17.王宮で働こう
「シルビス・メリルパーク。王室付・遺跡探索班に任命する」
「はは――っ」
……ははーでいいの? こういう場合。
「手法は任せる。支度金として金貨百枚。月々の報酬三十枚を与える。任期は一年。毎年更新。依頼内容は内外の遺跡調査。逐次王室へ報告の事。以上」
任命書を大臣さんから直接渡され、これで私も正式な王宮スタッフの一人。
昨日と違って今日は王様は出てこなくて、昨日のお部屋であっさりなんだけどね。
身分証明のカードを渡されて、これで国内はどこでも自由に見て回れる。
「勇者……、ではないんですね?」
「勇者制度は廃止されました。対外的に、わが国は魔王探索をあきらめたと他国に思わせるための布石でございます。逆に、勇者以上の働きが期待されていると思ってください」
「わかりました」
ちょっと残念かも。でも、私が勇者って言っても誰も信用してくれないよね……。しょうがないか。
考えてみればなかなか難しい仕事よねこれ。
言われたことやってりゃいい仕事じゃなくて、王様が納得する結果を持っていかないと一年でクビになる。
前の勇者はどんな仕事してたんだろ。
「あの……前任の勇者のこれまでの活動報告とか、ありましたら見せていただきたいんですけど」
「昨日のうちにサトウさんが持っていったよ。今は天文部にいる。いっといで」
一転してくだけた感じになった大臣さんがにこりと笑って言う。
みんな旦那さんの話になると急に友達の話みたいになっちゃうのよね。
ホント人たらしが上手い人って感じ。才能だよね。
「ほう……これがカードかの」
「奥さんの分もありますよ。こちらが旦那さんの分。もっていってあげましょう」
「そうじゃの」
そのまま、てくてくと天文部に行く。
「おはようございますー」
全員ぐったりしてる……。でも目だけランランしてて怖いんですけど。
「ほれ朝飯じゃ。みんなで食うとよいの」
奥さんそれお弁当だったんだ。なに持ってるのかと思ったら。
朝早くから市場に行って買ってきたんだって。
宿屋住まいで自分では作れないのが不満そう。
サンドイッチがいっぱい。山ほどあるね。
でもみんなすごい勢いでガツガツ食ってるから、そろそろ起こさないと旦那さんの分がなくなるな。
「だんなさん。だんなさんっ!」
ソファーで寝ている旦那さんをゆさゆさ。
「んっ……あ、おはようシルビス」
「朝ごはんです。早く食べないと無くなりますよ」
「ああ。あ、ありがとカーリン」
「これなんですか?」
床の上に置いてある紙をぺたぺた貼りつけられたでっかいボール。
「天球儀」
「そう! 天球儀です!」
「革命的な天球儀ですよ!」
「これで天球儀に関してはわが国は世界最高峰で間違いなしです!!」
スタッフが大興奮してたのはこれのせいか……。
「星座が書いてあるやつだったら見たことあるけど……」
「あんなものこれに比べればただのお土産品です。いやあ勉強になりました。まったくサトウさんの見識はとんでもないですな!」
「もっとまともなやつに作り直さなきゃなんないが、それでも原型としてはこれで十分だ」
私には落書きだらけの汚いボールにしか見えないんだけどね……。
その直径が私の背ぐらいのボールを、てっぺんにロープを付けて天井から吊り下げる。
「俺たちがいる国はここ。そしてこの国の上空を横切った低軌道衛星の軌跡をこうすでに描いてあるわけだが……」
天球儀に私たちの国の地図が横一列に張り付けてある。何枚も。
それを何本も斜めの線が横切っている。
「なんで私たちの国がこんなにいっぱい並んでるの?」
「地球がぐるぐる回ってるから、時間で位置が違うんだ」
うーんだんだんわかんなくなってきた。
「これにまず赤い糸をピン止めして……」
天球儀に旦那さんが大きく糸をぐるぐるとすこしずつずらしながら巻き付けていく。
「これで、最初に戻る」
糸が繋がった。うんうんうんとスタッフが頷く。
「次にこの白い糸を……」
同じようにぐるぐるぐる。
「これで最初に糸をスタートした場所に戻る。次にこの黒い糸を……」
これもぐるぐるぐる……。
「巻くと、ここに戻る。今までの観測例の通過軌道と全て重なるわけだな」
もうダメ。この時点でなに言ってるか全然わからない。
「つまり、今まで十二個あると思われてた衛星は、実は三個しかないんだ」
「そうです! その通り!」
「それなら観測結果とバッチリ合うんです!」
「よくそこに気が付かれました! 私どもも驚きです!!」
「ちょっと何言ってるのかわかんない」
「ちょっと何言っとるのかわからんのう」
……私たちの反応が薄いのでスタッフがガックリ。
旦那さんはこんなことはいつもの事って感じで三本の糸でグルグル巻きにされたボールをくるんと回して笑う。
「とにかくこれは重要な事実なんだ。天文部のみんなは二班にわかれて、一班はこの天球儀を完成させること。もう一班は衛星の軌道を観測して本当にこの通りに通過するかを実証すること。明け方、夕方とかのほうが観測しやすいはずだから。通過する時間と場所はこれで予測できると思うので、見える角度、方位、方向、高度とかで計算するのは君らもやってた通りでいいから、あとは頼む」
「お任せください!!」
「あと、少しは寝ろ」
「寝てられませんよ!!」
「……夜まで時間があるだろう……」
そう言って、三人で天文部を出てきた。
「マサユキ、あれ要するになんだったんじゃ」
「魔王の正体かな」
「あれでわかるのっ旦那さん!」
「ああ、魔王はこの地球をグルグル回ってる人工衛星」
「人工衛星ってなんじゃ」
「つまり月みたいに地球の周りをまわってる古代兵器」
「古代兵器は空を飛んでおるのかの!」
「そういうこと」
……びっくりだよ。
「でもそんなのどうやって倒すの……?」
「地上からコントロールしてるなにかがあるはず。それを探す」
「どうやって?」
「それは天文部がやる。俺たちはちょっと遺跡の再調査だな」
「マサユキはあんまり寝ておらんのではないかのう?」
「いや、だいたいはあいつらにやらせて俺はずっと寝てたから。さあ今日から活動」
「あ……そうだ。これ持っててください。王宮からもらったカードです」
二人、金色のカードもらって眺める。
「へー……こんなんでねえ」
「給料はいくらだったのじゃ?」
「え、月々金貨三十枚」
「三人でかっ!」
「あっ!」
そうか! 私召喚主だから、お二人の分は私が面倒見るんだった!
「……一人金貨十枚かよ……」
「なんという安月給じゃ……」
「王様しっかりしてたのな……」
あわあわあわあわ……。
「……たまにはギルドの仕事もするか」
「そうしましょうか……」
「そうじゃのう……」
私たち今お金持ちだったからいいようなものの、普通だったら暮らしていけないよ。はやく実績上げて給料あげてもらえるようにならないとね。
で、さっそく二人に私の借家に来てもらった。
おおーって感じでびっくりしてるね。
一階がお二人が入る部屋。台所、お風呂、その他。
二階が私の部屋。
家具とか一応最小限あるけど、生活雑貨はなんにもなし……。
「わしら、この部屋好きに使ってよいのかのう!」
奥さんは目キラキラさせて大喜び。
「あの……長居させるつもりはないんですけど、一応と思いまして。三人で住める大きさの家にしました」
「十分じゃ。好きにいろいろ買いそろえて、運び込ませてもよいのかのう」
「お好きにして下さい」
「そうするわ! 今日は一日中買い物じゃの!!」
「……まあこっちの金持っててもしかたないしな。こっちにいる間に全部使い切るつもりでいいだろ。俺の分も渡しとくよ……」
旦那さんが頭痛みたいに頭かかえて、お金の入った革袋を奥さんに渡す。
「で、今日はなにするのじゃ」
「ん、まず攻撃された場所の調査」
「それで、なにがわかるんですか?」
「何の兵器が使われたのかが見たい」
「兵器って……どんなのでしょう?」
「これ、かつての勇者の調査報告」
とすん。旦那さんが閉じられたファイルをカバンから出してテーブルに置く。
……意外と薄い。
どんな調査してたのよ……勇者っていうぐらいだからみんな脳筋だったのね……。
「この国から一番近いのは南タリアルとの国境。タリアルが200年前ここスグザーランに攻め込もうとしたときに魔王の攻撃があって軍隊が壊滅した……ここだな」
へたくそなスケッチが挟んである。
土が大きくえぐれてるね……。
「国境を越えて隣国に侵入して調査する。まあスパイ活動になるな」
「……わしは今日買い物したいの……」
「わかったわかった。俺とシルビスでやるよ。それでいいだろ?」
「任すのじゃ! こっちはわしに任せるのじゃ!」
「はいはい」
もう召喚獣じゃないし、カードがあれば身分証明になるから奥さんもおおっぴらに出歩いてお買いものし放題なんだよね。
旦那さんがこそっと私に耳打ちする。
「(女はどうしてこう買い物が好きなんだろう……)」(小声)
「(私も女ですが……)」(小声)
「(そうだった……)」
二階のベランダから、旦那さんとフライトするよ。
すっかり慣れたね。
半日飛び続けて、目的地に到着。
他国の国境越えてだけど、一応三国とも友好国だし、魔王のせいで戦争なんてするわけないしでこの程度でなんのトラブルも無いよ。
国境って言っても、街道の途中で二国合同の関所があるだけ。
別に柵で分断されてるとかも無いんだよね。
私たちは空飛んでいくわけだし、関係ないかな。
上空から見て、荒れ地に物凄い大きさで地面がへこんでる。丸い形にえぐれてるっていうか。その中央に旦那さんと着地する。
「クレーターだな……。思ってたのとだいぶ違う」
「隕石が落ちた跡みたいですね」
「隕石わかるんだ。隕石ってどういうものか知ってる?」
「星の欠片です。火を噴きながら空から降ってきて、どーんって爆発するの。たまに中央に隕石が見つかったりします。数百年に一度あるかないかぐらい滅多にないんですけど」
「なるほど、そこは俺のいた世界と同じだね」
旦那さん、歩き回って調べてる。
「なるほど……核兵器じゃないと。レーザー兵器とかとも違うな。ほんとまるっきり隕石……」
「かくへいき?」
「俺が元いた世界で一番強力な爆弾さ。普通は上空で爆発させて一面を焼け野原にするという使い方をする。千年も動き続ける機械を作れる文明だから、俺が元居た世界よりずーっと高い技術を持っているとは思っていたが、核兵器より強力な奴となると俺でもわからん……。何を使ったらこうなるんだろうな」
「旦那さんでもわかんないんじゃ、私じゃお手上げです」
「気化燃料爆弾でもなし、地下核爆発でもなし。衛星は三個しかなかったから、反射衛星砲でも無し、波動砲……? なわけないしな。デススターだったら星ごと無くなるし、うーん……」
旦那さんちょっとなに言ってんだかまったくわかりません。
「ファンタジー脳に理系脳に、SF脳まで動員しなきゃならんとは……。手ごわいなこの世界」
「なに言ってんのかわかんない」
「わかんないことは女神様に聞いてみよう!」
それこそわけわかんないんだけど。
左手を耳に当ててなんかぶつぶつ喋ってる……。
「……重力兵器? そんなん俺のいた世界でも無いわ。仮想的に隕石を? そんなんできんの? え? 重力波? そんなんまだ実在するかどうかも証明されてないんですけど? え、あるの? そんなもんエネルギー源どうすんの? 反物質? 対消滅エネルギー使うの? なんでそんな技術あんの? え? この星もうエネルギー無いの? それだと石油も石炭もウランも全部掘りつくしちゃったってこと? ええ――!?」
……旦那さん、頭がどうかしちゃったのかも……。
「……いろいろ衝撃的な事実がわかりました。帰りましょう」
「……どうしてそんなにガックリしてるんですか?」
「あの、この世界はね、前に滅んだ人類と魔族のバカどもが資源を掘りつくしちゃってね、これ以上発達する見込みが全くないの。これから何千年も、ずーっと今のままの技術で君たち獣族たちが亡ぶまで、なにも変化がない世界なの。蒸気機関も、内燃機関も、電気も、鉄道も、自動車も、飛行機も、ロケットも、原子力も、発明されることは決してないの。俺の出番は、もう無いの……」
「……それって大変なことなんですか?」
「……いや」
「……」
「……そんなことないな。うん、それでもいいかもな。うん」
「私は、今の世界が不幸だなんて思わないし、これ以上の発展とか、これ以上の幸せとか、別に望みませんが」
「……そうだね。それがいいね。考えてみれば俺の世界でも、石炭や石油を見つけるまで、ローマ帝国時代と技術レベルは大して変わらない生活を、2000年もずーっとしてたからね……」
旦那さんの言うことは、難しすぎて私にはわからない。
でも、今の世界がずーっとこのままだって、それって、別に悪いことじゃないと思う。
「私たちには魔法があります。きっと、それで素敵な未来になると」
「そうか。そうだったな。それでいいか……。うん」
旦那さんは、土の凹みをぐるっと見回して、頷く。
「こんな兵器、無くて上等だよ。さ、帰ろう……」
帰ったらすごいことになってた。
台所用品がずらりと並んで、最新のファイアボール式コンロと石焼窯があって。
ふかふかのじゅうたんが敷かれて、大きなテーブルとイスが置かれて、ソファーもあって、お風呂にシャンプーや石鹸が完備してて、旦那さんの部屋にはクローゼットとでっかいベッドとふかふかの羽根布団。きらきらのガラス製ランプが各部屋に置かれてて、私の部屋にも私サイズのふかふかベッドと布団があって、ライティングデスクと書棚と明るいランプが置いてあって。
「……カーリン」
「……なにかの?」
「やりすぎ」
「いいんじゃ。わしらがいなくなった後もシルビスが使うのじゃ。なるべくいいもの揃えてやるのが親心というやつじゃ」
「いつから俺たちがシルビスの親になったの?」
「二週間前からじゃ」
「マジレスはいいですから」
あははははは!
さすがは魔王様! お金の使いっぷりがハンパないね!!
なんか涙でてきちゃう!




