第2話 入団試験
第2話です。この世界と光の力が少しだけ明らかになります。
二度と人と触れ合うことが出来ない体になった俺は、干上がったオアシスの前で一夜を明かした。
俺が、口内の灰を吐き出し終わった後、オアシスを見ると澄みきった水は、灰となり干上がっていた。
俺のせいだが、俺のせいではない。それに、命の恩人を邪険にするようなやつらの生活がどうなっても俺には関係ない。
オアシスを干上がらせた後、生い茂る木々に触れてみると、灰になってしまった。
俺の異世界転生チートってやつは、全てを灰に変える力と不死?の身体みたいだ。不死かどうかは、未だ確信がないけれど、細切れにされても身体が再生するんじゃ、ほぼ不死で間違いないだろう。
幸いなことに、ドラキュラのように日の光を浴びたら灰になってしまうことはないようだ。
前世では、死にたい死にたいと思っていたが、死なないなら、もう仕方ない。人生を謳歌しようじゃないか。
当面は、自分の力を知ること、この異世界について知ることの二つを突き詰めて行こうと思う。
汗はかくし、喉も乾くが潤すことができない。我慢するしかない。腹が減らないのが、唯一の救いだ。
「よし、今日も灼熱の中、歩きますか」
干上がったオアシスを後にして、真っ直ぐ真っ直ぐ歩いていく。その内、何かに出会うだろう。行き当たりバッタリな旅路の始まりだ。
「あー、何もねえ!結局、腹も減ってきたし!なんなんだよ!」
オアシスを出発してから、数時間が経った頃には、減らないはずの腹が減ってきた。昨晩から朝にかけて空腹は感じなかったというのに全く謎だ。
苛立ちをぶつける相手もいない。大きな独り言でストレスを発散するしかない。
ブツブツ独り言を続けていると、砂埃を巻き上げながら俺に向かって走ってくる大型の動物が目に入ってきた。
「ストレスの捌け口発見!」
俺は、大きな独り言を叫び、猛スピードで向かってくるバッファローのような動物を両手広げ待ち構える。
バッファローは草食だと思うが、大きく口を開き鋭い牙を輝かせて走ってくる。
避ける気の無い俺は、バッファローもどきと正面衝突して砂漠の空を舞う。痛いのは嫌だから、牙で噛み付かれないように鼻先に両手を当てて、吹っ飛ばされた。
牙よりは、痛くなかったと思いたいが、車にはねられたような衝撃で、空中散歩中も身体に激痛が走った。
どうせなら、痛みも感じない身体にして欲しかったなんて、考え事をしながら、砂漠に着地する。
口に入った砂を吐き出しながら立ち上がると、俺との接触で、黒い靄に包まれたバッファローもどきは、骨も残さず灰となっていた。
「ん、空腹が無くなった・・・ うげぇぇぇぇ」
満たされた空腹に、俺の中で一つの考えがまとまり、理解と共に、突然猛烈な吐き気がした。
しばらく、その場に蹲り、動けなくなった。胃の中から、食った何かが出てくるわけでも無い。嘔吐できるのは、胃液と唾液くらいだ。
俺が、灰にしたモノは、どこに消えているのか。腹が満たされるというならば、食っているのではないか。そんな憶測で、胸糞が悪くなった。
「まぁ、考えても仕方ないな。生き物は、皆、命を奪って生きているんだ。深く考えるのは、やめよ」
時間と共に、考えがまとまって、独り言をつぶやくと、気持ちが少し楽になった。空腹感が無くなったのも要因かもしれない。
気を取り直して、バッファローもどきが走ってきた方向へ歩いていくと、正面からラクダもどきに乗った盗賊達の姿が目に入ってきた。
バッファローもどきほどではないが、砂埃を巻き上げながら、俺に近付いてくる。向こうも俺の姿に気付いたみたいだ。
少しスピードを緩めて近付いてくる。俺の目の前まで来るとラクダもどきの足を止めて、声を掛けてきた。
「おい、ボロを着た世捨て人!俺達のような気高き砂漠の盗賊を見なかったか?」
「いや、知らないが、仲間を探しているのか?」
俺が灰にした盗賊達のことだろうが、正直に話しても面倒だ。騙せる内は、誤魔化しておきたい。
「ったく、お頭が逃げ帰ってきた奴らを皆殺しにしちまうから、情報が全くなしだ」
「まぁ、襲撃したオアシス村に行った別働隊が情報掴んでんだろ。俺達も収穫なしじゃ、お頭に殺されかねないけどな」
俺に話し掛けた盗賊と別の盗賊が話し合う。盗賊稼業も大変だな。
「あんた達に頼みがあるんだが、聞いてくれるか?」
「あぁん?世捨て人ごときが、気高き砂漠の盗賊様に頼みとは何だ?事と次第によっちゃ、ここで切り捨てるぞ」
「盗賊団に入れて貰いたいんだが、どうだろう?」
「ぐはははは!こいつは、面白え!俺を殺せたら入れてやる」
「マジか、そうゆう展開になるのか。まぁいいや、灰になりたいなら、かかってこい」
「灰になる?ぐはははは、やってみな!俺は、砂漠盗賊団3番隊隊長ゴーラだ!!」
「俺は、ラ、いや、世捨て人だ。確認だけど、お前を殺せたら、仲間にしてくれるってことでいいか?仲間が激昂して、襲ってくるとかないよな?」
「あぁ、気高き砂漠の盗賊は、嘘は言わない」
ゴーラは、ラクダもどきから、勢いよく飛び降りて、剣先が曲がった片手剣を構える。俺には、武器をくれないみたいだ。
「いくぞぉぉぉぉぉぉ!」
3番隊隊長と名乗るゴーラが、砂を蹴って俺に斬りかかってくる。足場が悪い砂漠を物ともせず、素早く近付いてくる。
ザッ!
首を庇った俺の左腕が斬りつけられる。左腕が焼けるように熱いが、気にせず一歩踏み出す。そのまま、右手でゴーラの肩を掴む。
「よしっ、入団試験合格だ」
「肩を掴んだだけで、何を言って・・・ うわぁぁぁ」
ゴーラの左肩が黒い靄に包まれ、少しづつ灰となっていく。灰に変わっていく身体に気付いて、悲鳴をあげる。黒い靄の侵食に逆らえずはずもなく、ゴーラは灰と消えた。
「ぁぁ、痛え。それで、見物人の皆さん、入団よろしく。お頭に会わせてくれ」
「う、嘘だ!隊長が、やられるわけねぇ!ト、トリックだぁぁぁ!」
嘘をつかない気高き砂漠の盗賊は、どこへやら。俺は、声を荒げる盗賊に近いて、ラクダもどきに触れる。
「トリックでも、いいから、さっさと頼むわ」
「う、うわぁぁぁ、何をする」
ドサッ
トリックだと言い放った盗賊が乗っていたラクダもどきは、黒い靄に包まれて灰と消えた。驚いた盗賊は、ラクダもどきから砂の上に落下して腰を抜かしている。
無様な姿を、仲間の前に晒したが、結果、命拾いをしたんだから、儲けもんだろう。
「ラクダもどきと一緒に、お前も灰になるか?」
「ひっ、ひぃぃぃ。わ、分かった。お頭に会わせてやる。お、おい!ザボ!こっちに来い」
「は、はいっ!副隊長!なんでしょうか?」
腰を抜かした副隊長に呼ばれた小柄な盗賊が、最後尾からラクダもどきに乗って俺の近くまで現れる。
「お、おう、ザボ、こいつをお前のラグダに乗せてアジトまで、連れてこい!俺達は、先にアジトに戻って、お頭に伝えておく」
「はい!任せてください!」
「えっと、話進めてるところ悪いんだけど。俺が乗るとラクダ、いやラグダ?が灰になると思うんだ。歩いても、アジトまで行けるか?」
俺の発言に副隊長は、少し思案して、ザボと俺を交互に見つめると口を開いた。
「そうか、貴重なラグダを減らされちゃたまらんからな。数時間かかるが、徒歩でアジトまで行けなくもない。その、歩くのは構わないのか?」
「良くは無いけど、触ったもんが灰になるんだ。仕方ないよな。構わんよ」
「お、おう。よし、ザボ!お前、ラグダから降りろ!そんで、歩いてこいつと戻ってこい!こ、これは、副隊長命令だ!」
話を聞いていたザボは、ラグダから素早く降りて、副隊長に手綱を渡す。
「はい!アジトまで、こいつを連れてきます!」
「た、頼んだぞ!よし、世捨て人!無事に、アジトまで辿り着くのが入団試験だ。気を引き締めて、挑むように!我らは先に、アジトへ戻る!では!」
入団試験が延長されてるのが気になるが仕方ない。俺は、軽く手を挙げて、副隊長を先頭とした盗賊達を見送った。
「ザボ!よろしくな」
「んあぁ? おい、お前!ザボさんかザボ先輩だろ!」
「あ、そうか。一応先輩ってことになるのか。でも、気に食わないからザボでいいだろ」
「んあぁ!さん、か、先輩をつけろ!」
「はぁ、はいはい、ザコセンパイ!」
「ザ、ボ、だ!」
ザボを揶揄いながら、灼熱の砂漠をアジト目指して歩いてく。ザボは、予想通り、盗賊団の一番下っ端で、三日前に入団したばかりらしい。
ザボは、小柄で身長は百四十くらいだ。剣を振り回せるような体格はしておらず細身で歳は十五だという。
ターバンと口元のマスクで、目元しか見えない為、どんな顔をしているかは分からない。ザボ曰く、顔を布で覆った方が暑さを凌げるらしい。
「三日前に入団したんじゃ、俺と変わらないから、先輩は、なしだな」
「な、何だと!そんなこと言うなら、アジトまで案内してやらないぞ!」
「うーん。困るような困らないような。お前のが、俺をアジトへ連れて行かないと、お頭に怒られるんじゃ無いの?」
「んあああ、ふん!バッファウロに喰われたと言えば問題ない!」
ザボは、んああぁと頭を抱えて呻き声をあげるのが癖のようだ。
バッファウロとは、バッファローもどきのことかね?確かに、あれに襲われたら普通は、食われそうだ。噂をすれば何とやらだ。
ドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッド
砂埃を巻き上げて、何かが、こちらへ向かってくる。
「んぁぁぁぁぁ、ば、バッファウロだ!新入り、逃げろ!」
「いやいや、なんで、お前、戦おうとしてんの?」
五頭のバッファウロが向かってくる。震える手で剣を握るザボが、どれだけ強さを隠し持っているか知らないが、あの様子では勝ち目は無さそうだ。
「新入り!俺が何とかする!はやく!逃げろ!」
「え、何とかできんの?流石、ザボ先輩、秘策があるんですね。任せました」
折角、先輩風を吹かせようとしてるザボの顔を立てて、俺は、少し離れて様子を見ることにした。
すぐに、バッファウロと剣を構えたザボが接触する。でるか、秘技サボ魔剣!?
ドッドッドドッドッドドッドッドドッドッド
何もなかったように、バッファウロ達が俺に向かって走ってくる。ザボ先輩は、空高く跳ね飛ばされていった。
「ははははははははっ、マジかよ。腹痛ぇ」
ザボに期待を膨らませたが、残念な結果になった。涙を浮かべ、腹を抱えて笑う俺にバッファウロが次々に激突してくる。
ザボ同様に、俺も空高く跳ね飛ばされて宙を舞う。俺に当たった三頭のバッファウロが黒い靄に包まれ灰となっていくのが落下しながら確認できた。
俺達を通り過ぎた生き残りのバッファウロ達は、Uターンをして戻ってくる。二頭は、二手に分かれて走り出す。
ザボは、先に見事な着地を決めて、砂に埋もれた身体を起こして立ち上がるところだ。
俺を獲物に定めたバッファウロは、落下地点に到着し大きく口を開けて、食事の時間を待っている。
ガッ
俺は空中で、何とかバッファウロの牙から逃れようと身体を捻るが、抵抗虚しく、横腹に鋭い牙で噛み付かれた。
「いっ、痛えなぁ!」
バッファウロが、噛み付いた俺を咀嚼しようとするが、顎から黒い靄に包まれて灰となった。奴は食事を味わう前に消え去った。
俺は、砂にまみれた身体を起こして、ザボの方向を見る。ザボは、震える手で剣を振るいバッファウロの餌にならないように頑張っている。
「お、おい、新入り!助けてくれ!」
ザボは、俺の視線に気付くと手を振り助けを求めてきた。バッファウロを返り討ちにした、俺の力に期待しているのだろう。
「ここまで、走ってくれば助けてやる」
「わ、分かった!そこまで行くから絶対助けろよ!」
ザボは、大声を上げながら、全力で俺に向かって駆けてくる。必死に、バッファウロの攻撃を避けている。なかなかやるな。
噛み付かれた傷が癒えた俺は、欠伸をしながらザボの到着を待つ。
「ほらっ、辿り着いたぞ!」
「先輩、お疲れ様です」
俺は、ザボに声を掛けると追って来たバッファウロに右手で触れる。獲物に夢中で、俺には無頓着だった。難なく触れるとバッファウロは灰となり砂漠に消えていった。
「お、お前!凄いな!た、助かったよ!」
「約束は、守るのが気高き砂漠の盗賊だろ?」
「は、ははは、そうだな。よくやった後輩!」
「偉そうだな先輩!ってか、もうザボでいいだろ」
「お、おう助けて貰ったし、ザボでいいよ。お前、名前は?」
名前か、光って言っても良いが、今の俺にはしっくり来ない。
「あぁ、世捨て人は、名前を捨てるんだったか。うーん、じゃあ、俺が名前を付けてやろう」
「は?ザボが名前付けんの?」
「おう!先輩としてな!お前の恐ろしい力は、伝説に出てくる魔神シャドウのだろ?」
「魔神シャドウ?なにそれ、美味しいの?」
「んぁぁぁぁ?食ったことあるわけねだろ!知らねえよ!女神シャインと魔神シャドウの伝説知らねえのか?」
女神シャインと魔神シャドウの伝説ねえ。何のことやらって感じだ。
「うーん、言っても信じないだろうけど、俺、他の世界から来たんだよ。多分」
「んぁぁぁ!他の世界!?やっぱりそうじゃねえか!お前、魔神の落とし子だ!記憶人!じゃなくて、よよよよ、世渡人だ!」
「ザボさあ、さっきから、全然意味わかんねーよ。魔神の落とし子?記憶人?世渡人?何じゃそれ」
「んぁぁぁ!シャドウ、シャード、シェード、シェイド!よし、お前の名前は、今日からシェイドでどうだ?」
人の質問にも、まともに答えず、ザボは勝手に話しを進めて名前を決めたらしい。まあ、シェイドか。この気味の悪い力が魔神シャドウとやらのが原因なら、シェイドでいいかもしれない。割りと気に入った。
「ザボ、お前、センスあるかも。じゃあ、今日から、俺はシェイドだ!」
「よーしよし、シェイド!よろしくな!俺は、ザボだ!」
「知ってるよ!ザボ、改めてよろしくな」
ザボの命を救ったことで、仲良くなった俺達は、滝汗を流しながら灼熱の砂漠を練り歩きアジトへ向かった。道中、ザボに、質問の嵐を投げつけて多くを知ることができた。
女神シャインとは、この世界をつくった創造神で、魔神シャドウは、この世界を滅ぼそうとやってきた破壊神らしい。全てを再生し続ける女神シャインと全てを破壊し続ける魔神シャドウの戦いは、いつまでも決着がつかなかった。
そこで、女神シャインは、生み出した生命に、力を分け与えた後、自らを魔神シャドウと共に世界の彼方へ封印したという伝説が残っているらしい。
女神シャインの力を分け与えられた生命は、その後、順調に繁栄し、今の世界が形成された。しかし、世界の彼方で封印されても、なお女神と魔神の戦いは続いていた。
女神が分け与えた神秘の力を色濃く受け継ぎ、前世の記憶を持って生まれてくる赤子を【記憶人】、女神の力で、他の世界から突如として呼び出される者を【世渡人】、世界の彼方から漏れ出す魔神シャドウの力を植え付けられて生まれてくる記憶人や世渡人を総称して、【魔神の落とし子】と呼んでいる。
もしかすると俺は、女神と魔神の争いごとに巻き込まれて、この世界に呼び出されたのかもしれない。真実は、世界の彼方にいるという迷惑な神様に聞かなければわからない。
そうと決まれば、どこだか分からない世界の彼方へ行って、真実を解き明かそう!とは、ならなかった。俺と同じ神秘の力や魔神の力を持つ人間がいるみたいだから、まずは、そいつらを探すことに決めた。
「ザボ、お前は、俺以外に見たことあるの?」
「んぁぁぁ!何を?見たことあるって?」
「はあ、記憶人か世渡人か魔神の落とし子のことだよ!」
「あぁ、ここにいるじゃん」
「俺以外!で!」
「んぁぁぁ!見たことは、ないけど王都には、女神様の力を持つ人がいるって聞いたことはあるぞ」
「そうか、王都か、遠そうだな」
「んぁぁぁ!着いた!アジト」
「え、王都に??あ、アジトにか」
話しがなかなか通じないザボに、イラつきながら付いてきたが、ようやくアジトに着いたらしい。王都については、もう少し話しの上手い奴に聞くことにしよう。
目の前には、草木が一切生えていない、ゴツゴツとした大きな茶色い岩で作られた砂漠の岩山がある。ここが、気高き砂漠の盗賊達のアジトらしい。これで、入団試験合格だな。
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