廊下で舞っているのは桜の花びらとクラスメイト
作者の力量不足で設定や説明がかなりガバカバな部分があると思います。
読んでいて楽しくなるような文章が書けるよう日々模索しています。
よろしくお願いいたします。
今から遠い遠い昔、さらに言うと私たちが住んでいる世界とは違う異世界の話。
その世界では魔王軍と勇者軍が戦っていました。一進一退の攻防が続いていましたが見事に勇者軍が魔王を討伐、勝利を収めました。
魔王を失った魔族達は勇者軍の残党狩りから逃れるために私たちが住む世界に逃げることにしました。
逃げ切った魔族達はこっちの世界を征服しようとしましたが、まずは一旦落ち着いて私たちの世界に順応することに決めました。
しかしこれが魔族達の誤算でした。
私たちの世界は魔族達の世界より数倍便利で安全であり「あれ? こっちの世界の方が良くね」と思い始めました。
その思いは年数が経つ毎に強くなって征服しようという考えが薄れていき、こっちで永住しようという考えが芽生えてきました。
そして今では私たちと仲良く共存しているのです。めでたしめでたし。
※この物語はお子様を楽しませるために大人が深夜に頭を少し変にしながら考えたフィクションです。保護者の皆様、売上貢献のためにもあと10冊はご購入をよろしくお願いいたします。
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新しい生活を送ろうとする人々を歓迎するかのように桜が綺麗に咲き誇る4月。4月という季節は人によって感じ方が変わる季節であると思う。
新生活に楽しみや不安が混じったような人もいれば、もしくは何も変わらないただの季節の変わり目と感じている人もいるだろう。学生の大半は前者ではないだろうか。
学年が上がり2年E組の一員となってはや2週間。
はじめは新しいクラスに馴染めるか不安だったが、クラスのみんなはとてもフレンドリーで楽しく学校生活を過ごせている。
まだ2週間しか一緒に過ごしていないが、素晴らしいクラスメイトだと俺は思う。
そんな素晴らしい2年E組のクラスメイトたちはというと今ーー
ドッッッッッカーーーーン!
「ぐべらっ!」
「鬼っ! 悪魔っ!」
「後であいつの秘密をばらしてやる」
「ちくしょーっ!」
「“魔法”使うなんて卑怯だぞっ!」
火の玉に襲われて、吹き飛ばされている真っ最中だ。
吹き飛んでいる姿はまるで風に吹かれて散っている桜の花びらのようだ。そんなに綺麗なものじゃないか。
窓を開けば春風が吹くであろう学校の廊下で火の玉が生徒を襲っている。
吹き飛ばされた生徒たちはボトボトと床に落ちていった。うわっ落ちていく時のあいつ不細工だったな。
一番近くに転がっていたクラスメイトに一応声をかけてみる。
「おい大丈夫か?」
「…………」
返事がない。とりあえず荷物を置いてからまた様子を見に来よう。
転がっているクラスメイトを避け、2年E組の教室近くに到着すると教室の廊下側の窓から顔を出して笑っている二人の女子がいた。
「ぷっ……あははははは! 今の見た友愛。あの熱田の顔っ! 火の玉喰らって白目剥いてさ……ぷっ……あはははっ! あー駄目お腹痛いよー」
「ふふっ……駄目よ大江さん。み、みんな……い、一生懸命やって……ふふっ」
爆笑しているのはナチュラルボディタッチで男子を意図せずとも陥落させる大江さん、注意しながらも笑うのを必死に堪えているのが我らが2年E組のクラス委員長の栄生さんだ。
「あー笑った笑った。あっおはよう神宮寺っ!」
「おはよう神宮寺くん」
歩いている俺に気付きこちらを向く大江さんと栄生さん。
「おはよう。なんで熱田たちは朝からあんなことになってんだ?」
「なんかねD組のカップルが気にくわないって殴り込んだら、見ての通り返り討ちにされちゃったの」
「なんじゃそりゃ」
自業自得じゃないか。心配して損した。
教室のドアを開け中に入ると結構な数の生徒が既に登校しており雑談に花を咲かせていた。
「それがさ尻尾生えてるから無理って言うんだよっ!」
「ありえないね。私だったらそいつ火だるまにしちゃってるかも」
「昨日さ、ママとパパが喧嘩して家が傾いちゃったんだよね」
「大変だね。私の家泊まる?」
「おいおい頭から角出てるぞ。ダサいから早く引っ込めろよ」
「うおマジか。さっきくしゃみしたからかな」
勘の良い人はもうお気づきだろう。というより冒頭からとっくに気づいていたかもしれない。
俺が通っているこの九象麻高校は普通の高校ではない。
全校生徒、学校に勤務している先生や事務員さん含む全員が大昔に人間界にやってきた魔族の子孫なのだ。もちろん俺も魔族の子孫だ。
しかし魔族の子孫だからといって普通の人と大きくは変わらない。なぜなら何百年も前の先祖様だし、どちらかというと人間の方に近い。むしろほぼ人間。魔族純度は30%くらい。
容姿も普通の人と変わらない。気を抜いたら角や尻尾が少し生えちゃったりするが、帽子などで隠せるほど小さいものなので問題ない。
知力も普通の人と変わらない。むしろ九象麻高校にはちょっとアホが多いくらいだ。
生活も何も変わらない。学校に通い、友達と遊び、眠くなったら布団に入って寝る。ゲームをするしSNSも使いこなす、最新のトレンドにも敏感だ。
この世界を征服してやるなんて微塵も思わない。警察のお世話にはなってはいけないと小さな頃から両親に教えられているからな。
そもそも征服ってなんだ。恥ずかしいなあ。
そんなことを熱心にやっていたなんて俺たちの先祖様は暇人だったのか。残念ながら俺たちはテストや遊びと忙しく暇じゃない。
ほら。ここまでの説明を聞いたらどこからどう見てもどこにでもいる高校生だろう。はいQED。
荷物を自分の席に置き、席から徒歩30秒の事故現場に向かう。
「何やってるんだよ」
廊下でうつ伏せになっている友達の熱田に声をかける。元々茶髪なのだが火の玉を受けて黒くなっているように見える。先ほど吹き飛ばされ床に落ちてからピクリとも動いていない。
「…………妬んだら丸焼きにされた」
うつ伏せのまま涙声で返答する熱田。
「はぁ。とりあえず“治療”するぞ」
熱田の背中に右手を添え魔力を放出する。熱田の身体が光ると身体にあった火傷が徐々に消えていく。
これが普通の人と俺たち魔族の子孫との唯一の大きな違いだろう。
先祖が魔族の名残だからだと思うが、俺たちは“魔法”が使えるのだ。
これがすごく便利で俺は治癒魔法が使えるお陰で生まれてから大きな怪我をしたことがない。骨折をしても魔法を使えば、その日のうちに治ってしまう。
「ほら。一応動ける程度には治したから教室戻れよ」
治療時間5秒くらい。熱田の身体にあった火傷はほぼ完治した。うん我ながら良い治療だ。惚れ惚れする。
「…………ありがとう。でも今泣いて目が赤くて恥ずかしいからまだこのままでいる」
皆が通る廊下でうつ伏せになっている方が恥ずかしいと思うけどな。
「チャイムが鳴る前には戻れよ。俺は他の皆も治療してくるから」
熱田を治療を終えた後、他の丸焼きにされたクラスメイトをチャイムが鳴るまで治療を続けた。
全員の治療が終わり自分の席に着くと同時にチャイムが鳴った。鳴り終わると教室に担任の二川先生が入ってくる。
「はーい皆席に着いてよー。あと誰か廊下で転がってる熱田君をここに連れてきて」
いつまで寝てるんだよあいつ。…………もしかして俺の治療が足りなかったのか。
「僕が行きます」
立候補をし教室を出ていくと、先ほどの位置から全く動いていない熱田がいた。
「もう授業始まるぞ。立って立って」
「…………ごめん神宮寺。立てないんだ」
「もしかしてまだどこか痛むのか?」
「いやそれはない。神宮寺の治療は完璧だ。もうどこも痛くないし動ける。でも立てないんだ」
「意味がわからん。ほらみんな待ってるから」
無理矢理熱田を立ち上がらせると何故ずっとうつ伏せになっていたのかを理解した。
「…………熱田お前ズボンがーー」
「言うなっ!」
「何で俺に相談してくれなかったんだ」
「俺のことよりクラスメイトの治療が優先だ」
「だからってーー」
「遅いぞー神宮寺」
熱田を連れてくるだけなのに時間がかかっているので、少しイラつきながら二川先生が様子を見にやって来た。
「何をもたもたして…………」
二川先生が熱田の姿を見て言葉をなくす。その反応は正しいだろう。
なぜなら熱田の制服の前部分が綺麗になくなっているのからだ。後ろ姿は綺麗な制服だが、前から見るとパンツ一丁という攻めたファッション。とても前衛的だ。
「くっ……とうとう女性の二川先生にも見られちまったか」
何かを悟ったような顔をする熱田。その顔を見て何とも言えない罪悪感が沸いてくる。
「すまない。俺の治療魔法が服も治せたらこんなことには……」
「大丈夫だ。今日は生徒が全員いなくなるまで廊下でうつ伏せになって過ごすから」
「それは無謀すぎる」
まだ朝のホームルームなのにここから5時限目まで廊下でうつ伏せで過ごすなんて…………できるわけがない。無謀過ぎる。
「やれるさ。…………だから後でノート見せてくれよな」
「もちろんだ。他にも何か困ったことがあったら遠慮なく言ってくれ」
「ありがとう。じゃあ早速で悪いんだがタオルとかでいいから貸してくれないか。春でも流石にこの格好だと肌寒い」
「待ってろ。すぐに持ってくる」
そんな俺と熱田のやり取りを冷めた目で見守っていた二川先生が口を開く。
「いやいや熱田邪魔なだけだから。制服がダメなら体操服でいいから早く着替えて来て」
「「あっ」」
的確で正論な指摘を言い残し二川先生は教室へと戻っていた。
二川先生がいなくなり、熱田と二人っきりになると一気に脳が正常な働きを取り戻した。
今まで俺は何を言っていたんだ。
熱田とのやり取りを思い返すと顔が赤くなる。できることなら記憶を消したい。
俺の隣にいる変態はいつまでそんなふざけた格好でいるんだ。早くどっかに行ってほしいな。俺も廊下で下着を露出する変態みたいに思われたら不本意だ。
「…………ごめん。タオルじゃなくて俺の体操服を持って来てくれないか」
「自分で持ってこい」
熱田を置いて俺は教室へと戻っていた。その後熱田は体操服に着替た後、二川先生の授業を受けた。
読んでいただき本当にありがとうございます。
誤字・脱字があったら申し訳ありません。
これからも日々努力していきます。