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7.優勝者の顔合わせをしよう


 翌日、宿屋まで二人を迎えに行った。

 あの二人ならなにも心配ないんだけど、召喚獣が主人も連れずに歩き回るのは今でもまずいことには違いない。

 この出迎え、お見送りは私の日課になりそうだ。

 二人、レストランで朝食中。

「おはようございます。お二人さん」

「やあおはようシルビス」

「おはようなのじゃ」

 ぐぅううううぅぅ……。

 二人の食べている物を見るとおなかが鳴く……。

 やわらかそうな焼きたてパンにバター、スープにサラダに果物と牛乳……。

 実は昨日夕ご飯は食べないで寝ちゃったし、今日は朝食も食べてない。


 ちりんちりん。

 旦那さんがベルを鳴らしてボーイさんを呼ぶ。

「この子にも同じものを」

「かしこまりました」

 うわあ――。いいの? いいの??

「あっ、ありがとうございます」

「いえいえ、私たちのご主人様ですから」

「……もうご主人様はやめてください。謝りますから。今までの失礼の数々、申し訳ありませんでした」

 もう思い切ってぺこりと頭を下げる。

 ここまで私が受けたご恩を考えればもう主人なんて恥ずかしくて言えない。


「わかればよろしいのじゃ」

 ふふんっ、と言って奥さんが笑う。

 とっても優しい笑顔。

 そう、この二人、最初っから全部許してくれてるのよね。

 考えてみれば、ずっとこの人たちは、私のために最善を尽くしてくれている。

 そのことに気付いてからは、もう恥ずかしくて恥ずかしくてしょうがない。


「で、シルビス、今日の予定はどうなってるんだ?」

「今日、一時限目から優勝者の顔合わせがあります。剣術科、魔法科、槍術科、それに教会から神学科のシスター、それぞれの科のトーナメント優勝者が集まるんです。召喚科の試合は最後だったので優勝者はもう全員決まっているんです」

「剣術と槍術が魔法学園にあるっておかしくない?」

「剣を使った魔法とか槍を使った魔法とかありますので」

「なるほどね」

「わしらはここにいていいのかの?」

「今後の予定とか話し合うので、できれば一緒に来てほしいんですけど……」

「どんな予定だ? まずはシルビスのレベル上げをメインにやりたいところだが」

「たぶんみんなと合同パーティーを組んで、勇者パーティーの真似事をすることになると思います」

「ふむ……ならば出ておかないと面倒になりそうじゃな」

「はい」

「わかった」

 私の分の食事が運ばれてきた。

 ……ごくり。

「時間までゆっくり食べるといい」

「はい。いただきます!」


 二人はお茶を飲みながら、私が食べるのをニコニコしながら見る。

 ……あの、私お二人のお子さんじゃないんだからさ、そんな目で見なくてもさ……。



 学園に行き、呼ばれた部屋に行くと、まだ誰もいなくて私たちが一番だった。

 二人、座らずに私の後ろに並んで立つ。

「あ、あの、お二人も座ってください」

「いいのですご主人様。私たちはあなたの召喚獣。こうしていなければ体面上おかしなことになりますよ。お気になさらずに」

 いやそう言われてもねぇ……。

 なんの授業参観ですか。両親に見守られる小学生の気分です私。


 準優勝だったシルラース君が入ってくる。

「や、やあおはようシルビス君」

 ……いやそんなにビビらなくても。

「昨日の優勝者は君だ。それは間違いない。僕は……その、この会議に出るのをちょっと約束していたものだから、顔出さないわけにいかなくて、その、ゴメン。悪いけど同席させてもらうよ」


 なによそれ。昨日のトーナメントは最初っから出来レースだったってこと?

 それとも勝手に自分が優勝するのがもう決定事項みたいになってたわけ?

 ……無理ないか。誰もが認める天才でドラゴン持ちだもんね。

 ここにいたらおかしいのは私の方か。


 教会の神学科、シスターさんが入ってきた。

「おはようございますみなさん。ご機嫌麗しゅう」

 きれいに挨拶する。猫族の人ですね。

 猫族の人は立ち居振る舞いが優雅です。


「おはようさん」

 ばかでかい剣と盾を背負ったクマの人が入ってきた。剣術科か。

「おはようございます」

 魔法科の人ですね。三角帽子にマントに杖。眼鏡をかけた羊さんです。

「わりい、遅れた」

 槍持ってるゴリラさんが来ました。これで全員ですね。


「さて……、もう自己紹介はいらないと思うが……」

 そう言って、クマはこっちも見ない……。

「リーダーになってもらおうと思ってたシルラースが、残念ながら昨日優勝できなかった。なので、この中から新たにリーダーを決めないといかん。さてどうするね」

「私は別に、シルラースがリーダーでいいと思いますが? なにも優勝者でなければならないという決まりもありますまい。優勝者で集まるのは単なる慣習ですからな」

 魔法科の羊さんが言う。

「私もそれでいいと思いますわ」

「賛成」

 シスターさんもゴリラさんも反論無しですね。

「では今まで通り、シルラース、リーダー頼めるか」

「そうですね。いいですよ」

 あっさり。

 さすが優等生。

 私が何か言うべき場面じゃないんだろうな。


「では今後の予定ですが……」

 当たり前のようにシルラース君、立ち上がって黒板の前に立つ。

 もう最初っからなにもかもとっくに決まってるのね。

 私なんかいなくてもいいぐらいに。っていうか完全に邪魔ものじゃない。

 

「今後予定される魔王討伐のために、積極的にレベル上げをする必要があります。なので、大型魔物討伐、もしくはダンジョン攻略を進めていきましょう。攻略してみたい対象はありますか?」

「アルカー渓谷のワイバーン討伐がいいな」

「そうだな。ダンジョン攻略はドラゴンが使えない」

「賛成です」

「では明日、いつもの場所に、8時集合で」

「了解した」

「わかった」

「では解散」

 ……勝手に話決まっちゃったよ。

「あ……あの」

 手を挙げて質問する。

「いつもの場所ってどこですか? あ、私、召喚科のシルビスです」

「ああ、昨日の優勝者か」

 今になって気付いたみたいにゴリラさんがこっちを見る。

「君はまだパーティー慣れしてないだろう。今は一人でレベル上げに励んでくれ。レベル30になったら声をかけてくれればいい」


「ちょっと待ってください?」

 旦那さんが発言する。

 シルラース君以外の皆が驚いたようにいっせいに見る。召喚獣が喋るのって珍しいよね。

「レベルのすり合わせをするためのパーティーではないのですか? 一人で30まで上げるのは難しいからパーティーなのでしょう。みなさんもそうしてきたはずです」

「足手まといはいらないということだ。言わせるな」

 ゴリラがにらみつける。

「ふむ……確かに」

 納得いくように旦那さんが頷く。


「召喚士のドラゴンにレベルを上げてもらってるようなパーティーじゃあ、確かに足手まといにしかなりませんな」

「なにっ!」

「では失礼しましょうか、シルビス様。アルカー渓谷のワイバーン討伐、おもしろそうです。それから始めましょう」

「あ……あの……」

「すぐ出発しますよ」

 そう言って、二人は部屋を出ていく。

「何を言ってるお前たち。俺たちのドラゴンに先回りできるわけないだろっ! 馬でもアルカー渓谷まで何日かかると思っている!」 


 私はぺこりとみんなに頭を下げて、あわてて二人についていく。

 

「ど、ど、どうするんです! ワイバーンなんて、ドラゴンの次に強い龍族ですよ! 今の私たちに倒せるわけないじゃないですか!」

「心配いりません。お任せください」


 その後、雑貨店とか市場に行って野営道具と調理器具、食料をいろいろ買った。

 この人たちなんでも贅沢なのよね……。どれもとっても高いものを買って。

 大きなバッグにまとめて詰めて。

 で、旦那さん、左耳に手をあてて、「アイテムボックス」とつぶやいて荷物に手を当てると荷物が一瞬で消えた!

「ええ――!! 旦那さん、アイテムボックスが使えるんですか!」

 びっくりだよ! 魔法学園に三年通ってて、アイテムボックスを使う人初めて見たよ!

「アイテムボックスと言いますか、女神ボックスといいますか……まあそこは流してください」

「なんじゃアイテムボックスって。初めて見るの?」

「女神さんに荷物をあずけるんだよ。脅かして協力させることにしたから」

「あははははは!! 女神も大変じゃの!」

「どうせならテーブルもほしいな」

「よしそれいこうの!」


 なんだかとんでもないことになってるような気がします。

 そのあと家具店に行って、コンパクトなテーブルセットを買いました。

 その場で収納しちゃって、この二人ってほんと別次元。マジで。

「今日学校休んでも大丈夫?」

「はい、今日から一週間卒業式までやることなくて休みです」

「……長いな。うらやましい。俺の通った学校じゃそんな休みなんてなかったよ。じゃ、行くか」

「行くってどうやって」

「自力で。シルビス、寮に戻って三日分の野営道具用意して」

「……そんなの無いんです」

「……え」

「パーティーとか組んだこと無いし、狩りに参加したことも無いんです」

「三年間なにやってたの?」

「……勉強。と、アルバイト……」


 すぐに店につれていかれて、私の分の着替え、寝袋、バッグ、水筒、全部買いそろえてもらいました……。

 奥さんかわいいもので選ぶのをやめてください。実用的なものでお願いします。

 私がネコミミ寝袋とかいくらなんでもシュールすぎます。


「召喚士なら杖いるな。魔法使いの店でいいのかい?」

「え、ええ、まあ……」


 召喚士の杖、一番いいの買ってもらっちゃった……。

 大金貨十枚(日本円で百万円)だよ……。  

「ワイバーンって、買い取ってもらえるの?」

「冒険者ギルドがありますので、そこで」

「冒険者に登録する必要とかある?」

「ファリス魔法学園の生徒は全員冒険者登録してあります。学生証がそのかわりです」

「じゃあ問題ないな。さ、いこうか」


 城壁門から外に出て、しばらく歩く。

「あの……アルカー渓谷って、馬車で三日かかるんですけど」

「いいのいいの。シルビス、俺の背中につかまれ」

「はい?」

「おんぶ」

「……はっはい」

 よじ登ってしがみつく。

 旦那さん、くるくるとロープを巻いて私を固定する。

 何が始まるの――――っ!!

「いくぞー! 暴れるなよ! フライト!」

「きゃあああ――――!!」


 びゅうう――――――――!!

 と、飛んでる!

 飛んでる! 飛んでる!

 飛べるの?!

 飛べるのこの人たち!!

 奥さんも、旦那さんの肩に手かけて、飛んでる――――!!

 いったいなんなの――――――――!!



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