朝は大変
作者の力量不足で設定や説明がかなりガバカバな部分があると思います。
読んでいて楽しくなるような文章が書けるよう日々模索しています。
よろしくお願いいたします。
ピピピピ、ピピピピ、ピピピピ。早朝、アラーム音が部屋中に響く。
「ちっ」
バンッという音とともに6時にセットした目覚まし時計のアラームが止まる。
……時計の持ち主である俺が止めてないのに。
「おはようございます千尋様。起床の時間です」
「………………鵜久森?」
目を開くと鵜久森の顔が目の前にあった。いつもの鵜久森だ。熱も下がったようだな。
「…………体調はもう……大丈夫なのか」
「はい。千尋様の雑炊のお陰で今日からまた万全の鵜久森になりました」
「そうか。……………鵜久森、近い」
「お気になさらず」
間近で見るとやっぱり整った顔立ちだな。雪のように白い肌、海のように青く綺麗な目、桜色の唇。そんな鵜久森の吐息が聞こえるくらい、それくらい距離がち……か……い……………ぐぅぐぅ。
「二度寝は禁止ですよ千尋様」
「あと…………5時間だけ」
「遅刻します」
「じゃあ2時間」
「遅刻します」
「じゃあ……5分」
「かしこまりました。では5分後に目覚まし時計をセットしておきます」
「…………ありがとう」
5分だけでも寝られるぞ。昨日は予習やら何やらで徹夜になってしまったから眠たくて…………ぐぅぐぅ。
「では5分後にセットを…………あれ? この目覚まし時計壊れてますね。すいません千尋ーー」
「くぅ…………くぅ…………」
「…………」
そこからは眠ってしまったのでほとんど記憶がないが5分間、いやそれ以上の時間をとても近くで顔をまじまじと見られていた気がした。
◆
始業のチャイムまであと15分少々。いつもなら余裕で学校に到着しているのだが、今日はまだ登校中だ。
「失敗したな。目覚まし時計が何故か粉々になってて寝過ぎてしまった」
昨日まで目覚まし時計だったものが起床した時には数字が書かれたガラクタになっていた。
正直遅刻を覚悟したが、人間は追い込まれるといつもより早く動くことができるものだな。良い体験をした。
「不思議なこともありますね」
「鵜久森、お前だろ?」
「いえ私ではありません」
「えっ……それじゃあ」
「はい。犯人は将彦様です」
「嘘つけ」
「あうっ」
デコピンを受けて痛そうにする鵜久森を尻目に歩いていると、ひときわ目立つ背の高い女子がいた。周りを歩いている男子生徒たちより頭ひとつ高い。
「おっはよーっ! ち・ひ・ろーっ!」
その女子は俺を見つけるとこちらに向かって走ってくる。
「おはよう刈谷さん。身体はもう大丈夫なのか?」
この女子は鵜久森と同様、昨日休んだ2年E組の一人の刈谷さんだ。
「大丈夫だよー。心配してくれるなんて、千尋は優しいなぁ。あとさ、いつも言ってるけど刈谷さんじゃなくて恋って呼んでよ」
「い、いや。それは」
「ん?」
「女子を下の名前で呼ぶのは何か、こう…………恥ずかしいというか」
下の名前で呼んでいる女子は妹しかいない。長年付き合いのある鵜久森ですら下の名前で呼んだことがない。
前に一度だけ中学時代にクラスの女子を下の名前で呼んだことがあるのだが、あれも罰ゲームかなんかで恥ずかしくて仕方なかった。
「……………………」
両手を口に当ててわなわなと震えている刈谷さん。
「萌え死んじゃうよーっ!」
「んんんーーっ!!」
もの凄い勢いで刈谷さんに強く抱き締められた。刈谷さんのふくよかな胸に顔が埋もれてしまい息苦しい。
本来なら喜びが沸き上がるところだが苦しいが上回ってそれどころではない。
刈谷さんの腕を必死にタップしているが興奮しているのか気づいてくれない。力強い……く、苦しい。
「もーーーーっ! 普段はカッコいいのにそういうところ初なんてギャップだよっ! 恋をキュン死させたいの? だったらもう一押しかな。まだ鼻血が出ちゃうだけだね。もし本当にキュン死させたいなら上目遣いで『お姉ちゃん』って言ったら成功するよ。この際だし言ってみようか。とびっきり可愛くね、せーの」
「ん゛ん゛ん。 おはようございます刈谷様」
今朝俺に言ってくれた「おはようございます」よりかなり低めの声の鵜久森。
「おはよう鵜久森ちゃん。今めちゃくちゃ良いところだから邪魔しないでね」
「千尋様が嫌がっております。離れてください」
普段あまり感情を表に出さない鵜久森だが、何故か刈谷さんには苛つていることが多い。今も苛ついているようだ。
「そんなわけないじゃん。ねー千尋」
「んんんーーーー」
可愛く「ねー」と言われても口を開けないので賛同をすることもできない。
「ほら、千尋も喜んでるよ」
俺が喜んでいると自己で判断する刈谷さん。
酸素を取り込めず苦しいことを除けば喜んでいるということは間違いではない。
必死に刈谷さんの腕にタップをしているのだがまだ気づいてくれそうにない。できればそろそろ気づいていただかないと俺の意識の方が…………。
「…………離れてください」
「あっかんべー」
「…………千尋様をタブらかす下品な乳牛が」
「嫉妬は見苦しいよ、鉄火面女」
「嫉妬なんて微塵もしておりません。私も平均よりある方ですから」
「ぷぷぷー。平均に勝って満足してるなんて志が低いね。これじゃ千尋は渡せないなー」
「決めました。今日の夕食は牛にします。まずはその全ての栄養が行ってしまっている胸から削ぎ落としましょう」
「いいよ、返り討ちにしちゃうから」
刈谷さんの腕の力がさらに強くなる。……これはもう本格的に駄目かもしれない。何か大きな川が見えてきた。
「何を朝からイチャイチャしているの? 見てて血圧が上がるから止めてくれる」
こ、この声は我らがクラス委員長の…………。
「おはようございます栄生様」
「おはよう栄生ちゃん」
「おはよう鵜久森さん、刈谷さん。ほらこんなところでいちゃついていたら通行の迷惑だから。あと刈谷さん、神宮寺くんが死んでしまうから離してあげて」
「えええーー。名残惜しいけど、千尋には死んで欲しくないから仕方ないか」
栄生さんの説得により刈谷さんが力を緩める。その瞬間、俺は膝から崩れ落ちる。
「ぷはっーー!! はあ…………はあ…………し、死ぬ」
抱き締められている間、走馬灯が見えた。酸素を取り込んで全身に送らないと。
「遅刻するから早く歩き出したがいいわよ」
四つん這いになっている俺に救世主が話しかけてくる。
「ご、ごめん栄生さん、助かった」
「どういたしまして。牛乳一つで手を打つわ」
「2つ奢らせてください」
「さすが副委員長。じゃあまた学校で」
学校の方向へと歩き出したかと思うと、再びこちらを振り向く栄生さん。
「忘れてたわ。今日の放課後、D組との試合のミーティングするから残ってちょうだいね」
「ああ了解した」
「それじゃ」
そう言い残すと栄生さんは学校に向かって歩いて行った。
「大丈夫、千尋?」
「貴女のせいですよ。千尋様、休憩中申し訳ありませんがそろそろ歩かないと遅刻をしてしまいます」
「そうか…………じゃあ行くか」
朝からどっと疲れたがまだ1日が始まったばかりだ。学生としての本分を全うしに行こう。
読んでいただき本当にありがとうございます。
誤字・脱字があったら申し訳ありません。
これからも日々努力していきます。