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勇者育成  作者:    
7/29

7 初登校

 真新しい制服に袖を通すとかつて中学校に通い出した時に初めて制服を着て胸を高鳴らせた日々が蘇る。かつて着ていたセーラー服とは似ても似つかぬ黒尽くめのローブがこれからのエイミーの制服だ。ローブの下はこれまた黒のワンピースになっており、まさに魔術師といった出で立ちだ。ただ、ローブの裏地の色とワンピースの襟の色だけは個人で選べるようになっており、エイミーは爽やかなスカイブルーを選んだ。黒地にスカイブルーが差し色として映えていてなかなかおしゃれでいい感じだと思う。エイミーは自室の鏡の前でクルリと回って身だしなみをチェックすると、朝食をとりにダイニングに向かった。


 「おやおや、可愛い魔女のお出ましだ。」


 「本当に。こんな可愛い魔女さんがどんな魔法をかけてくれるのかしら。」


 父親のルートルと母親のディアナは目を細めてエイミーの晴れ姿を褒めちぎった。エイミーは嬉しくなっていつもより念入りに髪をといてハーフアップにすると差し色と同じスカイブルーのリボンを焦げ茶の髪に飾った。エイミーの髪はクリンのようにシルバーでなければ、お母様やお兄様のように金髪でもない。そのかわり、リボンの色はどんな色でも良く映えるとエイミーは知っていたのだ。今は全寮制の商業学校に通っている兄のマルクに見せられないのが残念だ。

 エイミーは朝食をとってもう一度格好を整えると元気よく行ってきますを言って出発した。

 

 「おはよう、クリン!」


 「おはよう、エイミー。」


 学校には近所に住むクリンと一緒に通う。クリンは騎士学科の制服である黒い騎士服を着ていた。ぴったりとしたズボンにチェニックのようなその騎士服は、胸の中央部分に国立カナガン教育学校の校章と剣が刺繍されていた。


 「わぁ、クリン格好いい!本物の騎士様みたいね。」


 クリンはエイミーが褒めるとほんのり頬を赤くしてはにかんだ。エイミーには今のクリンを通して勇者クリンドールの姿が見えるような気がした。クリンの姿が10割増で格好良く見えて、なんだかちょっぴりどきどきした。


 「エイミーもよく似合ってるよ。特に、色がいいね。」


 「色?黒尽くめよ?」


 「違うよ。差し色の。」


 「ああ!スカイブルーね。素敵でしょ?」


 「うん、可愛い。」


 クリンは嬉しそうにエイミーを褒めてくれた。騎士姿のクリンから褒められるとなんだか具合がよくない。なぜだかどぎまぎする。エイミーは照れ隠しに元々整っているローブの襟元をもう一度整えなおした。

 学校までは乗合馬車で15分位の距離だった。最初に各学科の教室に集合してから全学科が集まって集会があり、その後各学科毎のオリエンテーションがあるのでエイミーはクリンと校門を入って直ぐの所で別れた。入学試験の時とは違った緊張感がエイミーを包みこむ。ちゃんと授業に付いていけるだろうか。友達は出来るだろうか。魔術師になれるだろうか。そして、クリンはきちんと首席で修了して王国騎士団に入れるだろうか。教室の前まで来ると、エイミーはすぅっと息を吸い、気合いを入れた。


 「エイミー・キサック!」


 教室に入ってすぐにエイミーは名前を呼ばれてびっくりしてそちらを見ると、入学試験の時にお喋りしたヴィヴィアンが教室の奥で笑顔で手を振っていた。今日はふわふわのくせ毛を三つ編みにまとめていた。


 「ヴィヴィアン!あなたも合格したのね。これからよろしく。」


 「ヴィでいいわよ。こちらこそよろしく!ちゃんと未来の大魔術師様も合格したわよ。」


 ヴィが笑顔で指さした先に目を向けると、ヴィのすぐ近くで黒髪の美少年がバツの悪そうな顔をしてこちらを見ていた。


 「アダルベルト・タリーニ!」


 「その、毎回フルネームを大声で呼ぶのやめてくれるかな。アダルでいいよ。」


 「アダル!あなたも合格したのね。やっぱり、流石は未来の大魔術師だわ。」


 「その冗談まだ言ってるの?全然面白く無いんだけど。」


 「冗談じゃないわ。アダルはやれば出来る!」


 エイミーが笑顔で力説すると、横からヴィも「そうよ。アダルはやれば出来る!」と調子に乗っておちゃらけた。そして、アダルを大魔術師様にするために協力してくれるとまで言ってくれた。


 「じゃあ、頑張ってアダルを大魔術師様に育て上げましょ。」


 「ええ。どんな大魔術師になるか楽しみね。」


 「美形の大魔術師よ!そして、魔導師でもあるの。」


 「ぷぷっ!」


 エイミーの言葉にヴィは思わず吹き出したが、エイミーは酷く大真面目な顔をした。そんな盛り上がりを見せる2人を当の本人、アダルベルト・タリーニは呆れて眺めていた。


 「そこに僕の意志は関係ないわけ?」


 「あら?アダルは美形の大魔術師になって女の子達からモテモテになるのよ。嬉しいでしょ?」


 「モテモテ?うーん。まあ、やってやってもいいけどな。」


 アダルの反応を見てヴィはまたもや大笑いしていた。エイミーにはアダルとヴィがなんだかお似合いのカップルみたいに見えた。

 帰り道、行きと同じようにクリンと一緒に帰ろうと校門前で待っていると、クリンは騎士服を着た同年代の男の子何人かと一緒に歩いてきた。エイミーに気付いたクリンは新しい友人達に何かを言って手を振って別れていた。クリンのお友達は物珍しそうにエイミーをチラチラと見ながら通り過ぎてゆく。


 「エイミー。ごめん、待たせた?」


 「ううん、大丈夫。クリン、お友達と帰るなら明日から私は別に帰ろうか?」


 「え!?駄目だよ。エイミーは女の子だから1人だと危ない。」


 「1人で来てる女の子も沢山居るわよ?それに、私もお友達が出来たから途中までなら一緒に帰れるし。」


 「お友達?女の子??」


 「女の子と男の子よ。」


 「とにかく、エイミーは危ないの。だから僕が一緒に帰る。わかったね?」


 何が危ないのかさっぱりエイミーにはわからないけど、クリンは無理やりエイミーを納得させてその手をひいてずんずんと歩いて行く。少しだけ銀髪の隙間から顔をのぞかせるクリンの耳がピンク色に染まっているのが見えた。

 



 

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