表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/20

14.再試合でもしてみよう


「遅かったな。シルビス君。話がある」

「休日でしたので……なにか御用でしょうか」

「今朝、この者たちと決闘したそうだね?」

 そう言ってオランウータンの校長が不機嫌に。


「してません。クマさんとゴリラさんに一方的に『俺たちと勝負しろ』って言われたので逃げました」

「ふむ……そうなのかね?」

 校長がクマとゴリラに聞く。

「いや! 決闘した! お前ちゃんと受けたじゃないか!」

 クマとゴリラがわめく。

「そちらから正式に決闘を申し込み私がそれを受けた上で立ち合い、剣術科と槍術科のトーナメント優勝者が召喚科の生徒と二対一で決闘した上でレッサー種の召喚士に二人まとめて杖で殴られて気絶したので校長先生に訴えたということでいいんですね? 大勢の生徒たちが見ていた中で、クマゴロー君も立ち会ってた上で、それでいいんですね?」

「ぐっ」


 やっと恥ずかしいってことに気が付いたのかしらね。


「……で、この二人はいったい何を訴えているのです?」

「要するに決闘のやり直しを……」

 メリアン先生困惑……。

 なにそれ……。あれほど有利な条件で完膚なきまでに叩かれてまだなにか不満があるわけ?

「……学内で教員の立ち合いも無しに一方的に強要した決闘なら申し込んだほうが停学ものの不祥事なんだが……それでいいのかね? 二人とも」

「ううっ……」

 校長先生の一言にクマとゴリラが黙る。


「この件は二人の方に非があります。私の方からも謝りますので不問にしてはいただけませんか……」

 猫ちゃん賢い。いや、ズルいだけか……。無かったことにしようとしてさ。

「シルヴァー君、アトス君、もうやめよう。これ以上は恥の上塗りになる」

 優等生のシルラース君のほうがまだまともだね。


「シルビス君、学生証を見せてもらえるかな」

 校長先生が手を出す。

 手渡して驚かれる……。


「レベル80……、冒険者ランクもAとは……」

「……学園創設以来の大記録ですね」

 メリアン先生もびっくり。いやそれ以上に合同メンバーも驚愕する。


「座学の試験もいつも学年1~2位だったし、トーナメントの優勝者でもありますし、非公式ではありますが魔法も召喚獣も使わずに剣術科、槍術科の首席を一人で撃退。これで文句なく首席卒業で決まりですね!」

 メリアン先生が喜ぶ。

 喜んでくれる人がいるって嬉しい。

 だって他の人は全員、戸惑っているもの。

 シルラース君、口あんぐり。舌が出てるよ。


「みっみっ……認めない!!」

 ゴリラ激高。

「だいたいコイツ、トーナメントで闘ってもいないじゃないか!!」


「決勝戦は、シルラース君が、召喚獣を、召喚できず、棄権、したのですよね」


 わかるようにゆっくり言ってやる。

「ちゃんと勝て! ドラゴンに勝てるんだったらな! 首席は学年最強の生徒と決まってる! 首席になりたかったら、最強を証明してからにしろ!!」

 クマも激高。


「シルラース君は最強を証明できたんですか? トーナメントでは相手が全員棄権して一度も闘わないで決勝まで進んでいましたけど?」

「それはドラゴンが最強だからだ!!」

 ……どんだけドラゴンに頼ってるのこのパーティー。


「困ったねえ……」

 メリアン先生当惑。

 校長先生が口を開く。

「実は学内の教師の間でも、首席はドラゴン召喚に成功したシルラース君を押す声が多い……。シルビス君、君にはここまでの実績が無さすぎる。聞いたところでは、召喚に成功したのはここ一週間ぐらいのことだというではないか」

 そりゃそうか……。

 どうしよう……。


「シルビス君。決着を付けないか?」

 優等生、ここが正念場なの? 真剣な顔して。


「ずうずうしいとはわかっている。でも周りの納得も得られないのでは君も不本意だろう。再試合、してみないか?」


 ……そうね。


「いいですよ。どうやって勝負します?」

「俺たちパーティー全員と、おまえのパーティーでだ!」

 うおう、クマ卑怯。

「し、シルヴァー君、いくらなんでもそれは……」

「いいですよ」

 全員ぽかーん。

 ぽかーん。

 ぽかーん……。


「ちょっちょっとちょっと、いくらなんでもそれはさすがに……。シルビスも落ち着いて」メリアン先生大慌て。

「なにも問題ないでしょう。校長先生も前に私に再試合にしてくれって言いましたよね」

「言った。確かに。私はそうしてもらったほうが助かるのだが、いくらなんでも全員を相手では……」

 校長先生が戸惑う。


「再試合ではドラゴンを消します」

「え……」

「手加減ができませんのでドラゴンを消します。この試合でシルラース君はドラゴンを失うと思ってください。他にも何人か死人が出るかもしれませんけど、それでよかったらお受けします」


 部屋が凍り付く。


「……シルラース、受けろ」

 今まで黙ってた魔法使いの羊さんがぽつり。

「この女、ハッタリだ。そういえば俺たちが退くと思ってる。舐められるな。俺たちは最強パーティーだ」

 羊さん、漢を見せる場面が、他にあったんじゃあありませんか?


「おっおうっ……。受けてやる!」

「受けよう!」

 クマ、ゴリラ単純――。ちょろすぎる。


「君は死んでも文句はないというのかい」

 シルラース君も目が据わってますな。

「私は天涯孤独の身。私が死んでもどこからも抗議は来ません」

「わかった。受ける」


「わ……私は遠慮します。嫌です。殺し合いに参加するなんて神が許しません!」

 上手いこと言うけどね猫さん、あなたもこのパーティーで魔物いっぱい殺してたんじゃないですかね。


「校長先生、紙下さい」

 呆然とする校長先生に一枚、紙をもらってすらすらと書く。


――――――――――――――――――――――――

試合において、参加者、召喚獣ともに死者、ケガ人が

出ても双方に異議、遺恨無きことをここに誓う。

 シルビス・メリルパーク



――――――――――――――――――――――――


「さ、全員この下にサインしてください」


「……お……おう」

「後悔するなよ!」

「ほ……本気で?」

「ちょ……こ、これマジ? マジで?」

「わ、私は嫌です! 絶対サインしませんからね!!」

 猫ちゃんはお利巧さんですね。

 みんなサインする手が震えてんじゃん。


「クリスさんは不参加ということでいいですか?」

「はいっ」

「試合前や試合中に支援魔法をかけるようなことがあったらその時点でメンバーとみなし、たとえ場外にいても私たちのチーム全員であなたが死ぬまで攻撃します。かまいませんね?」

「はっはい!!」

「メリアン先生、これを預かってください」

「……シルビス、あの、やめたほうが……」

「それはそちらに言ってください。私は申し込まれたほうですので」

「い……いつやる?」

 意外な成り行きに校長先生もおろおろしてる。

「今からやります。私は自分の召喚獣を連れてきますので、それまでに全学生と教員全員をコロシアムに集めて観戦させてください。死人を出したくなかったら蘇生できる教員の方も」

「……わかった」

「では一時間後」


 部屋を出ていく私。

「おい……あれがハッタリだって?」

「うう……」

 なんか聞こえたけど気にしない。




「あははははは!! シルビスも言うようになったのう!!」

 奥さんは大笑いですね。

「うまいことやるなぁ……。確かにこれならはっきり白黒着くわ」

 旦那さんも感心ですね。

「わしら出番ないと思うが、一応着替えるかの」

「そうだな」

 そう言って、お二人さんさっさと戦闘服に着替える。

「気になってたんですけど、そのまだら模様ってなんなんです?」

「迷彩。木や草むらに隠れやすいように布を染めたのさ」

「染物技術すごいですね――……」

「よし、時間無いし飛んでくか。二人ともつかまれ」


 ひゅるるるるる――――……。

 宿屋から飛び上がり、学園の闘技場上空から見たらもう満席ですね。

 前回で懲りたのかもうドラゴン待機してますわ。


 ふわ――――っ。

 三人で、闘技場の中央に降り立ったら会場が大きくどよめきます。

 素で飛行魔法とか、見たことある人なんてこの国にいるのかしら。

 貴賓席!! 貴賓席!! なんで国王陛下がいるの!!

 って会場学生以外の人のほうが多くない?


 まあ、できるだけたくさんの人に見てもらったほうが、小細工無しで闘えるってもんだから、私には都合がいいけど。


「じゃ、作戦通りにお願いします」

「わかった。シルビスが死にそうになったら助ける、だな」

「……それって作戦なのかの?」

「まあいいじゃないか」

 今回は私一人で闘う。

 そう、これは私の、二人からの卒業試験……。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ