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2.誰が主人か教えてあげよう


「まず二人とも、せっかく喋れるんだから自分の種族と歳を言いなさい!」

 最初が肝心だ、召喚獣に舐められたらダメだ。私は無理に気を張って、できるだけ偉そうに命令する。

 二人は私が持ってきたシーツにくるまって、私のことを胡散(うさん)臭そうに見る。

 この二人大きいのよね……こうやって座ってて、立ってる私より大きいわ。

 クマ族ぐらいあるかな。

 ……ダメだ完全になめられてる。どうしよう……。

「私の言うことを聞かないと、隷属の首輪を……」

 もうこれは一回やってしまわないとわかんないんじゃないの?


「人間だよ。四十四歳。あ、俺の名前は佐藤雅之という」

「……佐藤カーリンじゃ。マサユキの妻じゃ。種族は魔族! 百二十五歳じゃ」

「……カーリン百二十五歳だったんだ……」

「……言ったことなかったかの……?」


 なんという年の差婚。っていうかメスのほうが年上なの?!

 どうみてもメスのほうが若いじゃないの!

 長寿の種族なの!?

 っていうか種族違うの! 異種族婚とか考えられないっていうか信じらんないんだけど!!

「妻ってなに。二人、結婚してるの?」

「当り前じゃ。おぬしも見たであろう。男女が営むのは夫婦にきまっておろう!」

 ……オスのほうが糸目になってるのはなぜ?

 まあいいわ。


「人間と魔族? どっちも、とっくに滅びたって聞いてるけど?」

 人間と魔族なんてどこの世界から来たのか知らないけどこっちじゃそんなのおとぎ話だよ。

「こっちの世界じゃどうか知らんが、俺らの世界じゃ人間と魔族は仲良くやってるよ」

「この世界にも人間と魔族がおったのかの。なんで滅びたんじゃ?」

 そっか、この二人が知るわけないよね。


「昔、昔の大昔、人間と魔族が大きな戦争をしてね、それで両方、滅びたって聞いてるけどね」

「……愚かなことじゃの。そんなことやってるからこんなアライグマに世界をとられるのじゃ」

「アライグマって言うな――――!!」

「わしから見たらどっからどうみてもアライグマが珍妙な僧服着て本かかえておるようにしか見えんがの?」

「これはファリス魔法学園の由緒ある制服です!! 僧服ではありません!!」

「女子高生かよ……で、レッサーパンダ君の名前は? まさか風太(ふうた)君じゃないよね?」

「私はレッサーパンダなんて種族じゃありません! レッサー種のシルビスです!」

「レッサーはレッサーなんだ……。で、シルビス君、君はどうやって俺らを召喚したの?」

「どうやってって……私はこの学園の召喚の間を借りて、魔法陣におじいちゃんの残したメモに改良を加えて、おじいちゃんの遺品の召喚石使って、女神さまに祈って……」

「……この世界にも女神いるのか。なんて女神だ?」

「名前なんて知られていません。ただ、女神さまと」

「なんて祈った?」

「『女神様女神様、この世で一番美しく、気高く、賢いこの世界の女神様。どうか私に召喚獣をお授けください』って」

 オスがうんざりした顔をする。

 ……それにしてもこの召喚獣たち、表情豊かね。

 普通召喚獣なんて、怒ってるか無表情かのどっちかなんだけど……。


「それでかー……。クソ女神め、ちょっと持ち上げられたぐらいでサービス過剰だわ!」

「女神さまのことを悪く言わないでください」

「また女神に召喚されたのかの、マサユキ……。おぬしもほとほと運が無い男じゃの。しかしなんでわしまで一緒に召喚されたんじゃ……」

「そりゃあアレ、っていうかアレ。ほら俺たち繋がってたから……」

「……なんじゃそれはっ! 召喚ならおぬし一人で行けばよかったのじゃ! わしはまつりごとが山ほどあって忙しい身じゃ!! 子供の面倒だってまだまだ見ないといかんのじゃっ!! なんでこんなアホなことに巻き込まれなきゃならんのじゃっ!!」

「……行政は全部俺に丸投げだけどね……」

「やかましいの」

 ……この二人、子供がいるんだ。

 もう子供がいるのになんで交尾なんてしてたのかしら……。


「事情はわかったシルビス君。ではさっそくで悪いんだけど、俺たちを元の世界に戻してくれないかな?」

「できません。あなたたちはもう一生私の下僕です」

「よく聞こえなかったシルビス君。ではさっそくで悪いんだけど、俺たちを元の世界に戻してくれないかな?」

「だからできません。あきらめなさい。それから私のことはご主人様と呼びなさい」

「それは聞こえたご主人様。ではさっそくで悪いんだけど、俺たちを元の世界に戻してくれないかな?」

「あきらめろって……ちょ、ちょ、なっ! 痛っ、痛いっ! 痛い痛い痛い――――!!」

 オスの手が私の頭をわしづかみにしてギリギリと締め上げる――――っ!!

 しっ死ぬ! 死ぬ!! 死ぬ死ぬ死ぬ!!

「れっ隷属の首輪!! この者に戒めを!!」

「あーこれ締まってきたわ。あー苦しいわ。あ――これ俺死ぬかもしれないわ」

 首がぐんぐん締まってきてるはずなのになんでしゃべれるのこのオス?!

「戒めを! 戒めを! 戒めを!!」

 ぶちっ。

 首輪がちぎれた。


 ……。


 ダメだ死んだ。私殺されるんだ。この召喚獣に。

 ……私の頭を絞めつけていた手がゆるむ。

 ……殺されると思って、目をぎゅっと閉じて覚悟した私は、うっすらと目を開ける……。

「さてご主人様、これで君は自分の立場というものがよーくわかったと思うが?」

 うんうんうんっ。私は首を縦に振る。

「俺たちが元の世界に帰るには、どうすりゃいいのかな?」

「……はい……。その……、私と一緒に、魔王を倒してもらって、私が、その、魔王を倒せるぐらいのレベルになったら、送り返すことができるようになる……かも」

「……」

 二人、黙る。


「……こんな世界にも魔王だけはおるのかの。気が進まんの」

「……また魔王かよ……。これで何人目だよ……」


 なにこの余裕。魔王よ魔王! この二人魔王が怖くないの?


「カーリン、異世界に来たらなにはともかく一番やらなければならないのは現状把握と情報収集だ。面倒だがしばらくこのレッサーパンダの言うとおりにしてみるか」

「こんなアライグマの下僕などうんんざりだがの。仕方ないの」

 だからレッサーパンダだのアライグマだの言うな――――!!


「何はともかくまず服だ。このままじゃ外も出歩けん。シルビス、服屋にあてはあるか? 俺達でも着られそうなサイズの服屋」

「……ありますけど。たぶんクマ族サイズならお二人にも合うかと」

「じゃあそこ行って服買うか」

「……そんなこと言ったって私学生だからお金ないんですけど」

「シルビス、厨房か灰捨て場でもどこでもいいから炭をひと握り持ってきてくれ」

「炭?炭って、料理に使う、木炭?」

「そうそう」

「……なんに使うの……」

「いいから持ってきてくれないと君の頭蓋骨が大変なことに」

「はっはあいいいいいっ!!」


 校舎の食堂裏、灰捨て場に行って言われた通り炭を紙袋に入れて持ってきた。


「こんなのどうすんのよ」

「こうするのさ。ギガコンプレッション!」


 オスのほうが炭の入った紙袋に魔法をかけた!

 魔法!? 魔法使えるの?! 召喚獣が?!

 いや召喚獣は魔法使うのが普通だけどさ、攻撃魔法でぎゃーとかぐわーとか叫びながら撃つもんでしょ。ちゃんと呪文唱えて魔法使うとかありえないし!!


「……マサユキ、なんじゃその魔法。初めて見るの」

「いいからいいから、ちょっと時間くれ」

 紙袋がベキバキとつぶれて青白く光り出す。

 なにこれ――――っ!! なんの魔法これ――――っ!!

 こんなの私も見たことないんだけど!!


 たっぷり半時かかって、白熱してた炭がころんと赤いかけらになった。

 あ……まだ熱いのね。っていうかこの人宙に浮かせてるよかけら。

 なにこの人魔法使いなの? 私召喚獣に魔法使い呼んじゃったの?


「さ、これ金に換えに行くぞ」

「なによそれ」

「外出できるか?」

「ダメよ。召喚獣が隷属の首輪なしで出歩いたら大騒ぎになるわ」

「しょうがないな……。それもってこい」


 学生課に行って、新しく首輪もらってきた。二本。

「二本って、二匹も同時に召喚できたの? すごいねシルビス君」

 職員さんもびっくりだよ。

「とびっきり丈夫な奴にして、絶対にちぎれないような!!」

 召喚の間に戻ると、二人が裸のままシーツにくるまって待ってた。

 二人でいろいろ相談してるみたい。

 今だ!

「隷属の首輪!!」

 びゅっと二人に首輪を投げつけると、首にからまって勝手にバックルが閉じる。

 今度こそ絶対に取れないんだから!


「……ちょっときついの」

「なんだよいきなり……」


 二人とも、勝手に首輪をはずして、サイズを緩くして付け直す。

 ……なんではずせるの? それ一度つけたら絶対はずれないはずなんだけど。

 ……力技でムリヤリ外せるなんて意味ないじゃん……。


「ホントに奴隷みたいで気が滅入るの」

「がまんがまん、さ、町行くか」


 シーツを体に巻いた二人を連れて学園を出る。

「街も学校も大きいの――!」

「学校が大きいということはかなり文明が発達していて教育が充実してるということか。たいした世界だな」

 どういう世界から来たのよこの二人……。

 とりあえず乗合馬車に乗せて、城下町へ。

 ここはシグザーラン王国。大陸西で一番の大都市よ。

 城下町にいけば、まあ何でもそろうわね。

 駅馬車の駅で降りて町に出る。確かにこんなシーツ巻いただけの召喚獣二匹連れまわすのは見た目が悪いわ……。みんなジロジロ見てるし。

「宝石店に行ってくれ」

「宝石店? 宝石店に何の用?」

「これ売ってきてくれ。ダイヤモンドの原石だ」

「えええええ――――っ!!」

 さっきオスが作ってたかけらを受け取る。

 だ、だ、ダイヤって作れるの?!


 ……売ってきた。

「いくらになった」

「……き、金貨一枚になりました」

「足りなかったみたいだな。お前もダイヤにして売ってみるか」

「すっすっすいませんすいません、やめてください!! ごめんなさい! 大金貨五十枚になりましたっ!!」

 土下座して革袋を差し出す。

 ……こ、こ、こんな大金、持ったことないから私も気が動転しちゃって、思わず卑屈になっちゃった。だって私がもらってる奨学金十年分だよっ!!

「ほう、なかなか流通も商業も発達してるな。商道徳もしっかりしてる。よくだまし取られたりごまかされたりしなかったな」

「学生保護法がありますので、学生証見せればそこはちゃんと……」

「マサユキ、いつもこんなことしとったのかの?」

 ……奥さん怖いです。


「た……たまにね?」

「ろくに金も持たせずに王国に出張とか申し訳ないと思っとったが、こうやってあぶく銭を稼いでおったのか……さぞかし派手に遊んでたのであろうのう!!」

「してない! してないって! 真面目に仕事してましたから!!」

「こんなんできるなら外貨がいくらでも稼げておったであろうが!」

「大量の供給過剰はすぐに値崩れを起こします! 市場を破壊してしまいます! 小銭を稼ぐ程度で十分なんです!」

「これが小銭か――――!」

 ホントだよ! っていうか夫婦喧嘩やめてよ!

 大金貨五十枚、金貨なら五百枚分ポンと稼げる召喚獣ってなんなんだよ!

 主人より召喚獣のほうが金持ちってありえないだろ!!


「……カーリン、異世界生活で一番最初に困るのは金だ。金がないと宿にも泊まれず服も買えずホントみじめだぞ。俺はそういう経験をいやというほどしてきたんだから、これは必要なことだと割り切ってくれ」

「しかたないのう……、わしの分も買うのだぞ」

「当然」



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