8.セーブポイントの真実
モモコは左手の人差し指を前に出して『画面を表示せよ』、アンベールは右手の人差し指を前に出して『画面表示』という言葉を心に浮かべた。
そのどちらでもよかったようで、二人の指先に、半透明の画面が現れた。
最後に表示されていたメッセージはすでに消えていて、画面はブランク状態だった。
その画面の右側を見ると、確かに『:』の記号があったので、二人はそれをタップする。
すると、「ステイタス」というタイトルで始まる、少し大きめの画面が表示された。右と下にスクロールバーもついている。
モモコは『ステータスだろうに』と心の中で舌打ちをして、表示されている内容にざっと目を通した。
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ステイタス
職業:魔法使い
LV:1
経験:0 知能:99 攻撃:99 敏捷:99
体力:99 耐久:99 魔力:99
魔法:火炎(-10)、突風(-20)、放水(-20)、爆裂(-50)、落雷(-50)、破壊(-50)、予知(-30)、結界(-40)、召還(-50)、魅了(-30)、煙幕(-30)
特殊:開墾(-30)、栽培(-30)、収穫(-30)、建造(-50)、工作(-20)
ゲルト:勇者側と同じ
武器
・
防具
・
アイテム
・ロッド、オーブ
セーブポイント
・勇者側と同じ
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いろいろ突っ込みたくなる内容に、モモコは目を丸くする。
「ねえ、私のこれって凄いの?」
横から問いかけてきたアンベールが、自分の画面を指さす。
モモコはそれを覗き込み、目をむいた。
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ステイタス
職業:勇者
LV:1
経験:0 知能:99 攻撃:99 敏捷:99
体力:99 耐久:99 魔力:99
魔法:回復(-50)、無効化(-50)、結界(-50)
特殊:開墾(-30)、栽培(-30)、収穫(-30)、建造(-50)、工作(-20)
ゲルト:0
武器
・聖剣(+100)、斧(+50)、棍棒(+50)、槍(+30)、弓(+30)、鎖(+20)
防具
・プレート・アーマー(+100)、ブリガンディン(+70)、チェインメイル(+50)、スケイルアーマー(+30)、バシネット(+80)、アーメット(+50)、ヘルム(+30)、ガン・シールド(+100)、バックラー(+70)、カイト・シールド(+50)
アイテム
・
セーブポイント
・
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アルバンは、ニヤニヤ笑いながら、二人に近づいてきた。
「どうだ。最初から、LV1の最高のスキルになっているだろう?」
「やっぱ、99が最高なんだ」
「でも、経験がないから次のLVに行けない」
「ふむふむ」
「経験から敏捷まで全てが99になると、LVは2となり、ボーナスで経験から魔力まで全部が100になる。体力、耐久、魔力が0でもだ。
次は、経験から敏捷まで199になると、LVは3となる。ボーナスでどうなるかはわかるであろう?
最高はLV10までだ」
「999が最高かぁ」
「左様」
「次の、経験から敏捷まで199にするには何をすればいい?」
「戦闘経験を積めばいい。経験は、倒す相手次第だが、アップする数値が決まっている。知能から敏捷はランダムにアップする。経験より数値が高くなることもある。ただし、上限は超えられないがな」
「ゲルトは?」
「この国の貨幣だ。単位は、金貨の枚数。
金貨1枚は銀貨10枚に等しいから、銀貨があれば、小数点表示となることもある」
「金貨や銀貨は、報酬や売買の収入で得られる貨幣?」
「左様。宝箱に入っていることもあるぞ」
「魔法や特殊のマイナスって何だ?」
「それぞれ、魔力と体力の消費を意味する」
「ってことは、火炎を使うと魔力が10減って、開墾を使うと体力が30減る」
「左様」
「なら、武器のプラスは攻撃にプラスで、防具のプラスは――」
「耐久にプラス」
「なるほど。なんとなくわかったけど、どんな威力の魔法なのか、言葉じゃさっぱりわからないなぁ」
「まずは使ってみよ」
「簡単に言うなぁ……。取説はないのか?」
「トリセツとは、なんだ?」
「なら、攻略本は?」
「コウリャクボン?」
「もう、いいっす……。
体力と耐久と魔力は、休息で回復?」
「左様……。
ずっと黙っているアンベールよりは、モモコの方がよく知っていそうだな。
後は、やりながら、どうなるか調べて覚えろ」
「ずいぶんと、適当だなぁ……。
ところで、セーブポイントって?」
「ステイタスと保存時点の場所と時間を、まとめてセーブしたものだ。
最大で10個しか残らないからな。
10を超えると、古いものから消えていく」
「やっぱ、ゲームのセーブのことか」
「魔王討伐は、ミッションだ。ゲイムではない」
「はいはい。どう考えても、ゲーム、いや、ゲイムだけどね……。
ところで、どういうときに、セーブポイントから戻すんだ?」
「失敗してやり直したいときだ」
「やり直す?
へー、……ってことは、過去に戻れるんだ。
俺たち、タイムトラベラー?」
「便利であろう?」
「やっぱ、これ、絶対にゲイム!」
「ミッションだ!」
「こだわるなぁ……」
「ただし、言っておくことがある」
「何?」
アルバンは、コホンと咳払いをした。
「お前たちのどちらかが死んだら、強制的に、最後に保存したセーブポイントから再開する」
モモコとアンベールは、茫然自失の体で立ち尽くした。