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デモンズハンド 〜前世で貰った神の手は、異世界では魔神の手になっていた〜  作者: 明生 勇里
第1章 神の手を失った俺は、魔神の手と異世界を知っていく
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デモンズハンド 第1話 異世界

プロローグを終えて、異世界にやってきた本編第1話です。

「ここは、ど、どこだ?」


黒煙が、悪魔のような形になら俺に近づいてきたところまでは、覚えている。


あのまま、気を失ったのだろうが、ここは俺が隔離されていた部屋ではない。


ボロボロの身体に鞭打って、起き上がろうと力を入れる。予想に反して、すっと立ち上がれた。


神の右手の使い過ぎで、自力で起き上がることもできなくなったのに、どういうことだ。


「なっ!右手がある・・・」


失ったはずの右手が元通り付いていた。俺は、真っ黒なボロボロのローブを着せられて、転がっていたみたいだ。


気絶していた間に、別の組織に攫われたのかと考えたが、しっくりこない。


何故なら、ここは砂漠のど真ん中だ。木々や家屋の姿はなく、一面が砂で埋め尽くされている。


置かれた状況を確認するのに必死で気にしていなかったが、砂漠特有の焼けるような暑さで、身体中の毛穴から汗が噴き出してくる。


「とにかく、水場か集落を探そう」


俺は、暑さから逃れる為に、あてもなく砂漠を歩き続けた。もう喉がカラカラで、意識を失いぶっ倒れそうだ。


人間とは不思議だ。あれだけ死にたいと思っていたのに状況が変わると生きたいと思ってしまう。必死に、歩を進め、水場や集落を探す。


「やったぞ。どっちも見つけた」


身体中の水分を出し切ったのかと思う位、汗だくになったかいがあった。遂に、水場と集落を見つけて駆け出した。


足がもつれて、派手に転んだ俺は、再び意識を失った。


焼けるような暑さから、凍えるような寒さを感じて、目を覚ます。


「寒っ! ん、も、燃えてる?」


待望の水場と集落に辿り着き、喉を潤す水と食料にありつけると思っていた俺だったが、気が付くと夜になっていた。


日が暮れただけなら良かったが、どうやら集落の様子も変わっている。至るところで、火の手が上がって、集落の周りだけ昼のように明るい。


事態を把握するために、俺は燃え上がる家屋に向かって走り出した。避難している人がいれば、ここがどこなのか分かるかもしれない。


集落の入口に到着すると、火事というよりも、人為的に火を放たれたことが分かった。


燃え上がる家には、先端に火がついた矢が何本も刺さっている。近くに、火の手から避難した人々の姿はないが、道に倒れた人影が目についた。


「大丈夫か?」


俺は、仰向けに倒れている老婆に近付き声を掛ける。首から腹にかけて、剣で付けられた大きな傷がある。砂漠の砂が赤黒く染まっている。


このままでは、助からないだろう。


「た、たすけておく、れ」

「分かった。今助ける」


俺は、元通りになった神の右手で老婆の傷に触れる。

いつも通り手から光が溢れて、老婆の傷を元通りに治す。


「え、な、なんだ」

「た、たびのかた、ありがとぉ・・・」


老婆に、消え入るような声でお礼を言われた。老婆は、真っ黒な灰に姿を変えて、砂漠に消えていった。


「あ、え、お、俺はやってない!」


目の前で起きた出来事を否定して、俺は周囲の生存者を探した。


少し歩くと、仰向けに倒れている中年男を見つけた。

老婆と同じような傷が背中に付けられている。中年男に近寄り、声を掛ける。


「おっさん、生きてるか?」

「う、あ、・・・くれ」


おっさんが、何を言ったか聞き取れなかったが、命を救って欲しいのだろう。俺は、神の右手で、背中の傷に触れた。


おっさんの身体が黒い靄に包まれる。おかしい、神の右手とは違う。見る見るうちに、おっさんは老婆と同じく真っ黒な灰に姿を変えて消えていった。


「な、なんなんだよ! 人を治す力の次は、灰に変える力か!? ふざけるな!」


まだ確信はないが、俺の新しい右手は、人を灰に変えているのかもしれない。俺は、立ち上がり、新たな生存者を探した。


集落の中央に作られた広場に辿り着くと、武器を手に持ったまま、倒れている男達の姿があった。声を掛けるが、誰も返事をしない。


試しに、亡骸の一つに右手で触れると、真っ黒な灰に姿を変えた。右手の力が確信に変わった。


「ははははははははっ!!!」

「なんだ、生き残りがいるのか!?」


気色悪い右手の力に、堪えきれず笑い声をあげた俺に、誰かが気付いた。


ラクダのような生物に乗った男達が、目の前に現れた。砂漠の盗賊という例えが、ピッタリな格好をしている。頭にターバン、口元を隠し、剣先が少し曲がった片手剣を持っている。


俺が、様子を伺っていると、すぐに十人ほどが集まってきた。一番ガタイが良く、ガシャガシャと宝石を身に付けた男が、俺に近付いてくる。


「お前、そんなボロを着て世捨て人か?」

「世捨て人ってのが、共通の認識かわからんが、大体そんなもんだ。さっさと殺してくれ」


人を救うどころか、灰に変えてまで、生きたいと思うほど、命に執着はない。一度は、生きたいと願ったが、こんな気持ちの悪い身体で生きていても仕方ない。


「流石、世捨て人だな。潔い。この俺様が直々に殺してやろう」

「話のわかるやつで助かったよ。なるべく苦しまないように頼むわ」


死を望んでも、痛くて苦しいのはごめんだ。俺は、砂漠の盗賊に命を差し出し願い出た。


ザッ!


首筋から斜めに俺の身体が斬りつけられる。剣先が通過した場所が火傷のように熱く痛みが走る。苦しまないようにと頼んだのに、めちゃくちゃ痛い。


俺は、傷口から血飛沫があがり、後ろに倒れる。あぁ、これで死ねる。来世は、幸せな生活を送りたい。


目を閉じて、訪れる死を静かに待つ。死が近いのだろう傷口の痛みも感じなくなってきた。


初めはめちゃくちゃ痛くて、恨んだが、名も知らぬ盗賊よ。ありがとう。俺は、安らかに眠るよ。


ん、おかしい。死んでも、音って聞こえるもんなのか?男達の足音やざわつく声が耳に入ってくる。


「き、きずぐちが!」

「うるせえな。人が静かに死のうってのに、なんなんだ?お前ら!」


俺は、目を見開き、傷がどうのと言う盗賊達を怒鳴りつける。ん、俺、何してんだ?


起き上がり、傷口を見ると、ボロの真っ黒なローブが血で汚れているだけで、傷は見当たらない。


「ば、バケモノめ!大人しく死ね!」


ザクッ!


俺を殺してくれる約束をした男が、今度は剣を心臓に突き刺してきた。


「いてぇな!てめぇ、何すんだ!」


俺は、心臓に剣が刺さったまま、男に歩み寄り胸ぐらを掴む。


「ひぃ!」


男は、盗賊のくせに、怯えた表情を見せて、俺から離れようとするが、既に遅い。


俺に掴まれた場所から、黒い靄が広がり、男を灰へと変えた。風が通り抜け、男の姿が消えて無くなった。


俺に刺さっていた剣も、同じように灰となり消え去り、心臓を貫かれた傷も塞がっていた。


「ぬぁぁぁ、よくも、隊長を!バケモノめ!」

「いやいや、俺何もしてねぇし」


男達が次々に襲いかかってくる。自分自身の状況が、イマイチ飲み込めていないが、痛いのは嫌だ。


「いてぇ!ぐぁ、げっ、ごは」

「死ね!バケモノめ!消えてなくなれ!」


男達は、俺を取り囲み袋叩きにする。剣で何度も斬りつけられ、全身が痛みに襲われる。何度も何度も何度も何度も、グッチャグッチャに身体中を切り刻まれ、どこが切られたのかも分からない。


「はぁはぁはぁ、これだけ、やれば、悪魔も滅することができただろう。悪魔の身体に触れた剣がボロボロだ」


そりゃ。俺の身体に刺さった剣が、灰になるのだから、何度も斬りつければボロボロになるだろうな。


「うわぁ。あ、足を掴まれた。こいつ、まだ生きてるぞ・・・」


俺は、再生した右手を伸ばして、手近な足を掴んで、立ち上がる。掴んだ足から黒い靄に包まれて、灰に変わっていく。足の持ち主の顔を除く前に、全てが灰に変わっていた。


「あぁ、マジで。痛いっての。お前ら、斬られたことある?」


目の前で仲間が灰になった姿に、怯えて動けない男を右手で一人、左手で一人、掴んで問い掛ける。


「や、やめてくれぇ!」


右手で掴んだ男が、黒い靄に包まれ灰となり消える。左手で掴んだ男に右手を伸ばすと空をきった。


左手で掴んだはずの男は、既に灰になっていた。


「え、マジかよ」


左手の掌を、グーパーして、確かめる。特に変わった様子はない。


「な、なんなんだ!このバケモノめ!」


背後から、男の叫び声が聞こえてくる。手を伸ばしながら振り返り男に抱きつく。


男の振りかざした剣を突然の抱擁で躱して、腰の辺りから灰に変える。男が手放した剣を拾い上げ、俺は声を荒げた。


「灰になりたい奴から、かかってこい!」


格好良く剣を突き出したが、決め台詞を言い終えると剣は灰に変わってしまった。どうやら、触れたもの全てを灰に変えるらしい。


「うううおおおおお!」

「お、逃げずにかかってくるとは、勇敢だな」


ボロボロになった剣を捨て、新しい剣を構えて、男達が次々と向かってくる。


最初よりも、数が増えている盗賊達を見るに、騒ぎを聞きつけて集まってきたのだろう。後方には、集落の女達と子供を縛り上げて、連れている男達の姿もある。


俺を、袋叩きにした時と同じように、男達が取り囲んで襲いかかってくる。


「悪いけど、灰になってくれ。俺は痛いのは、嫌なんだ」

「悪魔め!消えろぉぉぉ!」


俺は体勢を低くして、襲いかかってくる男達の足元に向かってタックルをする。俺にぶつかった三人の男が黒い靄に包まれた。


三人の行く末を確認せずに、俺は次の獲物に向かって腕を伸ばして黒い靄で包んで行く。


十数人対一人では、全ての攻撃を避けることは当然できず、剣で何箇所も斬りつけられる。身体中に、再び痛みが走るが気にするのをやめた。


とにかく男達に触れることだけ意識をして、動き回る。全ての身体に一度触れるまで、大した時間は、掛からなかった。


気が付くと、後方で集落の人々を縛り上げていた男達の姿はなかった。恐れをなして逃げたようだ。


俺の周りには、男達が戦いの最中、落とした武器や装飾品だけが、残された。他は灰になって、砂漠に消えた。


「終わったか。えっと、話ができる人いるか?」


俺は、盗賊達に縛り上げられた女子供達に声を掛ける。少し待つが、誰も、言葉を発しない。


「あぁ、縛られてるからか、うーん、こうかな?」


足で、落ちていた短剣を村人達のいる方向へ蹴り飛ばす。


「え、マジかよ」


足に当たった短剣は、村人達へ辿り着く前に、灰になってしまった。両手だけでなく、足まで呪われてるらしい。


俺は、ゴルフの要領で、長めの剣を掴んで素早く、短剣を弾いて、村人達へもう一度飛ばす。今度は成功らしい。


短剣の一番近くにいた若い女同士が協力しあって、縄の結び目を切って自由になる。次々と村人達は、自由になり全ての生き残りが自由の身となった。


盗賊にとって、男は不要で、若い女や子供だけ奴隷などにして売り捌くつもりだったのだろう。生き残りに、男は一人もいない。


年寄りや中年の女も一人もいない。人間の汚い部分が目について、気分が悪くなる。


「えっと、いくつか聞きたいんだけど、誰か話せるか?」

「な、何でもしますから、殺さないでください!お願いします!」

「は?」

「ま、魔神の落とし子に、何を言っても無駄よ!あの男達のように皆殺しにされるんだわ!」

「マジか、はいはい、もういいや」


命を助けたことに感謝されるどころか、命乞いをされるとは思っていなかった。情報収集は、ここじゃなくても出来る。


「俺は、ここを出て行く。あんたらは、勝手にしてくれ」


俺は、女達から離れて、村のオアシスに向かった。喉ぐらい潤してから、ここを去りたい


オアシスに着いた俺は、地面に手をつき、透き通った水に顔を埋めて、水を飲み込んだ。


「げっ、ごほっ、ごほ、なんだこれ。水じゃないのか?」


俺は、顔を上げて、喉に詰まった何かを吐き出す。口の中から出てきたモノを見つめて驚愕する。


「は、マジかよ。キスもできなくなったのか」


俺の口から吐き出されたのは、真っ黒な灰の塊だった。


俺は、全てを癒す神の右手を失い、不死の身体と、全身が触れたモノを灰に変える素晴らしい力を手に入れたらしい。


ここは、きっと異世界ってやつだと思う。何故なら、村人の中に、アニメやゲームの世界で、よく見かける獣人や亜人の類がいたからだ。


異世界転生ってやつか?明日から、どう生きて行こう。


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