットゲームを検索した龍は、得心を得たとばかりに頷いた。
今、彼のPCに映っているのは『新感覚VRMMORPG、ホーリーアースオンライン』という、ネットゲームのホームページだ。
長い耳の美女や、やたらイケメンな男のキャラクター達が弓や刀、剣を構えた画像がトップにあり、スクロールしていくとゲーム説明やログインの仕方などが書いてあった。
(しっかし……よくわかんねえな)
ログインするには、運営会社の専用アカウントが必要だとか、武器種はこの世全てを網羅だとか、モンスターはクラシックからスペースまで!だとか……ゲーム初心者の龍には全く理解できないものばかりだ。
だが、まだ龍も若いからなのか、どこかワクワクとした表情でそれを眺めていた。
というより、興味がなければ指一本でしかタイピング出来ない龍が、ここまで調べなかっただろう。
(キャラクタークリエイトは、携帯で撮った写真を元にしてもいいって……それ以外でどう作るんだ? Y軸だX軸って何だ? アクセ? ガチャ……無料って書いてあるのに金取るのか)
調べていく内に、龍は少しだけやってみたいという衝動が生まれたのを感じた。
しかし……。
(いや、ログインってそもそもどうやんだ? 登録するって……携帯のアドレスじゃだめなのか? パソコンのアドレスなんかわからねえよ)
現代人としてどうなんだこれはというところで引っかかっていた。
故に、龍は首を傾げてしまう。
(……駄目だ、わかんね。楓にきいてみっかなあ)
一瞬、鬼崎楓の顔を浮かべた龍。
聞いてみれば分かるかと考えたが、そういえば楓もゲームはやらない人間だったと思い出すと、龍は取り出しかけた携帯を再びポケットにしまい込んだ。
うーむと、龍は唸っていると……「あ、そうか」龍に天啓が降りた。
(委員長に直接聞いてみりゃいいんじゃん。そうすりゃ会話も出来るし、少しは怖がられずに済むか)
突如舞い降りた名案に、龍は目を見開いた。
これだ……ここから突破口を開いて、何で委員長にだけ性的な感じで反応してしまうのか確かめよう。
そう決心すると……その夜、鬼塚龍は眠気が襲ってくるまで、委員長との会話シュミレーションを繰り返したのだった。
☆
時は流れ翌日の放課後。
再び夕暮れに染まる教室で、龍と委員長は二人きりになった。
何故かと言われれば、今日の日直が病欠したため臨時で委員長が務めているためで、龍はそれに乗っかって委員長と二人きりになるチャンスを伺っていただけなのだが。
(こういった話題は、なるだけ周りには知らせないほうがいいってのは知ってるからな……てか、今まで話すチャンス少なかったから、話しかけるタイミングわかんなかったわ)
丁度いいことに邪魔者はいない。
昨日のように楓と美優が押しかけることもなく、他のクラスメイトも既にいない。
話しかけるにはここしかない……龍は決心すると、席から立ち上がってまだ日誌を仕上げている委員長の前まで歩を進めた。
突然視界に影がかかったのに気づいた委員長が、前を見上げる。
「ひ!」
「おうっと! ごめん、驚かせたわ」
びくっと、体を跳ねさせる委員長に驚く龍。
しかし、務めて優しく、なるべく怖がらせないように会話を切り出した。
「委員長、昨日も日直やってたべ? 大変じゃね?」
「え……その、うん、別に」
おっかなびっくりといった様子で、龍を見上げる委員長はどこか小動物のようだった。
傍から見れば、食べやすそうな女に話しかける男に見えなくも無いが、試合では精悍で凛々しい顔つきをしていた龍も、何故かどこかぎこちない表情をしていた。
「昨日っていえばさ、これなんだけど……これ委員長のだべ?」
「え……? ああ!」
ブレザーのポケットから、昨日拾ったキャラクターのストラップを取り出す龍。
それを見た委員長が、突然大声を上げた。
「そ! そそそそれ! わわわわ私の!」
「やっぱそうなんだ……それでさ、これのキャラクターなんだけどさ」
「か、返してください……お願いします」
「ああ」
両手で器をつくって頭を下げる委員長に、龍は何ともなしにストラップを返してあげた。
ありがとうございます――――と、消え入りそうな声でお礼をいう委員長。
そんな委員長の頭頂部に、龍は続けた。
「それで、このキャラクターってネットゲームのなんだな。昨日調べたんだよ」
「え……」
「ホーリーアースだっけか。俺、ゲームとかやったことないから分からないんだけど、アレってどうなの? 面白いの? 全くゲームやってなくても出来んの?」
「え……?」
刹那、委員長の眼鏡の奥が鋭く光った。
これに眉を吊り上げた龍……すると、まるで人が変わったように委員長が龍に詰め寄った。
「そ、それってHEOをやろうとしてるってこと!? 本当に! だったらまずアカウント作ってログインしてPCにインストするとこからなんだけどその前に他のソシャゲ登録してアカウント連携させてると成長アイテム無料でもらえるからそこからやってキャラクリは自由でいいけど星座はしし座にすると戦士系ジョブのステータスにボーナスつくからそれにして最初にもらえるアイテムは手榴弾がいいよ最初のボスが楽になるからねそれで課金しないならそのまま制限解除ミッションをまずはクリアしてって……」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。早口すぎて頭に入らないわ」
初めて委員長が自分に近寄ってきたかと思えば、龍が引くほどのマシンガントークで捲くし立てる。
これ……楓とは違う良い匂いだと、龍が見当違いのことを考えていると、我に返った委員長が恥ずかしそうに椅子に座り込んでしまった。
「あ、あの……すみませんでした、忘れてください」
「いや、無理だわ」
「ええ! そんな……」
「委員長、ゲーム好きなんだな」
突然のことから落ち着きを取り戻した龍は、少しだけ相手を落ちつかせるように声を掛けた。
すると、委員長が乱れた眼鏡をかけなおし、一つ深呼吸してから再び龍を見上げた。
「えっと……はい」
「正直意外だわ」
「そ、そうですか? 私みたいなのこそ、そういうの好きそうだと思いますが」
「いや? そうか? てか敬語やめてよ。タメなんだし」
「え、えっと、そうですね! じゃなくて、そうだよね、はは……」
あれ、会話になってるなこれと龍は手ごたえを感じていると、委員長がばっと席から立ち上がった。
「そ、それで。あの、じゃあ、さよなら!」
「ちょい待ってよ! 俺、ゲームわかんねえから教えてほしいんだわ」
立ち上がり、走り出そうとした委員長の手を、龍の大きな手が掴む。
これに、叫び声を上げそうになる委員長だったが、その言葉に「え?」と不思議そうに振り返った。
手を放した龍は、きょとんとしてる委員長へ、努めて自然で軽めにお願いすることにした。
「やろうとしてもアカウント?ってのがわからねえし、ログインもわかんねえし……パソコンとゴーグルはあるんだけど、何もできねえんだわ」
「そ、そうなんだ……へえ」
「てことで、教えてくれね? 今日夜連絡するからさ、そのとき教えてよ」
「え? 連絡?」
「そそ、だからコミュID教えてよ」
龍の言ったコミュIDとは、世界中で主流となっているコミュニケーションアプリで、基本的に現代の人間は殆どが利用していると言われているアプリケーションである。
手馴れた様子で携帯を取り出し、そのアプリを開く龍。
委員長は、あまりにも流動的に進んでいく話に目を白黒させていたが、言われるがままに携帯を取り出し同じくアプリを開いた。
「IDよりバーコードのほうが早いか。んじゃ委員長、バーコード見せてよ」
「あ、はい……」
「OK、ちょっと待ってねー……おっし、んじゃ夜連絡するからやりかた教えてね」
「あ、うん」
委員長が戸惑っている間に、トントン拍子で連絡先を獲得した龍。
こういうのは慣れてはいるが、意識している異性に対しては少しだけ緊張したなと龍は考えていると、委員長がおずおずと尋ねてきた。
「あ、あの……鬼塚君は、夜とかゲームする時間あるの? 練習とか……」
「ああ、試合終わって2週間は休むようにしてるんだわ。それまで追い込んでたし、次の試合は半年後だからね。走ったりウエイトはしたりするけど、基本暇なんだわ」
「そうなんだ……へえ」
「とりま、ゲーム出来るようになったらまたなんか聞くかもだから、よろしく!」
「はい……よろしくおねがいします」
サムズアップをした龍は、そのまま踵を返して教室を後にしてしまう。
教室に一人取り残された委員長は、嵐のような出来事に暫く放心していると、ふと自分が異性に連絡先を渡してしまったことに気がついた。
(あ、ああああああ! 私、あの鬼塚君と連絡先交換しちゃった……鬼塚君かっこいいし人気だけど、鬼崎さんと幼馴染で苅谷さんとは肉体関係あるって噂だから、正直近づきたくないんだよなあ。ああ、どうしよう……)
☆
次回からようやくネトゲです。
初心者あるあるとか出せればいいと思ってます。