第一話
深緑のあざやかな昼前
蝉の声が遠くに聞こえる特殊教室棟5階の隅そこには音楽室がある
さきほどの三時限目に入るチャイムよりほんの数分前
音楽室では
すでに移動をすませた一年三組のクラスメートがにぎやかに話していた
爆睡するものや汗を拭くもの
友達と喋るもの
その雑談の中
「おせぇな
エンコジ
またバレたんじゃね?」
背の高い長髪のイケメンがクラスの女子の視線をチラチラ受けながら隣の金髪少年に言った
「あいつ英語だけは嫌やぁ言うてたもんなぁ
なっちゃんにマークされとんのに
…アホやで」金髪をサラサラさせながら甘く苦笑いをする顔とは裏腹な関西なまりを聞き
女子達はキャァキャァ言う
みんなの会話に混ざるように後ろからタムタムとドラムの音がしている
「だからさやっぱ前の曲はサビから間奏の入りが良いよな
うん」
坊主頭のノッポがドラムの椅子に座り
目の前の小柄なオカッパに言った
「そうだね
あのフィルインからのギターソロめっちゃ気持ち良いもん」
カッパ頭はギターを弾くマネをしながらギュインギャインと言っている
音楽室の端っこであーだこーだ話すノッポとオカッパを見ながら金髪の少年が呆れた口調で言った
「あのロックバカ共
自分ら浮いてるのわからへんのやろか
っちゅうかオレのベースがあってこそのあの曲や言うに」
その言葉に長髪の美男子がフンっと笑った
「お前の髪も十分浮いてるっつの
それにロックバカなんて人に言える立場じゃねぇだろ?」
二人の美男子のオーラについに女子達が囲むように群がり出した
二人とも知らん顔をしながら喋り続けていたが
一人の女子が
「ねぇねぇ
陣内君、須藤君…」
と言った直後
音楽の教師がドアを開け入ってきた
「オゥス!
よし三組だな
あ!
こらっ勝手にドラム叩くな福田!!」
福田と呼ばれたノッポはあわてて飛びのきシンバルに当たる
シャーンと言う音が静かに響いた
音楽室を好きなように散り散りになっていた生徒たちは蜘蛛の子が散った時の巻き戻し映像のように席についた
しんと静まりかえった音楽室にシンバルの音が微かに響いている
長髪の陣内と金髪の須藤に声をかけそこねた女子は照れ隠しから舌打ちを
してブスっとしていた
音楽の教師井上先生が教卓によっかかった瞬間
ガチャリ
とドアノブが動いた
はっと井上がその方向を見たのをきっかけに
そーっと開くドアに音楽室の全員が目を向けた
ドアを開けたであろう人間がこちらにチラリと目だけ覗かせた
しばしキョロキョロ動かした後
パタン
とまた閉めた
気になった井上はドアに向かっていき開けてみるが
…誰もいない
体を乗り出して廊下を見渡すが
…やはり誰もいない
「なんだったんだ」
と呟きながら振り返り席に着いている生徒たちに目をやると
やたら汗をかき息を切らしている生徒に気がついた
さっきあんなヤツいたかな?
と思いじっと見るが本人はニコニコしている
ふとするとチャイムが鳴り
井上は我に返った
まぁいいか
と取りあえずクラス委員を指差し
号令をかけさせた
号令をしてから席に着いた生徒たちを確認した後
井上は教科書をパラパラと開き授業を始めたのだった
このクラスの美男子
陣内真吉と須藤賢太その横に先程いつの間にか音楽室に入ってきていた
やたら汗をかいている生徒 円虎治
その前の席にノッポの福田林檎とオカッパの百瀬完太が座っていた
円を囲む四人がニヤニヤしながら話出した
「エンコジ!
まさか本当にやるとは!だな!」
ノッポの福田林檎が細い目を笑った顔でさらに細くして言った
「あれは使えるぜ
いつか使う時が来たらオススメする
でもバレんなよ?」
円 虎治ことエンコジは汗で濡れた前髪をかきあげながら言った
なんでエンコジと呼ばれているかは名前をよく見たら解る
「リンゴでかいからバレるて
モモカンならバレへんのちゃう?」
須藤賢太にモモカンと呼ばれた百瀬完太はヒヒヒっと笑った
ではそろそろエンコジ神出鬼没の謎を解明しよう
それは簡単な話で音楽室をよく見渡してもらったらわかる
入口は北の左側1番手前
音楽室の東と北側は廊下に面していて窓がついている…
要は先生が廊下に出た途端エンコジは死角になっている廊下と面している東側窓から入ったのだ
ちなみに真相を知らないのは井上教諭だけ
実はクラス全員この様子をクスクス笑って見ていたのだった
「あ!
てかツナ!!
新曲のイメージ出来たんだ!!
今日お前ん家行くぜ?」
長髪の美男子陣内真吉ことツナは
「ん。」といって下敷きで顔を扇いでいる
陣内真吉がツナと呼ばれ出した大きな原因はとなりのスドケン=須藤賢太の一言からだった
「シンキチてなんかシーチキンみたいやんな」
「…。」
一時シーチキンと呼ばれていたが長いためツナに改名したのだった




