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9.優勝者パーティーを驚かそう


 翌日。

 ふわふわの見えない布団の上で目が覚めると、もう朝ごはんができていた。

「旦那さん、あの見えない布団ってなんですか?」

「ああ、あれは魔法で空気を固めてマットにしてるの。寝心地いいでしょ」

「うわー……いい魔法使えますね。それって人に教えられます?」

「いや無理。俺の魔法は異世界の魔法だから、こっちの人には絶対に使えないね」

「残念です……」

「そのかわり俺はこっちの世界の魔法が一切使えないけどね」

「さ、食べるのじゃ。朝だからそうガッツリ食うわけにもいかんがの」

「はい、いただきます」

 テーブルを囲んで三人で朝食。

 なんだか家族ができたみたい。

 ほんと嬉しい……。

 お父さんも、お母さんも、おじいちゃんも……、みんな死んじゃったし……。

 私、ほんとうに孤独だった……。

 学校でもボッチだったし……。


「さて、シルビスもそろそろ自分の身を守れるぐらいの攻撃魔法はなにか欲しいな。いつでも召喚獣が助けてくれるわけじゃないからな」

「そうですね。今日はそれなにか使えるようになってみます」

「攻撃力強化を自分にかけて、直接杖で殴ってもいいんだけどね」

「あははは! それ安上がりでいいかも!」

「まあ遠距離で闘えるほうがいいだろうな。ポジションいつも後ろだろうし」

「わかりました。ワイバーンにはなにがいいんでしょう」

「火に強い魔物も水に強い魔物も、物理防御に強い魔物も多いが……電撃に強い魔物はまずいない。自分で電撃を出す魔物でない限りは」

「なるほど、それいいですね」

「火も水も相手は激怒して暴れるが、電撃だとしびれて動けなくなる魔物も多い。攻撃補助としても優秀なスキルだよ。相手がまとまっていたら同時に叩き込めるし、電撃を防御する魔法なんて使えるやつもまずいないし、対人用としても優秀」

「なるほど……」

「普通は火魔法とか水魔法とか少しずつ使えるようになってから雷魔法なんだろうが、今のペースでレベル上げしてるならいきなり雷魔法マスターのほうがいいだろう」

「わかりました。それやってみます!」


 朝から六匹目のワイバーンに挑む旦那さん。

 レベルが51になりました。

「パーティー全員に回復ができるようになりました!」

「そりゃよかった。もうパーティーメンバーに困らないな」


 七匹目。

「旦那さーん! もう魔法抵抗値上がらなくなったから、ファイアボールもう受けなくていいです!」

「了解――」

「あと噛みつきも――っ!」

「わかった――っ」

 旦那さん、今度は避けて避けて避けまくってワイバーンに小さいファイアボール撃ってます。

 へんなファイアボール……。火が飛んでいくんじゃなくて、いきなり狙ったところで爆発するのね。

 私の敏捷値と魔法攻撃値が激上がりです。


 八匹目。

「電撃できるようになりました――!」

「じゃあやってみて――っ!」

「はーい! ライトニング!」


 どがらららららんっっっ!

 できたっ!!


「俺にじゃねーよ! ワイバーンにだよっ!」

「あ、ごめんなさい。つい」

 ごめんね奥さん。いや、笑ってないでさ。そんなに可笑しい?


「罰として自分で倒しなさい」

「えええええ――――!!」

「はい自分に防御と魔法抵抗と思いつくだけ防御魔法かけて」

「はいい、プロテクション! マジックガード! マジックアップ!」

「よし突っ込め」

「ぎゃ――!!」

 ぶわっ。ファイアボール飛んでくる!

 避ける! 避ける!

 体が動く!

 スピードも、体力も、上がってる!

 集中!

「ライトニング!!」

 どんがらがっしゃーん!

 効いた!

 続けて!

「ライトニング!! ライトニング!!」

 一発ごとに威力が上がってきてる。

 魔法経験値が上がってるんだ!

 大物相手だから上がり方も凄い!

「ライトニング!! ライトニング!!」

 ぶわっ!

 一発食らっちゃった!

 でもそれほど痛くないし、動けなくなるほど熱くもない!

 いけるっ!

「ライトニング! ライトニング! ライトニング!」


 まだかっ!

 魔法増えたっ!!

「ダブルライトニング!!」

 どど――――ん!!!


 ……動かなくなった……。

 やった――っ!

 倒した――――!

「できました――!!」

 やったね私! 一人でワイバーン倒したよ!

 ……旦那さんがだいぶ弱らせてはいたけどね。

「おめでとう」

「よくやったの!」

 二人ともすごく喜んでくれる。

 嬉しい……。

 ぱちぱち拍手してくれる。

 なんか焦げ臭い。

 ……毛がちょっとチリチリしちゃったかも。

 名誉の負傷だよ。

 今度はちゃんと避けよう。


「毛が焼けておるの」

「それ、回復で治るんじゃないかな?」

「あ、じゃ、やってみます。ヒール!」


 ちりちりになった毛が伸びた。

「……戻ったね」

「……戻ったのう」

 ねえなんで残念そうな顔するの?


「よし、一休みして次は最初から自分でな」

「はあい」

「嫌そうに言うな」

「はいっ」


 九匹目。

 ダブルライトニング連発。

 旦那さんは、今使える最大魔法をいきなり使えって。

 出し惜しみするなって。それがボス級と闘うコツだってさ。

 倒せた! MP無くなった……。

 レベルは62になりました。


 旦那さんがアイテムボックスにもう入らないって。

 八匹も入れられるほうがびっくりだよ。


 お昼ご飯にして、また昼寝する。

 MP回復しなくっちゃ……。

 おやすみ……。


 ぶわっさ、ぶわっさ、ぶわっさ。

 すごい羽音がする。

 目を覚ましてテントを出ると、ちょうどドラゴンが降りてくるところだった。

 あいつら来たのか……。もうっ、テント吹き飛ばされそう。

 ドラゴンが身を伏せて、あいつらドラゴンから降りてくる。

 ゴリラとクマとたれ耳犬と猫娘とヒツジさん。

 あいつら、『自己紹介は必要ない』とか言ってたから、別に名前覚えなくてもいいよね。


「な……なんだこれは!」

 驚くよね。捕まえられてるワイバーン残り二匹と、死体一体。


「おいっお前ら!」

 クマ不躾だなぁ。学校の外だと急に礼儀知らずになるのねこいつら。

「なんで先に狩ってる! ここは俺たちの狩場だと言っただろう!」

「そんなこと聞いてませんよ」

「言った!」

「言ってません。だいいち狩場が誰かの物なんて話になりません」

「なんで俺たちより先に来てる!」

「……あなたたちが遅いからでしょう。後からきてなに言ってるんですか……」


 ……旦那さんと奥さんがテントから出てくる。

「騒がしいのう。なにごとかの?」

「召喚獣は引っ込んでろ!」

 二人が私の後ろに並んで立つ。


「シルビス君、どういうことか説明してもらえるかな? あとあのワイバーンのことも……」

 さすが優等生。首席のドラゴン持ち、シルラース君は話ができるね。

「あのワイバーンは捕まえてあるんです。見えない箱に入ってますよ」

「そんな……そんな魔法あるわけない!」

「じゃあ確かめてみたらどうですか」

 クマ、剣持って盾構えて恐る恐る近寄る。


 ファイアボール来た――っ!

 直撃した――っ!

 倒れた――――っ! あっはっはっはっは!!


 ゴリラがあわててクマ抱えて戻ってきた。

 猫さんがヒール! ヒール! ヒール!


 チリチリになったクマさん、むっくり起き上がって怒る怒る。

「攻撃してくるじゃないか!!」

「……あたりまえでしょう」

「捕まえてあるって!」

「だから逃げもしないし襲っても来ないでしょ? 動けないんですよあいつら」

「だからって、あんなんじゃ倒せないだろ!」

「倒せますよ」

「無理だろ! なんのために俺らがドラゴン連れてきたと思ってるんだ!」

「じゃあ、私が今から倒してもいいですか?」

「え……」

 全員、絶句する。


 すたすたとワイバーンに近寄る私。

「し……、シルビス君! 召喚獣は?」

「私一人で」

「そんなバカな! 無茶するな!」

 優等生ビビりすぎ。


 ファイアボール来た!

 かわす! ダブルライトニング!

 もう無詠唱でもいけるよ!

 ブレス来た!

 これも避ける!

 ダブルライトニング! ダブルライトニング!

 弱ってきた!

 止め!

 ダブルライトニング! ダブルライトニング!


 やったね。動かなくなった。

 ……気絶してるだけか。


 振り返ってあいつらを見る。

 あっはっは! ポカーンとしてるね!


「……旦那さん、奥さん。もう帰りましょう。十分ですし、足手まといが来ちゃいましたから」

「そうですね。そうしましょうか」

 二人、さっさと撤収を始める。テントとか、テーブルとか。

 てきぱきとたたんで、収納する。私も自分のテントは自分でたたむよ。

 寝袋を巻く。ちっちゃい寝袋……。全部全部、私サイズね。

 奥さんかわいいかわいいって、買う時喜んでたな。


 旦那さんが指をパチンと鳴らして言う。

「あのワイバーンの死体一つと、今シルビス様が気絶させたワイバーン、無傷の一匹は差し上げます。お好きになさってください。闘うなら準備急いでくださいね。あと1分で拘束が切れますから。では失礼」

 旦那さんが、私と奥さんを両手につないで、ふわっと浮き上がる。

 ひゅごごご――!! 飛び上がる。

「えええええ――――!!」

 全員驚愕。

 だよね――。私もびっくりしたもんね。


 しばらくしたらどかーん、どかーんって爆発音聞こえてきた。

 パーティーだし、ドラゴンもいるし、残りのやつ相手するとかぐらいできるよね。

 あとはどうなったかなんて知らないよ。どうでもいいし。




 夕方、冒険者ギルドに着いて、買い取りカウンターで話をする。

「ワイバーンを売りたいんですけど」

「ワイバーンですか! 凄いですね! どちらでですか?」

「アルカー渓谷です」

「……それはちょっと。回収にいけませんし。持ってくるまでに腐っちゃいます」

「あ、持ってきました。アイテムボックスがありますので」

「えええ――――!!」


 ギルドの解体所で、旦那さんにワイバーンの死体八体を並べてもらう。

 状態もいいし、新鮮なままなのでいい値段になるはずなんだけど、さすがに八体まとめては正規の買い取り価格では無理ということで、一体金貨五百枚のところ、四百枚に値下がりしちゃった。でも八体あるから金貨三千二百枚!

 二百枚は手数料で取られちゃって、でも三千枚を旦那さんと二人で分けて、私には金貨千五百枚分、大金貨で百五十枚が手元に残った。

 奥さんは今回なんにもしてないからいらないって。

 こんな大金いらないってアッサリ言えるのは凄いな……。

 二人見てると、これぐらい稼ごうと思えば一日で簡単に稼げる額なんだろうな。


 ギルドの冒険者ランクって、S、A、B、Cの4ランクなんだけど、今回のワイバーン狩りでCからいきなりAにしてくれた。

 一気に八体ってのがもうギルド始まって以来の大記録なんだって。

 SはAランクで十年以上活動実績がないとなれないから、Aなんて事実上の最高評価。魔法学園の生徒が在学中にランクAになるなんて前代未聞だよ。


……私、いきなり金持ちになっちゃった。

 私の今の暮らしぶりなら十年は働かなくていいぐらい。

 二人を宿に送って、レストランで三人でお祝いにご馳走食べて、別れた。

 はあ……すごい二日間だったなあ……。



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