1.今度は妻も一緒に召喚されてみよう
前4作の番外編となります。佐藤雅之が自分の妻と、子供たちのいる世界に戻ってからの、たった三週間だけの異世界冒険話です。
私はシルビス。ファリス魔法学園の三年生。
明日はとうとう卒業試験。今日中に召喚獣を召喚できないと卒業できない。
卒業できなかったら大変よ?! 魔王討伐の勇者候補にもなれないし、それどころか卒業できないかも!
もうみんなミノタウロスだとかリザードマンだとか、召喚できてるんだから……。
首席のシルラースなんてもうドラゴン召喚してるし、なんかいつも「ヒヒヒヒ」って笑ってる気持ち悪いチュータルはデュラハン召喚していつも連れて歩いてる……。私だけおちこぼれ。
みんないい召喚石使ってるからね。親が貴族だったり金持ちだったりだといいよねーほんと。私みたいに平民出身の召喚士なんて学校が教材でくれる召喚石しか使えないんだから。最初っからすごいハンデ背負ってるのよ。
どーしろっていうのよ。かなうわけないじゃない。
召喚の腕はいいはずなのよ。試験ではいい成績出してるもの。
私もいい召喚石がほしい。
わたしのおじいちゃんは大召喚士。
って言っても自称だけどね。
みんなからは変わり者扱いされてたり、頭がおかしいって思われてたけど、私にはやさしい、いいおじいちゃんだった……。
おじいちゃんの形見のこの召喚石、使っちゃおうかな。
いままで怖くて使えなかったけど、おじいちゃんがダンジョンを討伐して手に入れたっていう(私も信じてないけど)この召喚石、使っちゃおうか。
私の卒業がかかってるんだから、いいよね。おじいちゃん。
まだ卒業トーナメントに出す召喚獣が召喚できていない私、もうこの学校の召喚室を使うのは私だけ。
誰もいない部屋で、おじいちゃんの形見の召喚石を自分で描いた魔法陣の中央に置いて祈る。
「女神様女神様、この世で一番美しく、気高く、賢いこの世界の女神様。どうか私に召喚獣をお授けください、どの世界でも一番強く、どの世界でも一番頼りになる、一番かっこいい召喚獣をお授けください。ルーミテス・サドラス・ファン・パタライ・ルーミテス・スン・カルラス。ルーミテス・サドラス・ファン・パタライ・ルーミテス・スン・カルラス。ルーミテス・サドラス・ファン・パタライ・ルーミテス・スン・カルラス。ルーミテス・・サドラス・ファン・パタライ・ルーミテス・スン・カルラス。ルーミテス・サドラス・ファン・パタライ・ルーミテス・スン・カルラス……」
もう一心不乱に祈る。祈って祈って祈りまくる。
涙がでる。今まで失敗し続けた私の召喚。
トカゲが出て悲鳴を上げた。
蛇がでて逃げ出した。
カエルが出て笑われた。
今度こそ、今度こそまともな召喚獣、出て!!!
私はもう、涙をぽろぽろ流しながら、祈りに祈った。
「ルーミテス・サドラス・ファン・パタライ・ルーミテス・スン・カルラス!」
魔法陣が輝く。おじいちゃんの召喚石が魔法陣に吸い込まれていく。
なにこの光!
いままでと全然違う!
これは……もしかしたら、もしかするかも……!!
ふわっと形になって、そして、魔法陣の中央に現れたのは……。
一見してオスとメスだとわかるなにか。
「き……きゃあああああああ――――っ!!」
メスっぽいほうがあわてて起き上がってオスに抱き付く。
オスはそれを座ったまま足を組んで抱きとめて、周りを見回し……。
「……今度はなんだ?」
「し、しゃべった――――!!」
オスとメスなんだけど、これって……あの……その、私も大して知識も経験もあるわけじゃないけど、これ交尾してたよね。
交尾中のところ召喚しちゃったのか……。いくら召喚獣相手でもバツが悪いわ。
「な、な、な、なんじゃここは!!」
メスのほうがパニック状態だ。そりゃそうか。いきなりこんなところに召喚されたら誰だって驚くよね。
っていうか驚きなんだけどメスのほうもしゃべるのか。
私たち召喚士は使役言語翻訳能力のおかげで、ほとんどの召喚獣と話ができる。
話って言っても普通召喚獣はしゃべったりしないので唸るとか鳴くとかの意味が分かって、こっちの命令を聞かせるってことなんだけど、このオスとメスは、今明らかに喋ったよね!
しゃべる召喚獣ってなに!?
そんなの見たことないし、他の召喚士が使役してる召喚獣でも見たことないよ。
とにかく考えるのは後だ!
召喚獣を呼び出したらまずすること!
「隷属の首輪!!」
魔法がかかってる皮のベルトを投げつけて呪文を唱える!
ひゅんっ。
オスの首に皮が巻き付いて、勝手にバックルがロックされる。
まさか二匹出てくるとは思わなかったので、一匹分しかないや……。
召喚獣は召喚してすぐこの隷属の首輪を付けないと危険だ。これに手間取って逆に召喚獣に殺される召喚士だっているんだから。
「む……」
オスの召喚獣、特に驚いた風も苦しむ風でもなく、平然としている。
自分がなにされたかわかんないんだろな。
「……カーリン、周りを見ろ」
オスにそう言われて、メスのほうが周りをキョロキョロ見る。
かわった生き物……。メスは頭にだけ毛が生えてて意味もなく長い。肌はきれいでなめらかだけど。オスにしがみついてて背中しか見えないけど、背中に小さい黒い羽がある。まだ若いほうにはいる?
オスは…これも頭に毛が生えてて、ところどころ白髪になってる。けっこういい歳なのかな? 鼻と上唇の間に毛が生えてる。体毛もうっすらあるんだけど、この生き物毛がないのが普通なの? トカゲみたい。
……っていうか交尾やめてよ。
「カーリン、周りに魔法陣が描かれて反応してるだろ。どうやら俺たちはどっかの異世界に召喚されたらしいぞ?」
「い、い、い、異世界って? 異世界ってどういうことじゃ!!」
「それは、私が召喚したからよ!」
私は今召喚したばかりの二匹に、宣言する。
「あなたたちは、私に隷属する召喚獣としてここに呼び出されました。今後、すべて私の言うことに従っていただきます。もし言うことを聞かなければ、オスの首輪を絞めて命を奪います。いいですね!!」
「いいわけないわの!!」
メスの頭の毛が逆立つ。オスが人質にされて激怒しているのだろう。
「なんでわしらがこんなアライグマの言うことを聞かんといかんのじゃ!」
「カーリン、よく見ろ。アライグマじゃない。レッサーパンダだ」
「どっちでもいいわの!! 神聖なる夫婦の営みの最中にいきなり召喚とかどんだけ場をわきまえないアホなのかの!!」
「とにかく今は現状把握だ。落ち着けカーリン」
「……マサユキはよく落ち着いていられるの」
「……何度も似たような目に遭ってきたからな」
……人のことをアライグマだのレッサーパンダだのなんなのこいつら。
「せっかく喋れるのだから、今後は私のことは『ご主人様』と呼びなさい。いいですね」
「はいご主人様」
「なんでこいつがご主人様なのじゃ!」
「話が進まないから少し黙ろうなカーリン。さてご主人様、このままじゃ話もできんのでとりあえずシーツか何か二人でかぶれるぐらいの大きさの布を持ってきてくれないかな?」
召喚獣のくせに裸がはずかしいの? さっきまで交尾してたくせに……。