5.男の子の聖職者
[第一章の登場人物]
アンベール…………………主人公の男の子。日系二世でイケメンの高校一年生。勉強よりも運動が得意
モモコ………………………アンベールの幼馴染みで同級生。桃色ツインテール美少女。文武両道。
エスカ………………………アンベールが飼っている白猫。青と金のオッドアイ。異世界では言葉を話せる
<ディフェリタ国(異世界)の人々>
ディーオ……………………ディフェリタ国の神様
アルバン……………………ディフェリタ国の聖職者
ガリカ………………………ディフェリタ国の巫女
フェムト……………………双子の魔法少女。ゼプトの姉
ゼプト………………………双子の魔法少女。フェムトの妹
青いドレスの女……………LV2。スキル狩り
緑のドレスの女……………LV3。夜盗
グラキリス…………………LV7。魔王軍の隊長。元幹部
白い服を着た人物が、草原に足を踏み入れた。意外と背が低い人物だ。
モモコは、サッと動いてアンベールを背にして立ち、下げた両手を少し広げる。
「ここは俺が守るから」
「あっ……、ありがとう。
でも、気をつけて。無理しないで」
「おうよ。ちょっと緊張して、生唾を飲み込むけどな」
「それ、どうしても欲しいものが目の前にあるとき使う言葉……」
「俺、二世だから、そこんとこは大目に見てくれ」
「都合の悪いときだけ二世になる……」
「それにしても、スカートってのは、中がスースーすんなぁ。
パンツ、薄くね?」
「むん!」
「痛っっってぇ! いきなり後頭部を叩くな!
……ん? なんだぁ? あいつ、ガキかぁ?」
確かに、近づいてきたのは小学校低学年くらいの背丈で、童顔の男の子。
白を基調として金の刺繍をふんだんに施した、高位聖職者が着ていそうなローブを、引きずりながら歩いてくる。
頭の上には、コックが着用している筒状の帽子に似た冠が乗っかっていて、教会とかでよく見る冠とは違う。
さらに、右手には短めのケーンを持っているが、これが似合わない。ケーンは、魔法使いの道具だ。
その男の子は、モモコから3メートルの所まで近づいて、足を止めた。
服が白いからではないだろうが、顔まで蝋人形のように透き通る白さだ。
童顔の割には、金色の目が凄みを利かせている。
「な、なんだよ!」
「女。な、なんだよとは、なんだ?」
男の子は、意外と腹に響く声を出した。そのギャップに、モモコは警戒を強める。
「な、なんだよとは、なんだとは、なんだよ」
「女。な、なんだよとは、なんだとは、なんだよとは、なんだ」
「むう、そうきたか。
な、なんだよとは、なんだとは、なんだよとは、なんだとは、なんだよ。
ふー、言えたぁ……」
「女。むう、そうきたか。な、なんだよとは、なんだとは、なんだよとは、なんだとは、なんだよとは、なんだ」
「ぬぬぬ……、こやつ、できる!」
「はい、そこまでー」
アンベールが、パンパンと手を叩きながら、モモコの横を通って男の子の前に立った。
「男。はい、そこまでーとは、なんだ」
「これ、壊れたロボットかしら?」
「おい。男が女みたいな言葉を使うな」
「そこは、区別つくんだ」
そこへ、モモコがアンベールの前に割り込んだ。
「危ないから下がっていろ、モモ……うーん、ややこしい! 俺……もっとややこしい!」
「わかった」
アンベールが、スッとモモコの後ろに下がる。
「女。この私の何が危ないと申す?」
「おいおい、今更だけど、こいつ、なんで日本語をしゃべっているんだ?」
「女。ニホン語とはなんだ? お前たちは、ディフェリタ国の言葉をしゃべっておるぞ」
「ディ――フェ――リタ国??」
「左様」
「へ? やっぱ、ここは異世界?」
「みんな、そうやって同じ反応を見せるな」
と、その時、アンベールが血相を変えてモモコの前に飛び出した。
「今、なんて!?」
「同じ反応を見せる」
「その前! 『みんな』って言ったよね!?」
「申したが」
「私たちの他にもいるの!?」
「いる」
「何人くらい、この世界へ日本――ってか他の世界から連れてこられたの?」
「うーむ……、正確には覚えておらぬが、十人は軽く超えただろう。お前たち抜きでな」
「その人たちは、今どこにいるの?」
「この周辺で開拓民をやっている」
「開拓民!? それってどういうこと!?」
「そう次々と質問をするな。
まず、私の話を聞け。それからだ、質問は」
そう言って、男の子は、コホンと咳払いをした。