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12.クラーケンを倒そう


 泣いてる場合じゃない!

 生き残るんだ!!

 旦那さんが言ってた。召喚士は召喚獣を失ったら最後は己自身で闘わなければ戦場で生き残ることはできないって!

 私は召喚士という召喚獣のパーティーメンバーの一人なんだって!


 クラーケンが触手を伸ばす。

 全体が現れる。

 仲間の……家族の? 死体を見つけて覆いかぶさる。

 今だ。

 トリライトニング! トリライトニング!

 ダメだ効かない!

 走る。

 逃げる。


 鍾乳洞の上にトリライトニング!!

 崩れて!

 崩れてくれれば時間が稼げる。

 爆発系の魔法取ってなかったのが悔やまれる。

 トリライトニング!!

 鍾乳石が割れて落ちてきてクラーケンに突き刺さる。

 少し時間稼げた?

 トリライトニング!! トリライトニング!!

 MPが減っちゃう。

 逃げるんだ!

 走る!

 走る走る走る!!


 ダメだ、いきどまりだ。

 降りてきたんだった……。私じゃ登れない。

 登るんだ!

 転がり落ちる。痛い……。

 私こんなこともできないの?

 登る。

 ダメだ……。どうしよう。

 泣くな!

 泣くな泣くな泣くな私!!


 召喚石……。

 転がり落ちる召喚石。

 もう一度召喚する?

 ダメ、できない。

 あの二人、帰れたのかも。

 だったらもう呼び出しちゃいけない。

 私なんかに召喚されて迷惑だったでしょう。

 私なんかに……。

 私なんか……。



 同じだ。

 ドラゴンに頼ってたあいつらバカにして。

 私も同じじゃない。

 私も二人いないとなんにもできないのに。

 クラーケンが現れた。

 怒ってる。

 鍾乳石が刺さった自分の触手引きちぎって、迫る。

 私殺される……。


 やってやる。

 ここで死ぬんだったら、やってやる!

 かっこいいとかわるいとか、もうどうでもいい。

 布を広げる。この布には私の魔法陣が描いてある。

 召喚石を中央に置いて。


「女神様女神様、この世で一番美しく、気高く、賢いこの世界の女神様。どうか私に、もう一度! もう一度! あの召喚獣をお授けください! あの、優しくて、強くて、素敵なサトウ・マサユキさんと、奥さんのサトウ・カーリンさんを! もう一度、もう一度、二人に会わせてください! お願いします! お願いします!!! ルーミテス・サドラス・ファン・パタライ・ルーミテス・スカルラス。ルーミテス・サドラス・ファン・パタライ・ルーミテス・スン・カルラス。ルーミテス・サドラス・ファン・パタライ……」


 ぴかあああああ――!!

 召喚石が光って、魔法陣に吸い込まれていく。


 ふわっと実体化するシルエット。


 あ、ああああ――――っ。


「遅えぞ、シルビス」

「なにをぐずぐずやっとったのじゃ。このアライグマは」


 手をつないだ二人の背中。

 見慣れた背中じゃない。

 え……戦闘服?


「ギガファイアボール!」

「魔王ファイアボール!」


 どっごおおおおおん!!

 大音響とともにクラーケンがバラバラになって吹っ飛ぶ。

 耳がキーンとなる。


 二人、振り返って笑う。

 優しい顔……。

 なんで……?

 なんで怒らないの?


「ごめんなさい……。私、また、二人の事、召喚してしまいました……」

「いいんじゃ。良い判断じゃの。おぬしは最善の手を打ったぞ」

「なかなか召喚されなくてイライラしたわ。なにやってたんだよまったく」


 二人、凄いカッコ。

 旦那さんは、皮のごついブーツ。腰に鉄棒と大きなナイフ、緑色と褐色のまだら模様の分厚い服……。

 奥さんは膝まであるごついブーツとだぷっとした短パンに旦那さんと同じおそろいの緑色と褐色のまだら模様のベスト。ごつい手袋……。


 それが二人の本当の戦闘服?

「さあ帰るのじゃ」

 奥さんが私を抱き上げる。

 うわーん……。

 私、泣いてしまいました……。



「シルビスに召喚石手渡しておいただろ? 絶対もう一度召喚するって思ってた」

 ダンジョンを出て、旦那さんが笑う。

「あの……お二人はなんであそこで消えちゃったんでしょう」

 私もちょっと落ち着いてきたので、不思議だったことを聞く。


「わしにはの、優秀な部下がおる。魔法使いじゃな。わしらがいなくなってから、しばらくしても戻らんので、これはおかしいということになっていろいろ調べとったらしい。わしらの寝室に召喚のゲートが開いた痕跡を見つけて、そのルートを逆探知してそこからわしらを呼び戻す術式を大急ぎで組んで呼び戻したのじゃ」

「まったくあのガイコツとテルテルボーズ、やると思ったよ……」

 そんなことできるの!!

 びっくりだよ!!

「じゃ……じゃあ、お二人は一度帰れたということに……」

「まあそうじゃの。子供の寝顔も見れたしの」

「あの……私それなのに……」

「マサユキがの、言うのじゃ」

 奥さんが旦那さんを見て言う。


「シルビス、あのままだと絶対ピンチになる。あの鍾乳洞、海につながっていてクラーケンが住処にしてたから、クラーケンの仲間が入ってきたらやられる、その前にわしらを召喚するはずだとの。なので、わしらはすぐに準備しての、ずっと手をつないで召喚されるのを待っとったのじゃ」

「……ガイコツ泣いてたけどな」

 泣くガイコツってなんなんだろう。


「とにかくじゃ、わしの部下には無理言ってあと二週間待ってもらうことにした。まあわしにしてみれば二週間、好きにしていい休日じゃの。今までマサユキと旅して以来産休を除けば一日も休みがなかったのじゃ。これぐらいのワガママはきいてもらわねばの」

「……ガイコツ号泣してたけどな」

 部下さんかわいそう……。


「これでわしらは好きな時にこちらに呼ばれ、好きな時に帰れるようになった。シルビス、わしらはお主の召喚獣ではなく、パーティーメンバーとしてここにおる。もうなんにも遠慮はいらぬ。わしらと一緒に好きなように暴れてよいぞ。こっちの世界もなかなか、面白いからの」

「……召喚されたの俺、俺! なんでカーリンがカッコよくまとめてんの」

「それはの、お主が主人公じゃないからじゃ」

「……はいはい、どうせそうでしょうよ……。まったく」

 御主人不貞腐れております。奥さんの前だとかわいいところあるのよね。


「ま、乗りかかった船ってやつだ。短い間になると思うが、これからもよろしく頼む。シルビス」

「はい!!」

 泣ける……。泣くわ――……。こんなことって、あるの?

 私本当に恵まれすぎ……。


「さて……」

 旦那さん、荷物を降ろして収縮魔法を解除します。

 でっかいバッグ……。

 奥さんの分も。これまたでかい。

「前回は文字通り裸から始めたからな。いろいろ用意してきたぞ。これでこっちの生活も楽しくなるというものだ」

「わしもだの。まず着替えたいわ」

 二人してさっさと着替える。

 旦那さん、ほんっとうに貴族みたいね。黒尽くめだけどいいセンス。

 奥さんも黒いドレス。綺麗だわ……。


「シルビスにはこれ」

 本を一冊とメモの束。

「俺たちの世界での召喚の技術について書かれた本と、うちの魔法使いが俺たちを逆召喚するのに使った術式のメモだ。参考になると思うよ」

「旦那さんたちの世界でも召喚士がいるのですか?」

「おらんの……。大昔に(すた)れた技術じゃ」

 奥さんが答える。

「どうして廃れてしまったんでしょう?」

「自分より弱い召喚獣を召喚してなんとする。役に立たんわ」

 ……魔族ってみんな強いのね……。

 ぱらぱらめくってみたけどちんぷんかんぷん。


「読めません……」

「……そりゃそうか。言葉が違うもんな。翻訳するのも面倒だし、あとで読み聞かせてあげるよ。さあ、宿に帰ろう」


 それから宿に戻って、レストランで再会を祝ってご馳走食べて、その後部屋に行って夜遅くまで一緒に旦那さんの翻訳を聞いた。

 奥さんはお酒飲んじゃって先に寝ちゃったよ。

 旦那さんの持ってきた資料、これどれもすごい技術……。

 こんな技術がもう廃れちゃってるなんてもったいない。

 旦那さんの国がこっちの世界に攻めてきたら、あっという間に滅ぼされちゃうね。

 読み進めているうちに私たちは一つのことに気が付いた。

「なあシルビス、あの首席犬のドラゴンってもしかして……」

「もしかしますね……」

 重大事実。

 いつか爆発する爆弾だわ。

 これは切り札として取っておかないとね。

「おぬしも悪よのう」

「いえいえ旦那様こそ」

 二人でニヤニヤ笑いが止まらない夜になった。



 朝、私はなんか奥さんにダッコされていっしょのベッドで寝てた。

 旦那さんは一人寝。ごめんね夫婦の一番幸せな時間を邪魔しちゃって。


 レストランで三人で朝食を取っていると、今度は首席のたれ耳犬のシルラース君が来た。猫のシスターのクリスさんはどうしたのかな。

「探したよシルビス君。二日間もどこ行ってたの?」

「ダンジョン攻略してました」

「だん……」

 優等生絶句。ドラゴン使いじゃ、ダンジョン入れないよね。


 旦那さん完全に無視をして食事を続けております。

 紳士なのは女の子相手の時だけですかそうですか。


「その……いまさらこういうことを言うのはずうずうしいとは思うんだけど、僕らのパーティーに入ってもらいたい。お願いできないかな?」

「クマさんとゴリラさんも羊さんも納得している話なんですか?」

「いや……。彼らは反対した。羊……メーラーは中立だけど。でも入ってもらって君の力を見れば絶対に納得する。頼む」

「反対するメンバーがいるパーティーに入るなんて危険すぎます。お互い命がかかっているのに、私、簡単に見殺しにされちゃうに決まってるじゃないですか」

「そんなことは僕がさせない」

「先日もいきなり私たちに薬草取れとか命令してきましたよね。そんな上下関係押し付けてくるパーティー入りたくありません」

「あのことなら謝るから!」

「それに一番大事なことがあります」

「?」

「あなたは私を利用することだけしか考えていません。私に入るメリットが何かあったら教えてください」

「……」

「なにか食べます?」

「……いや、いい」


 さすが優等生。自分に切れるカードが無いことをすぐに理解しましたね。

 次は誰が来るのかしら。



 レベルも76に上がったし(ダンジョンを丸々一つ独り占めって凄い)、冒険者ギルドのランクもAになってるので一度学校に戻って学生課で申請する。

 レベルと冒険者ランクが記入された私の学生証を見て学生課がひと騒ぎおきましたね……。

 今年卒業の首席生徒が変わるとか。

 シルラース君を追い抜いちゃったかな。

 卒業式まであと一週間。これはこれでもうひと悶着ありそう。



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