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4.いつもの武器をそろえよう


 レストランで普通に食事して、お弁当も包んでもらって。

 っていうか、奥さんも普通にナイフフォーク上手に使って食べる。

 召喚獣ってさ、生肉とか餌箱に顔突っ込んでガツガツ食べるか、そもそも食べないイメージなのよね。

 なんかいろいろ型破りというか、この人たちホントに召喚獣なの? って感じ。


「あの……私、いろいろ無理言っちゃって、なんかすみませんでした……」

「……マサユキはの、これまでさんざん異世界に召喚されていろいろ苦労してきた男じゃ。これぐらいはなんともないの」

「あり得ない話ですけど……。でも奥さんまで……」

「マサユキがいれば大丈夫じゃ。絶対なんとかしてくれる男じゃ」

「……でも、明日のトーナメント、相手すごく強いし、人間と魔族じゃ、すぐやられちゃうと思うんで、無理しないでケガしないようにしてくださいね?」

「勝たねばならんのであろう?」

「今日召喚されてすぐ明日じゃ、いくらなんでもなんにもできないと思いますし……。私もお二人に死んでほしいわけじゃありません」

「一番強くてもドラゴンなんじゃろ? 何も心配いらんぞ?」

「心配しますって! ドラゴンって知ってます? そっちの世界にいたドラゴンとは全然違うと思いますよ?」

「わしのせいの高さの十倍以上あるんじゃろ?」

「……はい」

「で、ブレスとかファイアボールも吐くんじゃろ?」

「……そうです」

「空飛んで、わしを一飲みできそうなぐらい大きい口で噛みついてくるんじゃろ?」

「その通りです!」

「だったらなにも問題ないわ。わしらの世界におったドラゴンとおんなじじゃ。お主はどーんと構えておれ」

 

 ……なんで問題ないのよ。

 この人たち死ぬわ。絶対死ぬ。あ――――! どうしよう!!

 明日は棄権しようかな……。



 武器屋さんに戻ると、ゴリラの御主人が折れた剣を片付けてた。

 旦那さんは変な鉄棒に皮を巻いてる。

 ……ホントに変な鉄棒。皮を巻いた握り手の根元からL字型に金具が飛び出してるだけの短い鉄棒。磨いたばっかりで銀色にぴかぴかしてる。

「できたかの?」

「バッチリ。突貫工事だから細かい細工とかなにもないけど、とりあえず明日には困らない程度に」

「ご苦労じゃった。ほれ弁当。店の主人にも」

「おうありがと」

 ゴリラさんの分もちゃんと買ってくるって、いい奥さんだよね。


 ゴリラさんと旦那さんががっしり握手する。

「粘りのある鉄と、硬い鉄を叩き合わせるとか、焼き戻し! 勉強になったよ!」

「いえいえ。ご面倒をかけて申し訳ありませんでした」

「またなにかいいアイデアがあったら来てくれよ!」

「ぜひ」

 すっかり意気投合しちゃってさ。

 二人が選んだ武器はヘンな鉄棒と、大きめのナイフと、奥さんの鉄芯入り棍と。

 お金は支払い済だって。


「邪魔じゃのー! ちと短くしてくれんかの?」

「ほい」

 旦那さんが魔法をかけると棍が短くなった! 奥さんの身長より長かったのに、肘から手首ぐらいの長さに!

 ……びっくり。

 なにその魔法!

 物を小さくする魔法なんて聞いたことがないよ!

「い、い、今のどうやったんですか!?」

収縮魔法(コントラクション)。荷物を小さくするとかに使う」

「そんなの使えるんですか!」

「いつも使ってるよ。ほら、さっきの買い物も」

 そういえばさっきあんなに買い物してたのに、今は旦那さんが小さいバッグぶら下げてるだけだ。

 えっこれさっきの買い物してたバッグ?

 手提げかばんぐらいに小さくなっちゃってるんだけど!

「ほれ」

 手渡された……。重!! 鉛でも入ってるみたい!


「小さくはなるんだけど、重さは同じなんだよな」

「マサユキの魔法は凄いのか凄くないのかよくわからんからのう」

「やかましいわ」


 ……さらっとやってるけどこれとんでもない魔法よ?

 アイテムボックスに匹敵するんじゃないかしら。


「さて、とりあえずこれで明日の準備は全部整ったと。明日どこでやるんだ?」

「学内のコロシアムです。朝8番目の鐘から」

「了解。さ、今夜の宿でも探そうか」

「風呂のある宿がよいの――っ」

「宿なんてとんでもない! 学園に召喚獣の厩舎がありますから!」

 ……二人が半目になって私をにらむ。


「……それ、どんなところ?」

「檻があって、わらが敷いてあります」

「冗談じゃないわの。わしらはちゃんと宿に泊まるわ」

「冗談じゃなくてそうしてもらわないと困ります!」

「別に逃げたりしないよ」

「そういう問題じゃなくてですね」

「じゃあお主も一緒に宿に泊まれ。それなら問題あるまいの」


 そう言って、二人で勝手に宿屋街に来て、一番いい宿に勝手に入っていく。

 あっこら――!! そ、そんな高い宿! 入れませんから――!

「ちょっちょっちょ!! そんな高そうなお宿……」

「金ならある」

「召喚獣なのに!」

「だからご主人様が一緒にいれば問題ないだろ。奢るから」

「そんなこと言ったって……」


 結局私も泊まることになってしまった。

 スゥイートの一番いい部屋。大金貨1枚よ!

 異世界で最初の夜だからっとか言ってさ!

 キングサイズのでっかいベッドがツイン。

 二人はあっちで寝るから、私は一人でこっちだってさ。

 私がこんなでっかいベッドで寝たって、十分の一ぐらいしかスペース使わないって。これクマ族だって泊まれる宿なんだから……。


 すっごい豪華な食事、ルームサービスで取っちゃって。

 どんだけ贅沢なのこの夫婦。新婚旅行かなんかと勘違いしてない?

 あ……私の分もちゃんとあるの。はい……いただきます。


 さっそくお風呂ですか。奥さんがお風呂してると旦那さんも入ってく。

 二人で一緒にお風呂ですか。仲がよろしいことで。

 私? 入りませんよ?

 あんたたちみたいに頭にしか毛が生えてない生き物と一緒にしないでよ。

 入ったら全身の毛がびしょびしょになって乾かすのが大変ですもの。

 普通は一週間に一度入れば十分でしょうが。

 ……はいはい入りますよ。

 お湯少なくなってるけど、私にはちょうどいいわ。

 ほらーもうふき取るのも乾かすのも大変なんですから。

 ……ってダウンバーストってなに?

 びゅううううう――――! 温風が上から吹き付けてあっという間に乾燥。

 す……凄い技使いますね旦那さん……。ふわふわになりましたよ私。


 夜になって、ベッドに入ると、奥さんがぐずぐず泣き出した……。

 もし帰れなかったらどうしよう……、子供にもう会えなくなったらどうしようだって……。

 あんなに気丈で、強い女性って感じだったのに……。


 ……心が痛い。めっちゃ痛い。

 ……全部私のせい。

 ……ごめんなさい、ごめんなさい。


 ……うわあ……。

 ……旦那さん、優しいな……。

 ……いいなあ、夫婦って。


 ……そこで交尾ですか。さすがです旦那さん。

 まだ子供が欲しいんですか。

 私が隣にいてもおかまいなしですか。だから野生動物ってイヤよ。

 いつまで続くんですか。

 寝られないじゃないですか。

 ……なんなのこの二人!


 女神様、どうしてもっと違う、まともな召喚獣にしてくれなかったんですか……。

 つらいよ私。いろいろと。

 どうなっちゃうの明日は……。

 全然勝てる気がしないよ……。

 枕が涙で濡れるよ。

 おじいちゃん、女神様、私を助けて……。




 朝、早めに朝食を取って……この朝食がまた豪華。

 苦学生の私には涙が出るほど。いつも固いパンとオートミールの朝食なのに……。


 二匹を連れて、コロシアムに行く。

 出場登録しなくっちゃ。


「先生! 私、召喚できました!」

 メリアン先生驚く驚く。

「(牛が先生かよ……)」(小声)

「(聞こえるぞマサユキ……)」(小声)

 お願いだから黙ってて。


「ギリギリよ。シルビス。よく間に合ったわね。え……後ろのが召喚獣? 二匹同時に?! すごいじゃないシルビス!」

「はい……」

「種族は?」

「人間と魔族です」

 ざわっ……。周りがどよめく。


「古代種……」

「あの絶滅したっていう……」

「古代種なんてどうやって……」

 いやあ見られる見られる。

 珍しいよね。

「(俺らは動物園の動物かよ……)」(小声)

「(わしらから見たらここが動物園だがの……)」(小声)

 お願いだから黙ってて。


 そうか、人間も魔族も、神話や伝説にしか出てこない種族だもんね。

「……シルビス、あんたどんな方法使ったの?」

「今はちょっと」


「シルビス君」

 ……いやーなやつが声かけてきた。

 クラスでナンバーワン金持ち。イケメン自慢のクイント。私と同じレッサー族。

 家が貴族だからっていつも平民の私を馬鹿にするいやーなやつ。

「もうとっくに召喚士になるのはあきらめたと思ってましたよ?」

「召喚だったらできました。もう私は召喚士です!」

「ふーん……その二匹がね。服なんか着せて趣味が悪いですよ。古代種というのは驚きですね。誰かに召喚してもらったものを、自分が召喚したと言って連れてきたんじゃないでしょうね」


 すいっと旦那さんが前に出る。

 あっやめてやめて! これ以上事態を面倒にするようなことはやめて!!

「お初にお目にかかります。シルビス様の召喚獣をしておりますサトウと申します。私どもがシルビス様に召喚され、隷属しているのは紛れもない事実。どうぞお見知りおきください」

 そう言って帽子を取って優雅にお辞儀する。

 ……す、すごい……。カンペキ。なんなのこの人。


 ざわざわざわ……。

 周りのクラスメートたちも先生たちも驚愕する。

 みんな喋る召喚獣なんて初めてだよね。私だって驚いたもん。


「……ふ……ふん。躾は行き届いているようですね。それにしたって大昔に戦争して勝手に滅んだような種族、現代に召喚して戦力になどなるのですかね?」

「それは……。やってみないとわかりません!」 

 本当にやってみないとわかんないんだよ――――!!

 どうなんの私――――!!


「そうですね。魔族も人間も、お互いゴーレムを使って闘ったそうじゃないですか。素手で僕のゴーレムに傷でもつけられたらいいですね。ま、そこまで勝ち上がってこられればの話ですが。では失礼」


 言いたいことだけ言って行っちゃった。

「生意気なアライグマじゃの」

「死亡フラグの羅列久々に見たな。ちょっと面白くなってきた」

 ……二人とも、あのズシーンズシーンって歩いてクイントについていくあの岩山みたいなゴーレム見てなんとも思わないの? この二人感覚おかしくない?

「カーリンもここの言葉わかるんだな」

「そういえばそうじゃの。不思議だの。なんかしらんがわかったの」

 異世界から来た召喚獣だとそういうことがあるって聞いたことがあるけど……。

 異世界言語翻訳能力か。素でそんな能力なんであるの……。


 第一戦目、いきなり私からだ。

 私がランク最下位だから、しょうがないけど……。

「召喚獣は一匹ずつ闘うのかい?」

 旦那さんが聞く。

「制限なしです。召喚獣を複数持ってる人は全部出して闘うのが普通です」

「じゃあ俺とカーリンで組んで闘っていいわけだ」

「はい」

「召喚主も攻撃したり、攻撃されたりするの?」

「滅多にないです。召喚士は召喚獣に自分を守らせるのも技術のうちです」

「シルビスは試合中、なにをするの?」

「普通は、試合前に召喚獣に付加魔法をかけたり、試合中回復とかのサポートをしたりしますけど……私は……、その」

「なにもないと」

「恥ずかしながら……まだレベル1ですので……」

「レベルが見られるんだ」

「はいっ。あ、そういえば私、あなたたちの召喚主だからお二人のレベル見られるんですよね。見ていいですか?」

 すっかり忘れてたよ。第一にやんないといけないことなのに。


「どうぞ」

「ステータス!」


 サトウ・マサユキ(44)

 召喚主 シルビス

 種族:人間

 LV (レベル) ***

 HP (体力)  ***

 MP (魔力)  ***

 STR(筋力) ***

 INT(知力)  ***

 AGI(敏捷)  ***

 ATK(攻撃) ***

 DEF(防御) ***

 MGR(抗魔) ***



 サトウ・カーリン(125)

 召喚主 シルビス

 種族:悪魔

 LV (レベル) ***

 HP (体力)  ***

 MP (魔力)  ***

 STR(筋力) ***

 INT(知力)  ***

 AGI(敏捷)  ***

 ATK(攻撃) ***

 DEF(防御) ***

 MGR(抗魔) ***


「……す、ステータスが見られません!」

「ふーん……。俺たちのほうが君よりレベルが高いからじゃないかな?」

「そもそもレベルってなんじゃ? 勇者じゃあるまいし」

「ま、シルビスをレベルアップさせれば見られるスキルも身に付くだろう。まずは今日の試合、優勝すればいいんだな」

「そりゃ、優勝できたらいいですけど……無理だと思ったらすぐ降参させますからね」

「まあそこは好きにしていいが、試合中には絶対に手を出すなよ?」

「はい。もうお任せします」

 ……もう不安しかないよ。



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