7.ゲーム開始
『>アンベールが勇者になりました』
『>モモコが魔法使いになりました』
全身の光が消えた二人の前に、ピロローンという電子音とともに、ゲームに出てくるような半透明の画面が現れ、それぞれ上記のメッセージが表示された。
「ねえ、何これ?」
「ああん?」
アンベールの声に、しゃがんでうつむいていたモモコが顔を上げる。
「これ……日本語じゃん!
しかも、この表示、ゲームっぽい。
おい、アルバン! これ、何だよ!?」
「ん? これは、ミッション中に表示される画面だ。
ステイタスが変わったときに自動的に表示されるだけではなく、
表示を念じれば、いつでも表示される」
「――てか、これが日本語」
「違う。これはディフェリタ語だ」
「日本語!」
「ディフェリタ語!」
「うーん、ぶっかけ丼だな」
「女、いや、モモコ。それは何だ?」
「それを言うなら水掛け論よ」
「ミズカケロン? 男、いや、アンベール。それは何だ?」
「なんか、文字と言葉は同じでも、単語は知らないみたいね」
三人が言い合っているうちに、二人の前で表示されていた半透明の画面が消えた。
モモコが、左手で頭をゴシゴシと掻き始める。
「……なあ。もしかして、俺たち、夢を見ているのかなぁ?
さっき、二人でベッドの上にいたし」
そう言ってモモコが下からアンベールの顔を覗き込むと、アンベールは目を見開いて頬を赤く染めた。
「あ、あれはそう言う意味じゃないから!」
「わかってるって。
それにしても、絶対これ、ゲームだよ。
ゲームの世界に飛び込んだんかなぁ……?
でも、……こんな景色もディフェリタ国なんていうのも、聞いたことないし」
「ゲームという言葉は知らないが、ゲイムという言葉ならある」
「ある!? やっぱり!?」
「ゲイムは、ミッションと同義語だが、ミッションより遊びの要素が近い言葉だ」
「認めたも同然だよ、このガキ、いや、アルバン」
「ガキではない! 聖職者だ!」
「ガキって言葉はあるんだ……」
「いずれにしても、さっさと、魔王討伐に出発せよ。
時間はないぞ」
「ちょっとさあ、俺たち、腹減ったし、資金はくれるのか?」
「資金? そんなものはない」
「魔王討伐を頼んでおいて、前金はないのか!?」
「持ち逃げされると困るから、渡さない」
「ケチ!」
「まずは、信用を勝ち取れ」
「なら、開拓民から始められないかなぁ」
アンベールが慌てて、モモコの肩を押さえる。
「ちょっと! ここで腰を据える気!?」
「俺だって、元の世界に戻りたいけど無理そうだし、無一文じゃ戦も出来ないし」
「何? ミッションを2つともこなしたいと?」
アルバンが、左手を顎に当てて考え始めた。
「いやいや、そうじゃなくて、資金が欲しいだけ。
まさか、勇者が盗賊をやれ、ってことはないよな? アルバンさんよ?」
「まあ、それもお前たちの選択肢の一つだったが」
「いやいや、それは駄目でしょ!
あっ……この世界は、何でもありだっけ?」
「そうだが、まあ、盗賊がイヤだというなら開拓民のスキルを与えよう。
それは私にでも出来る」
そう言って、アルバンがケーンを高く掲げた。
すると、アンベールもモモコも、全身が光り輝いた。
モモコは、ヨッコラショと腰を上げる。
「あのさあ」
「いちいち、あのあのとは、何だ?」
「全然、実感が湧かないんですけど。
体に力が漲るわけでもないし」
「そういうものだ」
「それ、不親切でしょ!?
ステータスはどこを見ればいい?」
「ステイタス」
「細かいとこ、こだわるなぁ」
「先ほどの画面を表示させて、右の『:』の部分をタップしろ」
「タップって言葉はあるんだ」
二人は、画面の再表示を念じた。




