20.一年後の話をしよう
さあっ、今日で宮仕えはもうおしまい。
王室付・遺跡探索班は今日で解散。っていっても私一人だけど。
あの後、王様に「魔王を討伐できました」って報告した。
王様も、私たちがあの流れ星を見た日から、天文部が上空を横切る魔王を観測できなくなったって言ってて、それで確認できたって。
本当に魔王がこの世界からいなくなったのかはわからない。
それは、実際に軍を集めて戦争でも始めてみないと、本当はわからないのだろう。
でも、そんな実験できるわけない。下手したら自分の国の軍が全滅しちゃうし、無かったら無かったで、こんどは遠慮なく戦争を始めちゃうやつらが出てくるかもしれない。
だから、王様はこのことはくれぐれも内密に、だってさ。
私と、王様と、大臣さんと、天文部のメンバーだけの秘密。
王様は、「これで魔王を手に入れることは誰にも永遠に不可能になった。そのことだけで十分だ」って言って細かいことは聞かずに笑ってくれた。
「サトウ夫婦はどうした?」って聞かれて、「元の異世界に帰りました」って言ったら、とっても残念そうだった。
もっと仕事をしてほしかったっていうわけじゃなくて、一言お礼を言いたかったみたい。
私の身分は一年間の契約の間、ずーっとそのまんま。給料も払われ続けた。
その間、仕事はなんにもしなくていいから好きなように過ごしなさいって。
それが私へのご褒美だって。
私には魔王を倒した勇者としての名誉も無く、地位も無く、なんにも残らなかった。この世界にはまだ魔王がいる。魔王が怖くて戦争できない。そんな状態。本当は魔王なんてもういないのに。
でも、それで世界が平和なんだったら、私にはそれで十分。
あの一か月にも満たない、サトウさん夫婦と一緒にいた時間だけで、一生分の冒険できたと思うもの。
サトウさん夫妻が残してくれたバッグには、二人がいた間に稼いだお金がたんまり入ってて、金貨と一緒に大粒のダイヤモンドの原石まで何個も入っててびっくりした。
そんなに財産残してくれなくても、私立派に独り立ちできてますから。
クマゴロー君をリーダーに、ウサギのメルさんとか、犬のワルラー君、猫のミアー君とパーティー組んで、ギルドの仕事とかやってるから。
私たちは街ではちょっと有名よ。
今では王宮からも仕事の依頼が来るの。
王様から直々にギルド経由で指名依頼が来るの。すごいでしょう!
クマゴロー君は召喚士やめて、剣士として生きるんだって。
もうあの剣術科のクマより強いぐらい。
最初から剣術科で卒業しとけばよかったって後悔してるわ。
私の借家は、いまではウサギのメルさんと一緒にシェアハウスしてて、毎日パーティーのメンバーが集まってワイワイガヤガヤ、とってもにぎやかだよ。
いつも私とモメてたあいつらは王宮付きの勇者パーティーになるつもりだったのに、勇者制度が廃止されて、今では普通にパーティー組んでるけど、依頼失敗が多くて口ほどにもないってあんまり評判良くないみたい。ドラゴンがいないとその程度よね。
猫のシスタークリスさんだけは、もう抜けちゃって教会で仕事してる。
ホント世渡りがうまいのよねクリスさんは……。
私の胸には宝物のペンダントが光ってる。
お二人が荷物に入れておいてくれた、二人からのプレゼント。
旦那さんと、奥さんの髪の毛が入ってる。
『死にそうなぐらいピンチになったら、召喚しなさい』って手紙に一緒に入ってた。
ハードル高いよ!
人生でそんな目にあうこと、そんなに何度もないからねっ!!
一生そんなこと、無いんだろうなって思う。
もう一生、お二人を召喚しちゃうなんてこと、無いんだろうなって思う。
あったらいけない。そう思う。
でも、いつか、きっと、
お二人が、私を逆に召喚して、お二人のいる異世界に招待してくれたりなんか、しないかなー……なんて。
そんなこと、ちょっと考えちゃう。
そんなこと、あったらいいな。
私も、異世界であんなふうに冒険できたら。
そんなこと、ちょっとだけ、想像したりしちゃいます。
さ、お城に行って、王室付き探索班のカード返却してこなきゃ。
いってきまーす!!
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後日談をちょっとだけ考えているうち、第三者の視点で見たらどうだろうと思って、シルビスというキャラを作って書いてみました。
忙しいこともありますがいろんなパターンをやりすぎてこれ以上ネタがなく、これで一応終わりです。
長々とお付き合いいただき、ほんとうにありがとうございました。
またネタを思いつくようなことがありましたら、またお付き合い願います。
※スピンオフ第二弾、「魔王の娘が身分を隠して学園チート」もよろしくお願いいたします。
マサユキとカーリンの娘、ナーリンが人間の学園へ留学するお話です!




