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15.一人で闘ってみよう


 さあっ、金貨百枚の召喚士の杖持って、制服の私が二人の前に出るよ。

 いつでもどうぞ!


 ドラゴンの前に雁首そろえて四人。見回すと、猫のシスタークリスは約束通り客席ですな。

「それでは、召喚科代表、シルビスチーム対、剣術科、槍術科、魔法科、召喚科合同チームの試合を行います!」

 メリアン先生が宣言すると、うぉおおおおおおお――――――――!!

 それぞれの科のクラスメートたちが大盛り上がり。

 でも、この対決に疑問を持つ人はいないの?

 この圧倒的な戦力差、なんとも思わないのかしらね。


「始め!」

「プロテク……」魔法使いが防御魔法。

「ダイラー! ファイ……」シルラース君がドラゴンに攻撃命令。

「「ぶっ殺――――っ」」前衛が私にアタック。

 しようとする前に!


 ドンガラガッシャーン!!!

 いきなり私のスクエアライトニングが四人に直撃!!

 ドンガラガッシャーン!!

 もう一発!

 ドンガラガッシャ――ン!!

 さらにもう一発!

 ドンガラガッシャーン!!

 四人全員ぶっ倒れる。

 ドンガラガッシャーン!!

 本気で殺すつもりでもう一発!


 試合前に防御魔法かけてたでしょ。

 そんなの何発か当てればぶっ壊れるよ。

 旦那さんが言ってた。攻撃魔法は無詠唱でやれって。

 詠唱魔法なんて実戦では役に立たないって。

 一生懸命練習したよ。無詠唱も、連発も。

 最大魔法をいきなり放てと、相手が倒れるまで止めるなって。


 ざわざわざわ……。

 会場、静まり返る。

 口にファイアボール作ってたドラゴン。私にファイアボールを撃ち込んでくる!

 一瞬で魔法防御(マジックガード)を展開する私。

 私の前でファイアボールが爆散! 悲鳴が上がる会場。

 二発目のファイアボールを膨らませるドラゴン。

 ぶわっ……。

 ドラゴンの周りに魔法陣を展開させる。

召喚解除(ディスペルコーリング)

 ひゅんっ。

 魔法陣が消える。

 ……やっぱりか。思った通りだ。

 なにも起こらない。

 二発目のファイアボールが爆散! それぐらいで私の防御を破れると思わないで!

 

「ぐっ……ぐぐ……」

 さすが優等生、いい防御魔法もってるじゃない。

 たれ耳犬がぷすぷす煙吹きながら一番最初に身を起こす。

「シルラース君、見てなさい」

 ぶわっ。

 私とドラゴンの双方に魔法陣が展開される。

「ま……魔法陣!! 自力で!」

 シルラース君驚愕。会場もびっくりだよね。

「ドラゴン召喚!!」

 杖を真上に上げて詠唱する!


 シルラース君のドラゴンが光に包まれ、消えた!

 そして、私の背後で光が巻き上がり、シルラース君のドラゴンが召喚される!


 ぎゅわあ――――!!

 私の後ろでドラゴンが咆哮!

「隷属の首輪!」

 素早くベルトを投げつけてドラゴンの首に巻きつける!


「なっなんで!!」

「ドラゴンの召喚だったら、私もできるんだ」

「そんな! ありえない! ありえない!!」


「ストップ! スト――プ!!」

 メリアン先生が両手を振って上がってくる。校長先生も。


「ど……どういうことかね。これは!」

 係員がぞろぞろと闘技場に上がってきて、みんなに回復をかける。

 シルラース君以外メンバー全員、復活(リザレクション)中……。

 あの程度で死ぬなんてだらしない……。

 教員も全員観戦させてって言っておいたので、復活魔法できる人は確保済み。

 だから遠慮なく攻撃できた。


 よろよろとシルラース君もこっちにくる。

「召喚されている召喚獣は、他の人が召喚することはできない。隷属の首輪もかけられない。ご承知ですよね」

「ええ、そんなの絶対に無理ですわ」

 召喚科の先生、メリアン先生が頷く。

「このドラゴンは、召喚獣ではないんです。シルラース君が付けた隷属の首輪も本物じゃありません」

「えええええ――――!!」

 先生、校長先生も驚愕。


「このドラゴンはシルラース君か、あるいはシルラース君の家で飼っている飼いドラゴンに過ぎません。召喚されたものではないんです。私が今召喚してみせ、隷属の首輪をかけたのがなによりの証拠です」

「ウソだ!!」

 シルラース絶叫。

「そ……そのドラゴンは僕のだ! 僕のドラゴンだ! 返せ! 返してくれ!」

「召喚した召喚獣は私の物です。これがあなたの物だとしたら、それはあなたの家で飼っていたドラゴンということになりますが認めるんですか!」

「認めない! だ……ダイラー! こいつにファイアボールを!」

 きゅわああああ――――!

 ドラゴンの口の前にファイアボール膨張!

「やめ……やめろ――――!!」

 闘技場の上の教員の皆様がパニック状態。


「隷属の首輪、この者に戒めを!」

 私がドラゴンの首にかけた隷属の首輪が急激に締まってドラゴンの火球が消滅……。

 どすーん……。

 ドラゴンのダイラー君、ばったり気絶しちゃったね。


 全部私の命令通り。

「ほらね。これがシルラース君の召喚獣だったら、なんで私の隷属の首輪が効くんです?」

「……確かに……」


 校長先生、メリアン先生愕然……。

「ウソだったのかよ……」

 復活させてもらったクマが後ろで起き上がって、事の様子を見てた。

 ゴリラと魔法使いはまだ意識不明かな。


「あなたのドラゴンは約束通り消させてもらいます」

 私の後ろにいるドラゴンに魔法陣を展開。

消召喚(センド)」 

 光に包まれてシルラース君のドラゴンが消える。

 ころんっ。隷属の首輪が残って転がり落ちる。

 どこだか知らないけどこの地上のどこかに送っちゃったよ。


「さあ、ドラゴンを召喚しなさい。シルラース君」

「で……できない」

「できるでしょ? できたからドラゴン持ちで首席なんでしょ?」

「できないよ! 魔法陣描いて、召喚石置いて! それぐらい君だって知ってるだろ!」

「できますよ? 私が今やったじゃないですか?」

「あれは僕のドラゴンを盗っただけだ! 人の召喚獣を盗るなんて! 召喚士の風上にも置けない卑怯な行為だ! どんな暗黒魔法だ!」

「じゃあ、私が自分のドラゴンを召喚すれば文句ありませんね?」

「できるものならやってみろ!」

「全員闘技場から降りてください」


 ざわざわざわざわ……。客席のざわめきが止まらない。

 先生も、闘技場から降りていく。

 合同パーティーは……担架だね。


 きゅうう――――んっ。

 私の周りに今までで最大の魔法陣が展開する。

 初めて見る光の魔法陣に客席からどよめきが起きる。

 私は奥さんから借りた龍笛を取り出して、口にくわえる。

 ぴぃいいいいいい――――っ。

 一息吹いてから……。

「ドラゴン召喚!!」


 光に包まれて私の前に、巨大ドラゴンが召喚!

 ぶぅわさああああ――――!!

 物凄い爆風と共に闘技場を覆うように羽を開いて、

 きゅわああああ――――――――!!

 シルラース君のドラゴンの倍はある巨体のドラミちゃんが咆哮!!


 奥さんのペット、漆黒のブラックドラゴンのドラミちゃん。

 奥さんが子供の時、卵から抱いて育てたドラミちゃん。

 それを呼ぶ奥さんの龍笛は、ドラミちゃんの歯が抜け変わったときに作ったドラゴンの牙でできてる。

 召喚したい獣の体の一部があれば、それを触媒に異世界からだろうと普通に個体を指定して召喚できちゃうんだよ。

 知らなかったでしょ! 私も最近できるようになったんだけどさ!


「……この凄い『なんか見たことあるぞコレ』な感じはなんなんだろな」

「あはははは! 初めてマサユキと会った頃を思い出すの!」

 ……お二人さん、前の世界でなにやらかしたの……?


 会場大混乱。

 悲鳴が上がって逃げ出す客多数。

 ドラミちゃん、羽を丸めて身を小さくしておとなしくなる。

 奥さんが近づくと、顔をもたげて床に伏せる。

 それを可愛げに撫でる奥さん……。

 いい子ねドラミちゃん。

 ……私は呼び出しただけで、使役してるのは奥さんなんだけどね。


 私はすたすたと歩み寄って、闘技場の段上から、担架に寝ている合同メンバーたちに声をかける。

「私のドラゴンと闘ってもらうことになりますけど、まだやりますか?」


 ぶんぶんぶんっ。

 全員首を横に振る。

「校長先生」

 さっきから驚いてばかりの校長先生。

「これで文句ないですね」

 うんうんうんうん。

 首を縦に振る校長先生。


 完勝! 完全勝利!!

 やったね! いろいろズルはしたかもしれないけど、それ以上のズルを相手がしてたし問題ないよね。

 私一人で勝てました!





「卒業生首席、シルビス・メリルパーク」

「はい」


 卒業式。とうとう私が首席卒業!

 学科1位、レベル80、ギルドランクA、科別トーナメント優勝、他科優勝者を全員単独で打ち破り、在学中にドラゴンの召喚に成功。召喚科からの首席ってのもぜんぶ初!

 もう文句なしのぶっちぎりの偉業だよ。今後百年は破られそうもない大記録。

 自分でもちょっと出来すぎじゃないかって思うぐらい。

 全部、全部サトウさん夫婦のおかげだけど……。

 でも、私だってこの卒業間際の十日間は、普通だったら死ぬかもしれないような目に何度もあって成長した。

 少しぐらい、誇らしくしたっていいと思う。


 旦那さんと奥さん、まるで自分の子供が卒業するみたいに嬉しそう。

 壇上に上がって、校長先生から、盾をもらう。

 校長先生、こんどはご機嫌ですね。

「今後の活躍を、期待するよ」

 ちっちゃい私のために、身をかがめて握手してくれる。

 全校生徒の拍手。歓声。

 私が、あの調子に乗ってた優勝者たちを叩きのめした。

 小さいレッサー種の私が。

 全校生徒があの試合を見てた。

 よかったー……。



 シルラース君の事、不問にした。

 今更なにか騒ぎ立てるにはもう卒業式が近すぎたのと、学校側としての体面が悪すぎた。

 あの一件、あの時闘技場に上がってたごく少数の人間の間だけでしかなにがあったかほとんどわかってなかったし、先生たちもあえて触れようとはしなかった。

 ただ、今後私になにかチョッカイ出したら、たちまちこの不祥事が全部明らかになることだけはシルラース君にも、他の合同メンバーたちにも嫌というほど理解できただろう。

 今は私にも、メリアン先生と、校長先生という味方がいる。

 そしてたぶん、あの試合を見ていた国王陛下も。

 シルラース君のドラゴンについては、消したまま。今どこにいるのかなんて私にもわからない。

 シルラース君の家、ジャービス家って言うんだけど、ジャービス家の方も何も言ってこなかった。言えるわけ無いよね。言ったら『それうちのドラゴンです』って言うのと同じだもんね。

 取り戻したかったら、ホントに召喚すればいい。できるんでしょ? シルラース君。

 あっはっは!


 ドラミちゃんには帰ってもらった。

 あれはただのデモンストレーションだもん。こっちで闘わせるとか、したくないし。奥さんは、残念そうだったけど。

 ……暴れたかったのかしら。


 最終回じゃないよ。まだ、魔王を倒すっていう、大仕事が残ってるんだから。



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