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10/20

10.優勝者パーティーがウザいよう


 朝、まず学園の会計課に行って、今までの借金を全部返す。

 けっこうたまってたんだな。寮費とか……。

 それから銀行にいって残ったお金を預ける。

 あんな大金、持ってると怖くて怖くて……。初めて銀行に口座作ったよ。


 一通り用事を済ませてから二人の宿に迎えに行く。

 すっかり私の日課になったよ。

 三人でレストランで朝食。

 今日から私も自分の分は自分で払う。

 自分の分を自分で払えるって、すごい嬉しい。


 今日はギルドに行って、なにか仕事を引き受けてみようってことになった。

 より実戦的な経験を積むには、仕事を引き受けるのが一番いいんだって。

 もう学校を卒業するんだから、社会経験を積む必要があるって。

 旦那さんって、なんか先生みたいなとこあるのよね……。ホントなにやってた人なんだろう?


 ギルドに行ってみたら、シルラース君たちが大騒ぎしてた。

 いや騒いでたのはクマさんだけど。

 あ、なんかワイバーンの価格、暴落してまして。当たり前か。

 あいつらドラゴンの足に掴ませて一匹だけワイバーン持って帰ったんだけど、ドラゴンが休み休み飛んだもんだから一日で腐っちゃって、最高品質のワイバーンが八匹も大量入荷したばかりだし状態が悪いワイバーンなんてもう引き取ってもらえないんだとさ! 爪と牙だけはお金になるんだろうけどさ!

 あっはっはっは!


「おはようシルラース君、ワイバーン獲れた?」

「あっ……お、おはようシルビス君」

 クマとゴリラがのしのしと歩いてきて私をにらむ。

「お前らのせいで一匹も狩れなかったぞ!!」

「……なんで私たちのせいになるの?」

「あのワイバーンたちすぐに逃げてしまってまったく狩りにならなかった!」


 ……ああ……、目の前で九匹が惨殺されたらそりゃあね……。

 でも勝手な言い分だなあクマさん。


「でもそれを狩るのが狩りでしょう。いままでどうやって狩ってたの?」

「俺たちが出て襲ってくるワイバーンを、隠れてたドラゴンで仕留めさせてた!」

 ……威張って言うような狩り方ですかねクマさん。

 シルラース君困った顔してるじゃない。


「いままでエサ役だけやってたの? あなたたち」

「なんだと!」

「ワイバーンが逃げるなら、挑発して攻撃を自分に向けさせるとか、先制攻撃で逃げられないようにするとか、そういう仕事をするのが前衛のあなたたちの仕事だと思うんですけど、剣士さんも槍さんもそんな仕事はやらないんですか?」

「ぐっ……」

「魔法使いさんも飛んでるワイバーンに魔法当てて撃ち落とせばいいじゃないですか。なんでやらないんですか?」

「ぐっ……」

「そもそもドラゴンがいるなら召喚士がドラゴンに命令してワイバーンを獲ってこさせればいいじゃないですか。それが一番楽だと思うんですけど?」

「ぐっ……」

「ワイバーン一匹も狩れないで、それで私が置いてきたワイバーンの死体一体持ってきてギルドに『ワイバーン獲ってきた――』って言って、それが買い取ってもらえなかったからって私に文句言うわけですかね。お礼の一つも言ってくれるならまだわかるけど?」

「ぐっ……」


「あの……シルビスさんは、どうやってワイバーンを狩ったんですか? 九匹も」

 猫のシスターさんが聞いてくる。

 この中で非がないのは自分だけって顔して。回復役だもんね。


「昨日やってたのと同じです。電撃落として、気絶させて、止め刺して……」

「……」

 全員私がやってるのを見てるもんね。


「ワイバーンを八匹もどうやって持って帰った?」

「そうそう、そこが一番聞きたい」

 ゴリラと魔法使い、怒りを抑えてますね。

「私の召喚獣にやってもらいましたけど」

「だからどんな方法でだ!」

「召喚獣の固有能力です」

「だからどうやって!」

「さあ? 私にもわかりません」

「そんなわけがあるか――――!!」

 それが人にものを聞く態度かしらね。


「失礼、ご主人様」

 ……助かった。旦那さんが声かけてくれたよ。

「依頼の掲示板をご覧ください」

 奥さんも深刻そうな顔してる。

「この、スリーリーフ草というのはどういう病気に使う薬草ですか?」

 緊急赤札の依頼票だ。

「スリーリーフ……肺炎ですね。カスター町の病院からか……」

「ならば肺炎の院内集団感染が起こっている可能性がありますね」

「依頼量がすごいですからそうかもしれません。1タロンの袋で五袋か……」

「取るのが難しい薬草ですか?」

「グレイアリゲーターの生息地です。牛ぐらいなら丸のみするぐらいのワニ」

「すぐに向かいましょう」

「はい!」


「ちょっと待ってくれ!」

 クマたちが声をかける。

「それ、俺たちも同行する。いいな!」

「えー私は帰って休みたい……」

 それがシスターの言うことですか猫さん……。


「……いいですけど、待ちませんよ」

 そう言って、私たちは赤札引きちぎって、ギルドの出口からフライトした。



「俺は病院行くから、採取はカーリンとシルビスに任せていいか?!」

「了解じゃ!」

「わかりました――!」

 びゅぅうううううう――――――――!!!

 猛スピードで飛ぶ。私も必死で旦那さんにしがみつくよ。

「ありました!! スリーリーフ草の群生地です!」

 この薬草は私でもわかるよ。白いかわいいお花が咲く草だから。

 沼地に生えるんだけど、ワニワニワニワニ……ワニいっぱい……。


「いくぞー!」

「きゃああ――――! 落ちる――――!」

 急降下! じゃなくて墜落! っていくか真っ逆さま!!

 旦那さんも奥さんも両手両足広げて滑空していく。

 いつもこんなことやってんの――――!!

 

 すとん。

 ワニだらけの沼の陸地に着地。

 奥さん、背中のその羽広げられたんだ……。ニワトリみたいに退化して飛ぶのには使わないんだと思ってた。

「ひぃいいいいい――――!!」

「ウォール!」

 旦那さんが呪文唱えると一斉に襲い掛かってきたワニが見えない壁みたいなやつに阻まれる。

 じわじわじわじわ……。

 見えない壁が広がっていくよ。

 ワニたちが押しのけられてどんどん後ずさっていくし。


「じゃ、二人は薬草採取頼む。カーリンはシルビスの護衛も」

「任せるのじゃ」

「旦那さんは?」

「俺は病院行って先に患者の肺炎治せるだけ治しておくから」

「ええ――――!! そんなことできるんですか?!」

「マサユキに任せておけ」

 奥さんが笑う。

「あとは頼んだ」

 そう言って、旦那さんは荷物アイテムボックスから取り出してどすんと置いて、飛んで行っちゃったよ。


「1タロンの袋ってこれかの?」

「はい」

 奥さんが1Tって書いた袋をバッグから取り出す。

「袋の大きさで量を決めるのかの……まあいいわの。この白い花の草の葉っぱを取るのかの?」

「はいそうです」

 奥さんは服脱いで全裸に。

 私も……しょうがない。制服脱いで下着姿。

 もう殿方には見せられないよ。


 ぷちぷちぷち……。

 二人で沼地で泥だらけになりながら草むしっていく。

 こけた――っ。うえ――……泥だらけ――――。

 奥さんが私の首根っこ捕まえてぶら下げて泉に突っ込んでじゃぶじゃぶ洗う。

 がぶっがぼぼぼぼぼぼ……。

「あの……げふっ。もうちょっとやりかたが……」

「贅沢言うのう。急いだほうが良いのであろうの」

「はい……あの」

「ん?」

「奥さん、こんな仕事も、旦那さんとやってたんですか?」

「こういう仕事こそわしらの仕事じゃ。誰もやれなくて、誰にも頼めなくて、ほんとうに困っている人を助けるのがわしらの一番大事な仕事なのじゃ」


「……奥さんの仕事ってなんなんです?」

「魔王」

「え……」

「魔王。魔王カーリン。それがわしじゃ」

「えええええ――――!!」

「魔族の(おさ)たるもの、臣民を守り、臣民の幸せを願い、臣民に尽くす。それがわしの仕事じゃ。マサユキはそのわしを助けてくれる、わしの右腕じゃな」

 ぷち、ぷち、ぷち……。

 ひざまで泥につかり、全裸で全身泥だらけになりながら薬草を集める魔王様。

「魔王ってそんな仕事するんですか……」

「当たり前じゃ」

 ぷち、ぷち、ぷち……。

「そんな、王様が自分で市民のために働くなんて。考えられませんよ」

「何を言っておる。王は市民のために働くのが仕事であろう」

「……私、魔王様を召喚しちゃったんだ……」

「召喚されたのはマサユキじゃ。わしはついでじゃ。気にするな」

「王様がいなくなったんじゃ、国で大騒ぎになってません?」

「……どうかのう。わしとマサユキはしょっちゅうこんなことで居なくなっておったからのう。案外部下共はまたどっか出かけておると思っとるだけかもしれんのう」

 そういってけらけら笑う。

 すごい人だなぁ……。

 魔王っていっても、世界が違うと全然イメージ違うんだね。

 こっちの魔王って、なんかとてつもなく怖いもの、放っておいたらいけないものって感じなのに……。


「ほらほら、手がお留守だの。さぼらずやればおいしい昼飯を作ってやるからの。がんばるのじゃ」

「はい!」

 二時間ぐらいがんばって、五袋分の葉っぱを集めた。

 大きな布を広げて、そこにあけ、まとめて縛る。

「……マサユキは手間取っておるの。昼にするかの」

「旦那さん、お医者様なんですか?」

「そうではないがの、なんか魔法をいろいろ研究しとるうちにできるようになったらしいの。何回説明されてもわしにはさっぱりわからんのじゃが、体の中にいる目に見えないくらい小さい悪い生き物を殺すらしいの。さて、まずさっぱりするかの。掴まれ」

 そう言って手を出す。

 その手を握ると、奥さんは羽を広げてパタパタと飛んで、滝のある水のきれいな所に連れて行ってくれた。


 二人で滝を浴びてじゃぶじゃぶ体を洗う。

 うーん、なんか一仕事したって感じ。

 また荷物を置いたところまで飛んできて、タオルを出して体を拭く。

 うーんびしょびしょ……。

 私全身毛があるからなかなか乾かないよ……。

 奥さんはもう着替えちゃって、お昼の準備してる。


 うわっ上空でドラゴン旋回してる!

 あいつら来たんだ!

 あわてて服を着る。制服以外の私服も荷物に入れておいてよかった。

 

 ぶわっさぶわっさぶわっさ。

 降りてきて、ドラゴンが沼に足ずぼってはまって傾いて、乗ってたやつらが全員ドラゴンから転がり落ちる。

「きゃ――――!!」

「うわ――――!」

「あああああ――――!」

 あっはっはっは!!

 全員泥だらけ――!


「……いやだもう――……なんなのこれ――」

 猫さん真っ白なシスター服がだいなしですね。

 野郎どもは……まあどうでもいいか。


「ほれ」

「いただきまーす!」

 奥さんがくれた肉入りのサンドイッチ。おいしい……。

 こういうのぱっぱと作れるって凄いなぁ。


 全員真黒になりながら、武器を構えてびくびくしながらこっちに来るよ。

 五十体以上のグレイアリゲーターが群生地のまわりをぐるりと取り囲んでこっちを見てるもんね。

 合同パーティーのみなさん、真黒だけど誰が誰だかわからないってことはないな、まあ全員大きさ違うしね。


「し……シルビス君! あの、あのグレイアリゲーターは、なんで襲ってこないんだ!?」

「ドラゴンがいたら、そりゃあ襲ってこられないでしょ」

 不思議顔の優等生シルラース君に知らん顔してとぼける。

「そうか。そうだな! ドラゴンがいれば、安全に採取を行うこともできるんだな! さすが俺たち!」

 ゴリラ頭悪ーい。


「よし! じゃあ始めるぞ! 俺たちが護衛をしてる間にお前ら、薬草摘め」

 なんでクマが私に命令するのよ。

「薬草ならもう集め終わりました」

「え……」

「君たちも今着いたんじゃないの?」

 ドラゴンより旦那さんのほうが速いわよシルラース。 


「二時間ぐらい前に到着して、ずっと採取してたんです」

「え? だってグレイアリゲーターはどうしたの?」

「寄ってこないので」

「なんで寄ってこないの??」

「さあ」

 面倒だからもうとぼけることにした。


 ふわ――……。

 あ、旦那さん帰ってきた。

「どうだったマサユキ」

「バッチリ」

「それはよかったの! じゃ、わしらも行くか。これ一応届けたほうがいいからの」

「ああ、撤収してくれ」


 ポカーンなクマさんたちを完全に無視して、私たちは荷物をまとめて旦那さんのアイテムボックスに収納してもらう。

 奥さんと二人で旦那さんにつかまって、飛び上がるよ。


「ブレイクウォール」

 旦那さんがぼそっとつぶやくと、五十匹のグレイアリゲーターがいっせいに。


「うわああ――――!!」

「どっドラゴン! ファイアボールだ!」

「きゃあ――――!」

「結界! 結界張れ!」

「後ろ! 後ろだ――――!」


 あとはどうなったか知りません。どうでもいいし。



 病院に着くと、院長先生が出迎えてくれた。

 すっごい感謝してくれたよ。

 お年寄りとか、入院患者とスタッフの二十人ぐらいが集団感染で肺炎にかかっていたんだって。旦那さんが治療できるっていうから、藁にも縋る思いでやってもらったら魔法で完治しちゃったんだってさ。『ブレイクセルウォール』って魔法で、なんかさいきんのさいぼうへきがどうのこうのって言ってたけど私にはちょっと理解できなかったな……。

 院長さんはすごく感心してた。

 なにか新しい薬とか作るヒントになるって言ってたよ。

 薬草は肺炎の完治はできないけど、症状をかなり抑えられるから、病院の薬草庫に保管しておくってさ。

 ギルドの依頼票に評価Aでサインしてくれた。持って帰ればギルドから報酬がもらえる。

「薬草だけでなく、治療までしてもらってこの評価ではまだ足りませんな!」

 あははは。私はほんとに薬草の採取しかしてないから、いいけどね!


 ギルドに戻ったら、報酬は金貨三十枚。

 少ない? いや、これ多いほうだから。普通の薬草採取だからね。

 緊急手当と危険地帯手当がほとんどで、実際には金貨二枚ぐらいの仕事だから。

 三人で十枚ずつで分けて、ギルドに手数料一枚ずつ払って、おしまい。

 感覚マヒしがちだけど、今回はお金より、人の命をたくさん助けられたっていう充実感のほうが大きかった。


 『こういう仕事こそわしらの仕事じゃ。誰もやれなくて、誰にも頼めなくて、ほんとうに困っている人を助けるのがわしらの一番大事な仕事なのじゃ。』


 奥さんの言葉、胸に残った……。

 いい仕事みつけてくれてありがとう。お二人さん。



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