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16.国王に会ってみよう


 卒業式の翌日、王宮に呼び出された。

 首席卒業生の義務みたいなもの。

 これから私は王宮仕えとなる。

 今回はちょっと妙……。私の召喚獣も一緒に来いってさ。


 卒業はしたんだけど、適当な服が無いんで……私は制服。

 と、思ったら、奥さんが私にって、かっこいい貴族っぽい服を作ってくれた。

 卒業祝いだって。

 あの再試合から、卒業式までの間のヒマな三日間で、ずーっとこれ作ってたんだって。ちっちゃいから、すぐできたって。自分の子供とサイズおんなじぐらいだってさ。

 黒ずくめで、異国風。旦那さんと奥さんの間に入るとぴったりって感じ。

 涙が出るほどうれしかった。何度も何度もお礼を言った。

 そんな服に腕を通して、王宮へ。

 メイドさんが案内してくれて、すぐに会議室みたいなところに通された。


 王宮ってすごいなあ……。質素で贅沢な飾りなんてないけど、とにかく広い。

 立って待ってると、すたすたと快活に王様が入ってきた。

 広い部屋に、私たちと王様と、大臣さんの五人だけ。


「楽にせよ」

 王様、雑種の白犬さん。

 貴族とか王族って純血種と思うでしょ? 違うのよね――。

 ほら政略結婚とかで他家から妻を迎えるからどうしても雑種になるの。

 雑種って言ってもとびっきりだけどね。


「シルビス君、座りたまえ。そちらのサトウ夫妻も」

「はいっ」

 びっくり……。ちゃんと調べてあるのね。


 言われた通りに末席の椅子に座る。

「卒業おめでとう。大変優秀な人材を迎えられて余としても嬉しく思う。また、形では召喚獣とは言えシルビス君に力を貸してくれているサトウ夫妻にもお礼を申し上げたい。これまでの尽力、国王として感謝する」

「みっ……みっみに余る光栄でございます!」

 な……っなんてこと!

 全部ばれてる!!

 旦那さんと奥さん、にこりと笑ってお辞儀をする。

 ほんっと動じないなあこの二人……。


「今回、サトウ夫妻にも来ていただいたのは訳がある。お二人は古代種とか」


「先ほどよりの身に余るご評価の数々、光栄でございます国王陛下。私たち夫婦はシルビス様により異世界より召喚された異界の者。こちらの事情にはとんと通じておりませぬ。こちらで古代種と呼ばれるものが何者かは承知してはおりませぬが……。確かに私は人間、そして妻は魔族にございます」


 旦那さん……王様相手に堂々と……いったい何者なの……?

 あ、魔王補佐でしたっけか……。

 こういうの、慣れてるんだろうな。いまさらだけど。


「ふむ……。人間と魔族の異種族婚か……そちらの世界では人間と魔族は共存しておると言うことか」

「御意にございます」

「こちらの世界では千年の昔、人間と魔族が戦争をして共に滅びた。愚かなことだと余は思う。我ら獣族が代って世を統べることになったのは、歴史の悪戯にすぎぬのであろうな。お二人はこの世界では異邦人。客人として歓迎をさせていただきたい。お二人、それにシルビス君の身分は王宮にて保証、保護を行う。以後召喚獣としての捕らわれに及ばず、余より市民権を与え、市民と同等扱いとさせていただこう。よろしいか?」

「光栄でございます。ただ、私たちはシルビス様にお仕えする身でありますので何分、御配慮の事、お願い申し上げます」

「心得た。では隷属の首輪をはずしていただこう。お二人にもシルビス君にも、もう必要ないであろう」

 なんかそういう役目らしい人が部屋に入ってきて、二人の隷属の首輪に触れ、これを取り外して一礼し、出ていった。


 ……やりとりが凄すぎてついていけない……。


「これより話すことは国事の秘密。他言無用に願う。では大臣、頼む」

 

「はい」

 そうして、メガネザルの大臣さんが語り出す。


「この世界、千年前に人類と魔族が大規模な戦争を行い、双方絶滅をいたしました。大量の破壊兵器、多くの命を奪う殺戮兵器を駆使した大戦争であったことは間違いありません。どのような技術が使われたのか、どのような兵器が使われたのか、全く記録に無いほど、破壊しつくされたのです。それらの兵器の残骸、遺跡は、今も世界のあちこちに残っております。ただ、その中の兵器には、現在も稼働を続け、戦略的に動いている物があると考えられるのです。私たちは、それを『魔王』と呼んでいます。今も我々の伝説に残る魔王。それは放置しておけぬ古代兵器の生き残りなのです」

 

 ……知らなかった……。

 魔王ってそれはなにか、とてつもなく怖いもの、古代で人類と魔物を滅ぼした、なにか恐ろしく強大な力の持ち主で、悪魔みたいな魔物だと思っていたから……。


「この『魔王』は、各国で軍事的な動き、兵力の集中があると、それを感知し攻撃を行ってくるのです。かつて我ら獣族の国同士で戦争が起ころうとしたとき、この魔王が突然攻撃をしてきて、軍隊が壊滅した例がございます。ご承知の通り今、我々の大陸は三つの国に分かれており、私たちのシグザーラン国、南のタリアル国、東のエルミール国となっていますが、この三国ではいずれも軍は自治のための最小限の規模しか持たず、過去千年、戦争が行われたことがございません」


「……なるほど」

 旦那さんが頷く。

「その『魔王』が、第三の抑止力となってこの世界は平和が保たれているということですな?」

「そうだ」

 王様が応じる。

「一見、いい世界のようには見えます。平和が保たれているなら文句はない。そういう国民も多いでしょう。ただ、これは過去の遺物によって押し付けられた仮初(かりそめ)の平和。野心持つ者には魔王が邪魔、あるいは魔王の力を手に入れたい、そう考えるものも出るでしょうな」

「その通りだ。さすがは古代種……。その見識恐れ入る」

「陛下の望みは?」


 王様が座を改めて言う。

「極秘裏に魔王の破壊、もしくは無効化だ」

「陛下には野心はないと」

「余はこの世界を気に入っておる。このまま平和が続けば良いと心から願っておる。だが他国にはそう考えぬものもいる。恥ずかしながら各国で互いに、魔王の調査を行っており、どこが最初にそれを入手するかで冷戦になっておるのだ。わが国もそれに歩みをそろえぬわけにはいかぬ。わが国で剣、魔法を奨励し、これを育成しているのもそのためだ。魔王を中心に三すくみになっているのが現状だ」

「どの国が先に魔王を手に入れても、間違いなく戦争になると」

「その通り」

「陛下は極秘裏にこれを葬り、魔王の抑止力による平和を維持しつつ、これをどの国にも入手される可能性を排除し、世界が戦争になるのを止めたいと」

「……ちょっと、欲張りかな?」


 王様が急にくだけて、苦笑いする。

 旦那さん、はっはっはと、気楽に笑う。


「陛下が欲張りなれば、魔王を手に入れてこいと命ずるでしょう」

「余はそんなもの、欲しいとも思わぬ。逆に世界を乱す、文字通り魔王であろう。一言、魔王を討伐したと言ってくれれば、余は他には何も望まぬ」

「そして、それは決して他国にも、国民にも、知られてはならぬ。魔王を討伐した勇者には、なんの名誉も無く、名も残らず、どのような褒賞も無いと」

「残念ながら」

「異邦人たる私にふさわしい仕事でしょう」

「やってくれるか」

「シルビス様がお命じになるのなら」

「そうだったな。シルビス君、どうか」


 うわあ――――――――。

 ちょっとまって――――!!

 うーんうーんうーん……。

 でも王様の頼みだしね……。

 なにより旦那さんがこの仕事、やりたいんだよね。

 だったら、考えてもしょうがないか。


「……やります」


 乗りかかった船ってやつ?

「よかった……。二人を頼むよ。シルビス君」

「はいっ」

 もうやるしかなくなっちゃったよ……。


「このことに関して内外からの妨害は?」

「無いとは言えぬ。そのようなもの手に入るなら手に入れたほうがいいと軍部なら誰でも考える。わが国においてさえそうなのだ。だからこそ、この5人の他には内密にしたい」

「陛下はこのような探索チーム、いかほど?」

「過去三チーム。魔王の探索はどこの国もおおっぴらにやっておる。魔王を倒す勇者、または遺跡調査としての名分で。余も学園の優秀な卒業生を勇者に任命して探索させてはみた。成果は……まあ国内に関してはゼロだな。どの勇者もあまりにもつかみどころがなく数年で探索を断念し、勇者の名を返上しておる。現在では我が国の領土内にはそれらしきものはないと今は考えられておる」

「過去、魔王からはどのような攻撃がありました?」

「わからぬ……。天からのいかづちとしか……」

「軍事行動をいきなり狙ってくるのですね?」

「そうだ」

「各国は軍を最小限に、あるいは極めて薄く配備するにとどまると」

「その通り」

「天空にある神の目のごとし」

「まさしく魔王だ」

「ふむ……」

 旦那さんが考え込む。


「過去、魔王に攻撃された場所を拝見したい。この国にもありますか?」

「我が国は他国を侵略すべく軍を集結させたことは無い。他国になるな」

「資料をそろえていただきましょう」

「了解した。ほかには」

「この国に天文観測の専門家は?」

「いるが……?」

「低高度で衛星軌道を回っていると思われる天体観測例があれば」

「なぜそれを!!」

「陛下は、薄々気が付いていらっしゃると?」

「……一笑に付すような事例とは思えぬのでな」

「軌道を把握している?」

「十二個ある。天文部と話をさせよう」

「お願いします」


 ……もう私には話がちんぷんかんぷんだよ。


「……サトウ殿には驚かされるばかりだ。古代種の見識、凄まじい……。シルビス君、良いお方を召喚してくださった。国王として感謝に堪えぬ」

「いっいえ! 私も、その……いつも頼ってばっかりで」

「陛下」

「何か?」

「なぜそのように私を信用なさいます」


 はっはっはっは!と王様が笑う。


「サトウ夫妻は、人間と魔族の夫婦だ。仲睦まじいと聞いておる。そのような者なら、かつての人間と魔族の戦争、われら獣族の冷戦、いかにくだらないものかご理解あろう。余の本心、通じるお方とお見受けする」

 旦那さん、立ち上がって、すたすたと王様に歩み寄り、手を差し出す。

 王様、ちょっと行儀悪いけど椅子の上に立ち上がって、握手する。


 すごいなあ旦那さん……。

 奥さんのドヤ顔もすごいけどさ……。




 その後、みんなで王宮の天文部に行った。

 旦那さんは若い研究員の人となんか難しい話してる。

 大きな紙にマス目を描いて、波みたいな曲線をうねうねと何本も。

 観測データーを束で持ってきた研究員の人も驚いてる。

 いろんな人が集まってきてああでもないこうでもないって……。

 旦那さん、厨房からメロン一玉持ってきてもらって、その表面にぐるぐる線を書き込んで説明してる。

 ああ……メロンもったいない……。

「退屈じゃの。わしらにはわからん話だし、先に帰らせてもらうかの」

 奥さんがそう言って、私たちは解散することにした。

 旦那さんはこれから徹夜で天文部の人となにか作るんだってさ。

 大仕事になりそう。


 私も学生寮から引っ越さないといけないんだよね。

 どこか借家を探さなくっちゃ。


 奥さんと別れてから、不動産屋さんで贅沢してその日のうちに一軒家を借りた。

 うん、一応三人で暮らせるぐらいのレンガ造りで丈夫そうなおうち。

 ひと月金貨八枚。今の私ならこれぐらいは出せるよ。

 引っ越しはすぐ終わった。

 荷物もカバン二つぐらいしかないしね。

 あんまり考えないで決めちゃった。

 不都合があったら、また引っ越せばいいしね。


 初めての私のお城。

 その晩は、寝袋にくるまって床に寝る。

 とうとう学校も卒業かあ……。

 もう今日から私も社会人。がんばって働かなきゃ。


 ……そういえば、私の仕事ってなんになるの?

 お給料とか、どうなんの?

 お城で雇ってくれるんだよね?

 あれ?

 あ、

 なんの説明も、なんの言い付けもされてないや。

 明日ちゃんとお城でお話ししなきゃいけないね。

 なにやってんだ私……。


 しっぱい、しっぱい……。



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