6.魔王討伐の選択
「お前たちには、選択肢を3つ与えよう」
男の子は、右手で指を三本立てた。
「その前にさあ、お互い、自己紹介した方がいいと思うんだが」
モモコの提案に、男の子が大きく頷いた。
「じゃ、まず、そっちから名前を教えてくんない?」
「私の名前は、アルバン」
「………………それだけ?」
「そうだ」
「みじけー。俺はモモコ」
「男みたいな女だな」
「うっせ! ……で、こっちはアンベール。そして、向こうの猫はエスカ」
「お前たちの名前も短いではないか」
「そうでした。さっき、言った後に気づきました……」
「さて、3つの選択肢だが、
一. 開拓民となってこの森などを切り開き、町を作って繁栄させて領主となる。
二. 勇者となって、魔王を討伐する」
「………………終わり? 2つしかないじゃん」
「3つめは、お前たちにとって恐ろしい選択肢だぞ。聞きたいか?」
「もったいぶるなよ。聞いてやっから、アルバンさんよ」
「三. 以上のどちらも選択しない場合、首を刎ねられる」
その時、辺りは無言が支配し、一陣の風が吹いた。
「結局、二択じゃんかよ!」
「左様。でも、過去に、どちらもイヤだという者がおってな」
「そいつは、どうなった?」
「だから、三番目の選択肢が出来た、と言えばわかるであろう?
その首は干してあるから、見たければ見せても良いが」
「滅相もねぇ! アルバンのえげつねえコレクションなんか、見たくもねーよ」
「もう呼び捨てか。無礼な奴め。
ならば、お前たちには、魔王討伐をミッションとして与えよう」
「おいおい、勝手に決めんじゃねえ!」
すると、アルバンは、天を見上げて両手を挙げた。
「全能の神ディーオ様。
この者どもは、魔王討伐を選択いたしました」
それを打ち消すように、モモコは両手をブンブンと振りながら天を仰ぐ。
「言ってねえ! 言ってねえ!」
と、その時、コバルトの空に雷鳴が轟き、地平線からもくもくと白色の積乱雲みたいな雲が現れた。
その雲が空の半分を埋めると、今度は、巨大な人影がせり上がってきた。
ぼうぼうの茶髪で、赤髭も伸び放題。若い男の上半身だ。
一枚布を体に巻き付けて右肩を出しているのは、いかにも古代ギリシャ風。神様と言われれば、そうかもしれない。
「では、お前たちに、魔法を与えよう」
腹にズシンとくる重低音の声が、空一杯に響き渡る。
「おい、アルバン。これって近所迷惑じゃね?」
「周りには聞こえておらぬ。私とお前たちだけ、声が聞こえ、姿が見える」
「へー。それは、超便利かも。
でもよぉ、なんで神様が『魔法』を与えるんだ?」
「この世界は、何でもありなのだ」
「マジですか……」
と、突然、アンベールの全身が光り輝き、神の声が響き渡る。
「男には、勇者の特性を与えよう」
次は、モモコの全身が光り輝いた。
「女には、魔女の特性を与えよう」
その神の声に、モモコは狼狽える。
「ちょ、ちょっと待ったあああああっ!
俺が勇者じゃね?」
そこへ、アルバンが口を挟む。
「何を言う。お前は、魔女だ。
――まあ、その歳なら、魔法少女と呼んでも良いが」
「うわあっ! やーらーれーたー……」
モモコは、頭を抱えて、へなへなとしゃがみ込んだ。