10.前途多難
モモコは両膝を叩いて立ち上がり、「仕方ない。始めるとすっか」とつぶやく。
「それがよい。では、幸運を祈る」
「おい。魔王はどこに――」
「さらばだ」
「おいおい! ちょっと!」
煙になったアルバンめがけ、モモコは手を伸ばして飛びかかる。
だが、その前に、彼は空気に溶け込むように消え失せた。
「あの野郎! むちゃくちゃだな!」
地団駄を踏むモモコの肩に、アンベールは優しく手を置いた。
「とにかく、魔王を倒しましょう」
「そうだな。その前に、地図を」
「その前に食料を」
「その前に資金を。
……うわあああああっ! やること一杯だあああああっ!」
「その前に――」
「まだなんかあるんか?」
「ねえ。お互い、なんて呼び合う?」
「おお……そうだな。
自分の姿が目の前にあるけど、モモコだからモモコ?
いや、それはこっちだし……」
「ねえ。もう諦めて、私はあなたをモモコ、あなたは私をアンベールと呼ばない?
そうした方が混乱しないと思うわよ」
「うーん……、しゃーない、そうすっか、あ、アンベール」
「そうね。モモコ」
二人は苦笑いをしながら、見つめ合った。
「さて、名前の呼び方も決まったことだし、どっちへ行くかなぁ」
「どこも……道がなさそうな感じね」
「でも、アルバンの野郎、向こうから来たよな?
ってことは、道があるんじゃね?」
「モモコ、行ってみる?」
「お、おお。さっそく、その名前か。
行くか、アンベール」
「おい、待て」
二人の足下から、警戒するような低い声がした。
「うわっ! すっかり忘れてたぜ、エスカ!
どうした!?」
「向こうから、変な奴らが来るぞ」
「エスカは目がいいなぁ。でも、何も見えないぞ。
もしかして、千里眼の能力でもあるのか?」
「武器を持っていて、かなりヤバめだぞ」
モモコもアンベールも、エスカの見つめる方向に目をこらして見てみたが、木々の葉が揺れているだけだ。
「マジかよ。見えないけどなぁ」
「お前らは見えなくても、俺は見えるぞ」
「……なら、ここはエスカを信用しよう。
おっと、アンベール。セーブしてくれないか?」
「え? どうやるの?」
「しまった! やり方を聞き忘れた!」
と、その時、木々の間から、毛皮らしい服を着た三人の姿が見えた。
全員が、短剣のような冷たく光る物を持っている。
モモコは、アンベールの前に立って、体を張って守る構えを取った。
ところが、次の瞬間、三人に取り囲まれた。
20メートル以上先からの瞬間移動だ。
モモコは、目を白黒する。
三人とも、がたいの大きい男で、人相は悪く、日焼けした顔に傷跡がある。
羽織った毛皮は、あまり加工されておらず、野性味たっぷり。いかにも、山賊みたいな風貌である。
「へっへっへっ。いきなり上等な獲物だぜ」
「見たところ、高いスキルを持っているな」
「そのスキルを俺たちによこしな」
三人は、モモコとアンベールに、三方向から短剣を突きつけた。




