9.エンドレス・ループ
「……死ぬって、ま、まさか体力ゼロのことじゃないよな?」
青ざめたモモコは、やっとの思いで声に出す。
「体力がなくなっても死ぬことはない。
死ぬとは、生命を絶たれること」
「剣とか魔法の攻撃で、体力がなくなってバタンキュー、はい、ゲイムオーバー、ってことを言ってるかと思った」
「違う。敵の攻撃で、本当に殺されることだ。
ただし、最後のセーブポイントに戻るから、結果的に生き返るが」
「質問」
「何だ?」
「もし、戦う直前でセーブして、その後すぐに死んだら、セーブしたところから復活するよな?」
「もちろん」
「そこでまた、すぐ死んだら?」
「エンドレス・ループになるな。
そこから抜け出るには、勝つしかない」
「マジですか……」
モモコは、力が抜けたようにしゃがみ込んだ。
ここで、アンベールが挙手をして一歩前に出た。
「もし、敵もセーブポイントを持っていて、その敵が死んだら、セーブポイントから再開するわよね?
すると、今度は、こちらが死ぬかも知れない。
これって、ループにならない?」
「素晴らしい! 良い質問だ!」
アルバンは、パンパンと手を叩きながら何度も頷く。
「ずっと黙っているから、もしかして何も理解できないほど知力が低いと思っていたが、よく気づいたな」
「誰でも気づくわよ」
そう言ってアンベールは、感心して見上げるモモコを一瞥する。
「実は、セーブポイントを持っている者は、ミッションを与えられた者しかいない。
そのミッションは、この世界では一人、もしくは、一組の人物しか与えられないのだ」
「なら、セーブポイントに戻るという、時間の逆戻りができるのは、そのミッションを与えられた者のみ?」
「左様。だから、先ほどのループは起こらない」
「そうなると、ミッションを与えられていない者が死ぬと?」
「永遠に死ぬ」
「……」
「そう言う意味で、お前たちは、この世界で最強なのだ」
アルバンは、アンベールとモモコを順に指さした。
「じゃあ、もう一つ質問」
アンベールは、再び挙手をした。
「今度は何だ?」
「ミッションがコンプリートしたら、どうなるの?
つまり、魔王討伐が完了したら」
「お前たちの願いを一つ叶えてやる。
ただし、二人いても一つだ」
アンベールは、まだしゃがみ込んだままのモモコと目で会話をした。
そして、アルバンに向き直る。
「この体を元に戻して、元の世界に返して」
「体を戻すとは?」
「私たち、体が入れ替わっているの。それを元に戻すということ」
「……どおりで言葉遣いがおかしいと思ったら、そういうことだったのか」
「そうなの」
「言っておくが、願いは一つだけだ」
「ということは?」
「体を入れ替えてここに留まるか、今のままで元の世界に戻るか、どちらかを選べ」
アンベールは、急いでモモコの方を向き、再び目で会話をする。
それから、ゆっくりと顔を上げて、アルバンと目を合わせた。
「結論は、魔王討伐後でもいい?」
「まあ、それでもよかろう」
アルバンは、二度頷いた。