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1.ベッドから異世界へ

[第0章の登場人物]


アンベール…………………主人公の男の子。日系二世でイケメンの高校一年生。勉強よりも運動が得意

モモコ………………………アンベールの幼馴染みで同級生。桃色ツインテール美少女。文武両道。

エスカ………………………アンベールが飼っている白猫。青と金のオッドアイ。異世界では言葉を話せる



<ディフェリタ国(異世界)の人々>


ディーオ……………………ディフェリタ国の神様

アルバン……………………ディフェリタ国の聖職者


  座卓に広がる教科書と参考書とノート。それらに順繰りと目を落としていたアンベールは、深いため息をついた。


 そうして、左手に持つ鉛筆を自慢のサラサラな黒髪に突っ込み、ゴシゴシさせながら顔を上げる。


 彼の目の前には、少し雑な分け目がある桃色髪の頭のてっぺん。


 その頭の両側にある赤いシュシュから、長いツインテールがまっすぐに下がって、わずかに揺れる。



 頭の観察が終わったアンベールは、もうすでにポッと頬を赤らめ、視線を逃がすために、意識的にその奥へと向ける。


 そこには、壁に貼られたお気に入りのアニメのポスターと、乱雑に漫画本が積まれた学習机。


 だが、雑な分け目と揺れるツインテールだけではなく、()()()()が気になって仕方ない彼は、再び視線を桃色頭に戻す。


 そして、ついには誘惑に負けて、さらにジリジリと目を下の方へ移動。


 あくまで俺は健全だと心の中で主張をしつつ、彼女の制服――濃緑のブレザーに視線を到達させると、今度は、制服を下から窮屈そうに押し上げている胸の豊かな膨らみを確認。


 これで一気に鼓動が上がり、直ぐさまノートへと視線を着地させる。



 同い年で幼馴染みのモモコが、アンベールの部屋に来て一緒に勉強するのは、小学校時代から何度もあるのだが、彼が「彼女」を意識をするようになったのは中一の時から。


 急に「女の子」らしい、プロポーションの良い体つきになってきた彼女を前にして、男の子に「意識するな」と言うのは拷問に近い。


 以来、見ないように努めるものの、どうしても視線が先ほどの所へ吸い寄せられてしまうのだ。



「どした?」



 ふいに問いかけられたアンベールは、ギクッとして目が泳ぐ。


 一方で、問いかけたツインテの持ち主は、ノートに視線を落としたまま鉛筆を走らせている。



「た、大佐殿。な、何でもありません」


「手がとまっているぞー、アンベール上等兵」


 彼は、鉛筆を置いて両手を握り、話題を変えて心を落ち着かせようとする。


「……あのさぁ、モモコ」


「なんで、大佐から急にモモコ?」


「高一になって、いきなり中間テストって、早くね?」


「1ヶ月以上経ったぞ」



 あっさり返されて終わり。これでは、まだドキドキが止まらない。


 もっと話題を変えて落ち着かねば、と焦りに焦る。


 彼は深呼吸をして、右側のガラス窓へ目を向けた。



「雨かぁ……」


「朝から降ってただろうに」


「五月雨を 集めて生える もやしかな」


()()()の突っ込み、ほしい?」


 モモコは、まだ下を向いたまま左手で握りこぶしを作り、ジャブの構えを見せる。


「さーせんした」



「数学の問題、全部解いた?」


「大佐殿。戦線に異状があり、自分は作戦を中断しております」


「何の異常だ? 言ってみたまえ、アンベール上等兵」


「敵の激しい抵抗が間断なく続いております。

 万策尽きたであります。

 自分は、次の戦闘に備えて、寝るであります――」


 そう言い終わるが早いか、アンベールはバネ仕掛けの人形のように立ち上がり、後ろにあったベッドへ仰向けに倒れ込む。まだ自分も濃緑のブレザーの制服を着たままだが、しわになることなど気にもしない。



 ベッドのスプリングの短い余韻を惜しんでいると、足先の方角から「ふぅ」というため息と足音が聞こえてきた。


 すると、カーペットに投げ出した両足付近に、衣擦れや風の音がする。


 彼女が濃いグレイのチェックのミニスカートを翻し、両足を広げて自分の足を(また)いだのかと思った彼は、またドキドキ感が襲ってきた。



「あのさぁ」



 少し眩しい蛍光灯と、天井にも貼られたポスターの両方を遮って、モモコの顔が現れた。


 同時にベッドが揺れる。彼女が両手をついたのだ。


 フワッと下がるツインテールから、えもいわれぬ香りが漂い、鼻腔をくすぐる。



 アンベールは、思わず視線を、覆い被さって迫るモモコの顔ではなく、彼女の首から下にずらした。


 ワイシャツの第一、第二ボタンが外れ、リボンも()()()()に緩められている。


 なので、豊穣な双丘が形作る大胆な谷間が、もろに見えた。


 収まりつつあるも、ワイシャツに作られた膨らみがまだ揺れている。



 だが、そんな子細な観察は、彼女のわずかに冷たい両手に両頬を押さえられることで、あえなく中断された。


 反射的に視線を合わせた彼は、照明の間接光を反射して輝く彼女の瞳を観察することになる。


 そうして、吸い込まれそうな漆黒の瞳孔に、息を飲む。



「しっかり勉強してテスト終わったら、昔一緒に行った遊園地へ、また行く約束じゃん」


 わずかに怒気を含む声だが、顔に吹きかけられた吐息はこの上なく甘い。


「お、……おお」


「真剣に頑張ろうよ」


「おお」



 と、その時、「アアアアゴッ」という、真抜けな猫の鳴き声がアンベールとモモコの耳に飛び込んだ。


 二人は、その声の方へ引き寄せられるように顔を向ける。


「あれ? エスカがくわえている赤い球って――」


 確かにベッドの片隅で、アンベールの飼い猫である白猫エスカが、口を大きく開けて赤い球を頬張っている。


「あっ! おい、こら! それ、さっき道で拾ってから、まだ洗ってないぞ!」


「だめじゃん」


「こらこらこら!」



 アンベールは、(とつ)()に体を起こそうとする。


 だが、間近に迫っているモモコの顔がある。いや、たわわな胸がある。


 なので、彼は(ため)()った。



 と、その刹那――、赤い球が目映いばかりに光り輝いた。


「わわわっ! 何だあああああぁ!」


「キャー!」


 二人は目をつぶったが、その瞬間、体を支えているはずのベッドも床も消えた感じがした。



 アンベールが目を開けると、モモコの後ろに雲一つないコバルト色の空が見えた。


 モモコが目を開けると、アンベールの後ろの遙か下に、深緑に覆われた大地が見えた。



 次の瞬間――、


 二人の落下が始まった。


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