6.卒業試験トーナメント決勝に出よう
午後。
もう学内全員が集まって見に来てるよ。
大波乱なんだもん。午後の授業なんて中止になって、先生たちまで見に来てる。
学長もいるんだから。
……でもドラゴンとどうやって戦うの?
首席のシルラース君が闘技場に上がってくる。
在学中に初めてドラゴン召喚に成功した天才召喚士。
ここまで対戦相手がすべて棄権したので、今日はまだ一戦もしていない。
それぐらいドラゴンは強い。
「シルビス君」
たれ耳犬族のシルラース君。話すのはこれが初めてだね。
「古代種って強いんだね。驚いたよ。それを召喚した君の才能も称賛したい。これからも僕のライバルとして、お互い努力していければいいと思う」
「はい」
……学内一の天才にライバルって言われちゃった……。
「できれば君も棄権してもらいたい。お互い大切な召喚獣を傷つけあうのはあまりに惜しい。お願いできないかな?」
……なんだそれ――――!!
闘わずに負けろって――! なにその上から目線――!!
なにが天才よ何がドラゴンよ。調子乗ってない?
「決勝戦で棄権するようなライバルなんて話になりませんよね」
「(シルビスも言うようになったのう)」(小声)
「(言わせてやれ……。人には誰でも一生に一度は言ってみたいセリフというものがある)」(小声)
おおきなお世話です旦那さん。
「残念だよ。では行くよ!」
そう言って、シルラース君がぴいいいいいい――――っと笛を吹く。
龍笛だ! あれでドラゴンを呼び出すんだ!
ひゅるるるる……ぶわっさぶわっさ。
遠くからドラゴンが飛んでくる。
で……でかい!
闘技場に巨大な影が落ちて横切る。
飛んできて……。
……。
ぶわっさぶわっさ……。
ぶわっさぶわっさ……。
上空で旋回してる。
旋回してる。
旋回してる。
「あ、あれ??」
ぴいいいいいいい――――――――!!
もう一度シルラース君が笛を吹く。
ぶわっさぶわっさ……。
ぶわっさぶわっさ……。
旋回してる。
旋回してる。
旋回してる……。
「……降りてこないのう」
「降りてこないね」
奥さんは不思議そうに。
旦那さんはニヤニヤと。
……なんかやったの?
……なんかやったんでしょ?
……なにやったの旦那さん!!
ぴいいいいいいい――――――――!!
シルラース君が笛を吹く吹く。
でもまったく降りてくる気配がないドラゴン。
ぶわっさぶわっさ。一生懸命羽ばたいてるけど、どんどん高度が上がっていくよ。
「あれっ? え――――? おかしいな――――!! え! なんで――!!」
シルラース君が困ってます。戸惑ってます。
旦那さんが闘技場を降りて、椅子を三つ持ってきました。
「待たせてもらいましょう」
そう言って、三人で椅子に座ります。
ドラゴン、見えなくなっちゃいました。
ざわざわざわざわ……会場のざわめきが止まらない。
「召喚しても来ないって、それって召喚獣と言えないんじゃ?」
「使役できてないってこと?」
「いや、そんなはずは……シルラース君いつもあれで闘ってるし」
「今日に限って?」
「とにかくこれじゃ試合ができない……」
「どうします? 後に再試合ってことにします?」
先生たちも困り果ててます。
「シルラース君、他に召喚獣は?」
「ありませんよ! ドラゴンが召喚出来たら、他の召喚獣はもういらないでしょう!」
「しかしこれでは試合にならんし」
「き、今日は、今日はちょっと調子が悪いみたいで、あの、再試合ってできますか?」
「うーん……。しかし、いくらドラゴンを召喚できる首席とは言っても、君だけ特例を認めるわけにもいかないし。相手もあることだし」
「し……シルビス君、あの、とても図々しいお願いだとは思うんだけど、後日再試合にってわけにはいかないかい?」
なに言ってんのこの人。
「お断りいたします」
旦那さんが宣言する。
「シルラース君、君は何様ですか?」
「な、なに様って……ここの学生ですが?」
「そう、ここの学生は皆、この日のために己の技を磨き、調整し、この日に合わせて試合に挑んだ。シルビス様も同じです。その点で条件はみな同じです。それなのに君は自分の召喚獣が逃げ出したから今日はやめて、自分が勝てる日をわざわざ選んで私たちに挑むのですか?」
「そ……そんなつもりじゃ……。ただ、僕は試合ができないなら別の日にと」
「試合ができないのは君のせいです。私たちは君のドラゴンと闘うためにここで待っています。なのに君はドラゴンを召喚できない。ドラゴンを使役できていない。シルビス様の不戦勝です。君は既に敗者なのです。それを日を改めて君に負けろとはどういう言い分ですか?」
「負けろなんて言ってません!」
「言いました。君は最初にシルビス様に『棄権しろ』と言いましたね。シルビス様に戦わずに負けろと言ったのです。なのに、君は召喚も出来ず、闘うこともできないでいるのに自分が棄権することはしないのですか? もう一度聞きます。君は何様なのですか?」
「……」
「魔王と闘う時に召喚できなくて、『再試合にして下さい』と魔王に頼むのですか? それとも魔王を前にして、『今は召喚できないけど後日闘えば自分が勝つに決まってるんだから今のうちに負けを認めなさい』と言うんですか?」
「ぐう……」
グウの音は出るのね。
「どうしても負けを認めたくないのなら君が私と闘いなさい。では審判、始めてください」
のっそりと旦那さんが立ち上がる。
「……そ、そんな。無茶な」
「無茶ではありません。召喚士は召喚獣を失ったら最後は己自身で闘わなければ戦場で生き残ることはできません。君は召喚士という召喚獣のパーティーメンバーの一人なのですよ? 君はその程度の覚悟も無しに召喚士を名乗るのですか? 無茶を言っているのはシルラース君、君です。まだおわかりになりませんか?」
「ちょ……ちょっと待ってください。もう少ししたら、あの……」
「君はシルビス様が棄権するまで待ってはくれませんでしたね。でも私たちは君が棄権するまでいつまでもここで待ちましょう。私どもはちっともかまいません」
先生たちも困り果ててるよ。旦那さんの言うことがグウの音も出ないほど正論なのでこの試合やめさせることができないんだ。
私も腹立ってきた。旦那さんの言い分がもっともだ。
そうなんだ、私このままだと優勝なんだから、譲る必要なんて一個も無いんだ。
会場のブーイングがすごい。私へ? それともシルラース君へ?
……どっちでもいいか……。
「シルビス、再試合ってことにしてくれないかな。このままじゃ」
「この試合は不戦勝で私の勝ちです先生。どうして再試合にしないといけないの!」
私だってこれにすべてをかけてるんだからそんなこと言われても困るよ!
「これじゃみんなも、先生たちも困ってしまうってば!」
「一番困ってるのは優勝を認めてもらえない私たちでしょう!」
「そりゃそうなんだが……」
「なんですか? 先生たちは何が何でも私に負けてほしいんですか?」
「そう言ってるわけじゃない……」
「学園自慢のドラゴン持ちの首席に優勝してほしくて、私に闘いもせず負けろっていうんですか? この召喚獣を召喚できない、召喚士でもない人をこの大会で優勝させてそれで学園の名誉が保たれるんですか? そんなの私に納得しろって言うんですか?」
「ま、待って待って、とにかく待ってて」
「……のう先生とやら」
奥さんがのんびり声をかける。
「お茶を出してくれぬかの? のどが渇いた」
「はいっ今お持ちします!!」
闘技場の真ん中にテーブルまで用意されて三人で悠々とお茶する。
私にもわかった。今闘技場を降りてしまったら、あとでどう好きなようにされてしまうかわからない。再試合にされてしまうかもしれない。無効試合にされてしまうかも。だから、今はここに居座るしかないんだ。
シルラース君闘技場に魔法陣チョークで書き出したよ。
再召喚? それとも呼び出すための別の魔法?
面倒なことをするなあ。
観客、ブーイング凄かったけど飽きちゃって、解散しだしてる。
シルラース君お祈り始めちゃったけど、なんにも起こんないね。
ざまあ。
今ならざまあって思える。
だいたい相手にいきなり棄権しろってなんなのよ。
首席だからって、ドラゴン召喚できたからって、調子に乗ってたのね。
肝心な時に召喚獣を呼べない召喚士なんてなんの役に立つの。
結局、シルラース君は自慢のドラゴンを呼び戻すことができなくて、その日はお開き。
優勝は私。誰もいなくなった陽が傾いた闘技場で寂しく表彰式。
校長先生が苦々し気に私に賞状をくれた。
準決勝と決勝を不戦勝で優勝した私。学園期待の召喚の天才を優勝させて派手に売り出したかったのに。そりゃあ面白くないよね。
でもそれを言ったら今日一度も試合してないのに全部相手の棄権で準優勝になったシルラース君はなんなのよ。
なんとも盛り上がりに欠ける、今年の卒業トーナメントでした。
「旦那さん、あれ、なにやったの?」
帰り、三人で街を歩きながら話す。
「重力操作、ドラゴンに重力を逆にかけて降りてこられないようにしてやった」
「あはははははは!!」
「はははははは!! マサユキ! それは卑怯じゃ! 悪すぎじゃ!」
「いいじゃないか。ドラゴンを殺したり傷つけたりしないで勝てるんだぞ?」
「わしはまたドラミちゃんにお仕置きするみたいに、箱で閉じ込めるのかと思っとったがのう!」
「あの様子だと、勝ったら勝ったで、あとで面倒になりそうだったんでな」
「それもそうじゃの。ま、今日は誰も損をしとらんのでいいとするかの。あの生意気な小僧も、あとでまたドラゴン召喚出来たら一応面目も立つじゃろうて」
「お、そうか。忘れてた。【フライト】切っておかないとな」
まだかかってたの?とんでもない魔法だね……。
「あの……ドラミちゃんってなんですか?」
「わしが飼っとるペットのドラゴンじゃ。移動の時に乗せてもらうのじゃ」
「ペットって……もしかして奥さんも召喚士!?」
「違う違う。わしが卵の時から抱いて育てたんじゃ」
「え――――! ドラゴンってそんなんで懐いたりするんですか!!」
「するわの。わしが子供の時に、父上が持ってきたドラゴンの卵をの、一緒に布団で寝て、温めて、いつも背負って歩いてのう」
「あははははは!!」
ほんと楽しい人たち。
……女神様、いまさらだけど、素敵な召喚獣……。
いや、素敵な私の仲間をありがとう。
二人とも、強くて、優しくて、楽しくて。
こんな貧乏学生の私に、ホントにありがとう……。
この日は、宿で別れた。召喚主の私が言えば召喚獣でも泊めてくれるし。
もう二人の時間、邪魔したくないし。
私お邪魔虫だし。
私も寮に帰ってやることあるし。
よかった……。優勝できたよ。おじいちゃん。
これで胸張って卒業できる。勇者パーティーの一員にだってなれるかも。
みんな、ほんとうにありがとう。
寮に帰ってから、一人でいっぱい泣いたよ。
嬉しくて。