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彼方遠く、いにしえの夢に  作者: 紅月幸菜
2/2

1日目ー朝

遠い昔、今よりもほんの少しだけ世界の文化レベルが上だった時代。

ある程度の自由は効き、しかしその一方で中途半端なところも多かったとされる、やや不自由だけれどそれなりに平和ではあった時代より少し進んだ時代では、国同士の戦争が絶えない時期があったらしい。それに伴い各国の科学は発達、終戦後の代償共にその技術は後の時代に大きく献上し、やがて長い長い年月を経てその技術は更に精密にかつ身近なものへと変わっていき、世界は華やかに生まれ変わったという。


あらゆる病を癒し、あらゆる現象を解き明かし、あらゆる悩みも解決する高度な文明に、いつしか人々はそれらを甘受して、酷く酔っていた。それ故に、輝かしい世界の裏にあった闇には気づかなかった。

事の発端は、生産システムの異常事態。それを機に、各地で様々なエラーが巻き起こった。いかに完成された技術と言えど、完全と言えるものではなかったのだ。


手を尽くそうにも、それを嘲笑うように全システムの根本にあたるコンピューターがエラーを起こし、強制停止。直すための技術はあれどそれを行うための道具は生産されず、今まで人々が搾取し続けたせいか殆ど無かった。

また、コンピューターが停止したことで制御していた環境バランスが崩壊し、大災厄とも言える悪天候が続いた。大降りの雨が降ることもあれば、強い日差しが何週間も続くこともある。竜巻が巻き起こることもあれば、雷が止まずに落ちることもあった。川は氾濫を起こし、火山は噴火を繰り返していて、人類の生存圏を一気に削り取っていた。


そうして長いようで短いような年月を得て漸く収まった頃には、人類の殆どが姿を消していた。巡るましく変わる環境に、安全な世界に甘えていた人類が耐えられるはずもなかったのだ。

崩壊した世界の中で、生き残っていた人類はかつての栄光を取り戻すことよりも、まずは生きて子孫を残すことを優先した。潜在していた本能が、それが最優先事項であることを冷たく告げていたからである。


人類が細々と生き長らえ、子を残して死ぬことを繰り返すことに月日を費やしていた頃には、人も増えて少しずつ文明を取り戻す余裕が出来てきた。

更に少し長い年月が経った頃には、遥か遠い未来の技術を、人類は少しだけ獲得するに至った。そうして今も、退廃した世界の中で人類は生きることが叶っている…。






…そのような内容が書かれた本を読み終わると、パタンと音を立てて閉じる。

まだ出来て数年程度の筈なのに、表紙とページはどこか煤けていた。環境がそうさせるのだろうか、と何となく考えながら、本を閉じたのと同時に入り込んできた日差しに眩んだ目を擦って、ゆっくりと起き上がる。


少しのカビ臭さと埃臭さを含んだ空気を思いっきり吸って、吐く。何度か繰り返して、少し咳き込みつつ俺は未だ隣で夢の中にいる奴に声をかけた。


「おい、朝だぞ。起きろ」


遠慮もなしに身体を揺さぶると、小さく唸り声のようなものが聞こえた。言葉にならない声となって発せられながら、その目が開かれる。まだ寝惚けているからか、おっとりとした半目が俺を見た。それに少しだけ苦笑いしながら、そいつに告げる。


「おはよう、ラン」


「…おはよう、サクラ」


一枚だけの布団から手の平を出しながら、そいつは少し笑った。

今朝一番の、俺たち二人の挨拶である。



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