プロローグ
「はぁ〜、もう…円君
君はなんで私の授業の無い時間だけ抜け出すかなぁ」
桜庭高校の管理棟の2階
職員室の窓際で
唇の柔らかそうな見た目の若い担任の先生にため息をつかれながらオレはニコニコしていた
目は垂れ目で鼻は小さいが少しオレの好きじゃない形だ
髪型は肩にかかる程度の緩い巻き髪
んでダークブラウンか…
まぁ小顔が最大の武器かな
うーん
スドケンの73点はなかなか鋭いな
草鹿ナツ先生は生徒から人気のある人だ
28歳と思えないかわいさが男子を惹き付け
明るいのに愚痴っぽいおばちゃんくささが女子の共感を得ていた
ってかやっぱ垂れ目はMっぽく見えるよなぁ
オレもMっぽく見えるって言われるし
「円君聞いてる?」
ニコニコしながら全っ然違う事を考えていたオレに垂れ目の
童顔が困っていた
「かまってほしいんスよ
オレ草鹿先生の事好きだもん」
悪びれもせず照れすらせずニコニコしながらそう言うオレに
草鹿先生は呆れた笑顔で机に頬杖をついた
「あぁハイハイ
もう良いよ、まったく君は…
…また今日も分別ヨロシクね」
そこまで言うと草鹿先生は小さい声で
「…でも頼むから!
頼〜むから私の授業の無い時間だけはサボらないで!
休ませて!」
ニコニコしながら立ったままのオレに両手を合わせ草鹿先生は懇願した
なるほど好感度も上がるわけだよなぁ
「じゃぁもうかまってもらえないじゃないスかぁ」
ニコニコ顔から眉毛だけ八の字にする
このやり取りを楽しんでみようかな
初夏の暑い午前中
蒸し暑い教室とは打って変わってクーラーのガンガン効いている職員室
社会の理不尽さに一生徒として怒りを感じねばならないトコだが
今の所オレはその恩恵を受けているので
まぁ良しとする
そこでまだ草鹿先生とオレのやり取りは続いていた
懇願する先生とはぐらかす生徒
こちらの様子をニヤニヤしながら向かいの若い女の先生が見ている事にオレは気づいた
なるほどスドケンくん!!
80点!
あんた高得点だよ!
ちなみにこの採点はオレと友達のスドケンこと須藤賢太の独断と偏見でつけている
「もういいから!
なんだったら今度デートでもなんでもしたげるから!」
いいかげんイライラした草鹿先生がなげやりに言った
向かいの先生はビックリした目でこっちを見ている
ふと先生のパソコンの時計を見た
おう!
もう英語終わんじゃん
ラッキー
…次は音楽か音楽室遠いから早めにいきてぇな
「おぉ!良いスね!
わかりました!約束します!!
その代わり絶対ッスよ!!」
ニコニコ顔から一転、オレの顔面は目を開き口はオの形を作る
「ハハハ
君は本当に…
いつが良い?」
軽く投げやりなまま草鹿先生は言いながら引き出しを開けた
綺麗に整理された引き出しには何故かファッション雑誌が入っていた
思わずオレはニヤっとしてしまった
この人オモロいな
教師だろ?
その雑誌いいのかよ!
「キーンコーンカーンコーン」
やべぇ!チャイムじゃん!!
早く行かねば
「ん〜じゃぁまたいつかで!
楽しみにしてますよ」
チャイムの音で動きだした他の教師に紛れオレは慌ただしく職員室を出ていった
「あぁ〜もう
逃がした」
机の脇のカップを手に取り草鹿ナツは頭をかいた
向かいの机
一つ年上の川本エリ
がクスクス笑っている
それに気づいた草鹿ナツは困った笑顔で話しかけた
「単純でカワイイ子なんだけどねぇ
天真爛漫過ぎて扱えないの」
頬杖をついて雑誌をめくりながら川本エリが感心する
「へぇあんたが扱えないなんてなかなかね
で
どうすんの?」
「何が?」
カップのヌルいコーヒーを飲みながら
草鹿ナツが聞き返した
「デートよ」
川本エリに言われて草鹿ナツは笑った
「アハハ
行かないよ
他の男子とも約束だけはしてるんだから
あぁ言えば言う事聞いてくれるの」
サラリと魔性な一言を言いのけて満足気に椅子によっかかる
「でもあの子は言う事聞かないと思うな」
めくっていた雑誌の手を止め川本エリはニヤリとした
「どういう意味よ」
怪訝な顔をした草鹿ナツに向かって川本エリは雑誌の一部を見せた
「…デート編
男の気の無いときの返事
…いつか行こうねと行ったら70%その気はない…。」
固まる草鹿ナツを見て川本エリは今にも吹き出しそうだ
その頃、円 虎治は音楽室にむけて猛ダッシュしていた




