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5.卒業試験トーナメントに出よう


 コロシアムの中央で向かいあう。

「……クマだったら自分で闘えよ。なんで召喚士なんてやってんだ?」

 旦那さんが相手を挑発する。相手はクマ族のゴローだ。

「俺はちょっとそこらの召喚士とは違うんでね!」

 クマゴロー君、剣を持ってひゅんと振る。

「召喚獣と一緒に戦うのが俺のスタイルさ。新しい召喚士の形ってのを見せてやる!」

 召喚獣の全身鎧がクマゴロー君と一緒にひゅんと剣を振る。

 中身なに入ってるんだろ?


「カーリン、クマは俺が相手するから鎧まかせていいか?」

「そうだのう。まあ初戦じゃからの。様子見するかの」

「シルビス、下がってろよ。邪魔すんな」

 二人、無造作に鉄棒と棍をだらりと下げて特に構えるわけでもなく敵を待つ。


「始め!」

 先生の声がかかる。

 始まった――――!!

 か……神様女神様! お願い! 二人を守って!


 どがご!!

 物凄い音がして一瞬で鎧がコロシアムのはじまで転がっていく。観客席の壁に激突して砕ける!

 ばきぃ!!

 クマゴロー君の剣が折られて吹っ飛ぶ!


 ……な……。

 後ろから見てたらなにがあったのか全然わかんないんだけど……。

 

「えーと、クマゴローって言ったか」

 旦那さんに聞かれて剣の柄だけ持ったクマがうんうんうんと頷く。

「まだやるか?」

 ぶんぶんぶんぶんっ、首を横に振る。


 終了……。


 なにこの二人! レベルが桁違いなんですけど!!

 め……女神様! あんたなに呼んでくれてんですか!!

 最終兵器夫婦なんて頼んでませんって!!

「……つまらんのう」

 奥さん……あなたホントに何者なんですか……。



 二回戦。キツネのミヨちゃん。

 召喚獣はグリフォンだ。

 上半身が鷹で下半身がライオンみたいで羽生えてる。

 二人は……指二本出したり五本出したりしてなんかやってる。

 奥さんがこぶしを上げてガッツポーズ。

 旦那さんががっくりしてる。なんなのそれ?


「あ……あの、奥さん一人で闘うの?」

「ジャンケンで負けたし」

 ジャンケンってなに? そこまで気落ちすること?


「始め!」

 奥さん、飛んできたグリフォンをいきなり棍でぶん殴って場外に吹き飛ばしてしまいました。

 よろよろと上がってくるグリフォンですけど、ミヨちゃんがあわててやめさせます。一撃で勝負アリですね……。



 三回戦。犬種のワルラー君。

 召喚獣はマッドブル。強大な猛牛で角が狂暴!

 旦那さん、ロープを腰から取り出して、牛を引き倒してあっという間に足を全部グルグル巻きに縛り上げてしまいました……。

 旦那さん牧場で働いてたの?

 ワルラー君も降参です。


 4回戦。ウサギのメルさん。

 旦那さん、「ウサギとは闘えない」といって奥さんにゆずります。

 どんなトラウマ……? ウサギと闘って負けたことでもあるの?

 異世界のウサギ狂暴すぎ。

 相手は槍持ったリザードマン。

 リーチが違う……。奥さんの棍で相手になるの?


 ……なるんだ。

 奥さんが一撃で叩き伏せるたびにメルさんがリザードマンに回復かけて、再試合になるんだけど、勝負にならないね。メルさんのMPが切れて、終了。

 回復かけてる間待ってあげてる奥さんになんかほっこりしましたわ。


 5回戦。猫族のミアーくん。

 召喚獣はマンティコア。魔獣だ……。魔獣って魔法使ってくるよ。

 ライオンと他の動物の合成みたいな。たぶんこれが初めての魔法戦。

 ここまでくると敗者の人たちも集まってきて、試合見てる。

「……古代種ってこんなに強いの!?」

「……ここまで全部一撃だもんな」

「でもマンティコア相手に勝てるのか? 魔法使ってくる相手だぞ?」

 もうざわめきが止まらないよ。

 今度は旦那さんが出る。

 いや……そろそろ二人で闘ってくれないと危ないんじゃあ……。


「始め!」

 いきなりマンティコアが吐き出したファイアボール来た!

 旦那さん、それをまともに食らって……。


 いやなんで平気なの!

 服もマントも燃えてないし!

 ありえないでしょ!


 ずんずんとマンティコアに歩み寄る旦那さん。

 マンティコア、ファイアボール乱射しながら後ずさる。

 こんな相手初めてだよね。

 危ない! 外れたファイアボールが観客席に!


 旦那さん、すっと手を伸ばして……ファイアボールがなにか見えない壁に当たったみたいに観客の手前で爆散!

 会場からすごい悲鳴が上がる。

 何やったの今! なにその魔法! 結界魔法まで使えるの???

 マンティコア、後がなくなって自分で場外に転がり落ちる。


 ぎろり。

 旦那さんがミアー君をにらむと、全身の毛を逆立ててミアー君が降参を宣言。

 一番の技のファイアボールが全く効かないんじゃ、勝てるわけないよね。

 一度も攻撃しないで勝っちゃいましたよ‥この人。



 6回戦、準々決勝。

 ……もうここまで来れただけで満足だよ私は。

 これでもう、卒業試験は合格間違いなし。奨学金の返済も免除だよ!

「なに泣いておる」

 奥さんが不思議そうに見る。

「……これで、あの、奨学金の返済が免除なんです。借金を返さなくてもよくなったんです。ありがとう。本当にありがとうございました。私ここまで来れただけでも満足です」

「満足されたら困る。優勝してもらわないと」

 旦那さんがにやりと笑って私の頭をなでる。

 奥さんもニコニコ嬉しそうだ。

 ……これじゃどっちが主人かわからないよ。


 相手はネズミのチュータル君。

 いつも真っ黒いローブかぶっていかにも悪い魔法使いって感じ。

 そういえば話したこと一度も無いな。

 召喚獣は首なし騎士。デュラハンだね。

 デュラハンの頭はチュータル君が抱えてて、「ぐっふっふっふ……」とか不気味に笑ってる。

 今度も旦那さんが相手。


 旦那さん、デュラハンの大剣をあの金具付きの鉄棒で簡単にもぎ取って場外に投げるのよね。いったい何をどうやってるの?

 そのたびにデュラハンが剣を拾いに行っては試合再開。

 キリがない……。これだけやられても負けを認めないチュータル君のメンタルが凄いよ。

 旦那さん、いきなりチュータル君の首根っこ捕まえて自分の前にぶら下げる。

「うわあ――――!! やめろ! やめろ!!」

 バッサリ!!

 デュラハンの振り下げた剣が、チュータル君の持ってたデュラハンの頭を真っ二つに斬り倒して……、そして鎧がバラバラに崩れ落ちた。

 これぞまさしく自業自得。

「……あんな倒し方あるかよ……」

 会場から驚きの声が上がっております。

 チュータル君泣いております。デュラハンは再起不能ですね。

 せっかくここまで育てたのに、また召喚からやり直しですね……。ここまで上がってきたんだから落第はないだろうけど。



 準決勝。

 もう全員見に来てるよ。下級生まで集まってるし。

 だって相手、ゴーレムだもん。巨大ゴーレム!

 クラスのナンバーワン金持ち。イケメン自慢のクイントがニヤニヤ笑う。


「よくここまで来れましたね。シルビス君。まさかあなたが準決勝の相手とは思いませんでした」

 相変わらず嫌な奴……。

 私と同じレッサー族。金に飽かせて召喚石使いまくって呼び出したゴーレム、二階建ての校舎より高いよ。

「ですがここまでです。古代種が強いのは認めましょう。でも古代種ではゴーレムに勝てないことはかつての戦争の歴史が証明しています。召喚士となって身を立てるあなたの夢、ここで終わりです」

 言いたいこと言っちゃってさ……。


「平民は平民らしく、静かに暮らすのが幸せというものでしょう。どんなに儚くとも、幸せな夢を見られたと思ってその召喚獣は諦めなさい。では始めますよ」


 奥さんが頭に来て出ようとするのを旦那さんがそっと制して、前に立ちます。

 今度こそ、本当に殺されるかもしれない。いや、あいつ二人を殺す気だ。

 私は、いつでも降参できるように身構える。


「始め!」

 先生の掛け声と同時に、ゴーレムががっくり膝をつく。

 えっ……。


 ゴーレムの腕が落ちる。

 ゴーレムの頭が落ちる。

 ゴーレムの胴体が……崩れる。

 どしゃあ……。

 ゴーレムがボロボロになってゆく。

 岩が砕け落ちて、砂に変ってゆく。

「あああああ――――――――!!」

 クイントが悲鳴を上げる。

「な! なんで! なんでだあ――――!!」


 クイント、半狂乱だね。こんなことってあるの?!

 岩にすがりついて、でもクイントが触ったところからボロボロになって崩れる岩。


「……ゴーレムの体調が良くないようですね。先生、これでは試合ができないと思いますが?」

 旦那さんが審判の先生に向かって言う。

「そ……そうですね。では不戦勝ってことで……」

「負けてない! 僕は負けてないじゃないか!」

 クイント、みっともないったらありゃしない。

「じゃあ次の召喚獣を出してください。待たせていただきます」

 旦那さんがマントをひらりとひるがえして後ろを向く。


 クイント君、ぎゃーぎゃーわめいて審判の先生に詰め寄っておりますが、どうにもなりませんね。観客のみんなもシラーっとしております。

 他のレッサー族の女の子たちの眼の白いこと白いこと。

 考えてみれば私だけがクイントのイケメンに反応しないからいつもイヤガラセしてくるんだよね。ほんとヤなやつ。


 はい、みんなでスコップとホウキ持って、会場の砂とガレキを掃除することになりました。大迷惑だよクイント……。

 先生は試合が残ってる人はやんないでいいってさ。

 決勝戦はお昼過ぎから再開です。



 学食で三人で食事。

 ミートボールのパスタ。スープ付き。

「……旦那さん、なにかやったの?」

風化魔法(ウェザリング)。誰にも言うなよ?」

 そんな魔法あるんだ!

 そんな魔法あることにもびっくりだけど、それを無詠唱であんなにアッサリ、誰にも気付かれないようにって凄い……。

「普通、魔法使ったら先生にはすぐにわかるんですけど……」

「俺のは魔法じゃないからな」

 なにそれぜんっぜん意味わかんない。あれだけ魔法いろいろ使いこなしてるのに。


「いい気味じゃった。マサユキ、ぐっじょぶじゃ」

「うん本当! クイントのやつ、イケメンが台無しだよ」

「……あいつ、イケメンだったのか……」

「……アライグマにイケメンとブサイクがあったとはの……」


 それから、三人で私へのクイントのイケメン空振り事件をいろいろ披露して盛り上がった。

 嬉しい。

 二人ともホント優しい。

 なんか死んだ私の両親みたい。

 泣きそうになるけど、我慢するよ。だってあと一試合だけだもん。

 涙はとっておくよ。


「次はいよいよ決勝じゃの。相手はドラゴンかのう」

「あの……こんなこと言うのも変なんですけど」

「ん?」

「棄権してもいいから、相手のドラゴン、殺さないでほしいです」

「なんで?」

「いろいろ問題あって、今ドラゴンを失うと魔王戦で貴重な戦力を失うことになるんです。先生たちも期待してて、ドラゴン持ちの首席生徒が優勝するってみんな思ってますから、殺すと大変なことに……」

「……面倒じゃの。殺したらダメなんじゃわしは闘いようがない。それにわしはドラミちゃんのこともあるしドラゴンと闘うのは願い下げじゃ。マサユキに任せるの」

 ……殺す前提なんですか奥さん。どんだけ実力あるんですか。

 っていうかドラミちゃんって誰なんですか。


「わかったわかった。うーん、どうしようかな。あんまり手の内見せるのもアレかと思うし……。無難な方法でやるとするか」

 ……そんなドラゴンをザコみたいに……。



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