2.虹色に輝く大樹
墜落しながら受ける強烈な風の抵抗で、アンベールもモモコもまともに目を開けていられなかった。
風圧で顔が歪み、開いた口には歯茎まで見える。
髪の毛も衣服も、風を一杯に受け、滑稽な形状となる。
スカイダイビングの経験がない二人は、空中でどんな体勢を取って良いのかわからない。
ただただ、離ればなれにならないように、互いの手をしっかりとつかんでいた。
アンベールは、このまま体を引き寄せて、モモコをしっかりと抱きしめようとした。
しかし、そのためには、いったん手を離さないといけない。
そんな危険な真似をして大丈夫なのだろうか?
どうすべきか迷っていると、モモコが悲鳴を上げた。
おそらく、地面が迫ってきたのだろう。
その時、今更だが、パラシュートがないことに気づいた。
(ああ、終わりか……)
激突で体がバラバラになる恐怖が頭をよぎる。
それで、体に力を入れた瞬間、なぜか虹色の光の中に突っ込んだ。
体中にガサガサと何かがぶつかり、ボキボキと折れる音がする。
あまりの痛みに、アンベールは意識を失った。ただし、モモコの手をしっかりと握ったままで。
◇◇◆◆◇◇
アンベールは、瞼を通して見えてくる、ぼんやりとした光に気づいた。
どれだけ長い間、意識がなくなっていたのだろう。
体中のあちこちが痛いが、どうやら生きているようだ。
うっすらと目を開けたアンベールは、左の視界に虹色の光の塊を認めた。
目をこらすと、それは、モミの木に似た虹色に輝く巨木だった。
(なんだぁ、こりゃ?)
首を左に少し傾けて、半眼で様子を窺う。
顔のそばに、短めの草がたくさん生えていて、柔らかな匂いがする。
どうやら、草原の上に仰向けで寝転がっているらしい。
と、その時、足の先の方から男の声がした。
「あっ、気がついた」
聞いたことのない声に、体がビクンとする。
アンベールは、恐る恐る声の方へ顔を向けた。
「へ?」
そこでアンベールが見たものは………………しゃがみ込んだアンベール自身だった。