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11.ダンジョンを攻略しよう


「おじいちゃんの残したメモなんですけど……」

 今日も三人でレストランで朝食にする。

 私が持ってきたメモに旦那さんが興味津々。

 考えてみればこれ読めるのがすごいよね。奥さんは読めないらしくて興味なし。


「召喚するにも、召喚を返すのも、召喚石がいるんです」

「そんなこと言ってたな」

「おじいちゃんによると、この『キシルダンジョン』で見つけた召喚石を、私に遺してくれました。お二人を召喚する時に使ってしまったので今はありません」

「ふむ」

「私がお二人を返すにはまだまだレベルが足りてないかもしれません。でも、あとでお二人を返すことを考えると、今のうちから確保しておきたいなーとは思うんです」

「なるほどな。つまりこの『キシルダンジョン』を攻略して、召喚石を探すのも、俺たちが帰るのに必須な条件の一つというわけか」

「そうなります。あの……お二人は、ダンジョン攻略って、やったこと、ありますか?」


「そりゃあもう数えきれないぐらい」

 二人で笑う。

 ……どういう人なの。ほんとどうしてそんなに強いの?


「こんなことをお願いするのは本当に申し訳なくて……」

「いや、シルビスが俺たちを返す方法をちゃんと考えてくれて俺は嬉しい」

「わしもじゃ。帰れる目途が付いたほうがわしも遠慮なく暴れられるの」

「しかし、ダンジョンで取れるのは普通魔石だ。その召喚石って、要するに魔石の事なのかもしれないな」

「そうじゃの。魔力がある石ならばどうせおんなじものじゃろうの」

「その召喚石ってダンジョン最下層の魔物の体内で成長してるって感じかい?」

「そうです。じゃあ、お二人の世界にも同じものがあるんですね」

「なら同じじゃな」

 ……必然的にダンジョンとのボス戦になるんですけど……。



「おはようございます。シルビスさん」

 あ……猫さん来た。こんな場所よくわかったね。

 教会のシスターの猫さん。学園の合同パーティーの回復役。今日はおひとり?

「お話ししたいことがございますの。ご同席してよろしいかしら?」

「どうぞ」

 ちりんちりん。旦那さんがベルを鳴らす。

「ハーブティーはお好きですか?」

「はい!」

「ではそれを」

 紳士だなー旦那さん。


「昨日は大変でしたね。シスターさん」

 それとなく昨日のことを聞いてみる。

「クリスと呼んでください」

「失礼しました。ご紹介にあずかっておりませんでしたので……」

「いえ……うちのバカ共が重ね重ね失礼をいたしまして、申し訳ありません」

 そういってぺこりと頭を下げる。

 シスターだけに腰が低いな。


「あれからどうなりました?」

「全員でドラゴンにしがみついて飛んで逃げましたわ。ほんと危なかった……」

 ……笑っちゃダメだ。笑っちゃだめだよね。


「御無事でなによりです」

 旦那さん……そのとぼけっぷりが素敵です。


「あの……あなたがたは、あそこで採取するにあたって、なにか結界のようなものをお使いになられましたか?」

「特にそのようなものは。野生動物、魔物の(たぐい)は自分より強い者にかかってくるようなことは本能的にいたしません。ドラゴンがいる間、襲ってこなかったでしょう。案外、そんなことが理由なのかもしれませんね」

 上手いな――返しが。手の内は隠しつつ、言外に『お前らが弱いんだよ』と言ってるのと同じだよ。

 だってドラゴンがいたのに襲ってきたんだから。

 猫さんの鼻が赤くなります。


 ハーブティーが運ばれてきました。

 ミルクを入れてくるくるとスプーンでかきまわすクリスさん。

 言い出そうとしていたことが、とても言い出せないという状況ですね。

 わかってるけどね。


「……あの、シルビスさんこの後のご予定は?」

 無難な線から来ましたね。

「ダンジョン攻略にしようと思って」

「ダンジョン攻略!!」

 クリスさんの目が見開く。


「そ……そのようなことをおひとりで?!」

「いえ、私にはパーティーメンバーが二人もいますから、三人で」

「そ……そんな。大丈夫なんですか?」

「御心配には及びません」

 旦那さんがにっこり笑って答える。

「私たち召喚獣がシルビス様をお守りいたします。それにシルビス様も私たちを守ってくださいます。三人で十分ですね」

「あの……大変ずうずうしいお願いだとは思うのですが……」

 来た!


「その探索、私たちも同行することはできますでしょうか?」

「ダンジョンにドラゴンが入れますかな?」

「そうですよね……」

 クリスさんがっくり。ってドラゴンに頼りすぎ。


「昨日もそうでしたが、なぜ私どもと同行をしたがるのです? 『足手まといはいらない』とおっしゃいましたよね。こちらから声をかけるまで仲間にはなれないとも。たしかレベル30でしたか……?」

「うちのバカどもがほんっとうに申し訳ありません!!」

「あなたもあの場にいて、なにもおっしゃいませんでしたが?」

「わ……私も、たいっへん、失礼をいたしました!!」

 出た。旦那さんの正論攻撃。


「おおかた昨日も、私どもが仕事を済ませてしまっていて、後で『同行してた俺たちに無断で完了報告して分け前を独り占めしやがった!』とか言って怒っていたのではないのですかあのクマとゴリラは」

「なっなんでわかるのです!!」

 さいてー。クマもゴリラもさいて――。


「私どもからのおこぼれ、ワイバーンの死体一体ではまだ足りませんでしょうか。薬草採取ごとき、学園一の合同パーティーが分け前を要求するほど大した仕事とも思えませんが。本来金貨二枚のお仕事ですよ?」

 猫さん、手汗がすごいよ。テーブルに肉球の跡がついてるよ。


「あの……クリスさん」

「……はい」

「お茶が冷めます」

「……猫舌なもので」

 それもそうか。猫だもんね。


「マサユキ、そう意地悪を申すでない」

 やりとりを面白そうに見ていた奥さんが口を開く。

「おぬし、パーティーに入ってもらいたいならなぜそう言わぬ。シルビスをパーティーに加えるのがそんなに嫌かの? 頭を下げて頼むのがそんなに嫌かの? クマにもゴリラにも断りもせず、なぜ一人でここへ来る。学園一の優勝パーティーであることは人に頼み事もできなくなるほど偉いことなのかの?」

 かたかたかたかた……。

 カップを持ち上げるクリスさんの手が震える。


「のう。一人で考えず、まずパーティーメンバーに相談せい。それがパーティーというものじゃ。よいかの猫ちゃん」

「……はい」

「シルビスも、マサユキも、いずれは共に魔王を倒すパーティーメンバーになるやもしれぬ相手にそう邪険にするではないぞ。もう仕返しは十分じゃろうて」

「そうですね……すいません」

「失礼を申し上げました。お許しください」

「いえ、私こそ……。いえ、ほんとうに私こそ失礼ばかりで……」


 三人でぺこぺこ頭を下げ合って、解散した。

 奥さん、さすが魔王よね……。うまくまとめちゃった。



 さあ! ダンジョン攻略だよ!!

 やってきましたキシルダンジョン! 準備は万全!

 海に近い鍾乳洞。

 大きいな――……。これドラゴン入れたかも。


 旦那さん、私、奥さんの順で前に進む。

 全員に私の補助魔法全部かけて、旦那さんが無双……たまに私の雷魔法。

 ……旦那さん、まるで何度も来たことあるみたいに歩くのよね。

 魔法でわかるんだってさ。どんな魔法?!


 全滅作戦なんだよね……。ヘビだのトカゲだの爬虫類系の魔物を一匹残らず倒していく。私のレベル上げだからだって。

 旦那さんの小さいファイアボールなんだけど、一発で急所を爆散させるから全部一撃。私の魔法攻撃力も少しずつ上がっていく。


 攻略の終わった通路はどんどん壁の魔法で塞いでいく。

 後ろから不意打ちされる心配はないからとても安全。

 手ごろな敵が出ると、私に戦えって。

 実戦経験積まなきゃだね。

 雷魔法だけなんだけどがんばるよ。

 咄嗟に杖でなぐっちゃったりもしたけれど、意外と効く。

 ……なんで私こんなに攻撃力あるの?

 お嫁に行けなくなりそうなんですけど……。


 本当だったらロープで降りるような穴も、フライトで楽々降下。

 奥さんが要所要所で光球作って飛ばすので、暗闇でも大丈夫。

 ホント二人とも、攻略慣れしてるよね。

 

 階層をB8まで攻略して、夕ご飯にする。攻略中は一日二食。

 強力な結界張って、ダンジョンの中にそのまま泊まるんだって。

 凄いなあ……。

 ドーム型の結界の中に大きいテント、小さいテントを張っておやすみ。

 いっぱいMP使ったなぁ……眠い……。

 レベルは66になった。


 これからは全部、召喚関係にスキル振るんだ。

 お二人を返してあげられるようにならないと。

 普通の「召喚」をまずガン上げしないと「送召喚」ができるようにならない。

 送召喚は召喚の逆。召喚ゲートを手繰って逆に送り付ける。


 ……スキルポイントを振ってると、ちょっと涙が出る。

 これを使う時は、二人とお別れなんだ。

 もう二度と会えないと思う。

 私なんかのために、こんなに力になってくれる二人。

 わたしはおかえしに、何かしてあげられるのだろうか。

 私がなにか二人の力になれるのだろうか。

 それを考えたらすごく悲しい。

 だって私がしてあげられることなんて、なにも思いつかないんだもん。

 二人とも、凄すぎて……。


 ……。



 カンカンカンッ!

「起きるのじゃ――――!!」

 奥さんが叩くフライパンの音で目が覚める。

 朝食はソーセージ、スクランブルエッグ、パンとスープ。

 この後ボス戦だから軽く、軽くだって。

 ……ボス戦……。

 なにがでてくるんだろう。おじいちゃんのメモにもなかった。


 旦那さんのフライトで最下層に降りる。

 広い回廊をゆっくり進んでいく。

 ずいぶん歩いた……ほんと広い鍾乳洞……。


 行き止まり。

「……クラーケンかな?」

「そのようじゃの」

 今おそろしいセリフが、その……。

「二人、後ろ下がって。耳塞いで」

 言われるままに後ろに下がって耳をふさぐ。

 旦那さんが物凄い電撃出して壁を攻撃!

 壁がぼこっと膨らんで、うねうねと動き出す。

 壁じゃなかった――――!! タコだ――――!!

「シルビスもやってみ? 電撃ガンガン当ててみようよ」

 なんかのんびりした言い方。

 なんか大丈夫って感じする。

 私もやってみる。


 ダブルライトニング! ダブルライトニング!

 旦那さんの電撃のほうが凄い。

 私の十倍ぐらいある。

 ダブルライトニング! ダブルライトニング! ダブルライトニング!

 魔法増えた!

 トリライトニング!

 くたあ――……。


 巨大な見上げるようなタコがぺしゃ……ってつぶれて平たくなる。

「コントラクション。フライト」

 旦那さんが魔法を唱えるとするするとタコが小さくなって、宙に浮く。

 不思議……旦那さんと同じぐらいの大きさになった。

 物を小さくする魔法って、生き物にも使えるのね。

 それを大きなナイフでさばいてゆく。

 どしゃっどしゃってタコの足が落ちる。

 切り開いて、袖をまくった手を突っ込んで、石を取り出す。

 旦那さん凄いです。ホントなんでもできる人ですねえ。


 手のひらでころころと転がして……。召喚石だ。

「魔石じゃの」

「魔石だな。これ、召喚石でいい?」

「はい、おじいちゃんのと同じです! 小さいけど……」

「やっぱり召喚石って魔石の事か。ちょっと待って、離れて」


 旦那さんが魔法を解除するとぽんっとクラーケンの死体が元の大きさに大きくなる。手のひらに乗せていた召喚石も、握りこぶし大に大きくなる。

「はい、持ってて」

 旦那さんと奥さんがニコニコ笑って私に渡してくれる。


 召喚石だ。おじいちゃんが持ってたのとおんなじだ……。

 あの時、この二人を召喚したとき使っちゃった召喚石。

 大事にしなくっちゃ。

 この二人に帰ってもらう時に使う大切な召喚石。

 私に預けてくれるんだ。

 私信用されてる。

 他のことに使っちゃったり、売ったりしないって、ちゃんと信頼されている。

 応えなきゃ。

 私、ちゃんと信頼に応えないと。

 涙出る。


「さ、さっさと行こう。ここは海と繋がってる。もしかしたら」


 ふっ。


 え?

 えええええ?


 二人、いきなり消えた……。

 消えた?

 消えたってどういうこと!?

 召喚が、切れたの!?

 ええ!!

 二人とも、いなくなっちゃったよ!

 なんで――――!!!


 ぶほっ。

 ぶふぁあああっ!!

 奥から水煙が上がる。

 触手が、上がる。

 なにか、上がってくる。

 大タコだ!

 クラーケンだ!!

 旦那さんが言ってた。

 海と繋がってるって。

 もう一匹、現れたんだ!!



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